脂肪燃焼ゾーンは痩せる近道か 運動中に使う脂肪と長期の減量を分けて読む

運動の心拍数が脂肪燃焼ゾーンを外れると、ダイエットには無駄なのか。脂肪酸化の測定研究、24時間の代謝実験、長期の減量試験を照合し、脂肪を使う割合と量、体脂肪の減少の違いを読む。低〜中強度と高強度のどちらにも根拠がある理由と、続ける運動の選び方を立川の暮らしに重ねて考える。

帰宅途中に少し速く歩いた。心拍数を見たら、画面の「脂肪燃焼ゾーン」を上回っている。頑張りすぎると脂肪が燃えないのなら、速度を落とすべきなのか。歩く脚より、表示を読む頭のほうが忙しくなる。

運動中に脂肪を多く使う強度は、実験で測ることができる。しかし、その強度が長期の減量で必ず最良だとするには、別の証拠が必要だ。高強度では糖質が主な燃料になる一方、高強度の運動でも体脂肪の減少は報告されている。[2][4]

ここで読むのは、燃料の測定値から減量の約束へ飛び移る際の段差である。運動の時刻や運動後の食欲は隣の記事に譲り、強度によって変わる「いま使う脂肪」と、続けた先の体重を見比べる。

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脂肪を使う割合と、使った量は別の数字だ

脂肪酸化とは、脂肪由来の燃料をエネルギーとして利用する過程を指す。運動研究では、呼吸に含まれる酸素と二酸化炭素を測る間接熱量測定から、脂肪や糖質の利用を推定する。最大脂肪酸化は、その測定で脂肪を使う速度が最大になる状態であり、量の単位はg/分である。[2][13]

最初に分けたいのは、エネルギーのうち脂肪が占める割合と、時間あたりに使う脂肪の量だ。低強度では脂肪が主な燃料になり、高強度では糖質が中心になるという整理は、運動と脂肪減少を扱ったレビューでも示されている。だが、脂肪の割合が高いという情報だけでは、運動全体の消費量や脂肪を使った総量までは分からない。[4]

たとえば、歩いた後に「脂肪を使う割合が高かった」と聞いたとする。そこで確認したいのは、何を分母とした割合か、どれだけの時間測ったか、という点である。速度としてのg/分と、その運動で使った総量も区別する。最大脂肪酸化を扱うレビューは、運動強度だけでなく運動時間、トレーニング状態、栄養も脂肪酸化に影響すると整理している。[13]

さらに、使われる脂肪の出どころも単純ではない。レビューでは、皮下脂肪組織に由来する脂肪酸だけでなく、筋肉内の脂肪や食事由来の脂肪などが燃料の供給源として挙げられている。呼吸から推定した脂肪利用量を、そのままお腹の脂肪が減った量として読むことはできない。[13]

「燃焼」という言葉は、体に蓄えた脂肪だけを取り出して使う場面を想像させる。実際の測定が教えるのは、その条件のもとで使われた燃料の内訳である。財布から支出した金額と、月末の残高は同じ欄には書かない。脂肪酸化の速度と体脂肪の変化にも、それぞれ別の測定が必要なのだ。[4][13]

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脂肪燃焼ゾーンには実体があるが、万能な境界線ではない

脂肪を使う速度が最大になる運動強度は、最大脂肪酸化強度と呼ばれ、研究ではFATmaxという表記が使われる。脂肪燃焼ゾーンの議論を全部作り話として片づけるのは正確ではない。実験で測定できる特徴がある。ただし、測定可能な特徴と、誰にでも共通する減量の最適値は別である。[2][6]

中程度に鍛えた自転車競技者18人を対象にした測定法の研究では、最大脂肪酸化強度は最大酸素摂取量の64±4%、最大心拍数の74±3%に相当した。最大酸素摂取量とは、運動で取り込める酸素量の最大値である。脂肪燃焼ゾーンは、脂肪酸化速度がピークから10%以内にある範囲として定義され、最大酸素摂取量の55±3%から72±4%だった。研究は検査法の開発を目的とし、段階的に負荷を上げる試験と、消費エネルギーをそろえた一定負荷の試験を比較している。[2]

段階的試験、一定負荷での平均、一定負荷の最初の5分から求めた最大脂肪酸化強度には有意差がなかった。脂肪酸化が高い強度には幅があり、最大脂肪酸化強度より上では速度が大きく低下するという結果である。最大酸素摂取量の89±3%を超えると、脂肪酸化が消費エネルギーに占める寄与はごく小さくなった。ゾーンは脂肪利用の山の近くを囲った範囲であり、境界を越えた瞬間に利用が途切れる線ではない。[2]

機器の帯を自分に重ねるうえでは、個人差を調べた研究が手がかりになる。比較的体力のあるランナー36人、男性20人と女性16人がトレッドミルで限界まで運動する試験を受けた。研究者は各人のグラフから脂肪燃焼ゾーンの上下限を読み取り、脂肪由来のエネルギー利用が時間あたりで最大になる点を求めた。集団の最大脂肪酸化は最大酸素摂取量の54.2%で起きたが、人によるばらつきが大きく、ゾーンも最大脂肪酸化も予測するには実験室での測定が必要だと結論した。[7]

このランナーの研究は、脂肪燃焼ゾーンと、有酸素能力を鍛えるための強度帯との関係も調べている。有酸素側の下限には、最大心拍数と安静時心拍数の差である心拍予備能の50%を使い、上限には無酸素性閾値という運動負荷の指標を用いた。両方の帯にはかなりの重なりがあり、脂肪酸化を狙う運動と有酸素能力を鍛える運動は、同じプログラムで取り組めると評価している。[7]

実験室で測れない場合には、最大脂肪酸化が最大心拍数の60.2〜80.0%にあるという幅も示された。狭い一点を指定した結論ではなく、幅を持つ目安である。自転車競技者の研究で示された最大酸素摂取量の割合と、ランナーの研究の心拍数の割合は、対象と基準が異なる。画面にある「%」を読むときには、最大酸素摂取量、最大心拍数、心拍予備能のどれを基準にしているかをまず確かめたい。[2][7]

肥満のある大人では、集団と運動種目で値が変わる

肥満のある人を対象とした系統的レビューとメタ回帰は、64報を選び、最大脂肪酸化とその強度を検討した。メタ回帰とは、研究間の違いに関わる要因を統計的に調べる方法である。対象の84%は40〜60歳であり、競技者の小規模な測定研究とは読者に近い年齢層が多い。[6]

このレビューで報告された最大脂肪酸化速度の範囲は0.27〜0.33g/分だった。最大脂肪酸化強度での歩行速度は4〜5.1km/時、出力は42.8〜60.2Wと報告された。歩行では速度、自転車などでは出力が負荷の指標となる。[6]

解析では、年齢、体格を表す指標、心肺体力、運動器具の種類、脂肪酸化を計算する式などが測定値の違いに関係した。トレッドミルでの歩行は固定式自転車より最大脂肪酸化速度が高かったという結果もある。強度に加えて、対象の体格や測定方法が結果を左右していた。[6]

心拍数については、体脂肪率が35%を超える集団でピーク心拍数の61〜66%、35%未満の集団で57〜64%を推奨している。これは肥満のある人の脂肪酸化を最大化するための集団別の提案である。自転車競技者の研究とは対象や指標が違い、家庭の画面に出る心拍数の帯と一致することを確認した研究でもない。[2][6]

レビューは、相対的な酸素摂取量より相対的な心拍数を基準値に用いることを支持した。研究が提案した基準の目的は、運動中の脂肪酸化の最大化である。呼吸で測る燃料の速度と、長期間で測る体重の変化は、研究の問いから区別する必要がある。[6][10]

対象の体力と検査方法も、数値の背景にある。このレビューの対象の81%は心肺体力が低い人だった。最大脂肪酸化強度での相対的な心拍数の個人内変動は8.8%で、相対的な酸素摂取量の17.2%より小さかった。この比較が、基準値に心拍数を用いるという結論を支えている。また、脂肪酸化の最大値は若者や中年の大人より青少年で高く、同程度の脂肪酸化を得るには大人の運動量を多くする必要があると論じている。運動量の提案にも対象の違いが反映されている。自分の歩行に照らす際には、歩行の研究か、自転車の研究かを区別すると、速度と出力を取り違えずに読める。[6]

数字で読む脂肪燃焼ゾーン

18人:中程度に鍛えた自転車競技者で、最大脂肪酸化強度の測定法を検討した主要対象。[2]

64±4%:自転車競技者の解析で最大脂肪酸化強度に相当した最大酸素摂取量の割合。[2]

0.27〜0.33g/分:肥満のある人を扱った系統的レビューで報告された最大脂肪酸化速度の範囲。[6]

400kcal:低強度と高強度の日で運動の消費量をそろえ、24時間の代謝を比較した実験条件。[15]

519人:過体重・肥満の大人の最大脂肪酸化へのトレーニング効果を調べた13研究の合計対象者数。[14]

24週間:重度肥満の患者で、中強度の運動と高強度を組み合わせた運動を比較した無作為化試験の期間。[10]

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