内ももを締める筋トレの筋活動グラフは、どの筋肉を測った数字なのか。内側広筋と内転筋を混同せず、電極の測定先、同時に働く筋肉、筋力や痛みの変化を分けて読む。女性の運動実験と患者の比較試験から、信号の混入を決めつけない確認点と、自分の目的に合う研究の選び方を考える。
膝の間にクッションを挟んでスクワットをする動画に、内ももの筋活動グラフが添えてある。棒が高いと、狙った場所に効いているように見える。だが、その棒の名前が内側広筋なら、内転筋の成績表として読む前に立ち止まりたい。股関節を内側へ閉じる動きを加え、太もも前面の筋肉を測る実験もあるからだ。[6]
答えの芯は、動かした場所と、電極で測った筋肉を分けることである。表面筋電図は皮膚上の電極で筋活動の電気的な信号を記録する測定であり、研究によって記録対象が異なる。内転動作を加えた研究でも、測定先は太もも前面や腹筋の場合がある。その結果を内転筋そのものの力や成長に置き換えることはできない。[6][18]
隣の筋肉の信号が混じったのか、実際に複数の筋肉が働いたのかも、グラフの高さだけで決めない。ここでは混入の有無を推定するのでなく、「どの筋肉の、何を測った数字か」を確かめる。内転動作を加える操作と、その後に測る結果を分けると、筋活動の実験と治療の比較試験が違う答えを出す理由も整理できる。[2][6]

内転動作の追加と、電極の測定先を分ける
運動習慣の乏しい女性を対象にした研究では、スクワット、膝を伸ばす運動、脚を伸ばして持ち上げる運動を、それぞれ股関節の内転を加える場合と加えない場合で比べた。参加者は28人、年齢は平均44.5歳、ばらつきの指標である標準偏差は8.5歳だった。同じ参加者が条件を変えて行う運動実験であり、長期間の筋肉の成長を追った試験ではない。平均年齢が18〜39歳より高い集団での結果であり、18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは別に確かめる必要がある。[6]
ここで表面筋電図を記録したのは、大腿直筋、内側広筋斜走部、外側広筋である。いずれも研究では大腿四頭筋の活動として扱われている。検索語の「内側広筋」と「内転筋」は、文字に内側の印象があっても同じ測定対象ではない。脚を閉じる操作を加えたからといって、記録した棒のラベルは大腿四頭筋のままである。[6]
この実験では、大腿直筋の活動は通常のスクワットで最も低く、脚を伸ばして持ち上げる運動で最も高かった。また、内転を加えたスクワットや膝伸ばしでは、通常のスクワットに比べて外側広筋の活動が増えた。内転を加えると内側だけが選択的に働く、という単純な見取り図には収まらない結果である。[6]
論文を日常の種目選びに使うなら、まず運動の説明と測定先を別の欄として読むとよい。「内ももを締めるスクワット」という運動名の下に、どの筋肉名が並んでいるかを見る。運動名には指示が、筋肉名には観測先が書かれている。両者をつなぐのが実験であり、名前が似ていること自体は根拠にならない。[6]
仕事帰りに動画を選ぶ場面でも、この区別は使える。膝の間を押す種目の紹介を見て、内転筋に関心を持つことは自然だ。ただし紹介された根拠が大腿四頭筋の筋電図なら、確かめられるのはその筋肉の活動である。「内転を加えた」という条件の説明と、「内転筋への効果を測定した」という結果の説明を読み替えずにおきたい。[6]
さらに、比の数字にも測定対象の名前が必要である。内側広筋斜走部と外側広筋の活動の比は、大腿四頭筋の中での比較だ。この比が変わったという説明を見て、内転筋と外転筋の力のバランスが変わったと受け取ると、比べている筋肉が入れ替わってしまう。女性の実験で扱われた比も、患者の比較試験で扱われた比も、内側広筋斜走部と外側広筋の組み合わせである。[2][6]
スクワットと脚を持ち上げる運動の違いにも目を向けたい。女性の実験では、内転の有無だけでなく運動の種類そのものも比較している。「内転を足したら増えた」という紹介が、何も足さない同じ運動との比較なのか、通常のスクワットという別条件との比較なのかで、読み取る内容は変わる。比較の相手を省くと、運動全体の違いまで内転追加だけの成果として受け取りやすい。[6]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
信号の混入と、同時に働くことを取り違えない
隣の筋肉の信号を拾うという疑問は、電極の測定先を気にする入口になる。ただし、別の筋肉の活動が増えたという結果だけを、信号の混入の証拠にはできない。内転動作を追加して腹筋を測った研究は、そもそも内転を加えたときに腹筋がどう働くかを問いにしている。測定先が内転筋でないことと、測定が誤っていることは別の話である。[18]
健康な若い男性20人の実験では、通常のプランク、両側の股関節内転を加えたプランク、片側の内転を加えたプランクを比較した。測定したのは左右の腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋である。内転を加えた条件では、通常のプランクより、記録した腹筋の活動が有意に高かった。男性を対象とした結果なので、18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは、この実験だけでは判断できない。[18]
片側の内転を加えた条件は両側に加えた条件より、左右の内腹斜筋と外腹斜筋、左の腹直筋で活動が高かった。この結果は、内転を加える操作が腹筋の活動を変える場面があることを示す。一方、内転筋の活動量を並べた結果でも、女性が続けたときの体型変化を調べた結果でもない。数字を使える範囲は、男性のプランク中に測った腹筋という組み合わせである。[18]
したがって、研究紹介に別の筋肉名が登場したら、最初に問うのは「混じったのか」より「そこを測る計画だったのか」だ。腹筋を測る計画なら、腹筋の結果として読む。大腿四頭筋を測る計画なら、その結果として読む。この手順なら、すべてを内転筋の成果に集める誤読と、別の筋肉の活動をすべて測定の失敗とする誤読の両方を避けられる。[6][18]
既存の「背中の筋トレの筋活動は数字が大きいほどよい?割合の基準になった力を読む」には割合の基準という論点を譲り、ここでは内転を加える操作と電極の測定先の対応を扱う。数字の単位を見る前に、グラフの主語を確かめる読み方である。
内転筋の力を知る研究は、信号以外も組み合わせる
内転筋そのものに関心があるなら、内転筋を対象にした研究へ進む必要がある。けがのない参加者15人が筋トレやリハビリテーションの種目を行った研究では、表面筋電図に加え、立体的な動作と床から受ける力を使い、筋肉ごとの力を推定した。運動中の測定を組み合わせたモデル研究である。けがのない参加者の推定値が18〜39歳の女性にもそのまま当てはまるかは、対象条件をそろえた検証が必要だ。[3]
対象になったのは、スクワット、デッドリフト、相撲型のデッドリフト、台への昇降、横へのスライド、横になって脚を持ち上げる運動、支える位置を変えたコペンハーゲン内転運動である。最後の種目は、支えを使って内転筋に負荷をかける運動として比較された。筋電図を補助情報にする筋骨格モデルで、短内転筋、長内転筋、大内転筋の部位、薄筋の力を推定している。[3]
結果では、長いてこのコペンハーゲン内転運動が、比較対象の内転筋すべてで高い力の群に分類された。一方、大内転筋の坐骨顆部は、デッドリフトや相撲型のデッドリフト、台への昇降、スクワットでも高い群に入った。内転筋というまとまりの中でも、部位によって種目の並びが異なるのである。[3]
スクワットでは長内転筋、大内転筋の恥骨大腿部、薄筋が中間の群に入った。ここでの群分けは、その実験で推定した最大の力を基にした相対的な分類である。最上位に入った種目が、誰にとっても最初に選ぶべき種目という意味ではない。また、中間の群だから働いていないという判定にもならない。[3]
内もも全体をひとつの棒で代表させたくなるが、この研究は筋肉や部位を分けて扱っている。動画の「内ももに効く」という短い説明を、論文の結果と照らすなら、少なくともどの内転筋を指すかが必要だ。電極を貼った場所への関心を、解剖学的な測定対象への関心につなげたい。[3]
この研究の強みは、動作と外力も使って筋肉の力を推定した点にある。同時に、その順位は運動中の推定値の順位として読む必要がある。実際に筋肉が大きくなる順、痛みが減る順、続けやすい順を並べたものではない。測定の情報が増えても、研究が答えた問いを越えないことが大切だ。[3]
数字で読む内転動作と測定対象
28人:運動習慣の乏しい女性の運動実験。記録した筋肉は大腿四頭筋の各部だった。[6]
20人:内転を加えたプランクの実験。健康な若い男性で、測定先は腹筋だった。[18]
15人:内転筋の力を推定した研究。筋電図、動作、床から受ける力を組み合わせた。[3]
30人:膝蓋大腿関節の変形性関節症の比較試験。内転を加えたスクワットの優越性は示されなかった。[2]
4週間:その比較試験の実施期間。運動中の筋活動だけでなく、痛みと機能も調べた。[2]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







