インナーマッスルの強化は、ぎゅっと縮めた位置だけでよいのか。肩を内外へ回す筋肉の測定研究を軸に、その場で出せる力と長期のトレーニング効果を分けて読む。筋肉の長さを調べる方法、腱板断裂のある人の研究、測定の注意点から、練習の記録や説明で確かめたいことを整理する。
動画に合わせて肩を回し、動きの端でぎゅっと力を入れる。「ここまで縮めれば、奥の筋肉に効くはず」と思うことがある。しかし、肩を内外へ回す力を調べた53人の研究では、対象の筋肉が最も短くなる位置で、測定した力が最も弱かった。縮め切ることと、大きな力を出すことは同じではない。[4]
だからといって、反対側へ限界まで伸ばせば強く鍛えられる、とはならない。この研究の問いは、位置によってその場で出せる力が違うかである。長い位置と短い位置で練習を続け、どちらが大きく成長するかを比べた試験とは区別する必要がある。[4]
インナーマッスルの強化を考える入口は、「縮めた感じ」の強さだけで方法を決めないことである。ここでは肩の腱板、つまり肩関節を動的に安定させる筋肉群を中心に読む。肩のリハビリテーションを扱うレビューでも、この筋肉群は縮みながら力を出す場合と、伸ばされながら力を出す場合の両方で働くと説明されている。[1]

最も縮んだ位置が、最も強いとは限らない
肩を内へ回す動きが内旋、外へ回す動きが外旋である。Cibulkaらの研究では、肩関節の内旋と外旋の動く範囲を測り、手持ち式の筋力計を用いて、外旋の端、中立位の0°、動く範囲の中間、内旋の端という4つの位置で力を比較した。参加者は53人であり、同じ人の位置による違いを調べている。[4]
結果は、内旋する筋肉は内旋の端で、外旋する筋肉は外旋の端で最も弱かった。それぞれ、測定対象の筋肉が最も短くなる位置である。「筋肉を短くした状態なら最も強いはず」という考えに対し、肩を回す筋肉では逆の結果が出たことになる。[4]
ただし、結果の読み方にはもう少し細かいところがある。中立位と中間位、そして筋肉が最も長くなる位置を比べた場合には、筋力の有意な差がなかった。短い位置で弱かったという結果を、長くすればするほど際限なく強くなるという直線に描き直してはいけない。[4]
論文の結論では、中立位と中間位が強い位置として示されている。同時に、最も長い位置との差は有意ではなかった。この両方を読むと、注目すべきなのは「最長が優勝」という順位表ではなく、最短の位置だけを標準の筋力とみなすと評価を狭める点である。[4]
たとえば練習メモに「今日は肩が弱かった」と書く前に、どの位置でそう感じたのかを書き足したい。これは新たな運動効果の主張ではなく、位置によって力が違った研究を、比較の条件へ置き換える工夫である。同じ人の変化を見たいのなら、動きの途中と端を取り違えないことが出発点になる。[4]
なお、ここでいう端とは、研究で測った肩関節の回旋範囲の端である。見た目に手を大きく動かしたか、動画のお手本と同じ形になったかという話とは分けたい。研究結果を使うときは、測定した動きと筋肉の組み合わせまで含めて扱う必要がある。[4]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
出せる力と、練習後に伸びる力を分ける
「この位置では力が出た」と「この位置で鍛えると力が伸びた」は、似た言葉でも答える問いが異なる。前者では測定中の条件が主役であり、後者では練習を続けた前後の変化が主役になる。肩の4位置の比較が直接示したのは前者である。[4]
そのため、この結果から「短い位置での練習には意味がない」と決めることもできない。力が小さく測定される位置という事実は、その位置で長期的な変化が起きないことと同義ではない。逆に、中立位で力を出しやすかったことを、その位置だけで練習すべき根拠にするのも飛躍である。[4]
インナーマッスルに効く種目を探すと、止める場所や回数の説明に目が向く。そこで研究の紹介文にも、「何を測ったか」を問いかけたい。筋力計の測定値なのか、動かせる範囲なのか、痛みなのか。肩のレビューは機能と痛みを臨床上の問いに置き、位置の比較研究は筋力を調べている。同じ肩の研究でも出口が違う。[1][4]
「筋力が上がる」という宣伝があったら、まず長期の強化を示す話か、その場で力が出やすい話かを見分ける。難しい統計の前に、文の時制を確かめるのである。「出た」が、いつの間にか「伸びる」に着替えていないか。それだけでも、研究から言える範囲を大きく外さずに済む。[4]
練習の目的も言葉にしておきたい。肩を回す力を確かめたいのか、運動を続ける場を持ちたいのか、痛みについて相談したいのか。それらを全部「効く」に押し込めると、評価すべき結果がぼやける。研究でも、強さ、機能、痛みは異なる問いとして扱われている。[1][4]

縮める運動と、伸ばされる運動は別の軸だ
長さの話で混ざりやすいのが、求心性収縮と遠心性収縮である。求心性収縮は筋肉が短くなりながら負荷に対して力を出すこと、遠心性収縮は長くなりながら負荷を受けることを指す。肩のリハビリテーションを扱ったレビューでは、この違いを説明している。[1]
「短い位置」と「短くなっている途中」は同じ意味ではない。前者は測定する場所の話で、後者は動いている間の筋肉の変化の話だ。位置を固定して測った研究と、伸ばされながら負荷を受ける運動の議論を、同じ結果であるかのようにつなげると、鍛え方の説明がずれてしまう。[1][4]
レビューでは、肩の後方にある小円筋や棘下筋が、頭上から投げる動作で腕を減速させる際に遠心性に働くと説明されている。筋肉は、動きを押し進めるだけでなく、動きを受け止める局面でも役割を持つ。縮め切った写真だけでは、その働きは見えにくい。[1]
一方、このレビューは肩のインピンジメントがある患者への運動を扱い、遠心性運動を組み込む明確な指針がないことも述べている。伸ばされる局面があるという説明と、それを加えれば痛みや機能が必ず改善するという処方は別である。対象は肩に症状のある患者であり、18〜39歳の健康な女性に同じ改善効果を当てはめる根拠にはならない。日常の肩トレへは、動作の種類を理解するために使いたい。[1]
すでに公開している「インナーマッスルは縮めた後だと力が減る?同じ長さで違う収縮の履歴を読む」は、直前にどのように動いたかという問いを扱う。こちらの焦点は、測るときに筋肉がどの長さに置かれているかである。肘の角度や練習頻度の選び方へも話を広げず、位置と力の関係を追う。
筋肉の長さは、見た目だけでは測れない
肩の奥の筋肉を「短い」と呼ぶとき、何を物差しにしているのか。棘上筋という腱板の筋肉を対象にした研究では、磁気共鳴画像、いわゆるMRIから、筋肉と腱のつなぎ目の位置などを使って長さを計算する方法を開発した。鏡で肩の形を眺めるのとは異なる測定である。[7]
この方法の測定者内・測定者間の信頼性は、級内相関係数という一致の指標で0.96を超えていた。さらに、腱板修復手術を受けた6人を術前と術後に測り、時間による変化を調べている。対象は腱板修復手術を受けた患者であり、18〜39歳の健康な女性の練習成果にそのまま当てはめることはできない。筋肉の長さは、同じ人を追う研究の対象にもなるのである。[7]
ここでの信頼性とは、同じ対象を測る値がどの程度安定するかという話だ。数値がよく一致したからといって、将来の筋力の伸びまで保証できるものではない。研究が作ったのは、棘上筋の長さを定量化するための方法である。測定の確かさと、鍛え方の正解を分けて受け取りたい。[7]
MRIの研究で術後の変化を見ると、手術から3か月の時点の長さは、術前より16.1%増えた人から7.0%減った人まで幅があった。その後、3か月から12か月にかけては、調べた全員で長さが減少していた。少人数の予備的な検討であり、同じ手術という言葉でも、長さの変化が全員でそろうとは扱えない。[7]
この経過は、長さを測る時期にも意味があることを示す。術前との比較なのか、術後の別の時点との比較なのかで、見ている変化の区間が違う。長くなったか短くなったかという見出しだけでなく、いつを基準にした値かを読む必要がある。これは術後の観察結果であって、自宅での肩トレの成果が同じ経過をたどるという予測ではない。[7]
数字で読む肩の長さと力
53人:肩を内外へ回す力を、位置を変えて調べた研究の参加者数である。[4]
4位置:回旋の両端、中立位、中間位を比較し、最も短い位置で筋力が弱かった。[4]
32人ずつ:腱板断裂のある群と、腱板が保たれた対照群を比べた研究の人数である。[5]
相関係数0.41:断裂群における棘上筋の長さと、年齢予測値で補正した肩の外転筋力との関連である。[5]
10研究:小胸筋の長さの測定を検討した系統的レビューに含まれた研究数である。[3]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2





