睡眠中にも脂肪は使われるが、その割合が高いことと体脂肪が減ることは同じではない。睡眠の中断、短時間睡眠、食事時刻、運動を調べた試験から、夜の脂肪燃焼と一日の消費量の違いを読む。寝方や飲み物の工夫を探す前に、研究が測った対象と時間、変わらなかった結果まで確かめる。
夜中に目が覚めた翌朝、眠気が残っている。そんな晩に、体の燃料の使い方はどう変わるのだろう。睡眠と代謝の関係は、脂肪を多く使ったかだけで健康を判断せず、翌日の疲労や糖の処理も合わせて読む必要がある。[9][11]睡眠中にも脂肪は燃料として使われる。しかし、その使われ方の数字を、そのまま翌朝に減る体脂肪の量として読むことはできない。[3][12]
実際、筋力トレーニングを続けた試験では、睡眠中には脂肪を使う方向の変化があっても、一日全体の脂肪酸化量は変わらなかった。脂肪酸化とは、脂肪をエネルギーとして使う過程のことだ。夜の一部分と一日の合計は、別々に確かめる必要がある。[12]
「脂肪燃焼ゾーンは痩せる近道か 運動中に使う脂肪と長期の減量を分けて読む」は運動中の燃料を扱う記事である。ここでは眠っている間に視点を移す。食欲の話は「睡眠不足と食欲・ダイエットの科学 ホルモンだけでは読めない翌日の間食」に譲り、夜の代謝を測った研究の数字を追う。

睡眠中の脂肪燃焼は「割合」と「量」で意味が違う
夜の研究でよく使われるのが呼吸商という指標である。呼吸から調べる、糖質と脂肪のどちらをどれほど燃料として使っているかの目安だ。就寝前の光を調べた試験でも、この値と脂肪酸化を合わせて測っている。呼吸商が上がり、脂肪酸化が下がるという組み合わせは、燃料の使い方が糖質寄りになったと読む。[2]
ここで、燃料の割合と総消費エネルギーを分けたい。非肥満の男性12人に飲み物を変えてもらった無作為化・二重盲検クロスオーバー試験では、カフェインとウーロン茶で一日の脂肪酸化がおよそ20%増えた。一方、一日のエネルギー消費量には変化がなかった。燃料の内訳が動いても、全体の消費が同じことはあり得る。男性を対象にした結果を、18〜39歳の女性にそのまま当てはめることはできない。[3]
この試験は、各条件を14日間続け、最終日に24時間の呼吸による測定と睡眠の記録を行ったものだ。ウーロン茶による呼吸商の低下は、睡眠中にはカフェイン単独より大きかった。夜の燃料には違いが出たのである。ただし「脂肪酸化が約20%増えた」を「消費カロリーが約20%増えた」と読み替えるのは誤りだ。[3]
さらに、ある時間帯の脂肪酸化が高いことだけでは、一日の脂肪収支は決まらない。脂肪をどれだけ取り入れ、どれだけ使ったかという出入りの問題が残る。筋力トレーニングの試験で睡眠中と一日全体の結果が分かれたように、夜の測定値から日中を飛び越えて結論を出すことはできない。[12]
「寝ている間に使う脂肪」と聞いたとき、まず単位を見る習慣が役立つ。割合なのか、時間あたりの量なのか、一日あたりの量なのか。飲み物の試験が示したのは脂肪酸化量の相対的な変化であり、減った体脂肪の割合ではない。似た言葉でも、測ったものを置き換えないことが出発点になる。[3]
実験室では、部屋全体を使った測定装置に滞在し、呼吸からエネルギー消費と燃料の内訳を推定する方法が使われる。これは「よく眠れた気がする」という感想とも、体重計の表示とも違う測定である。夜の燃料を知る研究だからこそ、何を測っていないかを想像で埋めず、実際の指標を読む必要がある。[2][9][12]
一日の脂肪収支を考えるとき、呼吸商だけを見て食事の量や内容を忘れると、入口の情報が落ちる。飲み物の試験で測定された脂肪酸化の増加は、同じ期間に体脂肪が同じ割合で減ったことを意味しない。研究の結果を読む順序は、介入の条件、測定した指標、その変化である。体重の変化へ話を進めるには、それ自体を調べた結果が必要になる。[3]
夜だけの結果にも、同じ慎重さが要る。睡眠中の呼吸商が低下した筋力トレーニングの研究では、一日全体の脂肪酸化量には変化がなかった。眠っている区間を拡大して見つけた変化と、日全体を見渡した結果の両方を残すと、運動の働きを過大にも過小にも評価せずに済む。[12]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
眠りが途切れた試験では、脂肪を使う量が減った
睡眠を途切れさせると何が起こるのか。健康な若い男性15人を対象にした無作為化クロスオーバー試験では、同じ参加者が、睡眠を中断される条件と中断されない条件を経験した。研究者は呼吸測定室で48時間の代謝を調べ、脳波で睡眠の状態も確認した。18〜39歳の女性でも同じ変化量になるかは、この男性の試験だけでは判断できない。[9]
中断された条件では、総睡眠時間に加え、深い睡眠やレム睡眠の時間が短くなった。脂肪酸化量は、中断なしの一日61.0±6.6gに対し、中断ありでは29.1±9.1gだった。同時に糖質の酸化量と呼吸商が上がっている。少なくともこの条件では、眠りの途切れとともに燃料が糖質寄りへ動いた。[9]
しかし総エネルギー消費量は、一日9.96±0.17と9.83±0.13メガジュールで、条件間に有意差がなかった。脂肪を使う量が減ったからといって、総消費の同率の低下を意味しない。ここでも、何を燃やしたかと、全部でどれだけ使ったかが分かれる。[9]
もう一つ見落とせないのが、活動量と疲労感である。睡眠が途切れた条件では、測定された身体活動と活動由来のエネルギー消費が高かった。それでも疲労感と眠気は強かった。実験室で動きが増えているから、元気になったとは読めない。夜中に起こされた翌日のそわそわを、運動の達成感と同じ箱に入れないほうがよい。[9]
この研究は、若い男性を対象に、管理された環境で睡眠を操作した短期間の試験である。日常の夜間覚醒がある女性全員に同じ脂肪酸化量を当てはめるものではない。また、報告された一日あたりの脂肪酸化量を、寝ていた時間だけで使った量と呼んではいけない。測定の窓は睡眠だけより広い。[9]
夜中に目が覚めた翌朝、体重の表示を見て「昨日は燃焼できなかった」と採点する必要はない。この試験から持ち帰れるのは、睡眠の連続性を変えると燃料の使い方も変わり得るということだ。一晩の出来事から、その人の体脂肪の増減まで計算する話ではない。[9]
寝不足で脂肪燃焼が増えたら、よい変化なのか
意外なのは、短時間睡眠の試験では別の方向の結果もあることだ。14人が参加した無作為化クロスオーバー試験では、寝床にいる時間を一晩4時間にする条件と8時間にする条件を、それぞれ5晩経験した。睡眠を細切れにする先ほどの試験とは、介入の内容が異なる。[11]
短時間睡眠では、安静時の呼吸商が通常睡眠の0.81±0.02から0.75±0.02へ下がった。血液中の遊離脂肪酸やケトン体の増加も合わせ、研究者は脂肪の分解と酸化が増える代謝変化として捉えている。ところが、安静時エネルギー消費量には変化がなかった。[11]
しかも、全身のインスリン感受性は25%、末梢組織の感受性は29%低下した。インスリン感受性とは、インスリンの働きに体がどの程度反応するかという指標である。脂肪を燃料に使う方向へ動いていても、同時に好ましくない代謝変化が生じていた。「脂肪燃焼が増えるほど健康によい」という読み方は、この結果と両立しない。[11]
眠りを中断した研究では脂肪酸化が減り、寝床の時間を短くした研究では脂肪酸化を示す指標が増えた。この食い違いを、どちらかの結果を消して解決してはいけない。睡眠の乱し方、測定した時間帯、指標が違う。前者は測定室での日全体の酸化量、後者は安静時の呼吸商などを調べている。[9][11]
睡眠をひとまとめにして「長く寝れば燃える」「短く寝れば燃えない」と一本道で説明すると、この違いが抜け落ちる。燃料選択の指標と、糖の処理に関わる指標を並べて読む必要がある。燃焼の成績表だけでは、糖の処理を含む体の状態を捉えきれない。[11]
ここから寝不足を方法として勧める理由はない。むしろ、脂肪酸化という言葉だけを取り出すと、健康の判断を逆にしてしまう実例として読むべきだ。夜に目指すものを「脂肪を最大限に使うこと」だけに絞らず、眠気や疲労も含む翌日の生活へ戻す。この視点は、睡眠を中断した試験の結果とも整合する。[9][11]
数字で読む睡眠と燃料の使い方
睡眠を中断した試験は男性15人、呼吸測定室で48時間の比較だった。[9]
一日あたりの脂肪酸化量は、中断なし61.0g、中断あり29.1gだった。睡眠時間だけの合計ではない。[9]
短時間睡眠の比較は、寝床にいる時間が4時間対8時間、それぞれ5晩だった。[11]
短時間睡眠で全身のインスリン感受性は25%低下した。脂肪を使う指標の増加を健康上の利点とは呼べない。[11]
飲み物の試験では脂肪酸化が約20%増えても、24時間の総エネルギー消費量は変わらなかった。[3]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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