インナーマッスルの歩き方、両腕を止めた通勤で歩幅は変わる?胸と骨盤の連携

インナーマッスルを意識して腕を振らずに歩くと、歩幅や体幹のねじれはどう変わるのか。健康な成人の歩行実験とリハビリの研究を分け、筋活動と鍛える効果の違いを読む。腕振りを増やしても変わらなかった結果や、足を置く横幅にも目を向け、通勤の歩き方を比べる視点を示す。

洗濯かごを両手で抱え、廊下を歩く。腕が動かないぶん、お腹で支えている気がする。その感覚を「インナーマッスルのトレーニングになった」と数えてよいのだろうか。

答えの芯は、腕の動きを変えると歩き方は変わりうるが、腕を止めることによる深部筋の強化は確認されていない、である。健康な成人の実験では、腕振りと体幹の回転を小さくした歩きで一部の腹筋活動が増えた一方、男性5人を対象にした別の実験では、腕振りを制限しても腰部の測定項目に有意な差は出なかった。男性の結果を18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、女性での検証が必要だ。[8][12]

既存記事「インナーマッスルの検査は腰を丸めると違う?超音波の厚みと収縮を分けて読む」には検査姿勢の話を譲る。ここで確かめるのは、歩いている最中の腕・胸・骨盤の連携だ。運動中の筋活動、歩幅の変化、続けた後の能力は、別々の答えとして読む必要がある。[6][7][8]

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腕を振らない歩きは、お腹だけの課題ではない

歩くとき、腕と体幹は連携して動く。肩まわりと骨盤の水平面の回転、腕振り、床から受ける力を同時に調べた研究では、肩まわりと骨盤が逆向きに回る様子が観察された。また肩まわりの回転が一時的に止まる時期と、腕が最も後ろへ振られる時期が重なった。体幹はただ連続してねじれ続ける筒ではない。[14]

水平面の回転とは、上から見たときに胸や骨盤の向きが左右へ変わる動きである。前へ倒れることや、横へ傾くこととは区別する。この研究が示すのは、腕振りを肩だけの往復運動として切り離しにくいということだ。足が床を押して進む局面と、体幹を介した腕の動きが結び付くという解釈が示されている。[14]

そのため「腕を動かさなければ、その仕事をお腹が全部引き受ける」という足し算は慎重に扱いたい。男性5人で腕を制限した条件と自由に振る条件を比べた腰部の実験では、負荷や動きに増加の傾向があった項目もあるが、腕振り条件による有意な差はなかった。18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには検証が必要で、仕事の移り先も見た目の静かさだけでは決められない。[12]

通勤の場面に置き換えるなら、荷物を抱えた日の「胴体が固まる感じ」は、比較を始めるきっかけにはなる。しかし、その感覚だけを筋肉への効果の単位にしない。両手がふさがっていたのか、足取りも変えたのか、歩く速さまで変わったのか。腕の形だけでなく条件を分けて考えることが、研究の読み方に近い。[12]

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筋活動が増えた歩きでは、何を一緒に変えたのか

健康な成人に近い条件を知る手がかりが、着物を着たときのように体幹の回転と腕振りを小さくする歩きの実験である。参加者は健康な成人29人、平均年齢は21.5歳だった。通常の歩きと比べ、膝にかかる力の作用や、体幹・股関節の筋肉の活動を調べている。[8]

この実験の重要な点は、腕だけを固定した比較ではないことだ。体幹の回転も小さくし、床から受ける力が支持する脚に近付くような歩き方を調べている。腕振りの減少、胴体の動かし方、足に対する力の位置関係をまとめて変えた条件である。結果が違っても、その原因を腕だけへ割り振ることはできない。[8]

筋活動は皮膚に置いた電極で捉える表面筋電図で評価された。足が床についている時期の前半には、内腹斜筋、外腹斜筋、中殿筋の積算した筋活動が通常歩行より有意に増えていた。内腹斜筋と外腹斜筋はお腹の脇、中殿筋は股関節まわりで測った筋肉である。後半にも一部の筋肉で増加が報告された。[8]

ここから言えるのは、この歩き方では特定の局面で特定の筋肉の活動が増えた、というところまでだ。測定には多裂筋も含まれるが、測った筋肉がすべて増えたという結果ではない。「インナーマッスル」というひとまとめの言葉で、腹部や背部の筋肉全体が一様に働いたと読み替えないことが大切になる。[8]

さらに、筋活動が増えることと、筋力が増えることは分ける必要がある。この実験が比較したのは、その歩きの最中に出た筋電図などである。練習を重ねてどれほど強くなったかという答えとして扱わず、「動き方によって分担が変わる」という材料として読むのが適切だ。腕を止めれば筋トレの代わりになる、という処方へ飛ばない。[8]

膝の指標も併せて見ると、話はさらに立体的になる。膝を内側へ傾ける方向の外的な作用を表す膝内反モーメントのピークは、通常歩行より小さくなった。筋肉の活動が増えたことと、ある関節の外的な負荷指標が減ったことが同時に起きている。「きついほど全身の関節にも負担が大きい」という単純な関係ではなかった。[8]

ただし、膝の指標が下がった歩きを、そのまま万人向けの膝痛対策にはしない。対象は健康な若い成人であり、ここで比べたのは動作中の指標だ。自分の膝が痛む理由や、どの歩き方が合うかを決める診断の代わりにはならない。痛みがある場合の歩行の変更は医師に相談する対象である。[8]

腕振りを止めても、腰の値が明確に増えなかった実験

別の研究では、男性5人が歩調を変えながら、腕を自由に振る条件と制限する条件で歩いた。体幹の筋活動や腰椎の動きを記録し、筋肉と受動的な組織を含む立体的なモデルで腰部の関節にかかる力を推定している。腰の中の力を直接のぞいた測定ではなく、身体のデータとモデルを組み合わせた実験である。18〜39歳の女性で同じ結果になるかは、この男性の実験だけでは判断できない。[12]

結果は、腕振りの条件で有意に変わった測定項目はなかった、である。制限すると多くの項目が増える傾向はあったものの、傾向と有意差は同じではない。歩調では、速い条件と遅い条件の間で前後方向の剪断負荷に有意な差があった。剪断とは、関節で前後へずらす方向に働く力を指す。[12]

腕振りを変えた話をしているのに、速さの話を挟むのには理由がある。歩き比べの際、腕を大きく振ると同時に急いで歩けば、感じた違いを腕だけの結果にできないからだ。この実験では腕の条件と歩調を分けて比べている。自分の散歩でも、変えたことを言葉にしておくだけで、原因の取り違えを減らせる。[12]

先ほどの健康な成人の研究と矛盾するようにも見える。しかし、前者は体幹の回転も変えた歩きで腹筋などを評価し、こちらは腕振りの制限と歩調を組み合わせて腰部を評価している。対象、動作の指示、測定項目が違う。同じ「腕を振らない」でも、同じ試験を再現した結果ではない。[8][12]

また、この男性5人の結果を、年齢も性別も生活も違うすべての人に当てはめることはできない。有意差がないから誰でも完全に同じ、という意味にもならない。ここでは、腕を固定すれば必ず腰の筋活動や負荷が大きくなるという言い切りを控えるための、重要な反例として読む。[12]

腰部の実験をもう少し丁寧に見ると、各参加者は歩調と腕振りを組み合わせた条件を繰り返し、合計30回歩いている。同じ人の中で繰り返すことは、その人の条件間の比較を支える。ただし、試行の回数が増えても参加者の人数が増えたことにはならない。30回という数だけを見て、大人数の調査のように受け取らないようにしたい。[12]

モデルに含めた筋肉や組織が詳しいことと、多様な人で確かめたことも別である。この研究では腰部に作用する54の筋肉と受動的な構造を扱っているが、参加者は男性5人だった。身体の中を細かく表現する工夫は、対象の少なさを消すものではない。計算が精密そうに見えるほど、誰の歩きから得た値なのかも一緒に読む。[12]

一方、健康な成人の歩き方の比較では、足が床についている時期を前半と後半に分けて筋活動を評価していた。前半に増えた筋肉の顔ぶれを、そのまま歩行中ずっと増えた筋肉の一覧にしてはいけない。着地して体を支える時間の中でも、活動を比べる区間が指定されている。平均的にお腹がきつかったという感想より、時間を細かく分けた結果なのだ。[8]

この区切りは日常の振り返りにも使える。歩き出すときに違和感があるのか、一定の速さになってからか、止まる直前かを分けて書くのである。それで筋活動の量が測れるわけではないが、「歩いている間ずっと同じ」とまとめるより、自分がどの動作を気にしているかを説明しやすくなる。動作の局面を分けるという視点を借りる使い方だ。[8]

数字で読む腕振りと歩行

29人:体幹の回転と腕振りを小さくする歩きを通常歩行と比べた健康な成人の人数。[8]

21.5歳:その実験の参加者の平均年齢。高齢者や痛みのある人の結果と同一には扱わない。[8]

0.45から0.40 Nm/kg:通常歩行と変更した歩きでの、最初の膝内反モーメントのピークの平均値。体重で補正した動作中の指標である。[8]

5人:腕振り制限による有意差がなかった腰部モデル実験の男性参加者数。[12]

20人:脳卒中後の腕振りを伴う歩行練習を調べたランダム化比較試験の参加者数。[6]

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宮川涼 Founder

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