運動は朝・昼・夜のいつがよいのか。体内時計を早めたい場合も、朝なら前進、夜なら後退とは限らない。若い成人の運動試験を中心に、朝型・夜型による違い、光をそろえた実験、眠気とメラトニンの測定を読み分ける。睡眠時間を削らず、生活の予定に合う運動時刻を考えるための記事である。
目覚ましを止めた朝はまだ頭が働かないのに、夕食前になると体を動かしたくなる。「朝の運動のほうが体内時計によい」と聞けば、夜しか空かない予定表が少し心配になる。だが、夜に運動すると誰でも眠る時刻が後ろへずれる、という答えにはならない。若い成人の試験では、夜型の人は朝の運動でも夕方・夜の運動でも体内時計が早まった。[20]
朝と夜の違いはある。ただし、壁の時計の時刻だけでは決まらない。もともとの朝型・夜型と、その人の体内時計に対していつ運動したかが関わる。朝型の人に見られた夜の運動後の変化を、そのまま夜型の人に当てはめると方向まで取り違える。[20]
ここで考えるのは、深く眠れたかよりも、眠りに向かう体の時刻が早まったか遅くなったかである。既存記事「朝のホットヨガは光を浴びてから行く?早朝運動と体内時計のずれを読み解く」に朝の光と外出の組み合わせを譲り、こちらでは運動時刻と朝型・夜型によって時計の動く向きが変わる問題を追う。

体内時計が早まることと、長く眠ることは違う
体内時計の「位相」とは、体のリズムがどの時刻に位置しているかを指す。概日リズムを整理したレビューでは、位相、リズムの振れ幅、安定性を区別し、生活行動の時刻や規則性との関係を論じている。早寝をしたという行動と、体のリズムが早まったという生理的な変化は、同じ欄に書ける出来事ではない。[3]
運動の試験で使われる指標に、薄暗い条件でメラトニンの分泌が立ち上がる時刻がある。英字ではDLMOと呼ばれ、体内時計の位相を調べる目印である。メラトニンという物質の量が多いかだけでなく、増え始める時刻を見るところが肝心だ。若い成人の運動試験も、運動の前後でこの時刻を測り、差を比べている。[3][20]
立ち上がりが早い方向へ動くのが位相前進、遅い方向へ動くのが位相後退である。「前進」という名前でも、すべての人に望ましいとは限らない。眠りの時刻が遅れて生活と合わない場合と、早すぎて生活と合わない場合では目指す方向が異なる。運動と睡眠障害のレビューも、遅れた睡眠位相への朝の運動と、早まった睡眠位相への夕方の運動を分け、個別の対応が必要だとしている。[4]
また、時計の時刻が変わることと、睡眠時間が増えることも別の評価である。夜型の人の生活を早めるランダム化比較試験では、睡眠・覚醒と生理的指標の時刻がおよそ2時間早まった一方、睡眠時間に悪影響はなかった。これは「短く寝ても平気になった」という結果ではない。眠る量を保ちながら、眠る位置を前へ動かした結果として読む必要がある。[6]
睡眠日誌は本人の生活の時刻を残す道具であり、生理的な時計そのものの測定とは用途が異なる。レビューでは、メラトニン、体温、活動の測定と、日誌や質問票をそれぞれ挙げている。手帳に「寝床へ入った」と書けても、その時点でメラトニンがいつ立ち上がったかまでは分からない。日誌で分かる暮らしの変化を大切にしつつ、研究の測定値と同一視しないのがよい。[3]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
朝型と夜型では、夜の運動の結果が分かれた
問いに直接答えるのは、運動習慣の乏しい若い成人52人を対象とした研究である。朝の運動を行う26人と夕方・夜の運動を行う26人について、5日間の前後でメラトニンの立ち上がりを測った。全体では、朝の運動で平均0.62時間の前進、夕方・夜では平均−0.02時間の変化となり、朝のほうが有意に早まっていた。[20]
この全体平均だけを読むと、「朝が正解、夜は効かない」と思いやすい。ところが朝型・夜型に分けると景色が変わる。遅いクロノタイプでは、朝の運動で0.54時間、夕方・夜の運動で0.46時間、いずれも前進した。クロノタイプとは、睡眠や活動の時刻が早い側か遅い側かという朝型・夜型の傾向である。[12][20]
一方、早いクロノタイプでは、朝の運動で0.49時間前進したが、夕方・夜の運動では−0.41時間、すなわち遅れる方向へ動いた。同じ夕方・夜の群にも、早まった人たちと遅れた人たちが含まれていたのだ。全体の「ほぼ変化なし」は、全員の時計が止まっていたという意味ではない。平均は予定表より無口である。[20]
研究で報告された値は、全体の朝群が0.62±0.18時間、夕方・夜群が−0.02±0.18時間だった。遅いクロノタイプの朝群は0.54±0.29時間、夕方・夜群は0.46±0.25時間である。個人の手帳にそのまま転記できる予測値ではなく、対象集団の結果だ。睡眠時刻を変えたい成人に参考になる一方、別の年齢層や長期の生活まで同じ結果になると決めることはできない。[20]
さらに、この試験の「朝」はメラトニンの立ち上がりから10時間後、「夕方・夜」は20時間後という設定である。誰でも同じ壁時計の時刻に集合した試験として読むと、重要な条件が抜け落ちる。出勤前と仕事帰りという分類だけでなく、本人の生理的な時刻を基準に運動を置いた研究なのだ。[20]
ここでいう朝型・夜型も、早起きへの意欲を採点したものではない。成人の研究では、朝型・夜型の質問票とメラトニンの立ち上がりをそれぞれ測り、体力などとの関連を調べている。朝がつらいという自己評価だけから生理的な時刻を断定するより、日々の睡眠や活動の傾向と、研究で使われた評価方法を分けて読むほうが正確だ。夜のほうが動けることを、やる気の問題へ置き換える必要もない。[12]
光をそろえると、運動そのものの働きが見えてくる
屋外での朝の運動には、体を動かすことと光を浴びることが一緒に含まれる。光以外の刺激が人の体内時計を同調させるかを検討したレビューは、光が主要な時間の手がかりであること、非常に弱い光の影響にも注意が要ることを指摘した。そのうえで、適切な時刻の運動には、光以外の刺激として時計に働く根拠があると整理している。[9]
だから、通勤前に歩いて寝る時刻が変わっても、歩行だけの成果と断定はできない。これは散歩の価値を引く話ではなく、何が作用したかを区別するための見方である。研究室で光の条件をそろえる理由もここにある。運動時刻の効果を問うなら、同時に変わった照明や外出の条件を無視できない。[9]
若く体力のある男性18人を対象としたランダム化試験では、非常に薄暗い環境で夜の運動を調べた。睡眠・覚醒の予定を9時間遅らせたあと、夜ごとに45分の自転車運動を3回行う条件と、運動を行わない条件を比較した。試験全体は15日間で、夜の運動は1週間続けられた。18〜39歳の女性の日常の運動へ適用するには、性別と睡眠予定の違いを考える必要がある。運動群では、メラトニンの立ち上がり、終わり、分泌曲線の中央の時刻が、対照群より大きく後退した。[7]
これは、光が弱い条件でも運動が体内時計を遅らせる方向に作用し得ることを支える。一方、夜の散歩をした女性の日常に、そのまま置き換えることはできない。対象は若い男性で、睡眠の予定そのものを大きく遅らせ、夜間にまとまった自転車運動を行った試験だ。仕事帰りの軽い運動と比べるには、対象も生活条件も運動量も異なる。[7]
この試験では、運動が介入前のメラトニンの立ち上がりに近いほど、後退が大きい関係も見られた。夜という札を付けるだけでは、運動を体内時計のどこへ置いたかを説明しきれない。夜型の成人で夕方・夜にも前進した試験と、夜間運動で後退した試験は、「夜は必ず同じ向きに働く」という読み方をともに退ける。[7][20]
朝の結果と夜の結果を見比べる際は、研究の目的も確かめたい。朝のほうが全体として前進した成人の試験と、睡眠予定を遅らせた条件への適応を調べた男性の試験では、望む変化の向きから異なる。どちらが優れた運動かを競わせるより、生活を早めたいのか、遅い勤務予定へ合わせたいのかを先に決める必要がある。後退という言葉だけで、運動が悪かったという評価にはならない。[7][20]
数字で読む運動時刻と体内時計
52人:運動習慣の乏しい若い成人に、朝または夕方・夜の運動を行った試験の人数。[20]
5日間:その運動介入の期間。長年続けた結果を示す数字ではない。[20]
0.62時間:全体の朝群で見られた平均の位相前進。夕方・夜群は−0.02時間だった。[20]
0.46時間:遅いクロノタイプで、夕方・夜の運動後に見られた平均の前進。[20]
27.5分:夜型の男子青年の朝の低強度運動群で見られた平均の前進。[15]
約2時間:夜型の人に光、睡眠、食事、カフェイン、運動を組み合わせて働きかけた試験での前進。[6]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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