連載「研究が示す『続く条件』」全10回の第5回です。
高温の部屋で行うヨガは、日本でも一般的な選択肢になりました。「汗が出る」「体が柔らかくなる」「消費エネルギーが多い」といった説明を見かけます。では、温度を上げることで実際に何が変わり、何は変わらないのでしょうか。
この回の問いは一つです。室温は、スタジオを選ぶときの判断基準として使えるのか。 高温環境そのものの生理学はホットヨガと暑熱生理学のエビデンスで扱っているので、ここでは「常温のクラスと比べてどうか」という比較に絞ります。
結論を先に書くと、加熱は心拍数と体温と発汗を確かに増やすが、酸素摂取量とエネルギー消費は常温と変わらない。血管機能の改善は常温でも同じように得られており、温度が上乗せの効果をもたらすという主張は、現時点では裏づけられていない——これが現時点で最も正確な要約です。

「高温」とは何度のことか
まず用語を揃えます。ホットヨガという語には統一された定義がなく、研究では25度以上の環境で行われるヨガの総称として使われています。この分野の研究43件・参加者942人(76%が女性)を整理した系統的レビューによれば、実際に用いられた条件の幅は次のとおりです。
Willmott AGB, James CA, Jewiss M, Gibson OR, Brocherie F, Mee JA. Hot Yoga: A Systematic Review of the Physiological, Functional and Psychological Responses and Adaptations. Sports Medicine – Open. 2025;11(1):110.
- 室温:30〜52度
- 相対湿度:20〜60%
- 1回の所要時間:20〜90分
- 流派:ビクラム74%、一般的なホットヨガ19%、ハタ5%、ヴィンヤサ2%
- 介入研究の規模:6〜36回を、週2〜6回のペースで、1〜16週間
研究の4分の3がビクラムであることは覚えておく価値があります。ビクラムは40.6度・湿度40%で26の姿勢と2つの呼吸法を決まった順に行う標準化された形式であり、「ホットヨガの研究」の大半は、この特定の形式についての研究です。 温度だけを変えた別の流派に、そのまま当てはめられるとは限りません。
体の中で何が起きているか
加熱によって確実に変わるものがあります。心拍数、体温、発汗量です。
標準化されたビクラムのクラスを、環境チャンバー内で再現して測定した研究があります。18歳から57歳までの24人を、経験の有無で分けて比較したものです。
Pate JL, Buono MJ. The physiological responses to Bikram yoga in novice and experienced practitioners. Alternative Therapies in Health and Medicine. 2014;20(4):12-18.
| 指標 | 初心者 | 経験者 |
|---|---|---|
| 最大心拍数に対する割合 | 72.3 ± 10.6% | 86.4 ± 5.2% |
| 発汗量 | 0.6 ± 0.2 kg/h | 1.1 ± 0.5 kg/h |
| 体重あたりのエネルギー消費 | 3.7 ± 0.5 kcal/kg | 4.7 ± 0.8 kcal/kg |
循環器系の反応を直接測った研究もあります。ビクラムを習慣的に行っている健康な女性16人を対象に、各姿勢の直後に血圧を測り、心拍数を連続記録したものです。平均心拍数は126.6 ± 14.3拍/分、最大で168.1 ± 20.2拍/分に達しました。心筋酸素消費の推定値はベースラインより63.6%増えています。
Miranda Hurtado M, Meza Valladares C, Eblen-Zajjur A, Rodriguez-Fernandez M. Acute Cardiovascular Responses to a Session of Bikram Yoga: A Pilot Uncontrolled Trial. Journal of Alternative and Complementary Medicine. 2019;25(4):398-405.
血圧の動きは注目に値します。収縮期血圧は練習中を通じてベースラインから有意に上昇せず、平均117.0 ± 10.1 mmHg でした。一方拡張期血圧は有意に低下し(-10.1%、平均71.2 ± 7.3 mmHg)、特に後半の床上の姿勢で下がりました。高温で末梢の血管が拡張し、循環血漿量が変化するためだと考えられます。この「拡張期血圧が下がりながら心拍数が上がる」状態が、起立時のふらつきや気分不良が起きやすい生理学的な背景です。

エネルギー消費は増えるのか
ここからが、宣伝と研究がずれる場所です。上記の Pate らの研究は、90分のクラス全体での相対的な酸素摂取量が9.5 ± 1.9 mL/kg/分、絶対的なエネルギー消費が286 ± 72 kcalだったと報告しています。範囲は179から478 kcal です。著者らはこの研究の動機を、「1回で1000 kcal 消費する」という広く流布した主張に科学的根拠がないことだと明記しています。そして全ての姿勢が、米国スポーツ医学会の基準で軽度から中等度の強度に分類されました。
では、加熱がエネルギー消費を押し上げているのでしょうか。同一の配列を高温(40度)と室温(23.3度)で行わせ、湿度を40%に揃えて比較した交差試験があります。
Lambert BS, Miller KE, Delgado DA, et al. Acute Physiologic Effects of Performing Yoga in The Heat on Energy Expenditure, Range of Motion, and Inflammatory Biomarkers. International Journal of Exercise Science. 2020;13(3):802-817.
結果は明快です。平均酸素摂取量、最高酸素摂取量、最大酸素摂取量に対する割合、心拍数、消費カロリーのいずれにも、高温と室温で差がありませんでした。 差が出たのは代謝の中身のほうで、呼吸交換比が高温で低く(0.95 ± 0.02 対 0.89 ± 0.02)、脂肪の酸化量が高温で多く(0.05 ± 0.01 対 0.09 ± 0.01 g/分)、糖の酸化量が少なくなっていました。ただし総量が同じである以上、これは「多く燃える」ではなく「燃える中身が入れ替わる」という話です。
強度の面でも同じ示唆があります。Dysart らが地域のヨガ教室で、テンポと温度を変えた4種類の1時間のクラスを心拍計つきで測った研究では、中等度強度に達していた時間はクラス全体の平均32.75%でした。そしてテンポ・温度・元の活動量のいずれも、中等度から高強度の時間と有意に関連していませんでした。
同じ動作を常温でやったら
選択の判断に最も直接効くのは、温度だけを変えた無作為化比較試験です。座位中心の40〜60歳の成人52人を、40.5度でのビクラム、23度でのビクラム、対照の3群に無作為に割り付け、90分のクラスを週3回、12週間続けた研究があります。
Hunter SD, Laosiripisan J, Elmenshawy A, Tanaka H. Effects of yoga interventions practised in heated and thermoneutral conditions on endothelium-dependent vasodilatation: The Bikram yoga heart study. Experimental Physiology. 2018;103(3):391-396.
血管内皮の機能(上腕動脈の血流依存性血管拡張反応、FMD)は、常温群で有意に改善し(P<0.05)、高温群では改善傾向にとどまりました(P=0.056)。そして群間で変化量に有意差はありませんでした。著者らの結論は率直です——ハタヨガの姿勢そのものが血管の健康を改善するのであって、加熱された環境は必須ではない。
同じ試験群で動脈の硬さ(上腕-足首脈波伝播速度)も測られましたが、高温・常温のいずれの介入でも有意な変化はありませんでした。
一方で、加熱でしか出なかった差もあります。上の試験では体脂肪率が高温群でのみ有意に低くなりました。別の4週間の比較試験(41度・湿度40%、週3回)では、最大有酸素能力の向上が高温群でのみ認められ、細胞の熱ショックタンパク質70の発現も高温群でのみ高くなっていました。ただし同じ研究は、暑熱順化の証拠は認められず、精神的ストレスの指標にも変化がなかったと報告しています。
Bourbeau KC, Moriarty TA, Bellovary BN, et al. Cardiovascular, Cellular, and Neural Adaptations to Hot Yoga versus Normal-Temperature Yoga. International Journal of Yoga. 2021;14(2):115-126.
参加者は22人です。この規模で得られた差を、施設選びの根拠にするのは重すぎます。

加熱そのものに効果はあるか
視野を広げると、もう一つの手がかりがあります。Hamaya らが、サウナや温浴などの受動的な加熱を1週間以上続けた無作為化比較試験20件を統合したメタ分析です。
結果は、FMD、脈波伝播速度、安静時心拍数、心拍変動、空腹時血糖、HbA1c、総コレステロール、中性脂肪、C反応性蛋白のいずれについても、統合された有意な効果は認められませんでした。収縮期血圧の統合推定値は-2.46 mmHg(95%信頼区間 -5.02〜0.10)で、有意ではありません。全身を加熱する介入に限った部分集団では-4.11 mmHg(95%信頼区間 -7.36〜-0.86)、冠動脈疾患のリスクや心血管疾患を持つ人に限った部分集団では-2.52 mmHg(95%信頼区間 -4.26〜-0.79)と、有意な低下が観察されました。ただし著者らは異質性の高さ(I二乗=60.3%)と研究の限界を理由に、慎重な解釈を求めています。部分集団の解析は、あらかじめ決めておかない限り、偶然の当たりを拾いやすい——この点は第10回で詳しく扱います。
つまり「体を温めること自体が広く健康に効く」という前提も、無作為化試験のレベルでは支持されていません。
柔軟性は増えるか
「温めると体が柔らかくなる」という説明は、部分的にしか支持されていません。Lambert らの交差試験では、肘・肩・股・膝の可動域の急性の変化は両条件で同程度でしたが、股関節の外転だけは高温で大きくなりました(室温 2.3 ± 1.3度、高温 6.6 ± 1.5度)。一方で、炎症性サイトカインの一つであるIL-6は高温条件でのみ15.5 ± 8.0倍に上昇しています。急性の生体反応としては、可動域の小さな利得と、炎症反応の大きな上昇が同時に起きていることになります。
この回の数字が、連載の中でどの位置にあるか
ここまでの4回と比べて、第5回には方法論上の長所があります。温度は、施設選びに関わる要素の中で、ほぼ唯一きちんと無作為化できたものだったということです。
第1回で見た継続率も、第2回の指導者の資格も、第4回のケガの分布も、すべて本人が選んだ結果を後から観察したものでした。しかし温度は違います。Hunter らの試験では、同じ配列・同じ指導者・同じ回数のクラスを用意し、参加者を40.5度の部屋と23度の部屋にくじ引きで割り付けました。したがって「常温群でも血管機能が改善し、群間に差がなかった」という結果は、自己選択では説明できません。 この連載の中で、最も因果に近い形で得られた所見です。
逆に言えば、観察研究でホットヨガの効果を見たとき、それが過大に出る理由も推測できます。高温の環境を選んで通い続けられる人は、暑さに耐えられる人であり、発汗を好み、体力に余裕がある人です。 そういう人たちの健康指標が良いのは、部屋の温度のせいとは限りません。無作為化された比較で差が消えたという事実は、この自己選択の大きさを裏側から示しています。
ただし、無作為化しても消せない問題が一つ残ります。盲検化です。 室温が40度か23度かは、参加者にも指導者にも隠せません。したがって、期待や思い込みが結果に影響する余地は残り続けます。主観的な指標——気分、満足感、ストレスの自己評価——については、この限界が特に重くのしかかります。
この証拠の限界
系統的レビューの著者らが挙げている限界を、そのまま引きます。ホットヨガが他の形式のヨガや通常の運動より大きな健康上の利益をもたらすという主張は、現時点では裏づけられていない。 利益を報告している研究の多くは、機序に踏み込める強固な実験計画や測定法を用いていない、というのが彼らの評価です。
個別の問題も3つあります。第一に標本が小さいこと。温度を比較した試験の参加者は22人から54人です。第二に参加者が健康な成人に偏っていること。系統的レビューの942人のうち76%が女性で、持病を持つ人のデータは限られます。第三に盲検化が不可能なこと。室温が40度か23度かは参加者にも指導者にも明らかなので、期待の効果を排除できません。
なお同レビューは、腎機能や睡眠の質に悪影響を及ぼさずに適応が生じるとしつつ、ホットヨガの実践後の体調不良を報告した症例報告があることを理由に注意を促しています。
この回から言える判断材料
- 温度をエネルギー消費の理由にしない。 同じ配列を高温と室温で行った比較で、酸素摂取量・心拍数・消費カロリーに差はなかった。90分のクラスの消費は平均286 kcal である。
- 血管の健康が目的なら、温度は決め手にならない。 12週間の無作為化比較試験で、血管内皮機能の改善は常温群で有意、高温群は傾向にとどまり、群間差はなかった。これは無作為化された比較であり、この連載の中でも強い部類の証拠である。
- 循環器系の負荷は明確に上がる。 平均心拍数126.6拍/分、最大168.1拍/分に達し、拡張期血圧は10.1%低下する。血圧の薬を使っている方、心疾患・妊娠中・脱水しやすい方は、選ぶ前に主治医に確認する。
- 初心者と経験者で負荷がまるで違う。 最大心拍数に対する割合は初心者72.3%・経験者86.4%、発汗量は0.6 kg/h と 1.1 kg/h。初回のクラスを経験者の基準で受けない。
- 柔軟性の利得は限定的で、炎症反応は大きい。 可動域の差が出たのは股関節外転だけで、IL-6は高温条件でのみ15.5倍に上がった。
- 「ホットヨガで健康になった人が多い」という観察は割り引いて読む。 高温環境を選んで通い続けられること自体が、暑さへの耐性と体力の余裕を示している。無作為化すると温度の差は消えた。
- 高温か常温かは、効果の大小ではなく「続けられるか」で選ぶ。 第1回で見たとおり、継続こそが効果の前提である。暑さが苦痛なら続かず、心地よければ続く。判断材料としてはそれで十分である。
次回予告
第6回は「価格と契約——支払い方は継続を変えるか」を扱う。月額制と回数券、長期契約と短期契約で、通う頻度と継続期間がどう変わるのかを、行動経済学と施設の実データの両方から読む。
この連載の全10回
- 第1回|なぜ人は辞めるのか——運動の継続率が示す数字
- 第2回|指導者の資格は何を保証するのか
- 第3回|クラスの人数と監督——集団指導で失われるもの
- 第4回|ケガはどこで起きるか——場面・姿勢・経験年数
- 第5回|高温環境は選択基準になるか(この記事)
- 第6回|価格と契約——支払い方は継続を変えるか
- 第7回|オンラインと対面——効果と継続率の比較
- 第8回|立地と時間帯——通いやすさは継続を決めるか
- 第9回|目的で選び方は変わるか——腰痛・不眠・体力向上
- 第10回|主張の見分け方——「科学的に証明された」をどう読むか
出典
- Willmott AGB, James CA, Jewiss M, Gibson OR, Brocherie F, Mee JA. Hot Yoga: A Systematic Review of the Physiological, Functional and Psychological Responses and Adaptations. Sports Medicine – Open. 2025;11(1):110.
- Pate JL, Buono MJ. The physiological responses to Bikram yoga in novice and experienced practitioners. Alternative Therapies in Health and Medicine. 2014;20(4):12-18.
- Miranda Hurtado M, Meza Valladares C, Eblen-Zajjur A, Rodriguez-Fernandez M. Acute Cardiovascular Responses to a Session of Bikram Yoga: A Pilot Uncontrolled Trial. Journal of Alternative and Complementary Medicine. 2019;25(4):398-405.
- Lambert BS, Miller KE, Delgado DA, et al. Acute Physiologic Effects of Performing Yoga in The Heat on Energy Expenditure, Range of Motion, and Inflammatory Biomarkers. International Journal of Exercise Science. 2020;13(3):802-817.
- Dysart A, Harden SM. Effects of Temperature and Tempo: Evaluating How Much Time in a Typical Community-Based Yoga Class Is Moderate-Intensity Aerobic Activity. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2023;20(3):2349.
- Hunter SD, Laosiripisan J, Elmenshawy A, Tanaka H. Effects of yoga interventions practised in heated and thermoneutral conditions on endothelium-dependent vasodilatation: The Bikram yoga heart study. Experimental Physiology. 2018;103(3):391-396.
- Hunter SD, Laosiripisan J, Elmenshawy A. Effects of heated and thermoneutral yoga interventions on arterial stiffness in middle-aged adults. Complementary Therapies in Medicine. 2018;40:113-115.
- Bourbeau KC, Moriarty TA, Bellovary BN, et al. Cardiovascular, Cellular, and Neural Adaptations to Hot Yoga versus Normal-Temperature Yoga. International Journal of Yoga. 2021;14(2):115-126.
- Hamaya R, Joyama Y, Miyata T, et al. Non-acute effects of passive heating interventions on cardiometabolic risk and vascular health: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. American Journal of Preventive Cardiology. 2025;23:101082.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。高温環境での運動は循環器系と体液バランスに負担をかけます。高血圧・心疾患・不整脈・糖尿病・腎疾患のある方、降圧薬や利尿薬を使用中の方、妊娠中の方、体調のすぐれない方は、参加の可否について事前に医療機関にご相談ください。練習中にめまい、吐き気、頭痛、動悸、冷や汗が生じた場合は直ちに中止し、涼しい場所で休んでください。






