心肺機能の練習は同じコースを逆回りにする?坂の順序と疲れの記録を読み解く

上りでは運動中の心拍やきつさが高く、下りでは後の痛みや筋力低下が大きかった歩行実験を手がかりに、坂道の疲れを読む。逆回りの優位性を示す結果とは区別し、マラソンや長距離走に向けて、道順・区間の速さ・息・翌日の脚を分けて残す方法と、研究対象の違いから生じる限界を整理する。

いつもの坂のある周回路を、今日は反対に走る。距離は変わらないのに、最後の上りで急に息が重くなる。昨日より体力が落ちたのか、それとも走る向きのせいなのか。コース図を裏返すだけでは、その問いには答えられない。

心肺機能の練習で逆回りを試すなら、上り下りの順序だけでなく、区間ごとの速さと、息・脚それぞれの反応を残すのが出発点である。上りは運動中の心拍やきつさが高く、下りはその後の痛みや筋力低下が大きい、という違いが健康な人の歩行実験で示されている。ただし、この結果を「下りを先にすれば上りの効果が増す」という順序の法則にはできない。[8]

既存記事「心肺機能の登山練習は下りも必要?登頂後に残る脚の課題と備えを読む」には登山の下りへの備えを譲る。ここでは、マラソンや長距離走に向けて同じ周回路を使うとき、向きを変えた日の疲れをどう比較するかに絞る。逆回りの優劣を急いでつけず、違いを生んだ条件を見つけるための記事である。

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同じ距離でも、同じ負担を通ったとは限らない

地図で同じ輪をなぞっても、体の側では坂の条件が変わる。同じ区間を反対に進めば、上りだった斜面は下りになる。もとの上りと下りで長さや傾きが違うコースなら、逆回りは順番の入れ替えだけではない。どの傾きを上るかまで変わる。まず確かめたいのは「逆回りした」という名前より、何を上り、何を下ったのかである。

坂の負担を考える参考になるのが、男性のロードランナーとトレイルランナーをそれぞれ10人調べた比較研究である。18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、性別と走経験の違いを考える必要がある。傾斜1%のトレッドミル試験と、傾斜16%の屋外の坂を走る試験を比べた。運動時に取り込める酸素量の最高値は試験間で同程度だった一方、乳酸濃度や走行のエネルギー負担、心拍などには有意な違いがあった。[7]

ここでいう走行のエネルギー負担とは、走るためにどれほどのエネルギーを要するかという見方である。研究では屋外の上りで乳酸濃度と走行負担が高く、平地のロード走より大きなエネルギー需要を示した。酸素摂取量の最高値が似ていても、走っている最中の反応まで同じにはならなかったのである。[7]

ただし、この比較には傾斜だけでなく、屋内の機械と屋外の坂という違いも含まれる。同じ周回路の順回りと逆回りを比べた研究として読むことはできない。日常の記録に移すなら、「同じ距離なのだから同じ負担のはず」という前提を外す手がかりになる。上りで遅くなった区間を、平地で速く走った区間と平均速度だけで並べない、という使い方である。[7]

たとえば立川駅から帰る途中に、走る予定の道を確認する場面を考える。先に長い緩斜面が来るのか、終わり際に短い急斜面が来るのかを書き分ける。帰宅後の記録が「今日は遅かった」だけでは、何と比べた遅さなのかが消えてしまう。道順を言葉にして残すことは、心肺機能の数値を推測する前の整理である。

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上りの息と下りの脚は別のものさしで見る

健康な9人が、別々の日に上りと下りの歩行を各30分行った実験がある。18〜39歳の女性のランニングに当てはめる際は、歩行と走行の違いを考慮したい。実施する順番は無作為に決められた。上りの最中は、自分で感じるきつさと心拍が高かった。対して下りの後は、最初の48時間における主観的な痛みと、足首で地面を押す方向の筋力低下が大きかった。[8]

この結果の面白さは、運動中に楽に感じる側と、その後の脚の反応が大きい側が一致しない点である。上りでは筋肉が縮みながら力を出す成分が大きく、下りでは筋肉が引き伸ばされながら力を出す成分が大きい運動として比較されている。下りを単に「息を休ませる区間」と呼ぶと、後者の仕事が見えにくくなる。[8]

一方で、血液で測った筋肉の負担に関わる指標であるクレアチンキナーゼとミオグロビンは、どちらの運動でも増え、条件間の有意差はなかった。同じ研究の中でも、痛み、筋力、血液指標がすべて同じ方向に差を示すわけではない。「下りのほうが何もかも悪い」という読み方も外れる。[8]

逆回りの日の記録なら、息のきつさと脚の重さを別の欄にする案が考えられる。上りの頂点で息がきつかったのか、下り終わりに脚が扱いにくかったのかでは、振り返る対象が違う。この書き分けは研究の測定項目の違いを日常に置き換えた提案であり、日記だけで筋力低下を測れるという意味ではない。[8]

また、この実験は歩行である。長距離を走る人や、坂に慣れていない女性がまったく同じ反応を示すと決めることはできない。役立つのは、結果の大きさをそのまま借りることより、時間軸を分ける発想だ。走り終えた瞬間の感想と、次の日の脚の感想を同じ一言の「疲れ」に押し込めない。[8]

順序を変えたつもりでも、速さが変わっている

上りを終盤に残すと、そこで頑張ったことが印象に残りやすい。逆に下りで終える日は、ゴール時の息の軽さで全体を評価したくなる。そこで記録の問いを「どちらがきつかったか」から、「どの場所で、どの反応を見たか」へ変える。これは逆回りの効果を判定する前に、比較の単位をそろえる作業である。

屋外の坂を用いたランナーの研究では、傾斜16%の坂を、速さを段階的に上げて走る試験が行われた。心拍や走行負担などが平地に近い機械上の試験と異なったという結果は、傾斜のある走りを平地のペース表だけで扱いにくいことを示している。ただし、坂を後半に置いたことの影響を切り出した結果ではない。[7]

周回の総時間が似ていても、上りで速め、下りを抑えた日と、その逆の日は別の配分である。「同じ時間で回れた」と「同じ区間を同じ条件で走った」は区別したい。とくに逆回りで新しく上りになる区間では、以前の下りの速度を目標として持ち込むと、比較する内容そのものが変わってしまう。

日常で実施するなら、向きを替える日に速度の目標まで引き上げず、まず道順と区間の記録を作る方法がある。変えたものを明確にするための提案であり、同じ速度を無理に守る指示ではない。坂でのエネルギー需要が平地と異なった研究を踏まえれば、速さを抑えた区間を直ちに失敗と呼ぶ必要はない。[7]

順序だけの影響を知りたいなら、最終的には同じ上りと下りを、順番を替え、ほかの条件をそろえて比較する必要がある。しかし普段の周回路は、進む向きによって斜面の役割まで反転する。その記録から言えるのは、まず「この向きのこの配分で、こう感じた」という範囲である。心肺機能が向上したという評価は、次の段階に置く。

上りの区間で感じたきつさを比べる場合も、コース全体の終わりに書いた感想と混ぜない。上りの直後の印象なのか、下りまで終えてからの印象なのかを添える。健康な人の歩行実験では、運動中の心拍ときつさを、運動後の痛みや筋力と分けて調べていた。同じ「疲れた」という日本語であっても、測る場面によって含まれる内容は変わる。[8]

さらに、実験で実施順を無作為にしたことと、順序の効果を調べたことは違う。歩行実験は、上りと下りを別々の日に行って比べている。下りを済ませた直後に上りへ移る場合の反応を、そのまま示すものではない。前の坂の疲れが次の坂へどう持ち越されるかという問いは、この比較とは分けて考える必要がある。[8]

たとえば日記には、出発直後の区間なのか、帰路の区間なのかも残せる。ただし「後半だから疲れた」という説明を先に確定させず、見たことと考えたことを書き分ける。「上りで速度が落ちた」は観察であり、「先の下りで脚が疲れたからだ」は理由の推測である。こうして分けておけば、別の日に同じ道を走った際にも、推測を事実として積み重ねずに済む。

数字で読む坂道の比較

17人のよく鍛えられたスポーツ学生を、平地と上りの高強度練習へ無作為に分けた試験がある。[1]

4週間に14回の練習を行い、全体として最大酸素摂取量は5.2%改善したが、群間の有意な効果差はなかった。[1]

健康な9人の歩行比較では、上りと下りを別日に各30分実施した。[8]

下り後の痛みと足首の筋力低下は、最初の48時間に上り後より大きかった。[8]

健康な成人男性30人を調べた測定研究では、傾斜0%、3%、6%で加速度計のエネルギー消費推定の一致度が低くなった。[16]

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宮川涼 Founder

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