ダイエット中の食卓で納豆と枝豆を同じ大豆として選んでいないか。納豆に含まれるビタミンK2を軸に、発酵に使う菌による含有量の違い、血液中の指標と骨密度の違いを研究から読む。日本の観察研究と閉経後女性の試験を照らし、運動する日の食品選びと、服薬中に医師へ相談する場面を考える。
夕食の小鉢を出そうと冷蔵庫を開ける。枝豆の皿と納豆のパックが並んでいる。「どちらも大豆なら、今日はどちらでも同じか」と考える場面だ。食事の好みで選ぶことと、栄養まで同じと考えることは別である。納豆は、発酵した大豆に含まれるビタミンK、とくにビタミンK2の一種であるメナキノン7が研究されてきた食品だ。[3][11]
答えの芯は、納豆を単なる大豆の別の盛りつけとして扱わないことにある。発酵に使う菌の違いによってメナキノン7の含有量が変わるという製造研究があり、食べる習慣と血液中の濃度との関連も報告されている。ただし、この事実は納豆と枝豆の栄養全体の優劣や、体重の減り方を決めるものではない。[6][12]
さらに、血液中のビタミンや骨に関わるたんぱく質の状態が変わることと、骨密度が変わることは同じではない。ノルウェーの閉経後女性を対象とする試験では、納豆由来の成分をカプセルで摂って骨代謝の指標が変わっても、骨量が減る速さには差が出なかった。食品としての納豆を試した結果ではなく、18〜39歳の女性の食卓へそのまま当てはめることはできない。[4]

同じ大豆という名前から、何を分けて考えるか
大豆と大豆食品を扱ったレビューは、大豆を植物性たんぱく質の供給源とし、カルシウムやイソフラボンにも触れている。イソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンに化学構造が似た物質群だ。そのうえで、納豆に含まれるビタミンKがオステオカルシンの活性化に関わると説明している。大豆食品を読むときには、原料の共通点と、加工後の食品に注目した説明を分ける必要がある。[3]
ここで扱う問いは「納豆なら痩せるか」ではない。豆類の満腹感や体重については、既存記事「豆・大豆とダイエットの科学 満腹感が増えても体重は同じように減るのか」に譲る。骨密度と減量の関係は既存特集「減量と骨密度、痩せると骨は弱くなるのか 体重計に映らない変化と運動の役割」に譲り、こちらは日常の納豆と枝豆の選択に絞る。運動する日の食卓で納豆と枝豆を見かけたとき、発酵とビタミンKという軸から納豆の特徴をどう読むかを考える記事である。
たとえば、夕食の副菜を枝豆から納豆に替えた場面を想像したい。料理の名前だけを見て「大豆は摂れた」と考えるのは自然だ。しかし、納豆についての研究で注目されたのは、納豆に含まれるメナキノン7や、それを食べる人の血液中の指標だった。食品群が同じという整理だけでは、その問いが見えなくなる。[6][11]
枝豆に納豆の研究結果をそのまま付けるのも避けたい。納豆の摂取と血中メナキノン7の関連は、納豆を食べたことに対応する結果である。「大豆由来だから」という理由で、食べていない別の食品へ結果を移すことはできない。献立を選ぶ際には、共通の原料だけでなく、どの食品を調べた結果かまで見るのが筋である。[6]
これは、枝豆を食卓から退場させる話ではない。「同じ大豆だからすべて同じ」という考えをほどく話だ。栄養の比較には、比べる成分を先に決める必要がある。ビタミンKに注目する日と、料理として食べたいものを選ぶ日は、食卓での判断の軸が違ってよい。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
発酵した納豆のビタミンKは、菌によっても変わる
メナキノン7は、論文ではMK7と略されることが多いビタミンK2の一種である。納豆を用いた臨床試験は、通常の納豆と、メナキノン7の含有量を高めた納豆を区別して扱っている。つまり「納豆」と書いてあるだけで、研究で使った食品の条件がすべて同じになるわけではない。[11]
発酵に使う菌を調べた製造研究では、従来の商業用菌株よりメナキノン7の生産性が2倍高い納豆菌株が作られた。その菌で作った納豆の含有量は100g当たり1,719μgと報告されている。研究の対象は、人の骨密度ではなく、菌の生産性と作られた納豆の性質である。[12]
この数字から読み取れるのは、発酵食品の栄養成分を考えるとき、使う菌が条件になるという点だ。「発酵したから栄養が全部増える」という一般論では広すぎる。調べられたのはメナキノン7の生産性であり、食品のあらゆる栄養素が同じ割合で増えたという結果ではない。[12]
別の臨床試験では、通常の納豆はメナキノン7が100g当たり775μg、含有量を高めた納豆は1,298μgまたは1,765μgという条件で用いられた。男性の参加者が順にこれらを食べ、血液中のメナキノン7や骨代謝に関わる指標が調べられている。男性での試験なので、18〜39歳の女性にも同じ指標の変化が起こるかは別に確かめる必要がある。値は研究で用いた納豆の値として読むべきである。[11]
製造研究の1,719μgと臨床試験の775μgを並べて、普段買う納豆の栄養を推算することはしない。別の条件で作られた食品の数字だからだ。同じ名称の食品でも、研究に使った試料を確かめると話が具体的になる。食卓の納豆と論文の納豆を、名前だけで重ねないことが大切になる。[11][12]
とくに「納豆は発酵食品だから骨に良い」という短い説明では、製造から体内の変化までがひと続きになってしまう。菌が成分を作る段階、食べた後に血液中の濃度が変わる段階、骨密度を測る段階は分けて読める。途中の段階で確認された結果を、最後の段階の保証にしない。[4][11][12]
血液の数字は、骨の数字の手前にある
オステオカルシンは、骨に関わるたんぱく質である。ビタミンKは、このたんぱく質がカルボキシル化という化学的な変化を受ける過程に関わる。研究では、カルボキシル化されたものと、十分にカルボキシル化されていないものを分けて測っている。後者を未カルボキシル化オステオカルシンと呼ぶ。[3][4][9]
名前が長いので、ここでは「血液中で調べる骨代謝の指標」と押さえるとよい。これは骨そのものを撮影して量を測った数字ではない。ノルウェーの閉経後女性の試験でも、血液中のオステオカルシンの状態と、股関節や腰椎などの骨密度は別々に評価された。18〜39歳の女性の変化へ直接置き換えず、測った指標を分けて読む必要がある。[4]
納豆を用いた小規模な臨床試験では、男性8人が異なる含有量の納豆を7日間の間隔で順に摂った。メナキノン7の含有量を高めた条件で、血中メナキノン7とカルボキシル化オステオカルシンの有意な上昇が報告され、最も高い含有量の条件では未カルボキシル化オステオカルシンも有意に低下した。男性8人の結果だけで18〜39歳の女性の反応を予測することはできない。[11]
食べた後に体内の指標が変わったという結果には意味がある。ただし、少人数の男性の試験を、そのまま運動を始めた女性全員の骨密度の変化に置き換えない。どの納豆を食べ、何を測ったかがこの試験の読みどころである。食べる量を自分で増やす根拠にするより、食品中の成分と血液中の状態がつながる例として読むのが適切だ。[11]
若い日本人の研究もある。健康な若年成人189人を調べた観察研究では、納豆からのビタミンK摂取と血中メナキノン7濃度に有意な相関があった。野菜からの摂取は、別の形である血中ビタミンK1濃度と相関していた。また、総ビタミンK摂取量と未カルボキシル化オステオカルシンの比率には負の相関がみられた。[6]
この研究は、若い人にも納豆と血中指標の関連がみられることを示す。一方、摂取量を無作為に割り付けた試験ではないため、納豆を足せば誰でも同じ変化が起こると断定するものではない。さらに、ビタミンKに関わる酵素の遺伝子型によって関連の現れ方も調べられた。食品が同じでも、体内での反応を一律に扱わない視点がある。[6]
研究の数字を読むときには、血中濃度が高いこと、たんぱく質の状態が違うこと、骨密度が高いことを、それぞれ別の結果として並べたい。若年成人の研究は摂取と血中指標の相関を扱い、骨密度の変化を追う試験とは問いが異なる。[6] たとえば朝の食卓で納豆を選んだとき、「この食品にはどんな成分があるか」と考えるのはよい。その答えに「だから将来の骨密度も決まる」をつなげるには、別の検証が必要になる。身近な食品ほど、よく知っている感覚と研究が確かめた範囲を区別したい。[4][11]
数字で読む納豆とビタミンK
6研究・2,327人:日本の納豆摂取を統合したメタ分析の対象。観察研究と準実験が中心である。[1]
100g当たり775μg:小規模臨床試験で使った通常の納豆のメナキノン7含有量。すべての納豆の代表値ではない。[11]
100g当たり1,719μg:生産性を高めた菌株で作った納豆の値。人への効果量ではない。[12]
189人:若い日本人のビタミンK摂取と血中指標を調べた観察研究の対象者数。[6]
334人・12か月:閉経後女性の無作為化試験。骨量減少の速さに群間の有意差はなかった。[4]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







