背中の筋トレの懸垂はぶら下がるだけでもよい?保持時間は引き上げる力の代わりか

鉄棒にはつかまれるのに、体を引き上げられない。背中の筋トレで迷うぶら下がりと懸垂の違いを、前腕トレーニング、指の筋力、女性競泳選手の研究から読む。保持時間と反復回数は別の記録として扱い、握る力の伸びを背中全体の成果と取り違えず、次の練習を選ぶための見方を示す。

鉄棒につかまって足を浮かせた。手は離れない。けれど、肘を曲げようとしても体が上がらない。初めて背中を鍛えようと鉄棒に向かい、この入口で止まると「ぶら下がるだけでは意味がないのか」と考えたくなる。

答えの芯は、握って支える課題と、体を引き上げる課題を別にすることだ。クライマーを対象とした指先懸垂の筋活動測定では、ぶら下がる間にも指を曲げる筋肉は強く働いていた。一方、引き上げる局面では腕の筋肉の働き方が変わる。保持できることは、引き上げられることと同じではない。競技経験のある人の結果を18〜39歳の女性の初回練習にそのまま当てはめることはできない。[10]

身体活動の少ない男子学生では、前腕の練習を加えて懸垂回数が伸びた試験がある。18〜39歳の女性にも同じ伸びが生じるかは、この男性の結果とは分けて検証する必要がある。ただし、その参加者は懸垂そのものも練習していた。「ぶら下がりだけで背中の筋トレが完結する」と読み替えることはできない。[2] ここでは握る持久力が入口になりうることと、その先の引く動作をどう区別して見るかを考える。

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ぶら下がれるのに上がれないのは、別の課題だからだ

懸垂は、広背筋、上腕二頭筋、前腕の屈筋、体幹を支える筋肉の協調を要する運動として研究されている。広背筋は背中に広がる筋肉、上腕二頭筋は上腕前側の筋肉である。背中の種目という名前でも、手と腕を通じて体を支える条件が含まれる。[2] 背中だけが試験を受け、手は付き添い、という分業にはならない。

この違いが見えやすいのが、クライマーを対象とした筋電図の研究だ。筋電図は筋肉の電気的な活動を捉える方法である。クライマー7人が指先で懸垂し、ぶら下がる、引き上げる、ゆっくり下ろす局面を比べた。18〜39歳の女性一般とは競技経験が異なるため、活動の大きさをそのまま当てはめず、局面の違いを読む材料にする。浅指屈筋という指を曲げる筋肉は、ぶら下がる間も高い活動を示し、引き上げや下降でも高い活動が続いていた。[10]

それに対し、腕橈骨筋という前腕の筋肉や上腕二頭筋には、引き上げと下降で活動のピークが見られた。研究は、浅指屈筋の活動が高いことを、そのまま肘を曲げる働きと同一視していない。[10] 握っている間に前腕が熱く感じられても、それだけで体を上へ運ぶ仕事を十分に練習したとは判定できない。

研究の活動値は、各筋肉が自分で最大限に力を出したときの値で基準化されている。浅指屈筋は保持中が0.64、引き上げ中が0.69、下降中が0.74で、いずれも平均値である。対して上腕二頭筋の平均は引き上げ中が0.33、下降中が0.15だった。[10] これは持てる重量の比率でも、筋肉が成長する割合でもない。動作を同時に支える筋肉でも、局面ごとの活動の推移が違うことを示す測定である。

ここで測られたのは指先の懸垂であり、一般の鉄棒を手全体で握る条件とは異なる。筋活動の数字をそのまま自分の腕に当てはめるより、同じ懸垂の中でも局面によって役割が分かれるという点を受け取るのがよい。[10] つかまることを達成した日と、体が上がった日は、別々に喜べる日なのである。

既存記事「首こりが気になる懸垂は握ってぶら下がるだけでも違う?疲れる前後の支え方を読む」には首や肩の支え方の問いを譲る。既存記事「背中の筋トレはネガティブ懸垂だけで十分?伸ばしたい力と測る課題を分けて読む」には、下ろす練習の問いを譲る。こちらの焦点は、動かずに支え続ける時間が、引き上げる能力の代わりになるかである。隣の記事で扱う斜め懸垂の脚の位置や補助器具の選択とも、判断する入口を分けておきたい。

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前腕を鍛えて回数が伸びた試験は、懸垂も練習している

身体活動の少ない男子学生30人を無作為に振り分けた比較試験では、共通の懸垂プログラムに、前腕の練習、体幹の練習、インターバル運動をそれぞれ組み合わせた。期間は8週間で、各群は10人だった。18〜39歳の女性で同じ効果が得られるかは、女性を対象とした検証が必要である。測ったのは最大懸垂回数、左右の握力、ぶら下がり時間である。[2]

すべての群でこれらの指標は改善した。その中で前腕練習を加えた群の伸びが最も大きく、懸垂回数は222.5%、右の握力は12%、左は14.0%、ぶら下がり時間は55.3%増えた。[2] 懸垂が背中の運動だからといって、握る側の準備を軽視しない理由になる結果だ。

ただし、大きな百分率には立ち止まる必要がある。222.5%は回数の増加率であり、誰もが同じ回数だけ増えるという約束ではない。また、ここで比べたのは共通の懸垂練習に何を追加するかだ。前腕だけの練習と懸垂だけの練習を入れ替えた比較ではない。[2] この区別を消すと、「手を鍛えれば引く練習はいらない」という、試験とは別の話になる。

この試験の実用上の問いは、懸垂の練習を続ける中で、何を補うかである。前腕群の成績がよかったという結果は、体幹が不要という意味でもない。各群が共通していた懸垂自体に、握る、引く、姿勢を支える課題が含まれている。[2] 「補助練習として役立った」と「それだけで必要な仕事をすべて代替できた」は区別して読む。

握力とぶら下がり時間がともに伸びても、同じ能力を重複して測ったと決めつける必要はない。この試験は握力、保持時間、懸垂回数をそれぞれ別の指標として検査している。[2] 自分の記録でも、「握っていられるようになった」と「引けるようになった」を別欄にすれば、どの変化を確認できたのかが曖昧にならない。

対象が若い男性で、群も小さいことは、生活に移す際の条件になる。運動経験の少ない女性の初回練習に同じ増加率を期待するより、懸垂練習と支える側の練習を組み合わせた結果として読むべきだ。[2] 立川駅に着くころには手も疲れている日と、休日の朝とで競争する必要もない。まず日記に残したいのは、自分がどのような条件で何を試した日の記録かである。

指の最大筋力が増えても、保持時間の差は別に確かめる

中級から上級のクライマー35人を無作為に分けた試験では、女性8人と男性27人が参加した。通常のクライミングに加え、指でつかまる専用ボードを使うトレーニングを10週間行う群と、通常の練習を続ける群を比較した。追加練習は週2回、各48分だった。男性が多く競技経験もある集団なので、18〜39歳の女性の初心者に同じ効果を見込むことはできない。[3]

測定には深さ23 mmの縁を使い、姿勢を保って引くときの最大の力や平均の力、力の立ち上がる速さ、ぶら下がりを持続する時間などを調べた。追加練習群では、縁を使う条件の最大の力や平均の力などが、比較群より大きく改善した。群間差が出た項目の効果量は0.29〜0.66だった。[3]

一方、ぶら下がり時間には、群間で有意な差が認められなかった。追加練習群の中だけを見ると保持時間は12%改善していたが、「その群の前後で増えた」と「比較群より確かに増えた」は別の判断である。[3] 前者だけを抜き出して、専用ボードなら保持時間が確実に伸びると紹介するのは正確ではない。

この試験と前腕練習の試験は、単純な勝敗表には並ばない。クライマーへの追加練習と、身体活動の少ない男子学生の懸垂プログラムでは、出発点も、握るものも、追加した課題も異なる。[2][3] 一方で保持時間が伸び、他方で群間差が出なかったことは、握る練習の効果が、誰の何を測るかに左右されると読む手がかりになる。

なお、専用ボードの試験で群間差が確認されたのは、どの持ち手でも同じ項目ではなかった。深さ23 mmの縁では最大の力と平均の力が改善したが、大きく握れる持ち手では平均の力に差が出る一方、最大の力には差が出なかった。[3] 器具の名前を同じにしても、指が接する条件によって結果の現れ方は変わっていた。

このため、鉄棒を握った保持時間を、狭い縁で測った指の力と直接比べる必要はない。研究で異なる持ち手が使われたことを理解すると、自分の記録にも「どこにつかまったか」を添える意味が見えてくる。[3] 秒数を単独で切り取るより、何を保ち続けた時間なのかまで残すほうが、次に見返すときに役立つ。

最大の力、一定の姿勢を保つ時間、動作を繰り返す回数を分ければ、伸びた指標がほかの指標を代表しないことも理解しやすい。この試験でも力の立ち上がる速さには群間差が出なかった項目がある。[3] 強く握れるようになったから、長く支えられ、素早く引けるまで一度に達成した、と採点しなくてよい。

数字で読むぶら下がりと引く力

30人:身体活動の少ない男子学生を対象に、懸垂に加える練習を比較した人数である。[2]

8週間:前腕、体幹、インターバル運動を共通の懸垂練習に組み合わせた期間だ。[2]

55.3%:前腕練習を加えた群のぶら下がり時間の増加率であり、ぶら下がり単独の効果ではない。[2]

35人:専用ボードの追加練習を検討した中上級クライマーの人数である。[3]

12%:追加練習群の前後で見た保持時間の改善率。ただし保持時間の群間差は有意でなかった。[3]

28人:懸垂とマシンで引く力の関係を調べた女性競泳選手の人数である。[11]

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宮川涼 Founder

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