握力と寿命の相関は頭の働きにも表れる?認知機能と一緒に変わる力を追跡で読む

握力が弱くなると、記憶や判断の力も落ちるのか。中高年を追った研究とメタ分析から、最初の握力、時間とともに変わる握力、認知機能の変化を分けて読む。手の運動と認知トレーニングの試験にも触れ、握力の数字だけで将来を決めつけず、暮らしの変化を捉える見方を考える。

実家で瓶のふたを開けたとき、親が「最近これが固くて」と言う。握力と寿命の相関という言葉を思い出すと、手の力だけでなく、物忘れまで気になってくる。中高年の追跡研究では、握力と認知機能の関連が繰り返し見つかっている。ただし、強く握れるようにすれば認知症を防げる、という答えにはまだ飛べない。[5][7]

とくに面白いのは、最初に強く握れた人を比べる研究と、同じ人の握力と認知機能が一緒に変わるかを見る研究で、答えの形が違うことだ。複数の追跡研究をそろえて分析すると変化同士には関連があった。一方、新しいメタ分析では、開始時の握力とその後の認知機能の変化との関連は有意ではなかった。[7][18]

死亡の数字は既存記事「握力と寿命の相関はなぜ出る?14万人と50万人の追跡で読む、5kg弱いときの数字の意味」に譲る。ここでは、手の力と頭の働きを長く追うと何が見えるかを読む。握力計を、未来の合否を押す判子にしないための話である。

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最初の握力と、その後の変化は別の問いである

握力を測った日に認知検査も行い、強い人ほど成績がよいかを調べる。これが同じ時点の比較だ。握力を測ってから人々を追い、認知機能の低下が起こるかを調べるのが追跡研究である。さらに、握力と認知検査を繰り返して、両方の変化のつながりを調べる方法がある。この違いは、握力を認知機能の手掛かりとして読むうえで欠かせない。[3][7][18]

たとえば、初めから強く握れる人が後の検査でもよい成績だったとする。その比較だけでは低下速度まで分からず、時間に沿った測定が必要になる。開始時の高さと、そこから先の傾きは異なる。坂道の出発点が高いことと、坂が緩やかなことは、同じ話ではない。[7][18]

この区別を実際に示したのが、45歳以上を対象とする前向きコホート研究を集めた系統的レビューとメタ分析だ。将来に向けて集団を追う研究をまとめ、60研究、37コホート、計380,960人を含めた。研究の80.0%は中程度の質と評価された。研究の本数と、元となった集団の数は一致していない。18〜39歳の女性は対象年齢の外にあり、この推定値をそのまま適用できない。[7]

開始時の握力が強いことは、認知機能低下のリスクが低いことと関連していた。統合した相対リスクは0.812、95%信頼区間は0.766〜0.860である。他方、開始時の握力と全般的な認知機能には正の関連があっても、時間とともに認知機能がどう変わるかとの関連は有意ではなかった。[7]

つまり「弱い人で低下が起こりやすい」という集団の比較と、「最初の握力から個人の低下速度を読める」という主張は区別が必要なのだ。読者が知りたいのは自分の将来だとしても、研究が与えているのは、まず集団の中で見つかった関係である。[7]

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同じ人の手と頭を追うと、変化は結びつく

高齢者の変化同士に焦点を当てた研究では、加齢研究のネットワークに属する9つのコホートを、共通の統計モデルで分析した。18〜39歳の女性に同じ強さの関連があるかは、別途検証する必要がある。研究ごとに測り方や解析が違うと、結果のずれが人々の違いなのか、分析方法の違いなのかを判断しにくい。そこで比較する認知領域やモデルをそろえたのである。[18]

対象となったのは、全般的な精神状態、処理速度、注意と作業記憶、知覚的な推理、言語能力、学習と記憶である。作業記憶は、情報を一時的に保ちながら扱う働きのことだ。認知機能を「物忘れ」の一語に畳まず、異なる働きとして調べている。[18]

関連する要因を調整した後、握力の変化と各認知領域の変化との間には、男女とも全体として中程度の関連があった。平均相関係数は0.55、95%信頼区間は0.44〜0.56と報告された。ただし、研究間のばらつきも大きかった。手と頭の変化が結びつく傾向はあっても、全員が同じ歩幅で変わるという結果ではない。[18]

ここでの0.55は、握力が落ちた人の55%に認知症が起こった、という意味ではない。握力と認知機能の変化の関連の程度を表す値だ。また、認知検査の変化と認知症の発症は別の評価項目である。印象に残る数字ほど、何を数えた値なのかを置き去りにしやすい。[3][18]

別の長期追跡では、開始時40〜86歳の708人を対象に、20年間の6回の調査を用いた。握力と、言語能力、空間能力、処理速度、記憶との関係を分析し、65歳以降では握力の成績とこれらの認知能力の変化に関連があった。18〜39歳の女性での関係を直接示す結果ではない。[6]

著者らは、その年代から比較的安定した結びつきが見られる理由として、退職などの生活の変化や、加齢過程の加速の可能性を挙げている。著者らが挙げたのは、今後検証する仕組みの候補である。手の筋肉から記憶へ一直線の矢印を引くより、生活と加齢を同じ画面に入れる解釈である。[6]

家族を見る場面に戻すなら、瓶を開ける力と、予定を覚える様子とを、単発の出来事だけで結びつけないことになる。「前から苦手だった」のか「最近変わった」のか。研究の問いを暮らしの言葉に移すなら、成績表を作るより、変化の経過に関心を向けるほうが近い。[6][18]

大きな集団でも、認知検査と発症は分けている

英国の大規模コホート研究は、39〜73歳で登録された190,406人を解析した。平均年齢は56.5歳で、女性は102,735人だった。両手の握力を測り、認知症の診断について中央値11.7年追跡している。高齢者だけでなく、中年期を含む関連を調べた研究である。18〜39歳の女性全体への適用には、若い年代での検証が要る。[3]

認知検査では、新しい課題で考える力や、後で行うことを覚えておく課題を扱った。握力が5kg低いことは、後者に正しく答えるオッズが低いことと関連した。男性のオッズ比は0.91、女性は0.88で、95%信頼区間はそれぞれ0.90〜0.92、0.87〜0.90だった。[3]

オッズ比は、正答する確率がそのまま何割減ったかを示す数字ではない。しかも、この5kgは解析上の比較単位だ。ある人が握力を5kg増やしたら、検査の答え方が逆向きにその分改善する、とは読めない。研究で比較した量を、家庭でのトレーニング目標にそのまま転用することはできない。[3]

認知症の発症については、握力が5kg低いときのハザード比が男性1.20、女性1.12だった。95%信頼区間は男性1.12〜1.28、女性1.00〜1.26である。ハザード比は追跡中の発症の起こりやすさを比較する指標で、発症する人の割合そのものではない。女性の推定値は男性より小さく、区間の下端は1.00だった。[3]

研究者らは、筋力を増やす介入が脳の健康を保つうえで有望かもしれないと結論している。この可能性は大切だが、この研究自体は筋トレを割り当てた試験ではない。有望な次の問いを見つけたことと、予防法として実証したことには距離がある。[3]

この研究は認知検査だけでなく、脳の画像も調べた。握力が低いことは、男女とも白質高信号の体積が大きいことと関連した。白質高信号は磁気共鳴画像で評価する所見の一つである。手の力と脳の健康を複数の角度から調べた点に意味があるが、画像の関連を見つけたことが、影響の道筋を確かめるには介入や仕組みの検証が要る。[3]

研究者らは逆向きの関係も検討し、アルツハイマー病の遺伝的リスクをまとめた指標と握力には有意な関連がなかったと報告した。この結果も含めて筋力介入への期待を述べているが、遺伝的な指標による検討だけで、逆向きの影響全般を評価し尽くすことはできない。観察研究の結果を介入の問いへつなげる姿勢と、その間に残る検証を一緒に読む必要がある。[3]

目の前の握力計は、手の出せる力を数値にする。認知検査、画像、追跡中の診断は、それぞれ別の方法で捉えられている。研究の中で関連がそろっていても、家庭で結果を読む際にも、手の力という測定対象に立ち返る必要がある。[3]

数字で読む握力と認知機能

60研究・37コホート・380,960人:45歳以上の追跡研究を集めた新しいレビューの規模である。[7]

相対リスク0.809:握力の維持・増加と認知機能低下の少なさとの関連。95%信頼区間は0.738〜0.886である。[7]

相関係数0.55:9コホートをそろえた解析による、握力と認知機能の変化同士に認められた平均的な関連を表す。[18]

708人・20年:握力と複数の認知能力を長期に調べた追跡研究が、この人数をこの期間追った。[6]

47人・8週間:手の運動と認知運動を分けて検討した、高齢者の無作為化試験の規模と介入期間である。[9]

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宮川涼 Founder

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