肩が硬いかを利き腕だけで決めていないだろうか。運動選手ではない成人女性にも、外へ回す動きと内へ回す動きで逆向きの左右差が報告されている。一般女性と競技者の研究を分け、片側の角度、回旋の合計、筋力の違いを整理する。左右を無理にそろえる前に確かめたい測り方を読む。
同じ右腕なのに、背中へ回すと窮屈で、頭の後ろには楽に置けるのはなぜだろう。着替えの途中に感じるこの違いを、「右肩が硬い」の一言で片づけてよいのか。運動選手ではない成人女性を調べた研究でも、利き肩は反対側より外へ回る範囲が大きく、内へ回る範囲は小さかった。[19]
答えの芯は、利き腕だけで肩の柔軟性を代表させないことである。左右を測り、内へ回す動きと外へ回す動きを分ける。同じ腕が、ある方向には大きく、別の方向には小さく動く場合がある。「体が硬い」「運動神経が悪い」という全身の評価へ飛ぶ前に、どちらの肩の、どの動きなのかを確かめたい。[9][19]
既存記事「体が硬い人も水泳で肩は柔らかくなる?泳ぐ人の左右差と動く方向から読む」には、水泳と肩の柔軟性の問いを譲る。ここで扱うのは、泳ぐかどうかにかかわらず、利き腕を測った結果をもう片側の肩にも当てはめてよいかという問題である。

運動選手でない女性にも、利き肩の左右差はある
最初に見るのは、投手の肩ではない。健康な右利きの女子大学生を対象とした観察研究である。参加者は20〜29歳の50人で、調査時には上肢を反復して使う活動を行っていなかった。検者が腕を動かして調べる受動的な可動域を、両肩について測定した。可動域とは、関節が動く範囲のことである。[19]
利き肩では外旋、つまり肩で腕を外向きに回す範囲が、反対側より平均4.74°大きかった。差の95%信頼区間は1.61〜7.87°である。一方、内旋、つまり内向きに回す範囲は平均3.52°小さく、その差の95%信頼区間は1.64〜5.4°だった。外へは大きく、内へは小さい。左右の優劣は、回す方向によって入れ替わっていた。平均差の符号を読むときにも、どちら側からどちら側を引いた差なのかが大切になる。[19]
信頼区間は、推定した平均差にどの程度の幅があるかを読む手掛かりである。ここで示されたのは集団の平均差とその幅であり、「右利きなら必ずこの差になる」という個人用の予測ではない。研究対象も右利きの若い女性である。左利きの人や異なる年齢層の本人の角度を、この平均から決めることはできない。[19]
この研究の大事な点は、左右差を競技選手だけの特殊事情にできないことである。同時に、観察研究なので、利き手を使うことが差を生んだと因果を断定することもできない。日常の右手の出番を数え上げて、通勤バッグやマウスに原因を決めるところまでは進めない。分かるのは、この条件の女性では、肩の回旋を評価するときに利き側を考慮する必要があったということだ。[19]
たとえばヨガの前に右腕を外へ回し、「肩は柔らかい」と判断したとする。その観察が答えるのは右肩の外へ回る動きである。左肩の外旋も、右肩の内旋も、まだ別の問いとして残る。検査を増やして体を採点したいのではない。測っていない動きまで、測ったつもりになるのを避けたいのである。[19]
一般女性の研究では、腕を前へ上げる、横へ上げる、胸の前へ寄せる、後ろへ動かす動作も測定していた。その中で、左右の有意差として報告されたのは回旋の違いである。だからこそ、利き肩というだけで、腕を上げる動きまで同じ割合で大きいと考えるのは避けたい。肩の柔軟性をひとまとめにした質問には、動く方向を足す必要がある。[19]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
内旋と外旋は、合計しても別々に読んでもよい
方向別の角度と、回旋全体の大きさは同じ情報ではない。健康な大学ソフトボール選手23人を調べた記述的な実験室研究では、利き腕の外旋は反対側より12°大きく、内旋は12°小さかった。対象の平均年齢は19.9歳である。若い女性でも競技者を対象とした結果であり、運動習慣の異なる18〜39歳の女性に差の大きさをそのまま当てはめることはできない。同じ利き腕の中に、増えている範囲と減っている範囲が同時にあった。[9]
平均の差だけを並べると、外旋で増えた分と内旋で減った分は同じ大きさである。そのため、内旋だけを見て「肩全体の動く範囲が同じだけ失われた」と読むのは早い。一方、合計だけを見ても、どちらへ動かしにくいかという情報は消えてしまう。方向別の記録と合計は、互いの代わりではなく、違う問いに答える記録である。[9]
肩を回す範囲を測る装置の研究でも、これに通じる結果が出ている。13〜54歳の37人を対象とした症例集積研究で、利き腕は外旋が有意に大きく、内旋が有意に小さかった。しかし内旋と外旋を合わせた総回旋可動域には、左右の有意差がなかった。全体の平均は162°だった。男女を含み年齢幅も広い集団なので、18〜39歳の女性だけの基準には使えない。[16]
この162°を家庭での合格点にしてはいけない。研究では、あらかじめ定めた回す力の範囲内で、専用装置を使い、肩の関節を評価した。壁の前で自分の腕を動かした角度と、測定条件を飛ばして比べる数字ではない。総量に左右差が見つからなかったという結果も、あらゆる肩の動きが左右同じだったという意味にはならない。[16]
この装置研究が切り出したのは、肩甲上腕関節の内旋と外旋である。肩甲上腕関節とは、肩甲骨と上腕骨の間の関節を指す。背中に手が届くかという日常動作の成否と、ここで測った関節の角度は区別して読む必要がある。162°という合計も、腕をあらゆる方向へ動かした範囲の総和ではなく、内旋と外旋を合わせた値である。[16]
測定では整形外科医が2人参加し、それぞれ両肩を3回ずつ検査し、装置の取り付けも2回行った。腕を中立の位置から外旋、内旋へ動かし、中立へ戻す流れである。試行、取り付け、検者の違いはいずれも有意な変動要因ではなかった。角度を比較する前提には、こうした手順の検証がある。左右差の数値だけを取り出すと、この測定条件が見えなくなる。[16]
競技者の大きな差を、日常の肩の基準にしない
同じ方向の左右差でも、対象が変わると差の大きさは変わる。プロの男子ハンドボール選手50人の研究では、内旋は利き腕47°、反対側56°だった。腕を体から離した姿勢での外旋は利き腕99°、反対側88°である。腕を体の横に置いた外旋でも、利き腕62°、反対側57°という差があった。投球を伴う競技に従事する男性の結果であり、18〜39歳の一般女性にそのまま当てはめることはできない。[10]
この研究は投球競技に特有の利き肩の適応を検討するもので、日常生活で感じる硬さの正常値を決める研究ではない。骨の形については後述の野球選手の研究で別に確かめる必要があり、これらの角度から個人の骨や関節包の状態を判定することもできない。ここでは競技の違いだけでなく、腕の位置にも注目したい。同じ外旋という名前でも、体から離して測った場合と、横に置いて測った場合では数字が異なる。肩をどう置いたかを省略して「私の外旋は何度」とだけ記録すると、後で別条件の角度と比べてしまう。この研究の数字は、方向名に加えて測定姿勢が必要な理由を示している。[10]
ハンドボールの研究では、内旋の左右差はポジションによって異なった。一方、調べた肩への負荷と可動域の左右差には相関が認められなかった。したがって「よく使うほど、その分だけ内旋が小さくなる」という単純な比例の話に置き換えることはできない。利き腕という共通点があっても、競技上の役割を含めて読む必要がある。[10]
一般女性の平均差を競技者の目標にするのも、競技者の角度を運動初心者の目標にするのも筋が違う。女子大学生、女子ソフトボール選手、男子ハンドボール選手では、性別や活動の条件がそろっていない。異なる研究の数字を並べたときは、差が生じた理由を特定できたのではなく、同じ条件の人同士の比較ではないことを忘れないようにしたい。[9][10][19]
競技者の左右差を読む際には、「運動しているのに硬い」という言葉にも立ち止まりたい。ソフトボール選手やハンドボール選手に見られたのは、利き腕の全方向が一様に狭い状態ではなく、内旋と外旋で異なる差だった。運動をしている事実と、一方向の可動域が小さい事実は両立する。それを練習不足の証拠に読み替えることはできない。[9][10]
数字を生活に持ち帰るなら、比較相手を増やすより比較の条件を明らかにする方が先である。右肩の内旋と左肩の外旋を比べれば、側も方向も変わってしまう。まず同じ方向で左右を見る。そのうえで、それぞれの肩の内旋と外旋を読む。両肩を両方向に測った研究の形を意識すると、何を比べている数字なのかを見失いにくい。[9][19]
数字で読む肩の利き側と回旋
50人:運動選手ではない右利きの成人女性を調べた観察研究の人数。[19]
4.74°:同研究で、利き肩の外旋が反対側より大きかった平均差。95%信頼区間は1.61〜7.87°。[19]
3.52°:同研究で、利き肩の内旋が反対側より小さかった平均差。95%信頼区間は1.64〜5.4°。[19]
12°:女子大学ソフトボール選手では、利き腕の外旋が大きい差と内旋が小さい差が、ともにこの大きさだった。[9]
162°:専用装置の研究での平均総回旋可動域。総量の左右差は有意ではなかった。[16]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






