間食のくるみは焼くと脂質が変わる?香ばしさと酸化の進み方を研究で読み解く

間食のくるみは、生とローストで油の質がどう違うのか。脂肪酸の割合、酸化の指標、香り、抗酸化能を分けて研究を読む。加熱で成分が増えた研究と減った研究の条件を比べ、くるみ油やペーストの結果を粒のまま食べる場面へ広げすぎず、家庭で焼くときや商品を選ぶときの考え方を示す。

夕方、仕事の机でくるみの袋を開ける。生の穏やかな味もよいが、焼いたときの香ばしさには手が伸びる。そのあと検索すると「加熱すると油が酸化する」と出てきて、いま選んだ袋が急に気になる。

焼いても脂肪酸の割合は保たれる一方、酸化の指標は上がることがある。複数のナッツを調べた加工実験では、焙煎しても脂肪酸の構成は変わらなかった一方、高い焙煎温度ではくるみの酸化指標が増えた。油の構成と酸化の進み方は別々に見る必要がある。[13]

また、くるみ油の実験には、適度な焙煎で抗酸化能が高まった結果もある。[4] 香ばしいか、生かという名前だけでは決まらない。何を焼き、何を測ったのかをたどると、間食の選び方はもう少し落ち着いたものになる。

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脂肪酸の割合が同じでも、油の状態まで同じではない

くるみに多い脂肪酸として、リノール酸とαリノレン酸が挙げられる。くるみ、ヘーゼルナッツ、ピーナッツを比較した食品の実験では、主な脂肪酸はナッツの種類で違い、加熱後の変化も種類と焙煎条件に左右された。[3] ここで扱うのは食品の中の成分であり、血液検査の値ではない。

脂肪酸組成とは、油を構成する脂肪酸の種類と割合である。これに対し、酸化の指標は、油の変化に伴って生じる物質などを調べるものだ。ナッツを加熱して調べた研究では、脂肪酸組成が保たれていても、マロンジアルデヒドという酸化の指標になる物質は増えていた。[13] 成分表の顔ぶれが似ていても、酸化の指標には加工による変化が表れる。

この研究は、ヘーゼルナッツ、アーモンド、マカダミアナッツ、ピスタチオ、くるみを異なる時間と温度で焙煎して比べたものだ。高い温度での焙煎に伴い、くるみではマロンジアルデヒドが17倍になった。[13] 大きな数字だが、これは実験で測った食品の指標の変化である。食べた人の病気の危険が17倍になった、という読み方はできない。

反対に、脂肪酸組成に差がなかったという結果を「焼いても何も起きない」と読むのも早い。同じ研究ではトコフェロール類や抗酸化能にも変化が認められた。[13] 油の質を読みたいなら、脂肪酸の割合だけを抜き出すより、ほかの評価項目と並べるほうが研究の内容に近づく。

既存記事「間食のくるみは魚の代わりになる?植物と魚で違う脂肪酸の変換を読み解く」が扱うのは、食べた後の脂肪酸の利用という別の問いである。また「間食の素焼きナッツは吸収も変わる?加熱と細胞壁から実際のエネルギーを読む」には吸収の話を譲る。ここでは食べる前のくるみと、加熱による油の変化に的を絞る。

同じ袋を前にしても、「どんな脂肪酸を含むのか」「どこまで酸化したのか」「食べるとどうなるのか」は別の質問である。今回の加工実験が直接答えるのは主に前の問いだ。[3][13] 間食ランキングの順位を決める前に、比較している物差しを確かめたい。

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香ばしさの増加と、強く焼きすぎた変化を分ける

香りは単なる気分の問題ではない。くるみの粒を焙煎、電子レンジ処理、炒める処理で比較した実験では、揮発性成分が54種類見つかった。加熱はピラジン類、アルデヒド類、一部のフラン類の生成を促し、焙煎した試料ではナッツらしさとロースト香が強く、好ましさも最も高かった。[2]

ピラジン類はこの研究でナッツらしい香りやロースト香との関連が強かった成分群である。一方、脂質の酸化に由来する一部のアルデヒド類やアルコール類は、脂肪を思わせる香りや青い香りと関連していた。[2] 香りには異なる由来の成分が重なっている。鼻に届く香ばしさを、そのまま酸化の測定値の代わりにはできない。

くるみ油の加工を比べた別の実験では、中程度の焙煎で甘い香り、ナッツらしい香り、ロースト香が得られた。研究でその条件に当たったのは130℃で20分または30分、160℃で10分である。[4] これは油の品質と香りを評価した実験条件であって、家庭で粒を焼く際の完成保証つきレシピではない。

同じ実験の強い焙煎では、160℃で15分または20分の油に好ましくない焦げた香りが現れた。160℃で20分では、植物ステロールの含有量も2.3%減少した。[4] 植物ステロールはこの実験で品質評価の対象になった成分の一つである。香りの強さと成分の保持は、別々に評価する必要がある。

興味深いのは、この強い焙煎でもポリフェノールが多いことに伴い、抗酸化能は高まっていた点だ。[4] 焦げた香りがあるのに、ある測定ではよい数字が出る。おやつの皿に、実験室の成績表をそのまま載せることはできない。

家庭で考えるなら、研究の温度だけを写すより、何のために焼くのかを先に決めるとよい。香りを楽しみたいのに、抗酸化能の値を上げることを目標に焼き続ける必要はない。中程度の条件で好ましい香りが得られ、強い条件で焦げた香りが出たという結果は、強く焼くほどよいとは考えない理由になる。[4]

抗酸化能が上がった研究と下がった研究は、どちらも読む

抗酸化能は、ここでは試料が酸化反応に関わる物質へどう働くかを実験で評価した値である。くるみ油の研究では、焙煎後にトコフェロールとポリフェノールが増え、抗酸化能も高まった。[4] この値は油そのものを測った結果であり、間食後の体の変化を測った数値とは区別する。

ところが、先ほどの複数のナッツを比較した研究では、焙煎後にトコフェロール類が減少し、くるみの親水性抗酸化能は3.7分の1になった。[13] 親水性とは水になじむ性質を指す。油の抗酸化能という言葉と似ていても、評価する成分や試料が同じだと決めつけずに読む必要がある。

さらに、くるみなどのナッツを比較した別の実験では、調べたすべてのナッツで焙煎後の抗酸化能が高まった。一方で、主要な脂肪酸の減少は対流式の焙煎で大きく、保護被膜を使う電子レンジ焙煎で小さかった。[3] 同じ試料で「ある性質は高まる」「別の成分は減る」が同時に起きている。

これらは互いを消し合う結果ではない。油として調べるのか、粒を調べるのか。どの方法でどこまで焼くのか。何を抗酸化能として測るのか。研究が使った対象と条件を添えると、一言の「加熱で増える」「加熱で減る」に押し込めないことが分かる。[3][4][13]

保護被膜を用いた電子レンジ焙煎の結果も、家庭の電子レンジなら必ず成分を保てるという意味ではない。[3] 道具の名前だけを一致させても、処理の条件まで同じにはならない。商品を選ぶときも「ロースト」という表示だけから、特定の論文と同じ変化が起きたと判断するのは避けたい。

研究の型も押さえておく。ここまでの中心は、食品を異なる条件で加工し、成分や香りを比べる実験である。[2][3][4][13] 18〜39歳の女性が食べた際の健康への影響に、そのまま当てはめることはできない。加工の工夫を知るには役立つが、そのまま間食の健康順位を作る材料にはならない。

比較の順序を変えると読みやすくなる。まず同じ研究の中で、加熱の弱い条件と強い条件を比べる。くるみ油の実験なら、中程度の条件の好ましい香りと、強い条件の焦げた香りを対にできる。[4] 別の研究へ移るときは、そこで改めて試料と測定対象を確かめる。この順なら、都合のよい数値だけを別々の実験から持ち寄って、一つの食品像を作ることを避けられる。

測定項目の違いも具体的だ。くるみ油の香りを調べた実験では、揮発性成分が146種類検出され、その中から香りに重要な32種類が特定された。[4] 一方、粒の加熱方法を比べた実験の検出数は54種類だった。[2] この数の多い少ないは、そのまま香りのよさの順位ではない。油と粒という対象も異なるので、数字を並べるだけでは比較の条件がそろわない。

数値の単位にも目を留めたい。酸化指標が17倍という表現は、その指標の変化を示す倍率だ。植物ステロールが2.3%減少したという表現は、別の成分量の変化を示している。[4][13] 両者を引き算して「差し引きで悪い」と採点することはできない。何が増減したのかを主語に戻すだけで、大きな数字への反応は変わる。

数字で読むくるみの焙煎

54種類:加熱方法を比べたくるみの粒で見つかった揮発性成分。香りは単一の成分ではなかった。[2]

17倍:高い焙煎温度に伴う、くるみのマロンジアルデヒドの増加。食品の酸化指標の変化である。[13]

2.3%減:160℃で20分焙煎したくるみ油の植物ステロール。強い焙煎条件での結果だ。[4]

3.7分の1:焙煎後のくるみで認められた親水性抗酸化能。別の油の研究の値と直接足し引きしない。[13]

60日:くるみ油を60±2℃で加速保存した実験の観察期間。家庭での保存期限ではない。[8]

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