筋トレで胸は大きくなる?速く押せた日の最大筋力と筋肉の厚さを分けて読む

胸の筋トレで同じ重りを速く押せると、筋肉も大きくなったと感じやすい。だが速度から推定する最大筋力と、大胸筋の大きさは別の測定である。ベンチプレスの介入試験と速度測定の研究をたどり、軽い重りで分かること、推定の誤差、成長を確かめる記録の分け方を考える。

先週は途中で止まりそうだったベンチプレスが、今日はすっと上がる。バーをラックに戻し、「胸の筋肉が大きくなったのか」と考える。動きが変わった喜びは、そのまま記録に残してよい。ただし、重りの速度は筋肉の寸法を測る物差しではない。[1][9]

同じ重りを押す速度の改善は、最大筋力の変化と関係し得る。しかし、速度から計算した最大筋力にも誤差があり、筋肉の大きさは別に確かめる必要がある。鍛えた若い男性を対象に大胸筋の形態を測った介入研究でも、速度を使って負荷を調整する方法に、通常の負荷設定を上回る筋肥大の利点は認められなかった。男性の結果が18〜39歳の女性にも当てはまるかは、別に検証する必要がある。[1][9][19]

既存記事「背中の筋トレのロウは引く速さも記録する?重量と最大筋力の推定を分けて読む」には、引く種目の推定という問いを譲る。ここでは胸を押す動作に絞り、速さの記録をどこまで胸の成長の証拠として読めるかを考えたい。

「筋肉痛が残ってる日の筋トレは力も揺れる?最大筋力と小さな力の安定を分けて読む」は、筋肉痛後に一定の力を保つ課題を扱っている。その論点には踏み込まず、ここではバーの移動速度から筋力と形態の変化をどう読むかに焦点を置く。

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押す速度、最大筋力、筋肉の大きさは別々の記録である

研究でいう最大筋力の指標に、正しい動作で持ち上げられる最大重量、1回反復最大重量がある。以後は研究で使われる表記に合わせて1RMとする。一方、負荷と速度の関係は、重さの違うバーをどれくらいの速さで動かしたかを対応させたものである。複数の重さで測った速度から関係式を作り、1RMを推定する研究が行われている。[11][19]

ここで測っているのは、押す課題の成績である。大胸筋の断面積、つまり筋肉を横切る面の広さを測るのとは目的が異なる。速度を用いた筋肥大トレーニングの研究は、負荷と速度の関係だけで済ませず、大胸筋の断面積、1RM、筋活動などを別々に評価している。同じ人の体に起きる変化でも、測定項目を分けて確かめる設計である。[9]

スマホの記録欄に「速くなった」「強くなった」「大きくなった」と並べるなら、それぞれの横に根拠を書くとよい。バーの速度を測ったのか、実際に最大重量を試したのか、筋肉の形態を測ったのか。速度の数字だけを見て残りの欄まで埋めると、研究が区別した成果を混ぜることになる。[9][19]

胸を大きくしたいという希望があっても、毎回その場で成長を判定する必要はない。押す動作が改善したという観察は、それ自体で意味を持つ。筋肉の寸法に読み替えず、まず動作の成果として置いておけば、後から別の測定結果と比べられる。最大筋力と速度の変化を対応させた試験も、両者を異なる指標として扱っている。[1]

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速く押せるようになることは、強さの変化と結びつく

ある程度のトレーニング経験がある男女63人を対象に、ベンチプレスの方法を比べた無作為化比較試験がある。男性32人、女性31人が参加し、最大筋力を狙う方法、筋肥大を狙う方法、爆発的に押す方法、対照の群に分かれた。期間は8週間、運動群は週3回の実施であった。男女を合わせた結果なので、18〜39歳の女性だけの改善率としては扱えない。[1]

最大筋力を狙う群は1RMの85%以上で4回を4セット、筋肥大を狙う群は約70〜80%で8〜12回を3セット行った。爆発的に押す群は40%で、バーを投げ上げるベンチプレススローを6〜7回、4セット実施した。最大筋力群と爆発的動作群は運動量をそろえたが、筋肥大群はより多い量であった。方法の違いには速度以外の要素も含まれる。[1]

1RMの増加は最大筋力群で21.5%、筋肥大群で17.9%、爆発的動作群で5.9%であり、前の両群は爆発的動作群と対照群より大きく改善した。また、押し上げの推進局面の平均速度は、調べた負荷の範囲で最大筋力群と筋肥大群が対照群より改善した。最大筋力を狙う練習でも、その後の押す速度は改善した。[1]

1RMの変化と各負荷での速度の変化には、相関係数0.40〜0.56の関係があった。相関とは、変化がどれくらい一緒に動くかを表す指標である。筋力が伸びた人ほど速度も改善する傾向はあっても、速度の増加率をそのまま筋力の増加率へ変換する数字ではない。まして筋肉の厚さの増加率ではない。[1]

この試験を読んで、軽いバーをできるだけ速く動かせば胸が最も育つ、と結論することはできない。最大筋力に関しては、より重い負荷を使う方法のほうが大きく改善した。一方で、この比較は負荷、反復回数、動作、運動量が異なる方法同士の比較である。速さだけを取り出した優劣にはしないことが大切だ。[1]

軽い重りからの推定には、軽さなりの限界がある

最大重量を毎回持たずに強さを推定できるなら便利である。ただし、「測る負担が小さい」と「推定の誤差が小さい」は別の話だ。水平と傾斜のベンチプレスを比べた男性30人、平均年齢26歳の測定研究は、実測した1RMと、速度から推定した1RMを照合している。18〜39歳の女性でも同じ精度になるかは、この男性対象の結果からは判断できない。[11]

この研究では、1RMの70〜90%の相対負荷を使った場合、個人の関係式と集団の関係式はどちらも推定に信頼性があるとされた。一方、40〜60%では変動係数が10%を超え、級内相関係数が0.80未満であった。変動係数はばらつきの大きさ、級内相関係数は測定の一致などを評価する指標である。この対象と方法では、軽い負荷だけからの推定は重めの負荷ほど安定しなかった。[11]

また、水平と傾斜では負荷と速度の関係が異なり、相対負荷30〜80%では水平のほうが速かった。同じ「胸を押す種目」という名前でも、ベンチの条件をまたいで速度を比べることはできない。先週は水平、今週は傾斜という記録をつなげるなら、まず種目が変わったと読むべきである。[11]

これは、重い負荷を自分だけで試すよう勧める結果ではない。推定を使いたいときに、指導者と測定の目的や方法を相談するための知識である。軽い負荷で得た推定値を、実際に持ち上げた最大重量と同じ欄に確定値として書かない。研究でも、計算した値が実測にどれほど合うかを別途検証している。[11][19]

集団の平均を個人に当てはめる際にも注意が要る。若いレクリエーション運動者の女性96人、男性256人を測った研究では、負荷と速度には強い関係があり、ベンチプレスの相関係数は女性0.872、男性0.880であった。それでも速度には大きな個人差があり、研究者は相対負荷をより正確に設定するため、個人ごとの関係を求めることを勧めている。若い女性を含むが、レクリエーション運動者の測定であり、18〜39歳の女性全般へ一律に当てはめることは避けたい。[16]

集団では線がきれいに見えても、自分の点がその線の上に乗るとは限らない。友人が同じ重さを同じ速さで押したというだけで、互いの最大筋力が等しいとは扱わない。人数の多い研究が示したのは、関係があることと、個人差を無視できないことの両方である。[16]

速度そのものにも測り方がある。機器比較の研究は、バーの平均速度、推進局面の平均速度、最高速度を測定した。平均という名前でも、動作全体と特定の局面では集計する部分が違う。最高速度は動作中の最も速い値である。記録の画面を見比べる際には、単位だけでなく、どの速度を表示しているかまで確かめたい。[19]

たとえば、以前の記録が平均速度で、今日の記録が最高速度だったとする。数字の大小をそのまま並べても、同じ測定項目の前後比較にはならない。推進局面の速度を扱った介入試験の成果を読む際も同様である。「速度」と短く呼ばれる値の中身をそろえてから、重さとの対応を見る必要がある。[1][19]

また、若い運動者を測った研究では、女性のベンチプレスとスクワットでも、70〜80%1RMの速度に差があった。胸のプレスに使う関係を、別の部位の種目で作った関係へ置き換えることはできない。自分の過去と比べるというだけでは十分でなく、過去のどの種目、どの指標と比べるかまで記録に残すことになる。[16]

数字で読む胸の速さと推定

63人・8週間:男女を含む試験で、方法による筋力と速度の変化を比較した。[1]

21.5%と17.9%:最大筋力群と筋肥大群の1RM増加であり、胸の寸法の増加率ではない。[1]

0.40〜0.56:1RMの変化と負荷別の速度の変化との相関係数である。[1]

70〜90%:男性30人の研究で、速度からの1RM推定に信頼性があるとされた相対負荷の範囲である。[11]

27人・8週間:低負荷での終了条件を比べ、筋肥大と筋力を分けて評価した試験の規模である。[5]

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宮川涼 Founder

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