アキレス腱・膝・肩の腱の痛みは「使いすぎ」だけでは説明がつかず、腹部の脂肪との関連も指摘されるが、まだ仮説の段階にある。減量の試験が見当たらない中で、運動療法555本の地図、重りと頻度の110研究、708人の肩の試験から、言えることと言えないことを確かめる。
「使いすぎ」という言葉は、腱の痛みをあまりに手早く片づける。アキレス腱、膝のお皿のあたり、肩。どこが痛んでも「動きすぎたのだろう」で説明が終わり、運動をしていない人はそこで首をかしげる。
腱の障害である腱症は、よく動く人にも、あまり動かない人にも、体を使う仕事の人にも広くみられると、2008年の論文は書いている[20]。原因はまだ分かっていない。負荷が関わることは知られていても、それだけでは話が閉じない[20]。
そこで名前が挙がるのが体脂肪、とくに腹部の脂肪である[20]。ただし同じ論文の結論は「さらに調べる価値がある」にとどまる。集めた論文の中に、減量で腱の痛みが軽くなるかを試した試験は無かった。一方で運動療法の論文は、ある総説の地図だけで555本に及ぶ[1]。体重で語れることは短く、運動で語れることは思ったより慎重である。

「腱症」という言葉が指しているもの
腱症は、腱の傷みをまとめて呼ぶ言葉である[20]。研究の対象に多いのはアキレス腱、膝蓋腱、ひじの外側、肩の腱板で、場所は違っても同じ語でくくられる[1]。膝蓋腱の場合、痛みは膝の前に出る[9]。
肩の論文では、呼び名そのものがそろっていない。腱板の病気、腱板の不調、腱板のインピンジメント、腱板に関連した肩の痛み。論文の題を並べるだけで、これだけの名前が出てくる[1][8][13][19]。2023年の総説は、共通の用語、定義、測り方を使った質の高い研究が急いで必要だと書いた[1]。検索して別の記事に行き着いたとき、同じものを違う名前で読んでいることがある。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
腹部の脂肪は、どこまで疑われているのか
2008年の論文は、腱症に関わる要因を外と内に分ける。外の要因の代表が負荷で、内の要因として遺伝、体の使い方、筋力が挙げられてきた。そこに加わった候補が体組成、とくに腹まわりの脂肪である。複数の研究がこの関連を報告し、腱症の別の側面を調べた研究でも同じ関連が見つかっていたという[20]。
著者らの見立ては慎重に読む必要がある。脂肪があれば腱が傷むと言っているのではない。脂肪は内側の重要な危険因子かもしれず、それが糖尿病のような別の内側の要因や、負荷という外の要因と重なったときに腱の病気として現れるのではないか、という筋書きである[20]。語尾まで「かもしれない」の仮説で、脂肪が先なのか、痛みで動けなくなった結果なのかという順序も、論文の要約からは読み取れない。体重の話をしたい特集としては物足りないが、物足りないまま書くほうが正確である。

腱の試験に「体重」が出てくる二つの場所
腱の試験を読んでいくと、体重の文字は思わぬ場所に現れる。一つは参加者の紹介の欄である。アキレス腱の痛みの100人を調べたデンマークの試験では、平均の体重は79 kg、身長は177 cmで、平均年齢は46〜47歳だった[10]。選手の研究が多い中で、読者の年代に近い試験である。2つの組の体格がそろっていたことを示す数字で、体重と治療の結果の関係は、論文の要約の結果には出てこない。
もう一つは、負荷の単位としてである。運動の用量を調べた110研究のメタ分析は、自分の体の重さだけで行う運動と、外から重りを足す運動を比べた[5]。効果の大きい領域の解析では重りを足すほうが効果の大きさで勝り、効果の小さい領域の解析でははっきりした差がなかった[5]。
腱の論文の中で、体重は治療の敵としてより先に、運動の負荷の一単位として登場する。減量の記事としては皮肉な話だが、自分の体の重さだけでは足りないかもしれない、というのがこの解析の読み方になる。
運動療法は効くのか、という問いの現在地
腱の痛みの保存的な治療の中心は運動である[1]。2023年の大きな総説は、555本の研究から地図を描いた。多いのはアキレス腱、膝蓋腱、ひじの外側、肩の腱板の痛みで、方法は筋力を鍛える運動が中心だった。204本の研究からは、運動療法は安全で有益で、患者の満足度も高いとまとめている。94本の研究からは、運動療法はおおむね続けられ、受け入れられる治療だという結果も出た。そこで大事な要素に挙げられたのは、続けるうえでの障壁、本人と医療者がもともと持つ経験や考え、説明と自己管理、医療者との関係である。運動の紙を1枚渡されただけでは続かないという実感を、研究の言葉で言い直したようなものだ[1]。ただし前置きが付く。証拠の質は全体に低いか、非常に低い[1]。
肩ではこの前置きが重くなる。英国の20の医療機関で、肩の腱板の不調が新しく出た708人を割り付けた試験がある。凍結肩や、脱臼、骨折のある人は除かれている[13]。最大6回の段階的な運動と、理学療法士による1回の助言を比べ、12か月の点数を94%以上の人で追えたこの試験で、肩の痛みと機能の点数に差は見つからなかった。調整後の差は−0.66点で、99%信頼区間は−4.52〜3.20である[13]。6回の運動が、1回の助言に勝てなかった。もっとも助言の組も専門家の助言を受けているので、運動がいらないという意味にはならない。
膝の腱については、2025年のコクランレビューが7試験211人を調べた[9]。参加者は全員が選手で、88%が男性、平均26歳である。何もしない場合と比べて筋力強化の運動が痛みを減らすかは「非常に不確か」とされた。1試験39人の痛みの点数(0〜100点)は、何もしない組の62点に対して運動の組は27.06点だったが、人数が少なく偏りのおそれもある。機能の差も、わずかか無いかもしれないという判定だった。手術と比べた1試験では、スポーツへの復帰の割合は手術の組が86%、運動の組が85%である。有害事象を測った試験は1本も無かった。運動という治療の性質上、どの試験でも本人にも研究者にも組を伏せることはできていない。著者らは、結果は選手に限られ、一般の人には当てはめにくいと書く[9]。
3本を並べても、運動が無意味だという話にはならない。言えるのは、どれだけ効くのかを、質の高い試験で確かめきれていないということである。

間を空けた組のほうが大きかった 110研究が見た頻度
先のメタ分析は3,953人のデータで、運動の強さ、量、頻度のどれが効果の大きさに関わるかを調べた。治療の組の数は、肩の腱板が48、アキレス腱が43、ひじの外側が29、膝蓋腱が24、お尻が4で、部位の研究量にはかなりの偏りがある[5]。頻度については、毎日より少ない回数の治療の組で、毎日の組や1日に2回以上の組より効果の大きさが大きかった。部位を合わせても分けても同じ傾向だった。運動の総量については、関連はわずかで一貫しなかった[5]。
著者らは、強い刺激と十分な回復が関わる可能性を挙げる。これは試験と試験を横に並べた解析で、同じ試験の中で頻度を比べた結果ではない。多くの試験が運動の用量をきちんと報告していないことも、著者らは問題にしている[5]。それでも、毎日やれば早く良くなるのかを担当者に尋ねる材料にはなる。
膝の腱の試験は、負荷の上げ方を直接比べた。長引く膝蓋腱の痛みのある76人(平均24歳、76%が男性)を、段階的に負荷を増やす運動と、伸張性運動(筋肉が伸ばされながら力を出す運動)に分け、24週追った[3]。痛み、機能、スポーツの能力を測る質問票の改善は、段階的な組のほうが大きかった。一方、スポーツへの復帰は順に43%と27%、満足度は81%と83%、運動を続けられた人は40%と49%で、いずれも組の差は有意でなかった[3]。どちらの組でも、続けられた人は半分に届いていない。参加者の82%は、過去の治療で治りきらなかった人たちである[3]。
平均0.17点まで下がった6人と、0.9点下がった21人
1回の運動で痛みがどれだけ引くかを調べた試験は、数字の開きが大きい。伸張性の運動は痛みを伴い、シーズン中は効果が限られるという問題意識から組まれたのが、2015年の試験である。膝蓋腱の痛みのあるバレーボール選手6人に、関節を動かさずに力を入れ続ける等尺性の運動と、動かしながら行う等張性の運動を別の機会に行ってもらった[2]。片脚のスクワットで出る痛み(0〜10点)は、等尺性で7.0から0.17へ下がり、45分後も続いた。等張性の下がり方は小さく、45分後には続かなかった。最大筋力も等尺性の後に18.7%増え、著者らは、等尺性の運動は痛みなく行えたと書いている[2]。
2020年の試験は、21人で同じ問いを確かめた[14]。高い負荷の等尺性の運動と動的な運動を、1週間空けて1回ずつ行ったところ、直後の痛みの低下の平均は0.9点で、45分後には続かなかった。2つの運動の間に差はなかった[14]。著者らは、筋肉の収縮の仕方は痛みの軽減を決める最大の要因ではないかもしれないとまとめている[14]。
7点近い痛みが平均で0点台まで下がった6人の試験の数字は大きい。しかし人数を増やした試験が見せたのは、1点に届かない変化だった[2][14]。痛みの引き方を自分の場面に持ち込むなら、控えめのほうの数字を手元に置くのが安全である。
数字で読む腱の痛みと運動
- 3,953人:運動の用量を調べたメタ分析の参加者の数。110研究、148の治療の組を合わせた値[5]
- 28点と18点:膝蓋腱の質問票の24週の改善。順に段階的に負荷を増やす組、伸張性運動の組で、調整後の組の差は9点(95%信頼区間1〜16)[3]
- 6.8点と2.6点:片脚のスクワットの痛み(0〜10点)の下がり幅の平均。順に等尺性、等張性の運動の後で、6人の試験[2]
- 17.7点:アキレス腱の質問票の6か月の改善の上乗せ。ステロイド注射と運動の組の値で、比べる相手は偽の注射と運動の組[10]
- 31%と8%:肩の試験で有害事象を報告した人の割合。順に徒手療法と運動の組、偽の治療の組で、内容は治療後の短い痛み[8]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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