ヨガとマットピラティスで似た姿勢を取るとき、息こらえの負担まで同じなのだろうか。高血圧女性のピラティス試験、ゆっくりした呼吸の比較試験、ヨガ実践者の調査から、継続後の血圧と動作中の反応を分けて読む。呼吸の検査や息を止められる秒数を、レッスンの優劣に置き換えない選び方を考える。
マットの上で脚を持ち上げ、先生の動きを追っているうちに、呼吸の合図だけを聞き逃す。ヨガとマットピラティスの動画を見比べても、画面には姿勢の形がよく映る。息が止まったのは、脚を上げる途中か、それとも姿勢を保って待つ間か。形をまねるだけでは、この違いが残る。
ヨガとマットピラティスの違いを息こらえから考えるなら、先に分けたいのは「続けた結果」と「いま動いている瞬間」だ。高血圧の女性を対象としたピラティスの無作為化比較試験では、継続後に日常生活中の血圧が低下した。しかし対象のプログラムはマットと器具を組み合わせたものであり、呼吸を止めた姿勢同士の優劣を決める結果ではない。[1]
呼吸法の試験にも、ゆっくりした呼吸と速い呼吸で結果が異なる例がある。「ヨガだから呼吸が同じ」「ピラティスだから負担が一定」と種目名だけで片づけず、どの呼吸を、どの場面で行ったかを見る必要がある。[2][13] ここではその違いを、初回のレッスンを選ぶ目線まで下ろして考える。
既存記事「ヨガとピラティスの違い|そして、どれくらいやれば変わるのか」には種目の比較と継続量の問いを、「ホットピラティスの効果は止める前でも変わる?伸ばした筋肉に残る力を読む」には筋肉に残る力の問いを譲る。本記事は、息こらえの検査結果を動作中の負担と取り違えないための読み分けに絞る。

似た姿勢を比べる前に、呼吸が登場する場面を分ける
呼吸に関する研究には、呼吸そのものを練習するもの、運動を続けた後に呼吸や循環の検査をするもの、ヨガ経験者と未経験者を比べるものがある。同じ「呼吸」という言葉が付いていても、研究の問いは異なる。呼吸練習の比較試験と、ピラティスの継続試験を同じ物差しで並べることはできない。[1][2][8]
たとえば、息をこらえる時間を測る検査では、測定されるのはその検査で息を止めていられた長さである。若い医学生の比較研究は、ヨガ経験のある群でその時間が長かったと報告している。これは、脚を持ち上げたまま長く息を止めるほどよい、という練習の指示とは別の話だ。[8] 測定項目をそのまま目標にすると、検査の数字がレッスンの目的へすり替わってしまう。
また、研究に登場するバルサルバ比は、自律神経の反応を調べる検査の指標として扱われている。自律神経とは、心拍や血圧などの調節に関わる仕組みのことで、ここでは立ち上がりや呼吸に伴う反応から評価される。バルサルバ比と深呼吸の検査は、同じ検査名ではない。[1][2] 名前が難しいからと一括りにすると、変わった項目と変わらなかった項目を見落とす。
隣接する問いである「ヨガは有酸素運動でも前屈で息が浅くなる?胸とお腹の圧迫と運動の負担を読む」は、前屈の形と呼吸を扱う記事に譲る。こちらで確かめたいのは、姿勢の角度よりも、研究中の呼吸が練習なのか、検査なのか、継続の結果なのかという区別である。
立川駅北口で次のレッスンを探すとき、写真が似ていると内容も似ているように見える。そこで「呼吸の練習が中心か」「動きと合わせる場面か」「測定の数字を紹介しているだけか」と説明を読み分けてみる。これは研究から特定のクラスの効果を予測するためではなく、異なる内容を同じものとして比べないための準備だ。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
ピラティスで下がった血圧は、続けた後の生活中の値だ
高血圧の治療薬を使っている女性を対象とした試験では、年齢は39〜59歳、参加者は28人であった。無作為に14人ずつのピラティス群と対照群へ分け、ピラティス群は指導のあるレッスンを週2回、13週間続けた。対象は治療中の39〜59歳女性であり、18〜39歳の女性全体に同じ変化をそのまま当てはめるには、年齢と治療の条件が異なる。対照群は通常のケアを続けている。マット運動だけの試験ではなく、器具を使う運動も組み合わされていた。[1]
この試験が測ったのは、診察室での値だけではない。24時間、昼間、夜間の血圧を追っており、各血圧項目では群と時間の交互作用が認められた。交互作用とは、時間による変わり方が群で異なったということだ。具体例として、ピラティス群の24時間収縮期血圧には10.3mmHgの低下が報告されている。収縮期血圧は、血圧を上下で表すときの上の値に当たる。[1]
ここで数字の所属先を外さないことが大切だ。10.3mmHgは、この対象者たちがこのプログラムを続けた際の変化である。初回に息を吐いた瞬間の変化量でも、マット運動だけの効果でもない。薬を使っていない若い参加者に、そのまま同じ低下を予告することもできない。[1] 研究の数字に、誰のいつの値かという名札を付けて読む。
自律神経の検査も一様には変わっていない。有意な交互作用があったのは深呼吸の検査で、心拍変動の指標は変化しなかった。心拍変動とは心拍の間隔の揺らぎを捉える指標である。また、血管の反応をみる血流依存性血管拡張反応にも、時間や交互作用による効果はなかった。[1] 血圧が下がったという結果から、体のあらゆる調節が改善したという物語までは作れない。
この研究は、治療中の女性が指導を受けながら運動を継続する可能性を考える材料になる。一方、「ヨガよりピラティスのほうが息こらえの負担が小さい」という順位は、この比較からは決まらない。対照群はヨガ群ではなかったからだ。[1] 比較相手を確認するだけで、広告のような二者択一から距離を取れる。
ゆっくりした呼吸と速い呼吸は、同じ結果ではなかった
呼吸そのものを比べた無作為化比較試験には、軽度の本態性高血圧がある20〜60歳の男女60人が参加した。参加者は対照群、ゆっくりした呼吸の群、速い呼吸の群へ均等に分けられ、呼吸練習は3か月間行われた。両方の呼吸群で期間中の血圧は低下したが、全体としてゆっくりした呼吸の影響のほうが強かった。対象は高血圧のある男女であり、18〜39歳の女性全体に同じ結果をそのまま当てはめるには、性別・年齢の幅と健康状態が異なる。[2]
違いが表れたのは血圧だけではない。姿勢の変化に伴う心拍の反応、呼吸に伴う心拍の変化、握り続ける課題や冷刺激に対する血圧反応などでは、ゆっくりした呼吸の群だけに有意な変化があった。著者らは、交感神経と副交感神経の両方の反応性の変化が関わる可能性を示している。[2] 「呼吸法をした」という共通点だけで、結果をひとまとめにしない理由がここにある。
ただし、この結果をレッスン中の呼吸の速さへ直結させるのも早い。試験は高血圧のある人が一定期間呼吸を練習したもので、ヨガとマットピラティスの同じ姿勢を比べたものではない。[2] 動画のテンポだけを見て、こちらは血圧が下がり、こちらは上がると決める用途には向かない。
速い呼吸を扱った別の介入研究では、18〜25歳の健康な男性50人が、ふいごのような呼吸法を12週間練習した。練習前後を比べると、安静時心拍の低下、バルサルバ比や深呼吸に伴う心拍差の増加などが報告されている。[13] 男性だけの介入研究なので、18〜39歳の女性に同じ変化をそのまま当てはめる根拠としては対象が異なる。速い呼吸は何であっても悪い、と単純化するのも研究の読み方としては合わない。
この研究は、単独で行う際の反応に関する背景と、長期に練習した後の結果を区別している。しかも対象は若い健康な男性であり、先の高血圧の男女の比較試験とは条件が違う。[2][13] 呼吸の速さ、組み合わせ、練習期間、参加者。結果が違って見えるときは、どこが共通でどこが異なるかを先に確認したい。
呼吸の研究を読む際は、結果の単位にも目を向けたい。ピラティス試験の血圧はmmHgで表されるが、心拍変動や呼吸に対する検査の結果まで同じ単位で並ぶわけではない。血圧の変化と深呼吸検査の変化を報告しながら、心拍変動は変わらなかったという組み合わせも成立する。[1] 「呼吸に良い」という短い言葉に縮めるほど、別々に測ったものの境目が消えやすい。
また、統計的に有意だったという説明と、変化量の大きさは違う情報だ。呼吸の比較試験では、ゆっくりした呼吸で反応性に広い変化が報告されているが、その結果をピラティス試験の血圧低下量と数値で競わせることはできない。[1][2] 参加者も介入も評価項目もそろっていないからだ。読む側が補うべきなのは勝者の名前ではなく、それぞれの結果に付いている条件である。
数字で読む呼吸と血圧の研究
28人:薬物治療中の高血圧女性を対象とした、ピラティス試験の参加者数である。[1]
13週間:マットと器具を組み合わせ、週2回の指導を受けた。[1]
10.3mmHg低下:ピラティス群で報告された24時間収縮期血圧の変化の例である。[1]
60人:高血圧の比較試験で、ゆっくりした呼吸、速い呼吸、対照の各群に分けられた。[2]
12週間:健康な若い男性が速い呼吸法を練習し、前後の自律神経反応を調べた期間である。[13]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







