糖質制限で体重は減ったのに、健診のLDLコレステロールは上がった。その変化は矛盾するのか。無作為化比較試験とメタ分析から、中性脂肪との違い、開始時の体格、同じ減量幅での比較を読む。体重だけで食事の成果を決めず、検査結果を医師に相談するための確認点を整理する。
健診の封筒を開くと、体重は前回より減っているのに、健診の検査表ではLDLコレステロールに上向きの印がある。ご飯を控えてきたのに、どうしてなのか。その組み合わせは研究でも起きている。糖質を減らす食事では、減量や中性脂肪の低下と、LDLの上昇が同時に見られる場合がある。[9][12]
答えの芯は、体重の変化をLDLの変化の代わりにしないことだ。成人を対象とする無作為化比較試験をまとめたメタ分析では、ケトジェニック食で中性脂肪は対照食より低下したが、LDLは上昇した。一方、前糖尿病と肝臓への脂肪蓄積がある肥満者の、同じ程度の減量を比べた試験では、食事群間のLDLに差がない結果もある。いずれも18〜39歳の女性に限定した結果ではなく、そのまま個人の変化の予測には使えない。[12][1]
脂肪の種類を選ぶ問いは、既存記事「糖質制限の油は種類を気にする?同じ糖質量でも違う脂肪の質と血中脂質を読む」に譲る。ここでは、体重が減ったという手応えと、検査表の各項目が一致しない場面を考える。体重計は採血の代役までは引き受けない。

体重とLDLは同じ採点欄ではない
LDLコレステロールは、低密度リポたんぱくに含まれるコレステロールを指す検査項目である。ここではLDLと略す。中性脂肪やHDLコレステロールと並べて調べられるが、糖質制限への反応は項目ごとに異なる。ケトジェニック食の比較研究では、中性脂肪の低下、HDLの上昇、LDLの上昇という異なる変化が報告されている。[12]
体重が減った時に「脂質も全部よくなった」と読みたくなるのは自然だ。しかし、薬を使わず病気のない成人を対象に、摂取エネルギーをそろえた低炭水化物食と高炭水化物食を比較したメタ分析でも、その読み方は成り立たなかった。低炭水化物食は体重と脂肪量をより減らした一方、LDLをより下げたのは高炭水化物食だった。対象は健康な成人であり、18〜39歳の女性だけで同じ差が生じるかは分けて考える必要がある。[9]
この分析は18件の無作為化比較試験、905人をまとめている。無作為化比較試験とは、参加者を偶然の割り当てで食事群に分けて比べる研究である。食事量がたまたま違っただけ、という説明を減らすために、エネルギーをそろえた試験が選ばれている。それでも体重とLDLで有利な食事群は分かれた。[9]
ただし、その低炭水化物食は炭水化物が総エネルギーの44%以下、高炭水化物食は45%以上という区分である。日常の「糖質制限」という呼び名から、すべてを厳しいケトジェニック食だと思うと比較を誤る。研究を読む時は、食事の名前に加え、何と何を比べているかが必要になる。[9]
健診の封筒を開けた時も同じだ。体重、中性脂肪、HDL、LDLをそれぞれの欄で確認する。「体重が下がったからLDLの上昇も問題ない」という結び付けはしない。正常体重の成人を扱うレビューでも、代謝面の状態がよいことだけで、ケトジェニック食によるLDL上昇を無害とする根拠は支持されていない。[11]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
多くの試験を合わせると脂質の向きが分かれる
成人のケトジェニック食に関する62研究をまとめた無作為化比較試験のメタ分析では、中性脂肪の群間差は平均−19.96 mg/dLだった。95%信頼区間は−26.10〜−13.81 mg/dLである。対照食に比べて低下する方向で、推定値の不確かさを含めても、その区間はゼロをまたいでいない。成人全体を扱った分析なので、18〜39歳の女性に同じ低下幅を当てはめることはできない。[12]
同じ分析でLDLの群間差は平均+8.49 mg/dL、95%信頼区間は+5.45〜+11.52 mg/dLだった。HDLは平均+3.61 mg/dL、総コレステロールは平均+8.14 mg/dLである。中性脂肪だけを見れば好ましい変化でも、LDLは別の方向を向く。これが記事の中心になる食い違いだ。[12]
これらは集団を合わせた平均であり、自分の次の採血結果の予言ではない。また、対照食との「差」である。全員の開始前からの変化量がその数値だったと受け取ってはいけない。食事を変えた後の手元の検査値と照合する時にも、研究の群間差と、自分の前後差は区別しておきたい。[12]
心血管疾患の危険因子を少なくとも持つ35〜75歳の成人を対象とした、47研究、3,450人のネットワークメタ分析も参考になる。ネットワークメタ分析は、複数の食事法の比較をつないで、食事間の差を推定する方法である。ここでもケトジェニック食は、基準となる低脂肪・中程度炭水化物食よりLDLが高かった。年齢と危険因子に条件があるため、18〜39歳の女性全般への直接の適用には限界がある。[3]
その差は+0.43 mmol/L、95%信頼区間は+0.13〜+0.74 mmol/Lだった。一方、高脂肪・低炭水化物食ではBMIの小さな低下が見られている。BMIは体格を表す指標である。体格とLDLでは、変化の評価が分かれている。[3]
この研究は、食事の大きな栄養素の割合を中心に分類している。同じ割合ならどの食品でも同じ結果になる、と食品の選択まで一足飛びに結論することはできない。[3]
同じ減量幅で比べると、LDLの差が出ない試験もある
「ケトジェニック食ならLDLは必ず上がる」と反対向きに決め付けるのも早い。前糖尿病と肝臓への脂肪蓄積がある、代謝面で不健康な肥満の人を対象とした無作為化比較試験では、約10%の減量を異なる食事で実現して比較している。超低炭水化物ケトジェニック食、地中海食、超低脂肪で植物性食品を重視する食事の比較である。対象の代謝状態に条件があり、18〜39歳の健康な女性へそのまま適用することはできない。[1]
減量後、筋肉のインスリン感受性は全群で約50%高まった。インスリン感受性とは、インスリンの働きに体がどの程度反応するかを示すものだ。肝臓での改善は超低炭水化物群でより大きかったが、LDL、アポリポたんぱくB、日内の血中中性脂肪濃度には群間差がなかった。[1]
ここで大切なのは、LDLに「群間差がない」と、LDLが「下がった」は別の文章だという点である。さらに、肝臓の代謝の改善が大きかったことを、そのままLDLの改善が大きかったと置き換えられない。同じ試験の中でも、どの測定項目を読むかで食事の評価が違っている。[1]
この試験は、減量幅をそろえた時に何が違うかという問いに近い。食事法の比較で体重の減り方まで違っている場合とは、条件が異なる。先のメタ分析の平均と結果が違っても、どちらかを捨てる必要はない。対象者の代謝状態、食事の比較相手、減量をそろえたかを並べて読むべきである。[1][12]
夕食のご飯を控えた記録だけでは、自分がどの研究の条件に近いかは分からない。減量が起きたのか、以前から正常体重だったのか、医療上の目的で食事を変えたのか。自分の状況を添えて検査表を読むために、研究の対象条件には体重の数字と同じだけ目を向けたい。[1][16]
食事の研究で「改善」と書かれた時には、その後ろに何の項目が続くかを読む。例えばこの減量幅をそろえた試験では、肝臓のインスリン感受性や血糖の結果は超低炭水化物群に有利だった。その事実は尊重しつつ、LDLについては別の結果を受け取る。食事の効果を認めることと、検査表の気になる変化を相談することは両立する。[1]
逆に、LDLが気になるからといって、中性脂肪や体重に起きた変化までなかったことにする必要もない。複数の試験を合わせた結果そのものが、指標ごとの利点と不利な点の組み合わせになっている。食事法を丸ごと成功か失敗かに分けるより、何が変わり、何を次に確認するかを具体的にした方が、診察の場でも話を進めやすい。[3][12]
通勤中に見た体験談に、自分と同じ減量幅が書かれていても、採血結果はその人自身の検査で確かめる必要がある。ここで比べた試験の参加者には、前糖尿病と肝臓への脂肪蓄積という条件がある。減った体重の割合だけを取り出さず、その人がどんな状態から食事を変えたかまで含めて、結果の届く範囲を読む必要がある。[1]
数字で読む糖質制限とLDL
62研究のメタ分析:ケトジェニック食で中性脂肪は対照食より平均19.96 mg/dL低かった。[12]
同じ分析のLDL:対照食より平均8.49 mg/dL高く、95%信頼区間は5.45〜11.52 mg/dLだった。[12]
18試験、905人:エネルギーをそろえた比較でも、体重とLDLで有利な食事群は異なった。[9]
41試験、1,379人:開始時の平均BMIによって、低炭水化物食でのLDL変化が異なった。[16]
約10%の減量をそろえた試験:異なる食事群間でLDLの差はなかった。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







