背筋のメディシンボール筋トレは投げる?手放す瞬間と止める動きの違いを読む

メディシンボールを投げる練習と、手に持ったまま止める練習は何が違うのか。背筋を鍛えたい人に向け、肩の筋活動、ボールの重さ、投げる速さと飛距離の研究を読み分ける。野球の投球への応用を考える際の注意点と、手放した後も残る減速の役割、比較の条件を具体的に考える。

動画ではボールが勢いよく飛ぶ。自宅では、その先に本棚がある。背筋の筋トレとしてメディシンボールを持ったとき、投げるところまでまねるのか、手の中で止めるのかは、案外切実な問いである。

答えの芯は、手放す動きと保持して止める動きでは、終わり方の条件が変わるということだ。手放した後も、腕を減速させる動きは残る。頭上から両手で投げる動作を調べた実験でも、加速とは別に減速の局面があり、その間も肩の筋肉は活動していた。対象は健康な男性であり、18〜39歳の女性でも同じ筋活動になるかは、この実験だけでは判断できない。[15] 手放した後の腕まで含めて見る必要がある。

既存記事「背筋の筋トレは壁を押してもできる?立位の抵抗と反る動きの違いを研究で読む」には、壁の抵抗と背中を反らす動きの論点を譲る。ここでは、ボールを手から離す瞬間と、動きを収める過程を扱う。肩や腕を調べた研究を、そのまま腰の筋力向上の証拠に読み替えないことが出発点である。[8][15]

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投げ終わりにも、止める仕事がある

健康で肩のけがの既往がない男性を対象に、両手で頭上からメディシンボールを投げる動作を調べた実験がある。対象は10人で、肩の10筋の活動と動きを測定した研究だ。投げる動作を、構えに当たる局面、加速する局面、減速する局面に分けている。男性の測定結果を18〜39歳の女性に当てはめる際は、活動の強さや時間の割合を個人の目安にせず、動作を分けて見る視点として使いたい。[15]

動作全体の平均時間は1.92秒だった。そのうち構えが56%、加速が15.5%、減速が28.5%を占めた。[15] 投げる動作には、ボールに勢いを与える前後の時間も含まれる。短い動画では飛び出した瞬間に目が行くが、研究では、その前後も別々に数えている。

減速中には、首から肩に広がる僧帽筋の上部で高い活動があり、大胸筋を除くほかの測定筋でも中程度の活動があった。[15] ここでいう高い、中程度という区分は、その研究で用いた筋活動の基準に対する分類である。背中全体が同じ強さで働いたという意味でも、腰を伸ばす筋肉の効果量でもない。

加速中には、測定したうちの5筋が高い活動を示し、僧帽筋上部と肩甲下筋の下部はさらに高い活動の区分に入った。[15] 肩甲下筋は肩関節を取り囲む筋肉の一つである。ボールが手を離れる直前の勢いだけでなく、どの筋を、どの局面で測ったかが結果を読む鍵になる。

したがって「投げる練習だから、止める練習は不要」という説明は、この実験とは合わない。[15] 手から離れるボールの動きと、投げた人の腕が落ち着くまでの動きは区別したい。ボールの仕事は飛んでいくことだが、人の腕には、その後の動きが残る。

肩の活動を測る方法にも目を向けたい。この研究では、動作中の筋肉の電気的な活動と、動きを記録する仕組みを組み合わせた。構えの段階では、大胸筋や三角筋の前部にも高い活動があり、肩の深い位置にある筋肉群では中程度の活動が観察された。[15] ボールを飛ばす直前だけを切り抜くと、準備の局面に参加する筋肉の働きも見えにくくなる。

また、筋活動の高さは、その動作中に測定した値である。長く練習した後にどれだけ筋力が増えたか、筋肉がどれだけ大きくなったかとは、結果の種類が違う。[15] 「よく働いた」と「鍛え続けると大きく変わる」の間にある違いを残して読むことが、背筋の筋トレとして紹介された動画を見極める助けになる。

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手に残す練習は、投げる練習の小型版か

持ったまま腕を動かす練習を、投げる練習の音がしない版として扱うと、違いを見失う。重い負荷で肘を曲げ伸ばしする実験は、手放さない運動では、筋肉が縮みながら動かす途中にも減速する局面を必要とする点を取り上げている。[13] まずは終点まで含めて別の課題として考えるのがよい。

この実験には健康な男性12人が参加した。片腕で6回反復できる最大負荷を用い、速く縮める条件、伸ばした後に縮める条件、伸ばす側と縮める側をそれぞれ2秒にそろえる条件を比較した。[13] 18〜39歳の女性が行う軽いボール運動に数値をそのまま当てはめず、負荷に加えて速度条件も確認するための比較として読みたい。

筋肉が伸ばされてから縮む条件では、伸ばす側の平均速度が毎秒0.57m、縮める側が毎秒0.43mだった。時間をそろえた条件では、それぞれ毎秒0.17m、毎秒0.20mであり、速度や力、筋活動には条件による違いが生じた。[13] これは肘の運動の結果であって、背筋の筋トレで同じ数値が得られるという予測ではない。

研究の読みどころは、力を出すことと、力を出しながら速度を変えることを分けている点だ。ボールを持ったまま行う場合にも、「どこまで動かし、どこで収めるか」を指導者と共有したい。単に投げないように我慢する、と説明するより、終点を含む課題として確認するほうが、この違いを捉えやすい。[13]

投げる条件と保持する条件のどちらが背筋の発達に優れるかを、この肘の実験で順位付けすることはできない。測った部位と結果を対応させるためである。[13] 背筋を目的に選ぶなら、肩の投げる練習を調べた結果なのか、狙う背中の動きを評価した結果なのかを、紹介文の段階で確かめたい。

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重いボールほど、同じ投げ方になるわけではない

メディシンボールの重さを変えた実験では、活発に運動する大学生年代の男性15人が、肩と肘を曲げた位置で投げ返す運動を行った。使った重さは1kg、1.5kg、2kgである。[3] 18〜39歳の女性に同じ変化率が生じるかはこの男性対象の実験では判断できず、重さの数値は初心者への推奨ではなく比較条件として読む。

測定した項目の一つが運動量だ。ここではボールの重さと速度に関わる、動いている勢いを表す指標として捉えると読みやすい。ボールを放すときの運動量は、戻ってきたボールに接触するときより67〜123%大きかった。[3] 投げる側と受ける側を同じ負担として一括りにする説明には注意が要る。

ボールの重さが増すと、放すときの運動量は34〜35%、接触時の運動量は45〜67%増えたと報告された。[3] 一方、投げ返すまでの時間には有意な違いがなく、ボールとの接触時間への影響は0.05秒未満という小さなものだった。[3] 重くしたら全項目が同じ割合で変わる、という結果ではない。

この違いは、練習記録のつけ方にも関わる。「前と同じように投げた」と感じても、重量が違えば比較条件が変わる。ボールを手放すときの数値と、受けるときの数値も別に測定されている。[3] 放した後に拾い直すのか、跳ね返りを受けるのかまで、種目名とは別に書き留める意味がある。

ただし、この実験の対象は男性の小集団で、特定の肩の位置での投げ返しである。[3] 仕事帰りに運動を始める女性や、頭上から後方へ投げる動作にも同じ変化率が当てはまるとは扱わない。重さの数字は、まねをするための命令ではなく、結果が成立した条件として読むのである。

飛距離は、背筋だけの成績表ではない

座って片腕でボールを押し出すテストでは、活動的で健康な女性15人と男性15人が、利き腕と非利き腕を比較した。使用重量は1kg、2kg、3kgで、放す高さ、角度、速度、着地までの水平距離を測った。[8] ここでも単に遠くへ飛んだかだけで結論を出していない。

利き腕の水平距離は、非利き腕より7〜11%長かった。放す速度も利き腕で7.6%高かった一方、放す高さと角度には左右の有意な違いがなかった。[8] 高さや角度がほぼそろっていたため、著者らは、この条件の距離差を上肢の筋力やパワーの違いとして解釈することを支持している。[8]

大切なのは、「距離が違う」という事実の隣に、「高さと角度を調べた」という手続きがある点だ。立って全身を使う投げ方と、座って片腕で押し出すテストを同じ目盛りに置くことはできない。後者の研究結果を、前者で背筋だけが強くなったという説明に使うのも飛躍になる。[8]

野球のために背中を鍛えたい人も、ボールが遠くに飛んだ日は、何が変わったのかを問い直したい。重さ、姿勢、投げる腕、放す条件までそろえた比較なのか。論文が左右差を解釈できた理由を日々の記録に取り入れるなら、記録の名前を「背筋力」ではなく、実際に行った投げ方にするのが筋が通る。[8]

座位の片腕投げで左右の放す高さや角度が近かったことは、ほかの投げ方でも常に一定になるという意味ではない。研究者が実際に測り、比較を支える条件として確認したという意味だ。[8] 家で撮った映像に距離だけを重ねても、同じ検証をしたことにはならない。記録を残すなら、遠くへ飛んだ場面だけを保存するより、開始姿勢から終わりまでが分かる形で、何を比べたいかを指導者に伝えたい。

数字で読む手放す動作と減速

1.92秒:健康な男性10人による、両手の頭上投げの平均動作時間を示す。[15]

28.5%:同じ頭上投げで、減速局面が動作時間に占めた割合に当たる。[15]

67〜123%:男性15人の投げ返し実験で、放すときの運動量が接触時を上回った幅だった。[3]

7〜11%:座位の片腕投げで、利き腕の水平距離が非利き腕より長かった割合である。[8]

14回:野球・ソフトボール選手の比較研究で行われた、減速を重視する練習の実施回数である。[6]

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宮川涼 Founder

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