ピラティスの腹筋は咳で使う筋肉と同じ?急に高まる腹圧と力の合わせ方を読む

ピラティスで意識する腹筋は、咳のときにも働く。ただし、同じ筋肉を使うことと、同じ力の出し方をすることは別である。産後女性の観察研究や咳を補助する臨床試験から、腹圧、横隔膜、骨盤底の協調を読み解く。咳の強さを腹筋の成績にせず、尿漏れなどの困りごとを相談へつなぐ見方も考える。

洗面台の前で不意に咳が出て、お腹が急に硬くなる。昨夜のピラティスで意識した場所と似ている。ならば咳も腹筋運動なのか。お腹に手を当てた感覚から、そんな疑問が浮かぶことがある。

答えの芯は、腹筋には咳にも関わる働きがあるが、咳とピラティスを同じ運動として扱わない、ということだ。腹筋は息を吐くことや咳、姿勢を支えることなどに関わる多機能な筋肉である。こうした役割の広さは、腹直筋の神経経路を調べた動物実験の背景としても整理されている。[4]

大切なのは硬さの競争より、必要な場面で筋肉同士がどう働くかだ。女性の研究では、咳の際の下腹部と骨盤底の協調に群間差があり、産後女性の研究でも腹筋、横隔膜、骨盤底の働き方に違いが見られた。[2][3] ただし、それをピラティスで咳や尿漏れが改善するという約束には変えられない。まず、研究が実際に比べた動作と対象を見ていこう。

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咳にも使う腹筋だが、同じ動きではない

腹筋という言葉から、上体を起こす運動やお腹の輪郭を思い浮かべる人は多い。だが、筋肉の仕事は見た目の形だけでは整理できない。フェレットの腹直筋につながる神経回路を調べた研究は、腹筋が呼気、咳、くしゃみ、発声、姿勢制御などに関わることを挙げ、脊髄と脳幹の複数の領域から調節を受ける可能性を示した。[4] 動物の神経経路の結果を、18〜39歳の女性の運動効果へそのまま当てはめることはできない。お腹は、上体を起こす仕事だけをする係ではない。

この研究は神経経路をたどる動物実験であり、人がピラティスを行った試験ではない。[4] したがって、特定の種目がどの神経回路を鍛えるかという話に持ち込まない。一方で、同じ腹筋が異なる目的で動員されるという問いを考える入口にはなる。筋肉の名前が同じでも、咳で息を押し出す目的と、姿勢を支える目的は異なる。

咳と腹筋の関係は、臨床研究でも確かめられている。脊髄損傷で腹筋が麻痺した人では、咳をする能力の低下が問題となり、腹筋への電気刺激によって咳の際の圧や息の流れが増すことが示されている。[19] 咳を喉だけの出来事と考えると、この腹部の役割が見えにくくなる。18〜39歳の健康な女性の咳にも同じ介入効果があるかは、この患者群の結果からは判断できない。お腹の動きは、咳の出力を考えるうえで実際に測定される対象なのだ。

ここでいう腹圧は、お腹の内部にかかる圧のことである。咳などで腹圧が高まる場面は、尿漏れを扱うレビューでも取り上げられている。[8] 腹圧という言葉を聞くと、強く高めるほどよいと受け取りたくなるが、研究で確かめたい結果は場面によって違う。咳で息を押し出す出力と、尿漏れが起きるかどうかは、別々に評価する必要がある。[8][19]

隣の記事「ピラティスで肋骨を締めるとは何をすること?息を止めずに動くための考え方」には、レッスン中の呼吸の捉え方を譲る。ここで扱うのは、咳という急な出来事で腹部と周辺の筋肉がどう関わるかである。肋骨の形やお腹の細さを採点するために、咳を持ち出すのではない。

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産後女性の研究は、強さより協調を問い直す

骨盤底は、骨盤の底側にある筋肉のまとまりである。女性の腹圧性尿失禁を扱うレビューでは、咳、くしゃみ、笑い、運動など、腹圧の高まる活動で意図せず尿が漏れる状態が説明されている。[8] 「腹圧性」の語は、お腹の脂肪が多いという意味ではない。どの場面で症状が起きるかを示す言葉として読む必要がある。

産後の腹圧性尿失禁がある女性、産後で尿失禁がない女性、出産経験のない健康な女性を比べた横断研究では、計162人を各群54人ずつ調べた。[2] 横断研究とは、ある時点の状態を群の間で比べる研究である。産後や尿失禁という条件を含むため、18〜39歳の女性全般にそのまま当てはめるには、出産経験や症状の違いを考える必要がある。筋肉の違いと症状の関係を探れるが、どちらが先に起きたかを決める設計ではない。

研究では腹部からの超音波で、安静時、最大の深呼吸、最大の随意的な咳の際の動きを評価した。横隔膜は呼吸に関わる筋肉で、この研究では移動する距離や厚さも評価対象となった。[2] 腹筋だけを切り取らず、呼吸に関わる部分と骨盤底を併せて見ている点が、この検索の疑問に近い。

最大限に深く息を吐き終えた時点で、腹横筋の厚さの変化は尿失禁のある産後群が26%、尿失禁のない産後群が59%、出産経験のない群が62%だった。[2] 腹横筋は腹部を構成する筋肉のひとつである。ここでの数字は、動作に伴って厚さが変わった割合であり、筋力の点数でも、ピラティスによって筋肉が増えた割合でもない。

同じ深い呼気の終わりで、骨盤底の活動として測定された動きは、尿失禁のある産後群で5.4 mm、尿失禁のない産後群で3.2 mm、出産経験のない群で3.0 mmだった。[2] 腹筋の厚さの変化は小さく、骨盤底側の動きは大きかった。この組み合わせは、ひとつの数字が大きければ全体として優秀、という読み方に待ったをかける。

最大深呼吸の際の横隔膜の移動距離も、尿失禁のある産後群で44.8 mm、出産経験のない健康な群で57.1 mmと違いがあった。[2] 研究者はこうした所見から、体幹の筋肉の協調の乱れが産後の尿失禁に関わる可能性を示している。[2] 原因を腹横筋だけに決めた結論ではなく、複数の筋肉の働き方を見ようという結果である。

なお、これらの具体的な数値は深い呼吸の課題で得られた値だ。[2] 研究に咳の測定も含まれているからといって、「咳のときの腹筋が26%しか動かなかった」と書き換えると、測定場面が変わってしまう。検索語が咳だからこそ、深呼吸の数字と咳の結果を混ぜずに読むことが大切になる。

咳そのものの協調を比べた別の臨床評価研究もある。尿失禁のない女性40人と、尿失禁のある女性40人を対象に、寝た姿勢、座位、立位で腹部と骨盤底の働きを調べた。尿失禁のない群では、どの姿勢でも咳の際の骨盤底と下腹部の協調が有意に良好だった。[3] 18〜39歳の女性のピラティスによる改善を直接検証した結果としては使えない。これは運動を割り付けて改善を検証した試験ではなく、群間の協調を評価した研究である。

この研究で使われたのは、目で動きを観察する評価と、指で触れて強さや速さ、持久力などを調べる評価である。[3] 専門家が複数の側面を確認した結果を、家でお腹を触った硬さだけで再現することはできない。咳のあとに硬かった場所を探しても、筋肉同士の協調の判定とは別の行為になる。

咳を助ける試験は、タイミングと測る結果が鍵になる

腹筋を働かせたときに咳の出力がどう変わるかは、脊髄損傷者を対象とした試験が具体的である。15人を対象にしたランダム化クロスオーバー試験では、腹筋への機能的電気刺激と随意的な咳を組み合わせて、6週間の訓練を行った。[19] この患者群への医療的な介入結果は、18〜39歳の健康な女性が行うピラティスへそのまま当てはめられない。機能的電気刺激とは、電気刺激で筋肉の収縮を助け、動作に結び付ける方法である。

電気刺激を加えたその場の比較では、咳の胃内圧は20倍、食道内圧は4倍、咳の最大呼気流量は50%増加した。[19] 大きな数字だが、出発点は腹筋麻痺のある人の咳である。健康な人が腹筋を意識すれば同じだけ強くなる、という倍率ではない。対象を外すと、正しい数字まで別の意味になってしまう。

さらに訓練前後では、刺激を伴う咳の最大呼気流量が3.1 L/sから3.6 L/sへ増加した。[19] 最大呼気流量とは、息を吐き出す流れの最も大きい値である。その場で刺激を加えた変化と、訓練期間を経た変化は分けて考える必要がある。前者の50%と後者の実測値をつなぎ、長期の効果を表す単一の数字にはできない。

咳を助ける研究には、力を出す時刻を本人が選べるかを調べたものもある。頸部の脊髄損傷者14人を対象に、介助者による腹部の圧迫、電気刺激などを比較した試験では、補助によって最大呼気流量は平均25%増加し、ばらつきを示す値は±27%だった。補助方法同士の有効性には有意差がなかった。[18] 頸部の脊髄損傷者への補助を比べた結果であり、18〜39歳の健康な女性の呼吸練習の優劣を示すものではない。

鼻から息を吸う動きを合図に電気刺激を作動させる方法は、この試験で調べた麻痺のある参加者全員が自分だけで起動できる方法だった。[18] 最大の出力だけを見れば方法間に差がなくても、誰が操作できるかには違いがある。研究でいう良い結果は、筋肉の強さの順位だけでは決まらないのである。

数字で読む腹筋と咳の研究

162人:産後の尿失禁の有無と出産経験で分けた横断研究の参加者数。[2]

26%・59%・62%:最大深呼気の終わりにおける各群の腹横筋の厚さの変化。咳の値ではない。[2]

40人ずつ:咳の際の下腹部と骨盤底の協調を比べた、尿失禁のない群とある群の人数。[3]

15人・6週間:電気刺激と咳を組み合わせた、脊髄損傷者の訓練試験の対象と期間。[19]

3.1から3.6 L/s:同試験で訓練前後に測った、刺激を伴う咳の最大呼気流量。[19]

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