女性の胸筋トレは手幅で何が変わる?押す動きの胸と腕の負担を読み解く

女性の胸筋トレで手を広げるか狭めるか迷ったら、胸と腕の筋活動、肩と肘の負担、動作の速さを分けて考えたい。ベンチプレスと腕立ての比較研究をもとに、女性を対象とした試験の結果や、研究で差が出た点と出なかった点を整理し、自分の手幅を選び直すための見方を示す。

自宅の床に手をつく。動画の人より手を広げてみると、「胸に効く形」になった気がする。ところが、実際に押してみると腕のほうが先に疲れる。女性の胸筋トレで迷いやすいのは、手の位置を変えたつもりが、重さも速さも動く範囲も一緒に変わってしまうことだ。

手幅は、共同で押す胸と腕の働きの配分を変える条件である。広い幅は胸専用、狭い幅は腕専用という切り替えにはならない。ベンチプレスの比較実験では、狭い幅で肘側、広い幅で肩側の負担が大きくなった。一方、胸と腕の筋活動の比率にほぼ差がなかった実験もある。[2][1]

女性の経験者を対象とした試験では、手幅よりも動作のテンポが運動量に影響した。[20] 手を置く場所は大切だが、それだけで運動の成績は決まらない。既存の「美しいバストラインは筋トレから、バストアップを成功させる効果的な筋トレ法と習慣ガイド」には見た目をめぐる話を譲り、ここでは押す動きの胸と腕の負担に問いを絞る。

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手幅は「胸か腕か」の切り替えスイッチではない

ベンチプレスは、ベンチに横たわってバーを押し上げる運動だ。研究では胸の大胸筋と、肘を伸ばす上腕三頭筋などの筋活動が測られている。[1][2] 本文でいう筋活動とは、筋肉の働きに伴う電気的な信号を筋電図で捉えたものを指す。手幅ごとの筋電図を比較することで、その場の動きでどの筋肉がどのように働いたかを調べている。[1][5]

筋力トレーニングをしている成人を対象とした実験では、どの手幅のベンチプレスでも肘と肩の筋肉には高い努力が求められた。[2] 「狭い手幅だと胸は休みになる」と考えると、この結果を取りこぼす。胸と腕が共同で押す動きの中で、配分に違いが生じるという見方が近い。[2] 対象は筋力トレーニング経験のある成人であり、18〜39歳の女性への適用は、その人の経験や行う種目と照らして考える必要がある。

この実験に参加したのは筋力トレーニング経験のある成人35人である。各種のベンチプレスについて、6〜8回が限界となるセットを行い、筋電図と関節に働く力の指標を測った。手幅が狭くなると肘の関節モーメントが大きくなり、上腕三頭筋の外側部分、肩前面の三角筋、大胸筋の鎖骨側の活動が増えた。[2] 狭い幅で増えたのは、腕の筋活動だけではない。

反対に広い幅では、肩の関節モーメントと、大胸筋の腹部側の活動が大きくなった。[2] 同じ「胸」という言葉でも、測る部分によって結果が異なる。この結果を日常の動作に移すときも、胸全体が一様に増える、という読み方は避けたい。胸か腕かの選択より、押す動きの中で肩と肘が受け持つ仕事の違いを読むほうが、結果に忠実である。[2]

ただし、これは動作中の比較実験だ。著者は手幅によって筋力や筋肥大の適応が異なる可能性を述べているが、ここで示された直接の結果は筋活動と関節モーメントの違いである。[2] 今のセットで大きく働いたことと、続けた先でどれだけ筋肉が大きくなるかは、別の問いとして扱う必要がある。

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肩と肘の負担は、筋電図とは別の窓から見る

関節モーメントとは、関節を回す作用の大きさを表す指標である。成人35人の実験では、この値だけでなく、その人が最大努力で出せる関節モーメントに対する比率も調べている。[2] 重い仕事かどうかと、自分の能力に対して厳しい仕事かどうかを分けて見るためだ。家の荷物を持つ場面でも、荷物の重さと持つ人の余力は同じ意味ではない。

この方法で見ると、広い手幅では肩の関節モーメントだけでなく、最大能力に対する比率も大きくなった。[2] 胸を使うつもりで手を広げたとき、肩側にも要求が増えている可能性がある。筋肉の電気信号を比べる窓と、関節が受け持つ仕事を比べる窓を、両方開けておく意味はここにある。[2]

さらに、バーに加わる力は上向きだけではなかった。経験者の男性7人と未経験者の男性7人を対象とした実験では、81cmの広い手幅と40cmの狭い手幅を比較した。10回が限界となる重さで行った全反復の平均では、広い幅で外向き、狭い幅で内向きの力が加わっていた。[1] 男性を対象とした結果なので、18〜39歳の女性にも同じ力の比率が生じるかは、この実験だけでは判断できない。

上向きの力に対する横方向の力の比率は、広い幅で外向き約30%、狭い幅で内向き約10%だった。[1] 見た目には天井へ押しているだけでも、手は横方向にも力を加えている。バーは真面目に上下しているのに、両手の仕事は上下だけではない。この横方向の力も測ることで、手幅を変えたときの肩と肘の使い方を読み直せる。[1][2]

ただし、これらの研究値は「自分も外向きにこの割合で押す」という練習指示ではない。測定した人たちの動作を説明する数字である。手幅を変えると、外から見える位置だけでなく、力の方向も変わりうることを知るために使いたい。[1] 胸に感じるかどうかだけで手幅を評価すると、こうした仕事の違いが見えにくくなる。

「広いほど胸が働く」で一致していない理由

先ほどの男性14人の実験では、大胸筋と上腕三頭筋の筋活動の比率も調べている。経験の有無、押す局面と下ろす局面、疲労の有無を分けた多くの条件で、狭い幅と広い幅に有意差はなかった。例外は未経験者の疲労時の下ろす局面だった。[1] 横方向の力の違いと、胸と腕の活動比の違いは、この実験では一致しなかった。

競技レベルのベンチプレス選手12人を対象とした実験も、この話を単純にしない。6回が限界となるセットで狭い、中間、広い手幅を比較したところ、多くの筋活動に有意差は認められなかった。例外は、狭い幅で上腕二頭筋の筋活動が中間や広い幅より25.9〜30.5%低かった点である。[5] 胸を押す運動の研究で、目立つ差が腕を曲げる側の筋肉に出た。競技選手の結果を18〜39歳の女性に当てはめる際は、競技経験と高負荷の条件を区別する必要がある。

一方、中間や広い幅で扱えた重さは、狭い幅より5.8〜11.1%大きかった。[5] 扱えた重量の増加率は、胸の筋活動の増加率を表していない。バーに載っている重量と、特定の筋肉の電気信号は、違う指標なのである。この試験の対象は競技選手だ。そこでの高負荷トレーニングへの提案を、床で腕立てを始める人の標準手幅とすることもできない。[5]

初心者と経験者の男性28人を比較した研究では、広い手幅ほど上腕二頭筋の活動が増え、広い幅の上腕三頭筋の活動は中間や狭い幅より低かった。それ以外の筋肉では、手幅間で似た活動が観察されている。[13] 男性の初心者と経験者の比較であり、18〜39歳の女性でも同じ活動の違いが出るかは、別に確かめる必要がある。 両群とも狭い幅では、6回が限界となる重さがほかの幅より小さかった。[13] 腕側の違いが出やすい点は共通するが、胸の活動については似た結果が得られた。

研究を比べるときは、何を測っているかをそろえる必要がある。胸と腕の活動の「比率」、胸の各部分の「活動」、肩や肘の「関節モーメント」、持ち上げられた「重量」は同じ成績表ではない。[1][2][5] 関節の負担に差があった結果と、筋活動に有意差がなかった結果は、測っている側面を分けて読む。

研究を読む際の限界はここにまとめておく。有意差がない結果は、全員に同じ反応が起こることの証明にはならない。対象者と動作条件が限られた比較であり、筋活動の違いから将来の筋肥大やけがの予防まで判断することもできない。「手幅は負担の配分を変える条件だが、胸の活動への影響は研究条件によって異なる」が、これらの結果を合わせた答えである。[1][2][5][13]

例えば、動画の手幅に合わせてみた日の感想を「胸に効かなかった」だけで終えると、比較した条件が消えてしまう。バーを押したのか、床を押したのか。前回と同じ幅なのか。いつもよりゆっくり下ろしたのか。これらを書き分けると、研究の結果と自分の記録を対応させやすくなる。研究でも、同じ押す運動の中で幅、重さ、テンポを区別して測っている。[5][20]

「胸を鍛えるための幅」を探している人ほど、胸以外の結果を見る価値がある。狭い幅で腕の働きが増えたことは、胸筋トレから外れた証拠ではない。広い幅で肩側の仕事が増えたことも、胸の成績だけで評価できない。[2][13] 手幅の名前に合格や不合格をつけるより、押す動きをどの条件で行ったかを説明できる状態にしたい。

数字で読む胸筋トレの手幅

35人:筋活動に加え、肩と肘の関節モーメントを調べた経験者の比較実験の人数。[2]

81cmと40cm:男性の経験者と未経験者で比較した手幅。万人に勧める幅ではない。[1]

外向き約30%と内向き約10%:広い幅と狭い幅で観察された、上向きの力に対する横方向の力の比率。[1]

5.8〜11.1%:競技選手が中間・広い手幅で扱えた6回限界の重量が、狭い幅より大きかった程度。[5]

20人:手幅とテンポによる運動量の違いを調べた、筋力トレーニング経験のある女性の人数。[20]

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