連載「研究が示す『続く条件』」全10回の第6回です。
月々の費用をどう払うかは、施設を選ぶときに必ず比べる項目です。定額制か、回数券か、長期の契約か。多くの説明は「長く契約したほうが1回あたりが安くなり、辞めにくくなる」と言います。前半は算数の話ですが、後半は行動の予測であり、検証できる主張です。
この回は、経済学が数十年かけて集めてきた実データを読みます。フィットネス施設は、契約の選択と、その後の実際の利用が、同じ人について長期に記録される珍しい場です。だからこの分野は行動経済学の主要な実験場になってきました。
結論を先に書くと、人は自分の将来の利用回数を大幅に過大に予測する。そして「長く縛る契約のほうが続く」という予想は、大規模なデータでは支持されず、むしろ逆の結果が報告されている——これが現時点で最も正確な要約です。

人は自分の利用頻度を当てられない
この分野の出発点になった研究は、米国の3つのヘルスクラブの会員7,752人について、契約の選択と日々の来館記録を3年分つき合わせたものです。
DellaVigna S, Malmendier U. Paying Not to Go to the Gym. American Economic Review. 2006;96(3):694-719.
中心となる発見は単純です。月額70ドルを超える定額契約を選んだ会員は、平均して月4.3回しか来ていませんでした。1回あたりに換算すると17ドルを超えます。同じ施設には10回分の回数券が1回10ドルで用意されていたにもかかわらず、です。この人たちは在籍期間を通じて平均600ドルを損していました。
「たまたま忙しくなったのでは」という説明は成り立ちません。同じ現象が3年間、何千人にわたって続いているからです。著者らが挙げる説明は、将来の自制心についての自信過剰です。人は「これから自分は週に3回通う」と予測して定額を選び、実際には月4回来る。
この過大予測は、別の研究でも繰り返し確認されています。Acland らのフィールド実験では、参加者に介入の前後で「これから自分は何回通うか」を予測させ、実際の来館と突き合わせました。結果、参加者はやはり大幅に多く予測していました。興味深いのは内訳です。およそ3分の1の参加者には、1回あたり2.60ドルの補助に相当する習慣形成の効果が生じていたのに、参加者本人はその効果を予測にほとんど織り込んでいませんでした。著者らはこれを投影バイアス(いまの自分の状態を将来へそのまま延ばす傾向)と呼び、その程度を90%と推定しています。
同時に、参加者は将来の自分が現在の自分より3分の2ほど「先延ばししない」と見込んでいました。つまり人は2つの方向に間違えます。習慣がつく効果は過小に見積もり、意志の強さは過大に見積もる。どちらも「定額契約を選ばせる」方向に働きます。
実測との乖離は、思い出す段階でも起きます。Kopp らが新規会員229人を30週間追い、自己申告と電子記録の両方で来館を測った研究では、自己申告と実際のずれは全体で39%でした。人は通った回数そのものを多く記憶しているということです。
ここから、選ぶ側にとって最初の実用的な示唆が出ます。契約を選ぶときの「自分は週に何回行くか」という見積もりは、系統的に多すぎる。 半分に見積もり直してから、1回あたりの費用を計算するほうが実態に近づきます。
長く縛る契約は、続くのか
ここが、この回で最も注意して読むべき節です。同じ DellaVigna らの研究は、契約期間についても報告しています。月単位の契約を選んだ会員は、1年契約を選んだ会員より、1年を超えて在籍し続ける確率が17%高かったのです。
これは直感に反します。月単位の会員は、いつでも解約できる自由の対価として高い月額を払っています。それでも長く残った。著者らの説明は、自動更新される契約の解約を人は先延ばしにする一方、1年契約の満了時には「更新するかどうか」という明示的な判断が一度発生するため、そこで離れる人が出る、というものです。
ただし、逆向きの所見もあります。スペインの施設で20,908人の月次データを解析した研究は、短期の契約と低い来館頻度が、離脱リスクを有意に高めていたと報告しています。
Clavel I, García J, Mayo X, García-Unanue J, Iglesias-Soler E, Felipe JL, Gallardo L. Prediction of Dropout in Physical Activity: The Effect of Time. Journal of Physical Activity & Health. 2025;22(8):950-958.
ブラジルの2施設を12か月追った Oliveira らの研究でも、一方の施設では契約期間が31日以下および32〜186日であることが離脱と関連していました。なおこの研究の1年後の定着率は、2施設でそれぞれ11%と19%です。第1回で見た数字と同じ水準であり、契約の形をどう変えても、桁が変わるほどの改善は観察されていないことは押さえておく価値があります。
Clavel らの研究は、もう一つ重要な所見を出しています。離脱の確率は季節性を持ち、入会から3か月以内に頂点を迎えたあと低下して安定します。第1回で見た「難所は最初の数週間に集中している」という所見と一致します。さらに同研究は、失業率などのマクロ経済要因が離脱確率を押し上げることも報告しました。辞める理由の一部は、施設の中ではなく施設の外にあります。
つまり証拠は割れています。 割れ方には理由があります。DellaVigna らが比べたのは「同じ施設の中で、どの契約を選んだ人がその後どうなったか」であり、契約を選んだのは本人です。短期契約を選ぶ人には、そもそも長く続ける気のない人が混ざります。逆に、自分が続かないと分かっていて短期を選ぶ人もいます。契約と継続の関連は、契約の効果と、契約を選ぶ人の性質が、分離できないまま混ざった数字です。 この点は後の節でもう一度扱います。

お金で頻度は買えるか
では、契約の形ではなく報酬を使ったらどうなるか。ここには無作為化された実験があります。新規会員690人を、無条件で30ドルを受け取る対照群と、最初の6週間で9回以上通えば報酬を受け取る3つの介入群(30ドル、60ドル、30ドル相当の物品)に割り付けた試験です。
Carrera M, Royer H, Stehr M, Sydnor J. Can financial incentives help people trying to establish new habits? Experimental evidence with new gym members. Journal of Health Economics. 2018;58:202-214.
結果は、3つの報酬はいずれも最初の6週間の来館に小さな影響しか与えず、報酬期間が終わったあとの来館の推移にはまったく効果がありませんでした。著者らはここでも、新規会員が自分の来館回数について強い自信過剰を示していたことを記録しています。
一方で、効いた介入もあります。スウェーデンのジムの会員1,629人を対象に、自己資金を賭ける形のコミットメント契約を比べた無作為化実験では、罰則つきの契約を提示された群は来館回数が21%増え、罰則なしの契約では8%の増加でした。
Spika D, Wickström Östervall L, Gerdtham U, Wengström E. Put a bet on it: Can self-funded commitment contracts curb fitness procrastination? Journal of Health Economics. 2024;98:102943.
さらに安上がりな介入もあります。Habla らの無作為化フィールド実験では、週1回のメールによる通知だけで、会員の週あたりの運動頻度が13%増えました。集団クラスでは19%、個人利用では11%です。効果は介入終了後3か月まで持続しました。ただし決定的な但し書きがあります。この通知は、会員契約の継続期間と更新にはまったく影響しませんでした。 来館は増えたが、辞める時期は変わらなかったということです。
コミットメント契約は誰のためか
罰則つきの契約が来館を増やすなら、それを選べるようにすればよい——そう考えたくなりますが、話はもう少し複雑です。
Carrera M, Royer H, Stehr M, Sydnor J, Taubinsky D. Who Chooses Commitment? Evidence and Welfare Implications. The Review of Economic Studies. 2021.
フィットネス施設の利用者1,248人を対象にしたこの実験では、来館を増やすコミットメント契約に高い需要があり、実際に運動量も有意に増えました。ところが同じ実験で、来館を増やす契約を選んだ人のおよそ半数が、来館を減らす契約も同時に選んでいました。自制心の問題を解決したいから契約を選ぶ、という説明では説明がつきません。
著者らは、契約の価値を正しく評価できていないことと、自分の時間非整合性についての誤った信念の両方が需要を生んでいると結論します。そして構造モデルによる推定では、こうしたコミットメント契約を提供することは、利用者の余剰をむしろ下げるという結果になりました。同じ行動変化をもたらす手段としては、単純な補助のほうが効率的だという評価です。
選ぶ側にとっての含意は、遠回しな言い方を避ければこうなります。「縛りがあったほうが自分は通う」という感覚は本物かもしれないが、その感覚の強さと、実際に縛りが必要かどうかは、一致していない。

契約を選ぶのは本人である
第1回で立てた問いを、この題材にも当てます。契約の形と継続の関連は、どこまで因果として読めるのか。
読めないものから挙げます。DellaVigna らの17%も、Clavel らの短期契約の所見も、Oliveira らの契約期間の所見も、すべて本人が契約を選んだ結果の観察です。長期契約を選ぶ人は、その時点で強い意欲を持っているか、経済的な余裕があるか、あるいは過去に続いた経験がある人でしょう。継続率の差には、その差が最初から含まれています。
読めるものもあります。Carrera らの報酬実験、Spika らのコミットメント契約実験、Habla らの通知実験は、いずれも参加者をくじ引きで割り付けています。したがって「罰則つき契約は来館を21%増やす」「通知は週の頻度を13%増やすが在籍期間は変えない」は、契約や通知そのものの効果として読んでよい数字です。
この対比は、この連載を通じて最も重要な区別です。同じ「継続と関連していた」という表現でも、無作為化された介入の効果と、本人が選んだ結果の観察とでは、意味の強さがまるで違います。
この証拠の限界
3点だけ。第一に対象施設の違いです。ここで扱ったのは米国・スウェーデン・スペイン・ブラジルの総合型フィットネス施設であり、ヨガスタジオを対象にした契約の実験は見当たりませんでした。定額通い放題か1回ごとかという構造は共通ですが、通う動機も、1回あたりの所要時間も異なります。
第二に年代と制度の違いです。DellaVigna らのデータは2000年前後のもので、当時は自動更新の解約に手間がかかりました。解約がアプリで完結する現在、先延ばしの効果は小さくなっている可能性があります。
第三に測っているのが来館であって成果ではないことです。罰則つき契約で来館が21%増えたとして、体力や健康指標が改善したかは、これらの研究の範囲外です。第3回で見たとおり、監督のない運動では効果が出にくいことを思い出してください。来館回数は成果の代理指標にすぎません。 この読み方は最終回で改めて扱います。
何を測れば埋まるのか
ヨガスタジオの契約を対象にした実験は見当たりませんでした。総合型フィットネス施設からの外挿には、少なくとも3つの隙間があります。
第一に、来館の意味が違います。総合型施設では、行けば自分で何かをします。クラス制のスタジオでは、決まった時刻に始まるクラスに間に合う必要があり、来館は「予約枠を埋める」という別の行動を含みます。予約と取り消しの仕組みが利用頻度に効いている可能性は高いのに、測られていません。
第二に、1回あたりの単価が高いことです。DellaVigna らの分析で鍵になったのは、定額と回数券の1回あたりの差でした。クラス制では回数券の単価がもともと高く、定額が有利になる来館回数の閾値が下がります。同じ計算が成り立つとは限りません。
第三に、測るべき成果が来館ではないことです。第3回で見たとおり、監督のない運動では効果が出にくい。契約の形が、来館回数だけでなくクラスに出た回数をどう変えるかを測らなければ、健康上の意味は分かりません。
埋め方は難しくありません。クラス制のスタジオで、新規の利用者を定額と回数券に無作為に割り付け、来館とクラス参加を1年記録する。第6回で挙げた実験はすべてこの形で行われており、技術的な障害はありません。実施されていないだけです。
この回から言える判断材料
- 「週に何回行くか」の見積もりを半分にしてから、1回あたりの費用を計算する。 月70ドル超の定額を選んだ会員の実際の来館は月4.3回で、回数券なら安く済んだ人たちが平均600ドルを損していた。自己申告と実記録のずれは39%に達する。
- 長期契約が継続に有利だとは限らない。 月単位の契約者のほうが1年を超えて在籍する確率が17%高かったという報告がある一方、短期契約が離脱と関連したという報告もある。証拠は割れており、どちらも本人が契約を選んだ結果の観察である。
- 報酬で習慣は作れない。 新規会員690人を割り付けた無作為化実験では、30ドル・60ドル・30ドル相当の物品のいずれも、報酬期間が終わったあとの来館の推移には効果がなかった。入会時の特典を継続の理由にしないほうがよい。
- 効いたのは罰則つきの自己拘束と、単純な通知だった。 罰則つき契約で来館21%増、罰則なしで8%増、週1回のメール通知で週あたり頻度13%増。ただし通知は在籍期間を変えなかった。
- 「縛りがあったほうが通える」という自己認識は、額面どおりに受け取らない。 来館を増やす契約を選んだ人の約半数が、来館を減らす契約も選んでいた。
- 解約の手続きがどれだけ簡単かを、契約前に確かめる。 先延ばしが在籍を延ばすという所見は、裏を返せば、辞めたいのに辞められない期間の費用が継続率に含まれているということである。
- 辞める理由は施設の外にもある。 離脱確率は失業率などのマクロ経済要因とも関連していた。契約の形を工夫しても、その部分は動かせない。
- ここで挙げた数字はヨガスタジオのものではない。 総合型フィットネス施設の契約実験からの外挿であり、クラス制の予約や1回あたりの単価の違いは検証されていない。
次回予告
第7回は「オンラインと対面——効果と継続率の比較」を扱う。遠隔で行う運動指導の効果量と脱落率を対面と比べたメタ分析群を読み、移動という障壁が消える利点と、運動強度が下がるという代償を突き合わせる。
この連載の全10回
- 第1回|なぜ人は辞めるのか——運動の継続率が示す数字
- 第2回|指導者の資格は何を保証するのか
- 第3回|クラスの人数と監督——集団指導で失われるもの
- 第4回|ケガはどこで起きるか——場面・姿勢・経験年数
- 第5回|高温環境は選択基準になるか
- 第6回|価格と契約——支払い方は継続を変えるか(この記事)
- 第7回|オンラインと対面——効果と継続率の比較
- 第8回|立地と時間帯——通いやすさは継続を決めるか
- 第9回|目的で選び方は変わるか——腰痛・不眠・体力向上
- 第10回|主張の見分け方——「科学的に証明された」をどう読むか
出典
- DellaVigna S, Malmendier U. Paying Not to Go to the Gym. American Economic Review. 2006;96(3):694-719.
- Acland D, Levy MR. Naiveté, Projection Bias, and Habit Formation in Gym Attendance. Management Science. 2015.
- Kopp PM, Senner V, Kehr HM, Gröpel P. Achievement motive, autonomous motivation, and attendance at fitness center: A longitudinal prospective study. Psychology of Sport and Exercise. 2020.
- Carrera M, Royer H, Stehr M, Sydnor J. Can financial incentives help people trying to establish new habits? Experimental evidence with new gym members. Journal of Health Economics. 2018;58:202-214.
- Carrera M, Royer H, Stehr M, Sydnor J, Taubinsky D. Who Chooses Commitment? Evidence and Welfare Implications. The Review of Economic Studies. 2021.
- Spika D, Wickström Östervall L, Gerdtham U, Wengström E. Put a bet on it: Can self-funded commitment contracts curb fitness procrastination? Journal of Health Economics. 2024;98:102943.
- Habla W, Muller P. Experimental evidence of limited attention at the gym. Experimental Economics. 2021.
- Clavel I, García J, Mayo X, García-Unanue J, Iglesias-Soler E, Felipe JL, Gallardo L. Prediction of Dropout in Physical Activity: The Effect of Time. Journal of Physical Activity & Health. 2025;22(8):950-958.
- Oliveira GT, Souza LM, Ferreira RM, et al. Dropout predictors at gyms: a retrospective study. Revista Brasileira de Ciências do Esporte. 2021.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。ここで扱った金額はいずれも海外の研究で報告された当時の現地通貨であり、日本の施設の費用を示すものではありません。持病がある方、服薬中の方は、運動を始める前に医療機関にご相談ください。






