甘口の日本酒が飲みやすいのかを、残ったデンプン、水に溶ける糖、エタノールの並びから読む。発酵では糖の消費とエタノールの増加が並ぶ一方、米の種類を比べた酒では溶ける糖とエタノールがともに高い。甘味の評点はエタノールと正の相関だった。酸と麹も甘さ一言には収まらない。
お猪口に注いだ日本酒が甘く感じられたら、アルコールも弱いと思ってよいのか。甘口のラベルを頼りに選ぶとき、舌で感じる甘さと、瓶に書かれた度数を一緒に判断していないだろうか。
答えの芯は、甘口かどうかだけでは飲みやすさは決まらない、ということだ。米の酒の発酵を追った研究では、糖の消費とエタノールの増加が並ぶことが多い。一方、米の種類を変えて仕上がった酒を比べると、水に溶ける糖が高く、エタノールも高い組み合わせがある。甘味の評点は、その比較ではエタノールと正の相関だった。糖が一つの数字ではない。[1][14]
既存の記事「梅酒はなぜ飲みやすく感じるのか。甘さの点数と酸味を別の仕事として読む」は、甘さの点数と酸味の分担を扱っている。酸味を甘さから切り離す仕事はそちらに譲る。こちらは日本酒と米の酒に限り、残ったデンプン、水に溶ける糖、エタノール、甘味の評点が同じ向きに動くとは限らない、という読み方にする。ここで扱う中心は、酒や酵母を対象にした醸造実験である。中国や韓国の米酒は日本の清酒と原料や製法が異なり、その成分の比較は、18〜39歳の女性が感じる飲みやすさへ直接当てはめられない。以下では成分の関係を読む手掛かりとして扱う。[5][9][13]

発酵の途中では、糖の消費とエタノールの増加が並ぶ
酵母の入れ方を変えた米酒の研究では、順番に発酵させた条件のほうが糖をより多く消費し、エタノールは高くなった。チオールは減り、アルコール類、エステル、フェニルエチル類、テルペンは増えた。同時に入れた条件より、風味を良くするうえで有利だった、と著者らは述べている。同時発酵は脂肪様の香りを増やし、順番の発酵はまろやかさと穀物様の風味を増やした。[1]
ここで読みたいのは、まろやかさという言葉の位置である。まろやかさと穀物様の風味が増えたのは、糖をより多く使い、エタノールが高いほうの条件だった。甘さが残っているから角が取れた、という並びにはなっていない。ただし、その条件はエステルなども同時に変えている。エタノールだけがまろやかさを作った、とは切り離せない。[1]
韓国の米酒では、発酵中に糖が8°Brixまで下がり、アルコールは10%から18%へ増えた。最終のpHは3.9まで上がった。主要な揮発性成分は32。官能ではアルコール、焙煎した穀物、フルーティーな香りが確認された。糖が減ったあとの酒に、アルコールの香りが記述として残っている。[9]
この官能語は、飲みやすいとか飲みにくいとかの採点ではない。アルコールという香り、穀物、果実様の香りが並記された、という結果である。フルーティーさを香りの分子から読む問いは別の切り口にし、ここでは糖が8°Brixまで減った時点のアルコールが18%だった、という並びだけを残す。[9]
インディカ米の酒では、酸性プロテアーゼと乳酸菌を浸漬に加える処理が、従来の浸漬に比べてエタノールを30.33%高め、残糖を15.2%低くした。苦味アミノ酸は46.6%減り、総エステルは43.97%増えた。フェネチルアセテートは2.57 mg/Lに達した。著者らは品質の向上を、浸漬中の米の構造の変化に帰している。[11]
相対値の読み方を外さない。30.33%は、出来た酒のアルコール度数が30.33%だったという意味ではない。従来の浸漬と比べた増加率である。残糖の15.2%も、同様に比較相手に対する低さである。増加率と、瓶に書かれる度数は別の数字だ。[11]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
仕上がりの甘味は、エタノールの低さを意味しなかった
通常米の米酒ともち米の米酒を発酵させ、デンプンの構造と味・食感の関係を見た研究がある。総デンプンは通常米の酒で21.2%まで、もち米の酒で15.6%まで減った。水に溶ける糖は通常米で169.3 mg/g、もち米で194.4 mg/gまで増えた。エタノールは通常米で6.5%、もち米で8.9%まで増えた。著者らは、もち米の酒のほうが品質が高い、とこの変化から述べている。[14]
甘味は、総デンプンとは負の相関、エタノールとは正の相関だった。相関は、二つの酒のあいだで一緒に動いた、という関係であり、糖を足せばエタノールが増える、という操作の結果ではない。米のデンプン構造が違う仕込みを比べた研究である。[14]
この並びは、前の節と単純には重ならない。発酵の途中を追った研究では、糖の消費が進むほどエタノールが高い、という方向が目立つ。[1][4][9][11] 米の種類を変えた仕上がりでは、水に溶ける糖が高いほうでエタノールも高かった。総デンプンは、その高いほうでより減っていた。[14]
つまり「糖」が、残ったデンプンなのか、水に溶けている糖なのかで、エタノールとの並びは変わる。甘口を残糖の多さと決め、残糖の多さをアルコールの少なさだと決めると、この比較は逆を向く。甘味の評点は、エタノールが低いほうではなく、高いほうと正の相関だった。[14]
店頭で甘口と辛口を並べるとき、この研究が比べたのは通常米ともち米という原料の違いである。日本の特定の銘柄の甘辛表示を、21.2%と15.6%に割り当てる材料ではない。使えるのは、甘味の評点とエタノールが逆向きとは限らない、という比較の型だけだ。[14]
甘さの語は、残った糖と甘いアミノ酸に分かれる
濁り酒の醸造に、伝統的な麹から採ったサッカロミコプシス・フィブリゲラを足した研究では、還元糖と総糖が減り、アミノ酸態窒素、総酸、エタノール、抗酸化活性、揮発性成分は増えた。アミノ酸への影響は一様ではない。10日目までに、苦味アミノ酸は減り、甘味アミノ酸は増えた。[12]
糖が減る期間に、甘いアミノ酸は増えている。舌の「甘い」と、分析表の「糖」は、同じ仕込みの中で別の方向を向き得る。甘口という言葉を残糖の別名として覚えると、アミノ酸の甘さを見落とす。[12]
インディカ米の処理でも、苦味アミノ酸の46.6%減少は、残糖の低下およびエタノールの増加と同時だった。[11] 苦味が減った酒を、糖が多くアルコールが低い酒だとは、この結果からは読めない。苦味、甘味アミノ酸、残糖、エタノールは、別々の列に置いたほうがよい。[11][12]
数字で読む残糖とエタノール
通常米の米酒は水溶性の糖169.3 mg/g、エタノール6.5%。もち米の米酒は194.4 mg/g、8.9%。甘味は総デンプンと負、エタノールと正の相関だった。[14]
総デンプンは通常米の酒で21.2%、もち米の酒で15.6%まで減った。溶ける糖の多さと、デンプンの残りは別の数字である。[14]
宜昌の群落で造った米酒は糖198.67 mg/g、エタノール14.47 mg/g。蘇州は糖292.50 mg/g、エタノール12.31 mg/g。単位はmg/gで、6.5%と同じ物差ではない。[5]
インディカ米の酒では、比較対象の浸漬に対しエタノールが30.33%高く、残糖は15.2%低かった。30.33%はアルコール度数そのものではない。[11]
韓国の米酒では糖が8°Brixまで下がり、アルコールは10%から18%へ増えた。官能の語にはアルコールの香りが含まれる。[9]
中国の米酒でエタノールとグリセロールが最も高かった温度は23℃。マルトースの山は18℃で90 g/L。乳酸と酢酸の最大は33℃だった。[18]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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