マンションでHIITをして息が上がると、部屋の酸素が減ったのかと気になる。運動中の酸素消費量、体重当たりの値、体力検査の最大値は何を表すのか。スクワットや自転車の比較試験を手がかりに、室内の酸素濃度との違い、研究の数字を自宅の運動に当てはめる前の確認点を読む。
スクワットを終え、動画の休憩表示に合わせて窓を見る。息が上がったのは、部屋の酸素を使いすぎたからだろうか。画面のタイマーは次へ進むが、頭には空気の残量計が浮かぶ。
答えの芯は、体の酸素消費量と部屋の酸素濃度を同じ数字として扱わないことだ。スクワットの比較試験で報告された毎分の酸素消費量は、運動中の体についての測定値である。これをそのまま室内空気の濃度や、窓を閉めてよい時間に置き換えることはできない。[16]
既存記事「【連載】スタジオの環境を読む 第1回|空気——換気とCO2、運動施設で実際に測られた値」には施設の空気環境の論点を譲る。ここでは、自宅でHIITを考える人が目にする「酸素を消費する」という言葉を、体の測定から読み直す。運動施設を使った研究でも、酸素の数字が表すのは体力検査の成績である場合がある。[3][17]

体が使う量と、部屋にある割合は違う
まず単位を見る。若い男性を対象としたスクワットの比較では、酸素消費量がL/minとmL/kg/minの両方で報告されている。前者は毎分の量、後者はその量を体重当たりで表した値である。同じ運動を別の物差しで記述しており、室内空気に酸素が占める割合を表す単位ではない。男性の測定値を18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、対象の違いを検討する必要がある。[16]
この違いは、数字の後ろを読むと見えてくる。「毎分」と付く値を見ているのか、「体重当たり、毎分」と付く値を見ているのか。それとも部屋の空気の割合を知りたいのか。酸素という名詞が共通でも、問いは別々である。研究の値を自宅に持ち込むなら、先に何を測った数字なのかを決める必要がある。[16]
部屋の容積と体の消費量を並べる発想自体は、何を比べたいかを整理するきっかけになる。ただし、室内の濃度を考えるには、部屋という空間と、そこへ出入りする空気を含めて考える必要がある。体を測った値だけで「この部屋なら問題ない」と答えるのは、測定対象を途中で取り替えることになる。スクワット試験の値は、そのような安全判定の数字として扱わない。[16]
たとえば、研究にある毎分の消費量を見て、自分の運動のきつさを振り返ることと、部屋に何分いられるかを計算することは違う作業だ。前者でも運動条件の照合が必要であり、後者では室内環境そのものの確認が必要になる。数字を使う前に、体についての質問と、住まいについての質問を別の文にしておくと、答えの飛躍を防ぎやすい。[16]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
同じスクワットでも消費量は条件で変わる
酸素消費量の具体例として、男性8人が異なる条件のスクワットを行った比較試験がある。参加者の平均年齢は22.75歳であり、実施順は無作為に決められた。重りを扱う装置でのスクワットと、振動台の上でのスクワットを比べた試験である。18〜39歳の女性が自宅で行うHIITへの適用は、この男性の条件比較とは分けて考える。[16]
重りを扱う条件では、1回持ち上げられる最大重量の70%の負荷が使われた。一方、振動台では外からの重りを付けず、振動のある条件で実施した。どちらもスクワットと呼べるが、負荷のかけ方が違う。種目名だけをそろえて「同じ運動」と判断すると、この違いを落としてしまう。[16]
報告された酸素消費量は、重りを扱う条件が1.33±0.29 L/min、振動台の条件が0.95±0.21 L/minだった。体重当たりの値でも前者が17.91±2.70 mL/kg/min、後者が12.86±2.43 mL/kg/minと高かった。心拍数も重りを扱う条件で有意に高かった。[16]
ここで受け取れるのは、この参加者と実施条件では酸素消費量に差があったという結果である。「スクワットは毎分この量の酸素を使う」と、条件を外した代表値にするのは早い。動画の中で重りを持っていない自分に、装置を使った負荷のある運動の値をそのまま貼ることもできない。[16]
また、この比較では重りの有無と振動という条件が異なる。差を振動の働きだけで説明する読み方も避けたい。実験全体の条件の組み合わせが違うからである。自宅で種目を選ぶときには、運動名の横に、重り、動き方、休憩の取り方を添えて記録するほうが、研究との距離を見失いにくい。[16]
同じ名称の動きを集めた動画でも、研究とは負荷が異なることがある。研究の数字は、名前に付いてくる料金札のように、どの実施にも共通する値ではない。酸素消費量を検索したら、結果の大きさを見る前に、誰が何をした測定なのかまで読む。このひと手間が、部屋の酸素を使い切るという想像への飛躍も止めてくれる。[16]
体力検査の最大値を、日々の消費量にしない
もう一つ紛らわしいのが、最大酸素摂取量や最高酸素摂取量という言葉である。運動負荷をかける検査で、酸素を取り込んで使う能力を評価する指標として用いられる。運動中のある場面の消費量と、体力検査で得た最大付近の値は、測る目的から区別する必要がある。[3][17]
2型糖尿病のある583人を後ろ向きに分析した研究では、施設での監督付き運動と自宅での運動を組み合わせたプログラムの前後を調べている。期間は6か月で、最高酸素摂取量は19.1±0.2から21.9±0.3 mL/kg/minへ有意に増加した。ここでの増加は、有酸素能力の変化として報告されたものだ。2型糖尿病患者の結果を、健康な18〜39歳の女性へ直接当てはめることはできない。[17]
この値を見て「運動を続けた人ほど、普段から部屋の酸素をたくさん使う」と読み替えることはできない。検査での到達値が変わったことと、家で動画を見ながら動く時間全体の消費量は、別に確かめる対象である。研究が追っているのは、プログラムに参加した人の体力の変化である。[17]
また、この研究は、参加者を無作為に運動群と非運動群へ分けた比較ではなく、プログラム参加者のデータを振り返った分析である。歩いた距離などと体力の変化との関係も検討しているが、室内で行ったことだけを改善の原因として取り出す設計ではない。自宅か施設かという場所の選択と、体力検査の結果を短絡させないようにしたい。[17]
自分の記録でも、「今日どれほど動いたか」と「続けてどのように体力が変わったか」は分けられる。前者には種目や休憩、後者には同じ条件で比べる検査が関わる。体力が上がったという記事の見出しを、今日の部屋の空気の説明として使わない。検査の数字には、検査としての役割がある。[16][17]
研究の期間も、数値の意味の一部である。スクワットの条件比較は実施時の運動反応を比べるものであり、施設と自宅を組み合わせた研究は、一定期間の前後で体力を比べるものである。いま動いているときの測定と、運動生活を続けた後の測定を並べても、測定している時間の幅が異なる。[16][17]
たとえば夜に動画を止めて検索したとき、「酸素摂取量が増えた」という文だけを拾うと、今日の運動中に増えたのか、継続後の検査で増えたのかが分からなくなる。参加者の説明に加え、いつ測ったかを読むと、室内の空気への疑問に関係する話かどうかも整理できる。数値には、単位だけでなく測った時点も付いている。[16][17]
体重当たりの表示についても、体格が違う人の値を比べるための表し方と、部屋全体の空気を考えるための量を混ぜないようにしたい。スクワット試験では同じ条件の結果が異なる単位で並んでいる。どちらかが正しく他方が間違いなのではなく、同じ測定をどう表現するかが違うのである。見た目の数字の大きさだけで、消費が多い少ないと決めない。[16]
読者が賃貸で行うHIITは、研究で行われた装置を使うスクワットと名前の一部が重なることはあっても、実施内容の照合が必要になる。試験の説明を自分の運動と照合し、重なる条件と違う条件を見てから結果を読む。数字を引用する際に条件も一緒に残す姿勢は、運動の比較にも空気への疑問の整理にも役立つ。[16]
数字で読む酸素消費量の物差し
8人:スクワットの条件比較に参加した男性の人数であり、自宅HIIT全般の平均ではない。[16]
1.33±0.29 L/min:負荷をかけた装置でのスクワット条件における酸素消費量。[16]
0.95±0.21 L/min:同じ試験の振動台条件における酸素消費量。負荷条件も異なる。[16]
583人:施設と自宅の運動を組み合わせたプログラムを後ろ向きに分析した人数。[17]
2.96 mL/kg/min:補助人工心臓を使う患者の小規模試験での、最高酸素摂取量の改善の群間差。95%信頼区間は−1.04〜6.97で、有意差はなかった。[3]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







