女性の腹筋の鍛え方として、笑うだけでよいのか。笑いヨガとクランチを比べた研究では、お腹の筋肉でも部位によって結果が違った。筋活動と長期的な筋力の変化を分け、呼吸の研究やストレスのメタ分析も手掛かりに、楽しい時間を運動の代わりに数える前の確認点と、日常での取り入れ方を考える。
友人との通話で、お腹を抱えるほど笑った夜。床にマットは敷いていないのに、腹筋運動をしたような気分になる。これを今日のトレーニングに数えてよいのか、と考えたくなる場面だ。
笑うと体幹の筋肉は活動する。笑いヨガとクランチなどを比べた研究でも、その活動は確認された。活動の強さは筋肉ごとに異なる。内腹斜筋では従来の運動より高い活動が見られ、腹直筋では比較した運動のおよそ半分だった。笑いで使うことと、続けて筋力が伸びることは分けて考える必要がある。[1]
既存記事「女性の腹筋は横に曲げても鍛えられる?ひねりと違う横方向の力と負担を読む」には、体を横に曲げる運動の選び方を譲る。ここで確かめるのは、笑った瞬間のお腹の働きを、繰り返す腹筋運動の代わりとしてどこまで評価できるかである。

笑いヨガでは、どのお腹の筋肉が働いたか
体幹の筋活動を直接比べた研究は、笑いヨガ中の平均的な筋活動を、クランチと背中を持ち上げる運動と比較した実験である。クランチは上体を丸める腹筋運動のことだ。研究では、皮膚の表面から筋肉の電気的な活動を記録する表面筋電図を使い、体幹の5つの筋肉を調べた。ここで測ったのは動いている最中の活動である。18〜39歳の女性の筋力向上を判断するには、この筋活動の比較とは別に、継続後の変化を確かめる必要がある。[1]
結果を「笑いは腹筋によい」とひとまとめにすると、大事な違いが消える。内腹斜筋の活動は従来の運動より高く、外腹斜筋の活動は同程度だった。一方、腹直筋と、背中側の多裂筋、脊柱起立筋の活動は、比較した運動に対しておよそ半分だった。前側か背中側かという大きな分け方だけでも説明しきれない結果である。[1]
腹筋という検索語で思い浮かべやすい腹直筋については、「笑いヨガの方が強く活動した」とは読めない。反対に、腹直筋の結果だけを見て「笑ってもお腹は使わない」とするのも誤りだ。同じ実験で内腹斜筋と外腹斜筋は別の結果を示している。比べる対象を筋肉ごとにそろえると、全勝か全敗かという話ではなくなる。[1]
また、ここでの笑いは、研究として実施した笑いヨガの運動である。通勤中に画面を見て少し口元が緩むことと、同じ条件だと決めてはいけない。研究の結果を生活に持ち帰るときは、「笑い」という大きな言葉から、その研究で実際に行った活動へ戻って読むのがよい。笑いヨガと腹筋運動の比較結果として受け止めるのが適切だ。[1]
この違いは、簡単な腹筋の鍛え方を探している人ほど気に留めたい。「使った筋肉がある」という結果は、取り組みの候補を広げる。しかし、狙っている筋肉に対して常に優れた方法だという意味にはならない。腹直筋を意識した運動を探す場面と、お腹の周囲が活動する楽しい活動を探す場面では、同じ研究でも役立つ箇所が違う。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
筋活動の記録は、鍛えた後の成績表ではない
実験で筋肉が活動したことと、練習を続けた後に筋力や動作がどう変わるかは、研究の問いが異なる。笑いヨガの比較実験は体幹筋の活動を示したが、研究者も、背骨の安定に関わる筋肉の動員の仕方を改善する運動になるかは、さらに研究が必要だとしている。その場の反応から、その後の能力まで一足飛びに結ばない読み方が必要である。[1]
例えば「笑った日はお腹に力が入っていた」という記録と、「以前より運動を行いやすくなった」という記録を並べることはできる。しかし前者が後者を生んだとするには、続けた活動とその後の変化を対応させて調べる必要がある。筋電図の比較結果は、笑いにも体幹筋の活動が伴うことを考える材料として使い、長期的な成果の保証として使わない。[1]
平均的な活動を測ったという点にも意味がある。「一瞬だけ強く力が入った気がする」という感想と、活動中の平均値の比較は同じものではない。研究で内腹斜筋の活動が高かったからといって、日常の笑いのすべての瞬間に、従来の運動を上回る活動が起きるという読み方はできない。何を平均した結果なのかを意識すると、派手な見出しに引かれにくくなる。[1]
「腹直筋がおよそ半分」という数字も、腹筋運動の効果が半分、という意味ではない。測定している項目は筋活動であり、筋力の増加率ではない。笑いの時間を倍にすれば同じ成果になる、と計算する使い方も避けたい。時間と結果を換算する前に、そもそも比較した数字が何の数字だったかを確認する必要がある。[1]
笑った後の感覚を否定する必要はない。ただし、感覚の記録には感覚の名前を付ける。「お腹が動いた」「楽しかった」と書いた横に、知らないうちに「筋力が伸びた」と書き足さない。この区別を守れば、笑いを楽しむ価値を残したまま、腹筋の鍛え方について過大な期待を持たずに済む。研究が直接扱った筋活動と、今後確かめたい成果の境目である。[1]
笑いでお腹が動く話には、呼吸も関わる
笑うときのお腹の動きを、上体を丸める運動だけで説明しようとすると窮屈になる。呼吸と筋肉の関係を調べた別の実験は、仰向けの健康な12人を対象に、胸郭の内側にある胸横筋の電気的な活動を記録し、外腹斜筋と腹直筋の記録と比較したものだ。笑いのほか、発話や咳など、さまざまな動作を調べている。健康な人の呼吸動作の結果であり、18〜39歳の女性の腹筋トレーニングの成果へ直接当てはめることはできない。[3]
胸横筋は安静時の呼吸では通常静かだったが、意識的に息を吐く動作や、発話、咳、笑いなどでは活動した。研究者は、この筋肉が能動的に息を吐く働きに関わり、その神経的な活動は腹筋群の活動と大きく結び付いていると考察している。笑うときの体の働きを、呼吸を伴う活動として見る手掛かりになる。[3]
一方、訓練された3人が、腹筋の活動なしに胸横筋を十分使って自発的に息を吐いた条件では、胸郭の容積が減り、腹部の容積が増えた。胸とお腹の動きの組み合わせは、行った呼吸動作によって変わる。この結果からも、見た目でお腹が動いたことを、そのまま腹直筋の強い活動に読み替えるのは慎重でありたい。[3]
この呼吸の実験と、笑いヨガをクランチなどと比較した実験は、つなげて読めるが同じ試験ではない。前者は仰向けでの胸横筋と呼吸動作を調べ、後者は笑いヨガ中の体幹筋の平均活動を比べた。それぞれの問いを保つことで、笑うとお腹が動くという日常の実感にも、複数の働きが関わっていることが見えてくる。[1][3]
腹筋運動の回数を数えるとき、笑った回数も足したくなるかもしれない。しかし、呼吸に伴う活動の記録と、決めた動作の反復の記録は、別々に置く方が読み違えにくい。動画を見た夜は「笑いを楽しんだ」、運動した日は「選んだ動作を行った」。どちらも記録できるが、同じ単位で成果を比較するところまでは、この筋活動の研究から進めない。[1][3]
筋肉ごとの結果を読み比べると、何を「代わり」と呼ぶかも変わる。内腹斜筋の活動を確かめたいなら、笑いヨガに注目する理由がある。腹直筋の活動を比べたいなら、同じ実験の別の結果を見ることになる。背中側の多裂筋や脊柱起立筋についても、笑いヨガは比較した運動のおよそ半分の活動だった。お腹の前だけを見て、体幹全体の運動を置き換えられると判断しないことが肝心だ。[1]
日常での選び方に置き換えるなら、まず自分の問いを短く書く。「体を動かすきっかけが欲しい」のか、「特定の動作を練習したい」のか。前者と後者では、知りたい結果が違うはずだ。笑いヨガの筋活動比較は、どの筋肉がどれほど活動するかを考えるときに使う。ストレスへの期待は、ストレスを調べた研究に照らす。研究の見出しを集めるより、問いと測定項目を対応させる方が、選ぶ理由を説明しやすい。[1][4]
比較の数字は、そのまま運動の順位にはならない。筋活動という評価項目を残したまま読むことが、次の数字を使う前提になる。[1]
数字で読む笑いと体幹の研究
5つの体幹筋:笑いヨガとクランチなどを比べた筋電図実験で調べた筋肉の数である。[1]
およそ半分:笑いヨガ中の腹直筋、多裂筋、脊柱起立筋の活動を、比較した従来の運動に対して表した値である。[1]
12人:仰向けで胸横筋と呼吸動作の関係を調べた実験の健康な対象者数を指す。[3]
15試験・1,344人:成人のストレスを扱った笑い介入のメタ分析が扱った規模を示す。[4]
95.8%:同メタ分析の研究間のばらつきを示す指標で、結果のそろいにくさに注意が必要である。[4]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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