寝る前のチーズと納豆を、歯への影響だけで同じ食品と考えてよいのか。チーズを食べた後の歯垢と唾液の酸性度を測った研究から、糖の表示だけでは決まらない理由を読む。短時間の変化と虫歯の予防、食品単独と食べ合わせを分け、納豆にも同じ結果を当てはめられるかを考える。
帰宅して冷蔵庫を開ける。チーズにするか、納豆にするか。寝る前だから歯への影響も気になるが、どちらも発酵食品なのだから似たものだろう、と考えたくなる。発酵食品という共通点だけで、歯への影響まで同じと考えてよいのだろうか。
答えの芯は、チーズには食後の歯垢の酸性化が小さかった試験があるものの、その結果だけで納豆も同じとは判断できない、ということだ。加工チーズを調べた試験では酸性化が起こりにくい結果だったが、これは試験に使った食品と条件についての結果である。[1]
また、チーズを食べればその後の歯の手入れが不要になる、という読み方もしない。食後の短い時間に測った酸性度と、長く生活する中で虫歯ができるかどうかは、異なる問いだからだ。[1][4][5] 既存記事「寝る前のチョコは口どけで消えたと思ってよい?糖が残る時間と唾液の働きを読む」には口どけと残留の話を譲り、ここではチーズと納豆を同列に扱えるかを考える。
既存記事「間食のレーズンは歯に残りやすい?運動前の補食と歯垢の酸性化を分けて読む」は付着感と補食を扱っており、ここでは発酵食品同士の比較と測定場所の違いに焦点を置く。

糖の表示と歯垢の酸性化は、別の情報である
歯垢は歯の表面に付着するもの、唾液は口の中の液体である。研究で使われる酸性度の指標がpHで、数値が低い方向への変化を、ここでは酸性化と呼ぶ。食品を比べる試験には、歯垢のpHを測るものと、唾液のpHを測るものがある。似た名前の数値でも、採った場所が異なる点を押さえたい。[4][5]
糖が何グラム入っているかを確かめることと、食べた後に歯垢のpHがどう動くかを確かめることは同じ作業ではない。前者は食品の組成、後者は口の中で観察された反応だ。チーズ、牛乳、ヨーグルトを比較した試験では、同じ乳製品という括りの中でも歯垢のpHの経過が異なった。[5] 表示の数字を読んだ時点で、口の中の答えまで出たことにはならない。
その違いは、甘くないと感じる間食でも見える。ボランティアを対象とした試験では、ポテトチップスなどのでんぷん質の間食を食べた後の歯垢pHと、口の中に残る炭水化物が調べられた。唾液分泌が少ない条件では、通常の条件よりpHの低下が大きく、低い状態が長引いた。[2] 味の甘さだけを頼りに食品を振り分けると、この条件差を見落とす。
このでんぷん質の間食の試験に参加したのは10人だった。通常の唾液分泌と少ない分泌の条件で、ポテトチップス、砂糖を含まないチーズ風味のスナック、甘味をつけたクラッカーを比較している。[2] チーズ風味のスナックは、加工チーズそのものの試験とは別の食品だ。名前にチーズとあっても、両者の結果を取り違えないようにする。[1][2]
観察時間を分けると、さらに違いが見える。最初の30分では、比較用の5%砂糖液でpH低下が最も強く、5%でんぷん液では最も弱かった。ところが続く30分では、間食の食品群のpHが砂糖液の場合と同じ水準まで下がるか、それを超えて下がった。[2] 食べた直後の順位だけでは、その後の経過を代表できない。
また、間食の食品間で唾液中の炭水化物濃度には違いがなかった一方、唾液分泌が少ない条件では、どの間食でも口の中に残る時間が延びた。[2] 同じ食品についても、分泌の条件を変えて評価する意味がここにある。食品側の糖の数字だけでは見えない要素を、口の中の測定が補っている。
この試験をそのまま睡眠中の実験と呼ぶことはできない。対象は分泌条件を変えたボランティアで、測定したのは間食後の反応だ。[2] 寝る前という場面で参考にするなら、少ない分泌で反応が変わった事実と、眠っている間のチーズや納豆を直接比較した話とは分けておく。
だからといって、食品表示は役に立たないという意味ではない。表示で読める項目と、口の中で測る項目を分ければよい。チーズと納豆を選ぶときも、糖の量を比べた後に「では、この食品で歯垢を測った研究はどうだったか」と問いを置く。発酵という共通点は、その問いに代わって答えてはくれない。
夜の台所では「甘いか、甘くないか」で決めたほうが早い。しかし研究を日常に持ち込むなら、早い分類ほど一度立ち止まって扱いたい。チーズが示した反応を確認し、その先にある納豆の評価を保留する。それは食品の好き嫌いとは別の判断である。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
加工チーズで確かめられたのは、試した製品の反応だ
加工チーズの研究では、配合の異なる4種類について、各10gを用いて歯垢pHを調べた。いずれも研究で用いた臨界的なpHを下回る低下は起こさず、そのうち2種類ではpHが少し上がった。砂糖と唾液を使った対照とは、すべてのチーズで有意に異なる反応だった。[1] 同じ加工チーズでも、配合を分けて確かめた点に意味がある。
この研究はpHだけを見たものでもない。口の中に置いた牛のエナメル質を用い、脱灰、つまり歯の硬い部分からミネラルが失われる変化も評価している。微小な硬さの変化について、どのチーズも唾液の対照と統計的に有意な違いを示さなかった。[1] 酸性度と硬さという異なる見方を組み合わせた研究である。
ここで「有意差がなかった」を、エナメル質が強くなったと読み替えない。対照と比べてはっきりした差を検出しなかった、という結果だ。pHが大きく下がらなかったことと合わせると、試したチーズでは酸性化や脱灰を起こしにくい方向の結果だったと読めるが、積極的な治療効果の証明とは分けて扱う。[1]
また、10gは研究で使った量である。[1] 夜食として毎回その量を食べるべきだという推奨量ではない。測定条件を伝える数字を、暮らしの処方箋へ変えるところに飛躍がある。食品の試験を読むときは「どれだけ使ったか」と「どれだけ勧められるか」を別々の欄に置くと混乱しにくい。
試験で使われた配合と、冷蔵庫にある製品の配合は区別したい。チーズという名前だけで、甘いものを合わせた一皿全体の結果まで代表させることもできない。研究の強みは、条件を絞って比べたところにある。その絞り込みを外したまま、結果だけを持ち帰らないようにしたい。
唾液の回復と、歯垢の変化を混ぜない
虫歯のない大学生60人を対象とした比較試験では、10%の砂糖による酸性化の後、パニールまたはチーズの10gの角切りを食べてもらった。パニールはこの試験でチーズと比較された乳製品である。唾液pHは食品を食べた後の5分から回復方向へ動き、両群とも30分で元の値に戻った。[4] 虫歯のない大学生での結果であり、18〜39歳の女性全体にも同じ回復経過が当てはまるかは、別に確かめる必要がある。
この結果で大切なのは、食べた後に唾液で起きた変化を追った点だ。チーズを食べる前から後までの経過を測っているので、食品のpHを測った数字とも異なる。チーズそのものの味や酸味を知ることと、食後の唾液の動きを知ることは、やはり別の情報になる。[4]
同じ試験では、唾液中のカルシウム濃度も調べている。パニール群のほうで高い濃度が観察されたが、唾液pHが元へ戻る経過は両群で共通していた。[4] ある測定項目の差が示すのは、その項目についての違いだ。食品の優劣を単独の順位にするのが難しい理由だ。
一方、12〜15歳を対象にした無作為割り付けの乳製品比較では、歯垢pHが測られた。チーズ、牛乳、ヨーグルト、対照を比較すると、30分後の歯垢pHはチーズ群で牛乳群とヨーグルト群より高かった。[5] 大学生の唾液の試験と方向が重なる部分はあるが、対象の年齢も、測定した場所も同じではない。
この歯垢の試験では、参加者は測定前に48時間歯磨きを控えるよう求められ、食品を噛む、または口の中で動かす時間も3分に設定された。[5] これは変化を比較するための実験条件だ。自宅で再現する手順ではない。夜の間食を判断する際に、研究参加者の準備まで真似する必要はない。18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは、この子どもの試験だけでは判断できない。
「口の中のpHが上がった」という短い紹介だけでは、こうした違いが抜け落ちる。大学生か子どもか、唾液か歯垢か、砂糖の後か食品単独か。結果のそばに条件を残して読むと、納豆を食べた夜にも同じことが起きるはずだ、という早合点を防ぎやすい。
数字で読むチーズと口の中の試験
4種類:加工チーズの配合を分け、酸性化とエナメル質への影響を調べた試験の食品数である。[1]
10g:加工チーズの歯垢pH試験と、大学生の唾液pH比較で使われた食品の量である。[1][4]
60人:砂糖による酸性化後に、パニールとチーズを比べた虫歯のない大学生の人数である。[4]
30分:大学生の比較で、両群の唾液pHが元の値に戻った時点を指す。[4]
17人:甘い液体の鎮痛薬の後に、食品による歯垢pHの回復を比較した子どもの人数だ。[7]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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