インナーマッスルを鍛える靴は速歩きで違う?足元の揺れと体幹の働きを分ける

インナーマッスルを鍛える靴やサンダルは、速く歩くほど効くのか。不安定な靴と底が丸い靴の研究から、歩行速度、足裏の力、足首の筋活動、背骨の動きを読み分ける。歩いている最中の変化と筋力がつくことの違い、通勤で履く前に確かめたい条件まで、研究の対象とともに考える。

靴売り場の試し履きでは気にならなかった丸い靴底が、横断歩道で歩調を上げると急に気になる。この揺れに耐えるほど、お腹の奥まで鍛えられるのだろうか。結論を先に置けば、速さによって靴の働きが変わる研究はある。しかし、その変化を深い体幹筋のトレーニング効果と同じものとして扱うことはできない。[18][19]

健康な男性の歩行比較では、不安定な靴で背骨の回転角度のばらつきが増えた一方、肩や足元ではばらつきが減った。揺れの変化は部位ごとに分かれた。男性の結果を18〜39歳の女性の歩行へそのまま当てはめるには、対象をそろえた検証が必要だ。また、歩行とジョギングを比べた実験では、靴底の柔らかさと足裏にかかる力の関係が速さによって変わった。どちらも「速くするほどお腹に効く」という答えではない。[18][19]

既存記事「インナーマッスルをフラフープで鍛える?重さと体幹の筋活動を読み分ける」には道具の重さと体幹の話を譲る。ここで問うのは、通勤の足元を替えたとき、歩く速さと靴の設計の違いをどう読むかである。

既存記事「インナーマッスルはゆっくり動くほど働く?速さで変わる体幹の活動と見たい違い」は脚や腕を動かす速度、「インナーマッスルは立ったまま鍛えられる?腕の重りと姿勢を支える働きを読む」は立位での荷重、「インナーマッスルは寝ながら鍛えられる?膝の位置と腰の安定を分けて読む」は仰向けの協調運動を扱う。それらの練習条件は各記事に譲り、ここでは靴の構造と移動速度の組み合わせを追う。

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不安定な靴という名前だけでは中身が決まらない

靴を選ぶとき、底が丸いこと、柔らかいこと、ぐらつくことを一緒に考えがちだ。だが、同じ「不安定な靴」という分類でも、足首の筋肉が変わる場面や方向は設計ごとに異なる。健康な女性15人、平均年齢29歳を対象にした比較研究では、不安定なサンダルの設計を変えて歩き方と筋活動を測っている。[2]

その試験では、歩く速さと歩幅は条件間でほぼ一定だった。それでも、足を地面から離す直前に足の外側の筋活動が増える設計もあれば、着地して体重を受ける場面でふくらはぎの内側の筋活動が増え、すねの前側では減る設計もあった。筋活動が増えるか減るかは、筋肉と歩行の場面を指定して初めて答えられる。[2]

底の大きな曲面は、前後方向のブレーキや前進に関わる動きを変えた。一方、前足部が柔らかい設計は、蹴り出しで足を外側へ向ける筋肉の働きに影響した。見た目が似たサンダルを並べても、足にとって同じ課題にはならない。揺れる靴という名前は、筋肉への共通の指示書ではないのである。[2]

底の曲面で足が転がるような構造を、ここではロッカー構造と呼ぶ。この構造を調べた系統的レビュー、つまり複数の研究を一定の手順で集めて検討する研究では、健康な人の歩行と走行に関する26研究が対象になった。前足部だけに曲面がある設計と、後足部から前足部まで曲面が続く設計が含まれ、足首の角度や力の指標などに変化が認められた。[3]

ただし、そのレビューも靴の重さ、厚さ、材料特性への注意を挙げている。「丸い底なら全部同じ」とせず、どんな構造の靴を、誰が、どう歩いて測ったかを一組で読む必要がある。通勤用の靴と実験用の靴を比べる際にも、曲面の有無だけで一致と判断しないことだ。[3]

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同じ速さでも足元は変わる、だから速度をそろえる

速歩きの効果を考える前に、靴だけを替えた比較に目を向けたい。前述の女性のサンダル研究では、歩く速さと歩幅が変わらなくても足首の筋活動に差が出ていた。これは、筋活動の違いをすべて「速く歩いたせい」で説明できないことを示す。足元の設計そのものにも役割がある。[2]

自分で履き比べる場面でも、片方は買い物帰り、もう片方は電車に間に合うよう急いだ日だったら、感想には靴以外の条件が混ざる。これは個人で実験を完成させるための話ではない。「今日はよく働いた感じがする」という経験を、その靴の性質だけに結びつけないための整理である。比較するときに速度を見る理由は、研究でも条件の違いが解釈を左右するからだ。[5]

不安定な靴の歩行特性を扱った別の系統的レビューでは、準実験的な10研究が検討された。準実験とは、介入を比べるものの、無作為な群分けなどの条件に制約がある研究の型である。このレビューは、関節の動きや力の指標が互いに影響し、交絡要因、つまり比較したい条件以外の違いが結果に大きく影響しうると結論している。[5]

したがって、「歩くとお腹が疲れた」という感覚には意味があっても、それだけで特定の深い筋肉の活動を測ったことにはならない。歩行中の関節の動き、足裏の力、筋活動はそれぞれ別の測定対象である。靴の研究が示す結果を受け取るときも、まず測った項目の名前を確かめたい。[2][5][18]

たとえば筋活動を調べた女性の研究は、足首周囲で増減が起きる場面を捉えている。一方、背骨の動きを調べた研究は回転角度のばらつきを捉えている。どちらも体の反応だが、後者の角度を前者の電気的な活動と同じ数字として読むことはできない。足元からお腹までを一本の「効き目」でつないでしまうと、測定の違いが消えてしまう。[2][18]

歩行からジョギングへ変えると、柔らかい底の関係も変わる

速さが関わる具体例として、11人で行われた靴底の比較実験がある。裸足、平らな底の靴、材料の柔らかさが異なるロッカー構造の靴で、歩行とジョギングの際の足裏の力や歩行指標を記録した研究である。お腹の筋力を測った試験ではなく、足と地面の間でどう力が伝わるかを見る実験だ。[19]

歩行では、裸足に比べて平らな底の靴で足裏の力が大きく、ロッカー構造の靴では小さかった。ロッカー構造の中では、柔らかい材料の条件が最も小さかった。しかしジョギングになると、例外となる条件を除き、各種の靴で足裏の力が裸足より大きくなった。同じ靴の評価でも、移動の仕方を替えると比較の関係が変わる。[19]

さらにジョギングでは、柔らかい材料のロッカー構造で、より密な材料のものより大きな足裏の力が観察された。研究者は、力がより速く伝わることと関連づけ、高い速度での衝撃吸収は柔らかいほうが良好とはならなかったと述べている。柔らかそうだから急いでも足に優しい、という直感だけでは選びきれない。[19]

ここで急いで付け足したくなるのが、「では硬い底なら速く歩くほどよい」という逆の結論だ。しかし、実験が比べたのは特定の材料と構造であり、歩行とジョギングである。ゆっくり歩きから日常の速歩きまでを細かく並べて、最適な速度を決めた結果ではない。まして、そこから体幹を鍛える速度を算出することはできない。[19]

通勤で早足になった場面に役立つのは、速さに応じて靴の働き方も変わる、という視点だ。駅までの道で普通に歩いたときの感想を、信号で小走りになった場面へそのまま持ち込まない。足裏の力に関する実験結果を、お腹の奥が働いた証拠へ持ち替えないことも同じくらい大切である。[19]

この実験では、足裏で測る力と、地面から体が受ける力も区別されている。平らな底の靴では前者が後者より大きい一方、ロッカー構造の靴では小さかった。同じ歩行でも、何をどこで測った力かによって数値の意味が異なる。靴を履いた足の内側で捉えた結果を、全身への負担の総量として扱わないことが必要になる。[19]

研究者は、靴底が転がる動きと足首の回転が同時に起こる時間が長くなることが、足裏の力の減少に関わる可能性を挙げている。これは、ぐらつきに筋肉で耐えるという説明だけではない。靴と足の動きの組み合わせによって力の伝わり方が変わる、という力学的な仮説である。仕組みの説明と、実際に確かめた測定値も分けて受け取るのがよい。[19]

歩行とジョギングの差は、単に同じ動作を急いだ差として扱わない。実験で比較した移動の条件を残すことで、普段の早足への当てはめ過ぎを避けられる。[19]

数字で読む足元と歩く条件

26研究:健康な人のロッカー構造の靴を扱った系統的レビューの対象数。設計の違いにも注意を促している。[3]

15人:歩く速さと歩幅がほぼ一定でも、設計ごとに足首の筋活動が異なった女性の比較研究。[2]

11人:歩行とジョギングで、靴底の材料と足裏の力の関係を比べた実験。[19]

15人:不安定な靴で、背骨と肩などの動きのばらつきを調べた健康な男性の研究。[18]

10人:靴の曲面を個別に調整しても、代謝コストの改善が見られなかった歩行実験。[10]

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宮川涼 Founder

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