減量の目標は自分で決めた数字のほうが続くのか 歩数の目標の試験と体重の目標を追った研究

1日1万歩の固定の目標と、自分の実績に合わせて動く目標はどちらが続くのか。具体的な目標の効果の大きさ、自分で選んですぐ始めた群だけが伸びた試験、体重の目標の大きさと途中でやめる人の関係を数字で比べ、ご褒美と気分が目標の働きをどう変えるかも確かめる。

1日1万歩という分かりやすい目標は、4か月の試験の終わりに、本人の実績に合わせて動く目標に追い抜かれた[2]。始めのうちは固定の目標のほうが歩数を大きく伸ばしたのに、介入の期間の中で1日ごとに減っていく歩数が、動く目標の2倍を超える速さだったからだ[2]。

目標は、立てた日よりも、数週間後にどう働いているかで差がつく。何を目標にするのか。数字を誰が決めるのか。始める時期はいつか。ご褒美は付けるのか。研究はこの一つ一つを分けて比べている。

ここでは、目標の「形」を比べた研究を中心に置く。目標を「いつ、どこで、何をするか」の手順に落とす方法は「ダイエットの目標設定はどう変えるか 実行意図で明日の行動を決める科学」の記事に、目標体重と期待のずれは「目標体重は高望みでもよいのか 減量への期待と結果のずれを研究から考える」の記事に譲る。この記事が扱うのは、数字の置き方そのものである。

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「具体的な目標」は運動量を大きく動かした

出発点として、目標を立てること自体にどれほどの力があるかを見ておく。2024年のメタ分析は、運動の足りない大人1,208人を含む13本の研究を集め、目標を立てる介入(期間は3〜24週)が身体活動と心の面に何をもたらすかを調べた[3]。メタ分析とは、複数の研究の結果を統計の手順でまとめ、全体の効果の大きさを推し量る方法だ。

集まった研究の目標は、すべて具体的な目標だった[3]。その具体的な目標は、身体活動に大きな良い効果を示した。効果の大きさを表す標準化平均差は1.11(95%信頼区間0.74〜1.47)だった[3]。標準化平均差は、単位の違う研究の結果をそろえて比べるための値で、論文はこの値を大きな効果と表現している[3]。

ところが、自己効力感(自分にもできるという感覚)や意欲、気分などの心の面をまとめた効果は0.25(95%信頼区間0.10〜0.40)で、小さかった[3]。体は動いたが、気持ちは体ほどには動かなかったことになる。目標を立てると前向きになれるという期待に照らすと、気持ちより行動のほうが大きく動いた。

大学生724人が10週間、オンラインで目標を立てた研究もある[15]。毎週、果物と野菜の量と運動の分数の目標を立て、実際の量を報告した[15]。毎週の目標の達成度で参加者を3つの群に分けると、達成度の群によって行動にも、推奨量を満たす割合にも差があった[15]。目標を立てることは両方の行動に統計的に意味のある効果を持ったが、期間を通して増えたのは果物と野菜の量で、運動の分数は変わらなかった[15]。著者らは、行動を保つための目標と、行動を変えるための目標は立て方が違うのかもしれないと考察した[15]。同じ人が同じ画面で立てた目標でも、食べる行動と動く行動では効き方が分かれた。

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1万歩の固定の目標と、自分に合わせて動く目標

冒頭の試験を詳しく見る。対象は運動の足りない過体重・肥満の大人96人で、77%が女性、平均41歳、平均BMIは34.1だった[2]。4か月の試験で、目標の立て方(実績に合わせて動く目標か、1日1万歩のような固定の目標か)と、ご褒美の渡し方(すぐ渡すか、後でまとめて渡すか)の2つを掛け合わせて4つの群をつくった[2]。歩数は活動量計で測り、中くらい以上の強さの身体活動の1日の分数も合わせて調べた[2]。

動く目標とは、日々の歩数のばらつきを使い、その人の最近の実績に合わせて毎回調整される目標を指す[2]。固定の目標は、誰にとっても同じ数字である。

全員を合わせると、1日の歩数は開始前の期間から介入の期間にかけて平均2,389歩増えた[2]。固定の目標の群は2,630歩、動く目標の群は2,149歩増え、差は482歩だったが、統計的に確かな差とはいえなかった(p=.095)[2]。

差が出たのは、その後の落ち方だ。介入の期間の始めから終わりにかけて、1日の歩数は固定の目標の群で1日ごとに18.3歩、動く目標の群で7.7歩ずつ減っていった[2]。1日あたり10.7歩の違いは小さく見えるが、4か月積み重なると、試験の終わりには動く目標の群のほうが良い結果になった[2]。著者らは、4か月の期間で動く目標が固定の目標を上回ったと結論している[2]。

1万歩という数字は、覚えやすさでは群を抜いている。だが、人の体と暮らしは毎日同じではない。忙しい週に届かない数字を見続けることと、昨日の自分に合わせて少し上の数字を見ることは、同じ「目標」でも体験が違う。

この点を理論の側から整理したのが2021年の総説だ[7]。運動を促す現場では、1万歩や国の運動の指針のような具体的な「成績の目標」を立てることが中心になってきた[7]。目標設定の理論は1990年以降、成績の目標と「学びの目標」を区別するように発展し、どちらも状況によって働きが変わると分かってきた[7]。総説は、場合によっては成績の目標が望む結果の妨げにさえなると指摘する[7]。そのうえで、今の方法はすでに運動している人には理にかなうが、運動を始めたばかりの人、つまり人口の大半にとっては、学びの目標のような別の立て方が望ましいかもしれないと述べている[7]。

学びの目標は、たとえば「何歩歩くか」ではなく「自分に合う歩き方の距離を見つける」のように、やり方を身につけることに目を向ける立て方だと考えると分かりやすい。ヨガで言えば、最初の週は回数の記録より、ポーズの順番を覚えることを目標に置く形になる。

自分で選んで、すぐに始めた群だけが伸びた

数字を誰が決めるか、いつ始めるかを比べたのが、米国フィラデルフィア周辺の所得の低い地域の大人500人を対象にした無作為化比較試験だ[19]。参加者は動脈硬化による心臓や血管の病気があるか、10年以内の発症の危険が7.5%以上の人で、平均年齢58.5歳、平均BMIは33.2、69.6%が女性だった[19]。

全員が歩数を記録する機器を身につけ、まず普段の歩数を測った[19]。そのうえで、比較の群か、ゲームの要素を取り入れた4つの群のどれかに割り付けられた[19]。4つの群の違いは、1日の歩数の目標を自分で選ぶか割り当てられるか、そして目標をすぐに適用するか段階的に上げるかだけだった[19]。試験は導入の8週、維持の8週、追跡の8週の24週で組まれ、主に見たのは開始時から維持の期間までの1日の平均歩数の変化だった[19]。

比較の群と比べて、自分で選んだ目標をすぐに始めた群だけが、維持の期間に1日の歩数を1,384歩(95%信頼区間805〜1,963)増やし、介入を終えた後の8週の追跡でも1,391歩(同785〜1,998)多いままだった[19]。中くらい以上の強さの身体活動も、維持の期間で1日4.1分、追跡の期間で3.5分多かった[19]。ほかの3つの群では、比較の群に比べて一貫した増加は見られなかった[19]。

目標を少しずつ上げていく慎重な設計は、この試験では続く力につながらなかった。自分で決めた数字を、決めたその日から使う。一見すると雑なやり方のほうが、追跡の期間まで残った。なお、参加者には登録と試験の完了に対して謝礼が支払われていた[19]。歩数に応じたご褒美ではない点は、読み方の前提として押さえておきたい。

一方で、目標を立てる方法がいつも勝つわけではない。軽い認知機能の低下があるか、自分で記憶の衰えを感じている60〜85歳の運動の足りない52人に、6か月の在宅の運動を、目標設定と指導役の支援で行う群と、教育と仲間との交流で行う群に分けた試験では、群の間に差はなかった[20]。6か月の時点で試験に残っていたのは全体の88.5%で、運動の実施率の中央値も2つの群を合わせて88.9%と高かった[20]。両群を合わせると、1日の歩数は6か月で1,662歩、12か月で1,320歩増えていた[20]。比べた相手も、ただ放っておかれたわけではない。手厚い別の支援と比べれば、目標設定の上乗せは見えにくくなる。

数字で読む目標の立て方

1.11:具体的な目標が身体活動に与えた効果の大きさで、13研究・1,208人をまとめた値だった。[3]

0.25:同じ分析で、自己効力感や意欲など心の面に与えた効果の大きさ。[3]

18.3歩と7.7歩:介入の期間に1日ごとに減った歩数で、固定の目標と動く目標の差だった。[2]

1,384歩:自分で選んですぐ始めた群が、比較の群より多く歩いた1日の歩数。[19]

64.22%:減量の取り組みに参加した36,794人のうち、5〜10%の減量を目標にした人の割合。[13]

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