女性の筋トレ中、顔つきが険しくなるのは力が出ている証拠なのか。腕の運動や自転車運動の研究から、表情と疲労、本人が感じるきつさの関係を読む。顔をしかめると力が増すという話と、負荷に伴って表情が変わるという話を分け、鏡や動画を見るときの着眼点も考える。
ダンベルを持ち上げるとき、眉間にしわが寄ったら、それは力が出ている証拠だろうか。動画を止めると、腕より先に眉間が目に入る。普段の写真とは違う顔で、こんなに力んでよいのかと気になる。女性の筋トレと顔つきの関係を考えるとき、まず分けたいのは、運動している最中の表情と、日常の顔の形である。腕の運動を調べた試験は、その場の表情と疲労の関係を扱っている。[18]
顔つきは、きつさを知る手がかりになる。これが研究から読める答えの芯だ。男性の腕の運動では終盤に顔の筋活動が増え、男女が参加した自転車運動でも顔の筋活動と本人のきつさが関連した。どちらも、しかめる表情を作らせて力の増加を確かめた結果とは区別する必要がある。[3][18]
かっこよく見える表情を、運動の合格条件にしなくてよい。これから読むのは、顔を整える方法ではなく、体が動いている間に顔から何を読み取れるかという話だ。鏡の中の顔だけを採点する前に、研究が測った腕の運動、筋肉の電気信号、本人の申告を並べてみたい。[3][18]

顔つきの変化は、筋トレのどの場面で測られたか
筋トレに直接近い研究は、健康な男性11人が腕を曲げる運動を行った試験である。平均年齢は23歳で、年齢のばらつきを示す値は±6歳だった。使った重さは、1回持ち上げられる最大重量を表す1RMの50%と85%。それぞれの条件で筋肉が疲労するまで続け、最初の反復と続けられなくなる時点を比較した。男性11人という小規模な試験のため、18〜39歳の女性に同じ表情の変化や負荷の判断基準をそのまま当てはめられるかは、別に確かめる必要がある。[18]
ここでいう50%は、誰もが同じダンベルを持ったという意味ではない。基準となる最大重量に対してどの程度の重さかを表す値である。85%の条件も同様だ。このように基準をそろえて、軽めの重さで続けた終盤と、重めの重さで続けた終盤の顔を比べている。顔が険しい人ほど重い物を持てる、という人同士の順位づけをした試験ではない。[18]
研究者は顔を撮影し、表情の動きを分類する仕組みで評価した。その中で注目したのは口角を引く動きで、活動の程度を0〜5点で採点した。経験のある評価者5人が、盲検で動画を判定している。表情の印象を「すごく頑張っていそう」で済ませず、特定の動きに分けて点数をつけたところが、この試験の特徴だ。[18]
さらに、頭部と頬の筋肉の活動を表面筋電図で測った。表面筋電図は、皮膚の表面から筋肉の活動に伴う電気信号を記録する方法である。この試験では、動画の採点だけでなく、頭部の筋と口角を引く大頬骨筋の信号を同時に追っている。見た目の変化と、筋活動の変化を別々の測定から照らし合わせたのである。[18]
最初から最後の反復にかけて、頭部の筋活動は両方の重さで有意に増えた。大頬骨筋の活動も、50%と85%の両条件で有意に増えている。その変化の効果量dは、50%の条件で2.67、85%で0.50だった。これは変化の大きさを示す指標であり、筋力がその倍率で増えたという意味ではない。[18]口角の動きの採点と大頬骨筋の信号のピークには、相関係数r=0.61の関連があった。相関とは、測定値が一緒に変わる程度を表すもので、ここでは顔の採点と電気信号が結びついていた。[18]
ただし、口角を引く動きは、普段の会話なら笑顔を思い浮かべる動きでもある。研究では運動中の筋活動として評価されている。口元の形だけを見て、楽しさや余裕を判定するのは早い。写真の顔が笑っているようでも、測定された場面は筋肉が疲労するまで腕を動かした終盤なのである。顔の写真と、その瞬間の課題は一緒に読む必要がある。[18]
女性の筋トレの疑問に使う際には、対象にも線を引く。この腕の試験に参加したのは男性である。女性にもまったく同じ程度の変化が起きる、あるいは同じ採点で負荷を決められる、と一般化はできない。その一方で、男女を含む別の運動研究は、顔ときつさの関係を考える補助になる。筋トレの結果と自転車の結果を混ぜずに読むのが出発点だ。[3][18]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
眉間とあごは、本人のきつさと一緒に変わる
自転車運動の研究では、男性18人と女性15人が、負荷を段階的に増やしながら限界まで運動した。記録したのは、眉間を寄せる皺眉筋、あごの咬筋、太ももの外側広筋の筋活動と心拍数である。咬筋は噛む動きに関わる筋、外側広筋はこの運動で働く脚の筋として測定された。顔だけを独立して調べた試験ではなかった。男女を含む結果だが、18〜39歳の女性の筋トレにも同じ関係が成り立つかは、自転車運動とは分けて確かめたい。[3]
参加者は、各段階の終わりの30秒間に、運動をどの程度きつく感じたかを尺度で答えた。このように本人が感じる努力の程度を数値で表すものを、主観的運動強度と呼ぶ。外から見える表情に加えて、運動している本人に尋ねた答えを持つことで、顔の変化と体感の関係を調べられる。[3]
負荷が上がると、心拍数と顔・脚の筋活動は増え、主観的なきつさと強く関連した。顔の筋活動は高強度で有意に増え、とくに咬筋の活動は心拍数、本人のきつさ、脚の筋活動と強い正の相関を示した。正の相関とは、一方の値が大きいほど他方も大きい傾向を指す。あごの活動は、脚が働く運動の努力感と結びついていた。[3]
ここで結果の向きを読み違えないようにしたい。負荷を上げながら表情ときつさを測ったのであり、顔だけを変えて同じ負荷が楽になるかを比べたのではない。あごを噛みしめる表情は努力の程度を推定する手がかりとして扱われた。歯を強く噛めば脚の力が増す、という実践法に読み替えると、試験が答えた問いを越えてしまう。[3]
仕事帰りの運動で、いつもより顔がこわばったと気づく場面を想像してみる。そのとき役立つのは、顔を見た感想と、自分の「きつい」を照合することだ。研究も表情を本人の答えと並べていた。顔が険しくなったことだけから、今日は調子が悪い、あるいは十分な運動ができた、と即決する必要はない。表情は本人への質問を始める入口として読める。[3]
別の研究では、男子大学生25人が段階的に負荷を上げる自転車運動を行い、映像から顔の細かな動きを解析した。上唇を上げる、あごを上げる、唇を開く、あごを下げる動きは、運動負荷や心拍数、血中乳酸濃度、本人のきつさと関連し、その相関係数はr=0.314〜0.631だった。顔の下側の動きにも、運動の反応が表れていた。対象は男子大学生であり、18〜39歳の女性にも同じ関連の強さが当てはまるかは、この結果だけでは判断できない。[1]
血中乳酸濃度はこの試験で採用された身体側の測定値であり、表情の動画から直接測ったものではない。映像と身体の測定を同時に持っていたからこそ、両者の関連を調べられた。この違いは、スマホで自分の顔を見るときにも大切である。口が開いている動画を見ただけで、測っていない体内の数値まで分かったことにはならない。[1]
重いほど険しい顔になる、と単純には言えない
腕の試験には、負荷の読み方を考えさせる結果がある。最初の反復では、大頬骨筋の筋活動は85%の重さの方が50%より高かった。ところが最後の反復では、口角の動きの採点にも筋電図の値にも、両条件の間で統計的に有意な差がなかった。同じ試験の中でも、見比べる時点によって結果が変わったのである。[18]
つまり、運動を始めたときの顔と、続けられなくなったときの顔を、同じ物差しで扱いにくい。軽めの重さでも終盤まで続ければ、顔の筋活動が増えていた。重めの重さの最後と軽めの重さの最後が区別できなかった結果は、「険しい顔の方が重い物を持っている」という読み方を支えない。顔には重さだけでなく、その運動の進み具合も関わっている。[18]
有意な差がないという結果は、両条件があらゆる点で同じだという証明でもない。ここで言えるのは、この試験の最後の反復において、測定した口角の採点と筋電図で差が確認されなかったことだ。顔から重量を当てる機能が完成した、と受け取るには飛躍がある。実際の重さと反復のどこを見ているかを添えて読む必要がある。[18]
動画の短い切り抜きでは、その直前までの運動が画面の外に消える。腕の試験は最初と最後を分けて比べたので、そこに意味があった。自分の記録を見るなら、顔のアップだけを残すより、運動の始まりから終わりまでの流れを見たい。これは顔から正確な負荷を推定する手法の提案ではなく、研究と同じように場面を区別して読むための着眼点である。[18]
数字で読む筋トレ中の表情
11人:腕を曲げる試験に参加した健康な男性の人数。女性だけの試験ではない。[18]
50%と85%:腕の試験で使った、最大重量に対する負荷の割合。[18]
r=0.61:口角の動きの採点と、大頬骨筋の筋電図ピークとの相関係数。[18]
男性18人・女性15人:眉間とあごの筋活動を測った自転車運動の対象。[3]
89人:指導者の応対と期待、実際の成績を比べた無作為割り付け試験の対象。[4]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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