HIITの休憩では、筋肉のホスホクレアチンの蓄えと次の出力はどのように戻るのか。自転車の反復全力運動や女性のトレーニング試験から、酸性度と力の回復がそろわない理由、動き続ける休憩の影響、筋肉内の蓄えと次の出だしの力が結び付く仕組みを読み解く。
タイマーが休憩に切り替わった。脚を止めているのに、次の全力が出せる気はまだしない。次の一本を急ぎたいときほど、この待ち時間が長く感じられる。しかし、休憩中には筋肉内のホスホクレアチンという、素早いエネルギー供給を支える蓄えの再合成が進む。次の瞬発的な出力の回復と深く関係する過程だ。[10][19]
ただし、蓄えが戻ること、筋肉の酸性度が戻ること、運動全体の疲れが抜けることは同じではない。若い男性の反復全力運動では、休憩後に仕事量とホスホクレアチンがかなり戻っても、筋肉の酸性度や筋電図の値は低下したままだった。[15] 筋肉の中には、別々の速さで進む回復がある。 18〜39歳の女性でも同じ回復率になるかは、この男性の実験だけでは判断できない。
休憩で蓄えが戻るほど、次の出だしの力も戻るのか。ここで追うのは、同じ運動の中で全力区間を繰り返す際の回復である。休憩の秒数の選び方は既存記事「HIITのインターバルは何秒休む?短い休憩で変わる次の一本の質を読む」に譲り、今回は休んでいる筋肉の中身を見ていく。

休憩中の筋肉は、何を蓄え直しているのか
筋肉が仕事をするときに使うエネルギーの受け渡し役が、アデノシン三リン酸、ATPである。ホスホクレアチンは、そのATPを素早く供給する仕組みにかかわる物質だ。論文ではPCrと略される。反復する全力運動のレビューは、ホスホクレアチンの分解、糖を利用する解糖系、酸素を利用する代謝を、出力を支える経路として扱っている。[10][12]
「リン酸の蓄え」と聞くと、食事のミネラルが足りるかという話に見える。しかし、ここで測っているのは、全力運動で変化する筋肉内のホスホクレアチンである。食事の摂取量とは区別して読む。筋肉の試料から運動前後の濃度を調べることで、使われた蓄えと、休憩で再合成された蓄えを追っている。[15][19]
大切なのは、使ったらその日のうちには戻らない貯金ではないことだ。反復スプリントの実験では、同じ運動時間内でも、全力区間で減り、区間の間で戻る様子が検討されている。[9][19] タイマーが止まっても、筋肉内の再合成は進む。脚は止まっていても、次の仕事の準備は進んでいる。
一方、ホスホクレアチンだけですべての疲れを説明するのも違う。レビューでは、エネルギー供給の制限に加え、水素イオンなどの代謝産物、筋肉を十分に働かせる神経側の要因も論点となる。運動する時間と休む時間の組み合わせによって、疲れ方や各要因の重みが変わる。[10] 「蓄えが減った」という説明は、疲労を読む入口であって、身体全体の残量表示ではない。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
蓄えの回復は、次の出だしの力と結び付く
男性8人を対象にした自転車の実験では、最初に30秒間の全力運動を行い、4分の休憩を挟んで再び全力でこいだ。研究者は筋肉の試料を採り、ホスホクレアチンの回復と次の運動の出力を照らし合わせた。[19] スマートフォンの運動動画を見る場面とは異なり、負荷と時間を管理して筋肉内の変化まで追った実験である。 18〜39歳の女性の自宅運動に、その回復率を直接適用することはできない。
最初の全力運動が終わった時点で、ホスホクレアチンは安静時の16.9±1.4%まで低下していた。休憩開始から3.8分後には78.7±3.3%まで再合成された。[19] 「休めば戻る」は確かに起きている。ただし、この条件では、休憩後も安静時と同じ量まで戻ってはいなかった。
さらに、ホスホクレアチンの再合成率と、次の全力運動の最初の10秒間における出力の回復率には、相関係数0.84の関係があった。ペダル回転速度の回復率との相関係数は0.91だった。[19] 相関とは、両者が一緒に増減する関係の強さである。数字が並んで動くことは、片方だけで結果のすべてが決まるという意味ではない。
次の全力運動では、再び使えるようになったホスホクレアチンが、最初の10秒間でほぼ使われた。[19] この結果は、休憩を挟むと出だしの勢いが戻る理由を考える手掛かりになる。最後まで持続する力と、動き始めに大きな力を出す能力を、同じ指標だけで採点しないほうがよい。
この研究の参加者は男性で、運動は自転車での全力運動だった。[19] 立川駅から帰宅して室内で行うスクワットや、跳ばない動きの連続に、数値をそのまま当てはめることはできない。持ち帰れるのは「休憩で戻る筋肉内の蓄えが、次の立ち上がりの出力に関係する」という読み方である。

酸性度が戻り切らなくても、出力は一部戻る
別の実験では、若い男性8人が、6秒間の全力自転車運動を30秒の休憩とともに10本繰り返した。その後に6分間、動かずに休み、さらに同じ長さの運動を5本行った。[15] 研究者は仕事量だけでなく、ATP、ホスホクレアチン、筋肉のpH、筋電図も測定した。pHは酸性度の指標、筋電図は筋肉が働く際の電気的な活動を見る方法である。[15] 18〜39歳の女性への適用には、性別と運動条件の違いを考慮する必要がある。
休憩後に行った次の全力運動の仕事量は、最初の運動の86.3±7.7%まで回復した。ATPは安静時の92.6±6.0%、ホスホクレアチンは85.3±10.3%まで再合成された。一方、筋肉のpHと筋電図の振幅は低下した状態にあった。[15] 回復という言葉の中に、戻ったものと、まだ戻っていないものが同居している。
ホスホクレアチンの再合成は、休憩直後の全力運動の仕事量と相関係数0.79、その後の5本の仕事量とは0.67で関係していた。[15] ここでも関係は認められるが、ホスホクレアチンの回復率を知れば次の出力を完全に予言できる、という結果ではない。神経側の指標も含め、複数の変化が重なっている。
先ほどの男性8人の実験でも、ホスホクレアチンが再合成された休憩後、筋肉のpHは運動前の状態には戻っていなかった。[19] 異なる実験で、蓄えと酸性度の回復がそろわない様子が見える。脚の焼ける感じが残ることと、次の出だしの力がどの程度戻ったかは、分けて考える必要がある。
休憩中に「まだきついから何も回復していない」と考えると、進行中の変化を見落とす。逆に、次の動きが少し速くなったから、疲れがすべて消えたと判断するのも早い。実験が示すのは、疲労と回復をひとつの感想だけにまとめにくいということだ。[15][19] タイマーは残り時間を教えるが、筋肉の全項目の検収まではしてくれない。
酸素を使う働きも、全力の反復を支える
「瞬発的な運動だから、酸素を使う仕組みは関係ない」と考えると、休憩と反復のつながりが見えにくくなる。反復スプリントのトレーニングを検討したレビューは、酸素を利用する能力、ホスホクレアチンの回復、酸を受け止める働き、筋肉の動員などを、繰り返す力に関係する要因に挙げている。[11] 全力区間の短さだけで、身体の働きを二択にはできない。
男性8人の自転車実験では、次の30秒間の全力運動で、酸素を使わない経路からのエネルギー供給が約41%減ったのに対し、仕事量の低下は約18%だった。この差を補う一因が、酸素を利用する代謝の寄与の増加だった。[19] ある経路の供給が小さくなっても、運動全体の仕事量が同じ割合で落ちるとは限らない。
同じ実験では、次の全力運動のエネルギーの約49%を酸素を利用する代謝が供給したと推定された。[19] これはあらゆるHIITで固定された割合ではない。測定された運動と休憩の条件での推定値だ。全力運動なのに有酸素の働きがかなり関与するという、名前の印象とのずれがある。
運動と休憩の構成、種目、出力の測り方を変えれば、比較しているものも変わる。レビューも、反復する運動の疲労は課題の条件に依存するとしている。[10] したがって、息が上がったかどうかだけで、ホスホクレアチンの減少量や回復率を読み取ることはできない。呼吸の見た目と筋肉の測定値を、同じものとして扱わない姿勢が必要である。
数字で読む休憩と筋肉の蓄え
16.9±1.4%:男性8人の30秒全力運動直後に残っていた、安静時に対するホスホクレアチンの割合。[19]
78.7±3.3%:同じ実験の3.8分の休憩後に再合成されていた割合。完全回復を示す数字ではない。[19]
86.3±7.7%:別の男性8人の実験で、6分の休憩後の全力運動が示した、最初の運動に対する仕事量。[15]
0.79:同じ実験でのホスホクレアチン再合成と、休憩直後の仕事量との相関係数。因果の割合ではない。[15]
12人・5週間:女性を対象に休憩の長さを変えて比較したトレーニング試験の規模と期間。[6]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2





