大胸筋の筋トレは息を吐く時に押す?呼吸の合図と出せる力を分けて読み解く

大胸筋の筋トレで「押す時に吐く」と言われたら、その合図で動きやすいことと、筋力が増したことを分けて考えたい。ベンチプレスの研究を手がかりに、休憩、動作速度、期待によって変わる成績の読み方を整理する。呼吸法の優劣を決めつけず、次の練習で残したい記録まで考える。

チェストプレスの取っ手を握り、「押す時に吐く」と聞いた途端、腕を動かすより呼吸を合わせる方が難しくなる。取っ手は前へ動かしたいのに、頭の中では「吸う、吐く」が渋滞する。

答えの芯は、呼吸の合図が分かりやすいかという問いと、吐く相で押すと最大の力が増すかという問いを分けることだ。ベンチプレスの成績は、休憩の取り方や動作の進め方でも違う。押せた回数が増えた事実だけでは、呼吸の相が原因だとは決められない。[1][18]

ここでは「吐く方が必ず強い」という順位を付けず、呼吸を合わせた日に感じる変化をどう確かめるかを考える。既存記事「背中の筋トレは引く時に息を吐く?呼吸のタイミングと体幹の支えを分ける」には引く動作と体幹の論点を譲り、こちらは胸を押す練習での成績の読み方に絞る。

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「吐いて押せた」と「吐いたから強くなった」は別の問い

呼吸の相とは、ここでは息を吸う局面と吐く局面の区別を指す。練習中の「押す時に吐く」という言葉を、動作を始める合図として受け取るのか、筋力を高める方法として受け取るのかで、求める確かめ方が違ってくる。前者なら自分が動きを合わせやすかったかを言葉にできる。後者なら、同じ条件で別の呼吸と比べた成績が必要になる。

たとえば、昨日は重りを押し出せず、今日は合図に合わせて押せたとする。本人の体験としては大切な違いだ。しかし、その日に何を比べたのかも残したい。休憩が長かったのか、動作の時間が違ったのか、同じ重さだったのか。ベンチプレスではセットの途中に休みを入れるだけでも反復回数が変わるため、息の合わせ方だけを成績の説明に使うのは早い。[1]

反復回数とは、押して戻す動作を繰り返せた回数のことだ。最大筋力の指標として使う重さと、限界まで続けられる回数は同じ成績ではない。負荷と動作速度の低下を組み合わせて比べた訓練研究でも、最大筋力、筋肉の大きさ、反復成績は分けて評価されている。[2]

練習で質問するなら、合図を聞いた場面と実際の動作を結び付ける。「押し始めには合わせられたが、戻す途中で迷った」なら、次に確認したい位置が伝わる。取っ手を戻したところで説明を聞いたのか、押し続けながら聞いたのかも添えると、動作の流れを指導者と共有しやすい。

論文を読む時も同じ区別が役立つ。何を変え、何を測った研究なのかを先に確かめる。ベンチプレスという種目名が一致していても、休憩を変えた試験の結果を、吐く息の効果に置き換えることはできない。[1] この記事で使うのは休憩、速度、期待を比較した研究であり、呼吸相や胸郭・肩甲帯の安定性を直接比べた試験ではない。胸郭や肩甲帯が安定するから吐く方が強い、という機序まではこれらの結果から導けない。ここを根拠の境界として、以降は実際に測った成績を読む。

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息を整える時間と、セットの休憩時間を混ぜない

娯楽として筋トレを行う男性を対象に、重い負荷で限界までベンチプレスを行った無作為化比較試験がある。参加したのは12人で、負荷は最大挙上重量のおよそ85%だった。最大挙上重量とは、この研究で基準にした、動作を1回行える最大の重さである。男性の筋トレ経験者の結果なので、18〜39歳の女性、とくに初心者へ同じ回数差をそのまま当てはめることはできない。[1]

連続して動作する条件と、3回ずつのまとまりの間に休みを置く条件を比較した。途中に20秒の休憩を入れると、ベンチプレスの反復回数は連続条件の6.8±1.6回から11.4±2.9回へ増えた。一方、10秒の休憩条件では、連続条件に対する有意な増加はなかった。休めばどの条件でも同じように増えた、という結果ではない。[1]

この試験が変えたのは、動作の途中に入れる休憩である。休みの間に息が整ったように感じる人がいても、ここで観察された回数差を「吐く時に押した効果」と呼ぶことはできない。呼吸のタイミングを考えたい日ほど、途中で重りを置いたか、連続して動いたかを区別しておく意味がある。[1]

研究では、20秒休む条件で生じた循環・代謝の負担の増加について、休憩の配置そのものより総仕事量の増加を反映すると説明している。この条件では、動けた量と循環・代謝の負担がともに増えていた。[1] 回数の欄だけを見て「こちらが楽で優秀」と決めない読み方が必要だ。

別の無作為化クロスオーバー試験では、筋トレ経験のある男女22人が、最大挙上重量の75%を使うベンチプレスを行った。予定は8回ずつを4セットで、セット間の休憩を1分と2分にして比較した。クロスオーバーとは、同じ参加者が異なる条件を経験して比べる設計である。平均年齢24.6歳の男女の経験者を調べた結果であり、18〜39歳の女性全体や未経験者に同じ推移が当てはまるかは分けて考える必要がある。[9]

セットが進むと平均パワーは男女とも低下したが、女性は男性よりパワーを維持していた。これは、複数セットを行う場面での急性の成績についての結果だ。[9] 「女性はこの呼吸が合う」という話へ広げず、誰の、どの場面の成績だったかを保ったまま読む。帰宅前の練習で後半ほど押しづらく感じた時にも、まず何セット目だったかを書いておけば、呼吸以外の条件を話し合いやすい。

押す速さが変わると、同じ呼吸でも比較が難しくなる

「ふうっと吐きながら」と考えるうちに、動作全体をゆっくりにする場面を想像してみる。そこで以前より回数が減ったなら、息を吐いたことと、動作の時間を変えたことが同時に起きている。どちらを確かめたいのかを決めるには、重さだけでなく動かし方も記録したい。

健康な男性14人を対象とする無作為化クロスオーバー試験は、ベンチプレスの進め方を比較している。速度を基準にする方法と、テンポを基準にする方法で、最大挙上重量の70%を限界まで挙げた時の仕事量や代謝を調べた。筋肉が負荷を受けている総時間には有意差がなかった一方、速度を基準にした方法では総負荷量が多かった。男性の結果を18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは、この比較だけでは判断できない。[18]

総負荷量は、どれだけの重さをどれだけ動かしたかに関わる指標である。負荷を受けた時間が似ていても、こなせた仕事量には差が出ていた。研究で示された方法間の差は、呼吸の相による差と読み替えず、練習の進め方を比べた結果として受け取る。[18]

同じ研究では、有酸素性のエネルギー供給の割合が、速度を基準にした条件では約41%、テンポを基準にした条件では33%だった。[18] 「有酸素」という言葉から、息の吐き方を思い浮かべるかもしれない。しかし、この数値が表すのは運動中のエネルギー供給の内訳であり、吐く局面でどれだけ強く押せたかという成績ではない。[18]

動作の局面にも注意したい。吸う・吐くという呼吸の局面と、重りを下ろす・押し上げるという運動の局面は、別の分類である。下ろす側の負荷を増やした後の挙上速度を調べる系統的レビューとメタ分析では、8研究、106人が統合された。対象はけがのない筋トレ経験者で、男性90人、女性16人という構成だった。男性に偏った集団の統合値なので、18〜39歳の女性へ同じ大きさの変化をそのまま当てはめるのは難しい。[12]

下ろす時に追加の負荷をかけ、それを外した直後の押し上げでは、平均速度が低下した。統合効果量は−0.25、95%信頼区間は−0.33〜−0.16である。その差は後続の反復で小さくなり、次の反復では効果量0.01、その後は0.08で、いずれも有意ではなかった。証拠の確かさには中程度から非常に低いものまで幅がある。[12]

この結果は、呼吸の正解を決めるためのものではない。押し始めの成績を比べる時、直前にどのように下ろしたかも条件になると理解するための結果だ。[12] 「吐き方を替えたら重かった」という感想を相談するなら、下ろす動作まで変えていなかったかを一緒に振り返る方が、状況を具体的に伝えられる。

さらに、このメタ分析では、直後の速度低下はベンチプレスよりスクワットで大きかった。種目別の効果量は、ベンチプレスが−0.11、スクワットが−0.33だった。[12] 同じ「押し上げる」動作でも、別の種目で得た値を胸の運動にそのまま移さないことが大切だ。呼吸の相談でも、立って行う動作の説明を聞いたのか、ベンチに横になって押す動作の説明を聞いたのか、場面を添えたい。練習中の言葉は短くても、論文の結果を受け取る時には種目の名前を省かない。それだけで、似た言葉を同じ結果として扱う取り違えを減らせる。

数字で読む押す動作の比較条件

12人:セット途中の休憩を比べた、筋トレ経験のある男性の人数。[1]

6.8回と11.4回:連続条件と、途中に20秒休む条件の平均反復回数。[1]

22人:セット間を1分または2分休む試験に参加した男女の人数。[9]

14人:速度基準とテンポ基準のベンチプレスを比べた健康な男性の人数。[18]

−0.25:下ろす時の追加負荷を外した直後に認められた、挙上速度の統合効果量。[12]

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宮川涼 Founder

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