股関節モーメントは筋力そのもの?スクワットで読む外力と筋肉の分担の違い

スクワットの股関節モーメントが大きいと、お尻の筋力も強いのだろうか。外から加わる力と体内で対抗する正味の働き、筋力測定の違いを整理する。膝の前方移動、足先と膝の向き、頭上の重りを比べた研究から、グラフの数字を読む条件と、自分の動作を記録するときの着眼点を考える。

スクワットの動画に「股関節モーメントが大きい」と出てくる。お尻を強く使っているという意味なのか、それとも股関節への負担が大きいという注意なのか。しゃがんだ姿勢で動画を止めても、グラフの縦軸だけでは答えが決まらない。

答えの芯は、その動作中に必要だった関節の働きと、その人が発揮できる筋力を分けることにある。動作と床からの力を使って求める関節モーメントの研究と、専用の測定器で股関節の筋力を測る研究では、測っている場面が違う。男性を対象にした小規模な比較では、膝の位置を変えるとスクワット中の股関節と膝のトルクの分担が変わった。[3][17][18]

既存記事「スクワットの重りは片側に持ってもよい?左右の力と筋肉の分担を研究で読む」には左右非対称の持ち方という問いを譲る。ここでは、同じスクワットを説明する「外力」「正味の関節モーメント」「筋力」という言葉を読み分けたい。

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股関節を回す作用と、筋力の持ち点を分ける

モーメント、またはトルクは、関節のまわりで回転を起こす力の作用を表す言葉である。スクワットの研究では、床から受ける力と股関節との位置関係が、股関節まわりのモーメントを説明する要素になる。足先や膝の向きが変わると、床反力のモーメントアーム、つまり回転への効き方に関わる距離も変わりうる。[6]

重りの重さだけを見て「股関節への要求も同じ」と考えると、ここを飛ばしてしまう。同じ重さであっても、体の配置が違えば、関節のまわりで力がどう作用するかは違う。膝の前方移動を制限した比較試験では、膝と股関節のトルクが同じ方向には変化しなかった。荷物のラベルには重さが書いてあるが、関節ごとの分担までは印刷されていない。[17]

外力という場合は、床から体が受ける力など、体の外側から作用する力を考える。一方、内側の働きを表す正味の関節モーメントは、動作を成立させるために関節まわりで必要となる合成された作用として読む。足先にバンドをかけて横歩きする研究では、想定されていた外からの回旋方向を検証し、それに対応して必要な正味の筋トルクを計算している。外からどちらへ回されるかと、内側でどちらへ対抗するかを混ぜないことが出発点である。[2]

「正味」という言葉も省けない。これは、お尻の特定の筋肉だけに貼れる数値ではない。箱を持ち上げる研究では、動作解析と床反力、筋電図を組み合わせ、関節のモーメントに加えて拮抗する筋肉の同時活動も調べていた。関節として現れる働きと、筋肉どうしがどう活動を分担したかは、別の観点から確認されている。[3]

筋力の測定には、また違う問いがある。男女の片脚スクワットを比べた研究では、股関節の外転と外旋の遠心性トルクを等速性筋力測定器で測っている。外転は脚を外へ開く方向、外旋は太ももを外へ回す方向、遠心性は筋肉が伸ばされながら力を出す働きである。そこで測った筋力と、片脚スクワット中の体の動きとの関連を検討しているのであり、動作中の関節モーメントをそのまま筋力検査の点数にしてはいない。[18]

そのため「モーメントが大きかった」から直ちに「その人の筋力が強い」とは読めない。姿勢変更で必要なトルクが増えた場合と、測定器で発揮できるトルクが大きかった場合では、比較の意味が変わる。自分の動作を調べるときも、まず知りたいのが動作中の要求なのか、発揮能力なのかを決めると、図の見方が整理される。[17][18]

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膝を前に出さないと、股関節側の数値が増えた

膝がつま先を越えるかどうかは、スクワットの説明でよく見かける線引きである。だが、その線を守れば全身の要求が一緒に減るわけではない。筋力トレーニング経験のある男性を対象に、膝を前へ出せる条件と、木の障壁で前方移動を制限する条件を比べた研究は、その違いを数値で示している。[17]

対象は男性7人、年齢は平均27.9歳、標準偏差5.2歳で、バーベルの重さは各自の体重相当だった。膝を制限しない条件で、膝トルクは150.1±50.8 N·m、股関節トルクは28.2±65.0 N·mだった。制限した条件では、膝は117.3±34.2 N·m、股関節は302.7±71.2 N·mとなった。ここで示されたのは静的なトルクの比較である。男性7人という極めて小さい標本であり、18〜39歳の女性に同じ変化量をそのまま当てはめることはできない。[17]

この数値は「膝を守ると必ず股関節が悪くなる」という診断ではない。研究で直接確認されたのは、特定の条件で膝のトルクが小さくなり、股関節のトルクが大きくなったことだ。制限したスクワットでは体幹などの前傾にも違いがあった。膝の前方移動だけを消して、残りの姿勢をまったく同じに保てた比較として読むべきではない。[17]

また、平均値の横の「±」は、全員が同じ値だったという意味ではない。この研究では標準偏差であり、参加者間のばらつきを伴う。特に、制限しない条件の股関節トルクを自分の基準値として採用するのは早い。トレーニング経験のある少人数の男性が、体重相当の負荷で行った条件と、自宅で重りなしにしゃがむ場面は区別する。体型や骨盤形態の違いがトルク分担にどう関わるかも、この比較だけでは判断できない。体型の異なる一般成人に、全員共通の膝位置や股関節トルクの目標値を指定する根拠には使わない。[17]

実生活で役立つのは、膝の写真だけで採点を終えない視点だ。動画を見るなら、膝がどこまで進んだかに加えて、上体の傾きも一緒に残す。これは理想の角度を決める作業ではなく、何を変えたときにどの部位の要求が変わったのかを追えるようにする工夫である。研究結果も、技術の違いで膝と股関節への力の分布が変わるという読み方につながる。[17]

同じ「膝を前に出さない」という言葉でも、壁に向かってしゃがむのか、物理的な障壁で止めるのか、重りを背負うのかで条件はそろわない。研究の数値をフォームの罰則表にせず、どの条件の結果かという見出しと一緒に覚えておきたい。この比較では、膝を止めた条件で股関節側の要求が増えていた。[17]

足先の向きは、回旋方向の分担も変える

股関節モーメントには、曲げ伸ばし以外の方向もある。バーベルスクワットで足先の開きと膝の向きを変えた研究は、水平面、つまり体を上から見たような面での回旋を調べている。前から見た膝の位置だけでも、横から見た上体の傾きだけでも、この方向の説明は完結しない。[6]

実験では男性12人と女性12人が、足先を外へ向ける程度を小さくした条件と大きくした条件でスクワットを行った。さらに、膝の位置を中立にした場合と内側にした場合を組み合わせた。中立の膝では、足先の開きが小さいほうが、股関節の外旋方向の正味関節モーメントは大きかった。一方、膝を内側にした条件では外旋方向のモーメントが増え、足先の開きが大きく膝が内側の組み合わせで最大だった。[6]

つまり「つま先をもっと外へ向ければ、外旋方向の要求はいつでも小さくなる」という単純な関係ではない。足と太ももの相対的な向きが重要であり、研究では床反力のモーメントアームの違いが、関節モーメントの違いと並行していた。力の大きさだけでなく、その力が股関節に対してどう通るかを見る必要がある。[6]

ただし、この実験でモーメントが大きかった組み合わせを、そのまま練習で目指す理由にはできない。運動中の力学的な要求を比較することと、その方法を続けた後に筋力がどれだけ変わるかを調べることは異なる。この研究が扱うのは、足先と膝の配置を変えたときの関節モーメントである。[6]

別の運動にも、見た目から方向を決めつけない教訓がある。成人36人のバンドを使う横歩きでは、股関節に必要だった正味の筋トルクは伸展、外転、内旋方向だった。研究は、足先のバンドが股関節を内旋させる外力を生み、それに外旋筋で対抗するという想定を否定した。スクワットの結果を横歩きへ移すのでも、横歩きの結果をスクワットへ移すのでもなく、運動ごとに方向を確かめるべきである。[2]

数字で読む股関節モーメント

7人:膝の前方移動を制限したバーベルスクワット比較の対象で、全員トレーニング経験のある男性だった。[17]

302.7±71.2 N·m:膝を制限した条件の股関節トルク。制限しない条件では28.2±65.0 N·mだった。[17]

24人:足先の開きと膝の向きを組み合わせ、水平面の股関節モーメントを調べた男女の人数である。[6]

14人:頭上に重りを保持するスクワットで、負荷と関節トルクの関係を調べた男子大学生の人数だった。[8]

18〜32%:膝蓋大腿痛のある女性への介入で、殿筋の遠心性筋力の変化が動きの変化を媒介した割合である。[4]

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宮川涼 Founder

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