連載「研究が示す『続く条件』」全10回の第4回です。
ヨガは安全な運動だとよく言われます。同時に、雑誌の記事では「ヨガで背骨を痛めた」という話も読みます。どちらも間違いではありません。ケガの総量は少ないが、起きる場面には偏りがあるからです。
この回では、その偏りを数字で見ます。どの場所で、どの部位に、どの年代で、どれくらいの頻度で起きているのか。安全かどうかを論じるためではなく、クラスや施設を選ぶときに何を確かめればよいかを決めるためです。ヨガの有害事象そのものの全体像はヨガの有害事象と安全性で扱っているので、ここでは選択に効く部分に絞ります。
結論を先に書くと、1時間あたりの発生率は他の運動と同程度かそれ以下だが、重い結果につながるのは倒立系の姿勢と、背骨を大きく曲げ伸ばしする姿勢に集中している。そして年齢が上がるほど受診に至る率が高い——これが現時点で最も正確な要約です。

頻度を「1000時間あたり」で見る
ケガの多さを議論するとき、割合だけでは比べられません。10年やった人と1年やった人では、当然ながら曝露量が違うからです。そこで使われるのが練習1000時間あたりの件数です。
Cramer H, Quinker D, Schumann D, Wardle J, Dobos G, Lauche R. Adverse effects of yoga: a national cross-sectional survey. BMC Complementary and Alternative Medicine. 2019;19(1):190.
ドイツの実践者1,702人への全国調査では、報告された傷害は1000時間あたり0.60件(95%信頼区間 0.51〜0.71)でした。著者らはこの水準を、他の運動種目と比べて同等かそれ以下だと評価しています。ただし流派による差があり、パワーヨガの利用者では1000時間あたり1.50件(95%信頼区間 0.98〜3.15)と最も高い値でした。信頼区間が広く、1をまたいでいる点には注意が要ります。
この調査では、急性の有害事象を報告した人が21.4%、慢性が10.2%でした。疫学研究9件・実践者9,129人を統合した Cramer らの系統的レビューでは、クラス1回のあいだに何らかの有害事象が生じた割合は22.7%(95%信頼区間 21.1〜24.3%)、過去12か月の有訴率は4.6%(95%信頼区間 3.8〜5.4%)、重篤な有害事象は1.9%(95%信頼区間 1.4〜2.4%)と報告されています。同レビューでは、実践者と非実践者のあいだで転倒のリスクに差はなく(オッズ比0.90、95%信頼区間 0.76〜1.08)、半月板損傷だけがヨガ実践者で高い(オッズ比1.72、95%信頼区間 1.23〜2.41)という結果でした。回復については、急性例の76.9%、慢性例の51.6%が完全に回復しています。慢性例では半数近くが完全には戻っていないという数字は、軽く扱うべきではありません。
流派の差は、別のデータでも見えます。Mikkonen らがフィンランドの3か所のアシュタンガ・ヴィンヤサの施設で110人に行った調査では、1か月以上続いたケガを1回以上経験した人が62%にのぼり、練習1000時間あたりの新規発生は1.18件でした。既往の再発と原因不明の腰痛を含めると1.45件になります。部位はハムストリングス、膝、腰が上位でした。同じ「ヨガ」でも、流派によって曝露の中身が違うことを示す数字です。ただしこれは回答率37%の任意参加の調査であり、ケガをした人ほど答えやすい偏りを排除できていません。
どこで起きているのか
米国の救急外来データは、発生場所まで記録しています。全国電子傷害監視システム(NEISS)の2004年から2023年までの記録を精査した研究です。
Watson SL, Cho S, Bajaj PM, Patel RA, Workman CD, Tjong VK. Patients Older Than 45 Years Who Practice Yoga Are at an Increased Risk of Hip Injuries: A 20-Year Epidemiological Study of Emergency Room Visits. The Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons. 2025.
20年間で63,280件(全国推計)のヨガ関連の受傷が推定されました。発生場所はレクリエーション・スポーツの場が42.4%、自宅が10.0%です。残りは分類不能でした。平均年齢は46.5歳(標準偏差18.0)、女性が大半を占めます。
自宅での発生が1割を占めるという事実は、選択の話に直結します。前回までに見たとおり、指導を受けずに独学だけで練習していることは、急性・慢性いずれの有害事象のリスク上昇とも関連していました(Cramer ら 2019)。動画を見ながら一人で難しい姿勢を試す場面が、統計に現れているのだと考えられます。

どの部位・どの姿勢か
部位の分布は、データ源が違ってもよく一致します。
| データ源 | 最も多い部位 | 最も多い診断 |
|---|---|---|
| NEISS 2001〜2014年(29,590件) | 体幹 46.6% | 捻挫・肉ばなれ 45.0% |
| NEISS 2004〜2023年(63,280件推計) | 体幹(うち下部体幹24.2%、肩9.0%、膝9.4%) | 捻挫・肉ばなれ 32.5% |
つまり多くは軟部組織の損傷であり、体幹に集中しています。
姿勢まで特定した数字もあります。ドイツの調査で急性の有害事象と関連していた練習として最も多く挙がったのは、逆立ち・肩立ち・頭立ちで29.4%でした。倒立系の姿勢が、件数の上でも突出しているということです。
骨に問題を抱えた人では、別の姿勢が問題になります。米国の医療機関で、ヨガが主な原因と判断された患者89人の記録を後ろ向きに調べた研究があります。
Lee M, Huntoon EA, Sinaki M. Soft Tissue and Bony Injuries Attributed to the Practice of Yoga: A Biomechanical Analysis and Implications for Management. Mayo Clinic Proceedings. 2019;94(3):424-431.
軟部組織群では使いすぎによる筋膜性疼痛が66人(74.2%)、体軸では変形性関節症の悪化が46人(51.7%)、椎間関節症が34人(38.2%)でした。骨の損傷では、椎体の前方楔状変形が16人(18.0%)、圧迫骨折が13人(14.6%)です。原因として最も多く同定された姿勢は、背骨を極端に屈曲・伸展させるものでした。著者らは、骨粗鬆症や骨減少症のある人は極端な脊椎屈曲を避けるべきだと結論しています。骨密度とヨガの関係はヨガと骨密度で別に扱っています。
年齢で像が変わる
最も一貫している所見が年齢です。NEISSの2001年から2014年までのデータでは、2014年時点の受傷率は次のとおりでした。
Swain TA, McGwin G. Yoga-Related Injuries in the United States From 2001 to 2014. Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2016;4(11):2325967116671703.
- 18〜44歳:10万人あたり11.9件
- 45〜64歳:10万人あたり17.7件
- 65歳以上:10万人あたり57.9件
65歳以上は18〜44歳の約5倍です。さらに近年のデータでは、部位の内訳まで年齢で分かれます。45歳未満では頭部の受傷が占める割合が有意に大きく(P<0.005)、45歳以上では股関節の受傷が有意に大きくなっていました(P<0.001)。
日本のデータも同じ方向です。ヨガのクラス参加者2,508人と指導者271人への大規模調査では、クラス後に何らかの望ましくない症状を報告した人が27.8%いました。その63.8%は軽度で参加を妨げないものでしたが、その後の練習を妨げる重い事象は、70歳以上と慢性の筋骨格疾患を持つ人で高頻度でした。
Matsushita T, Oka T. A large-scale survey of adverse events experienced in yoga classes. BioPsychoSocial Medicine. 2015;9:9.
この調査でもう一つ目を引くのは、参加者の構成です。2,508人のうち1,343人(53.5%)が慢性疾患を持ち、1,063人(42.3%)が通院して服薬していました。 クラスに来る人の半数が何らかの持病を抱えているという前提で、第2回で見たスクリーニングの実施率(医学的スクリーニング33.7%)を読み直すと、数字の意味が変わってきます。

経験年数が長いほど報告が多い
直感に反する所見があります。2,620人の実践者への調査で、生涯にわたる受傷の報告確率を最も強く予測したのは、練習年数の長さ(p<.0001)と、ヨガを教えていること(p=.0177)でした。
Wiese C, Keil D, Rasmussen AS, Olesen R. Injury in yoga asana practice: Assessment of the risks. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2019;23(3):479-488.
同じ調査は重症度の内訳も出しています。回答者2,620人のうち45%はヨガによるケガを経験していません。ケガをした人の内訳は、軽度(6か月未満で治まる捻挫や非特異的な痛み)が28%、中等度(6か月から1年続くもの)が63%、重度は9%でした。重度は全回答者の4%に当たります。著者らは、練習時間あたりの件数から見てヨガは高リスクな身体活動ではないと結論しています。
この読み方には注意が必要です。生涯の累積を尋ねているので、長くやった人ほど報告が増えるのは当然の面があります。しかし「教えていること」が独立して予測因子になっている点は、単純な曝露量では説明しきれません。深い姿勢に挑む頻度と、他人に示範する機会が関係している可能性があります。少なくとも「上達すればケガをしなくなる」とは言えないということです。
1年間の前向き追跡でも同じ方向の結果が出ています。Campo らが2つのスタジオの参加者354人を1年追った研究では、ヨガが原因で生じた痛みの発生率は10.7%でした。そのうち3分の1以上が、練習を休むことになるか、症状が3か月以上続いています。そして年齢・経験・練習時間・強度のいずれも、その後の発生を高める要因にはなりませんでした。
辞めた人は調査に残らない
この回の数字には、第1回とつながる構造的な問題があります。ケガをして辞めた人は、実践者への調査に答えません。
ドイツの調査も、米国の調査も、フィンランドの調査も、いま練習している人を対象にしています。ヨガで痛めて離れた人は標本の外にいます。第1回で見たとおり、民間施設では3か月で6割以上が離脱します。その離脱者のうち何人が身体の不調を理由にしていたかを、これらの調査は知りません。したがって自己申告に基づく有訴率は、真の値より低く出る方向に偏っています。 統計学ではこれを生存者バイアスと呼びます。
自己選択も働きます。倒立や深い後屈を多く含むクラスを選ぶ人は、もともと身体能力が高く、挑戦を好む傾向があるかもしれません。逆に、椅子を使う穏やかなクラスを選ぶ人は、すでに不調を抱えている可能性が高い。「このクラス形式はケガが少ない」という観察は、形式の安全性ではなく、そこに集まる人の身体を映しているかもしれません。
何を測れば埋まるのでしょうか。Campo らの研究が手本になります。始める前の時点で参加者を登録し、その後1年追いかけ、辞めた人も含めて症状を尋ねる前向きコホートです。この設計なら生存者バイアスを避けられます。同じ設計を、クラスの形式別・流派別に、練習時間を記録しながら行えば、いま欠けている比較が可能になります。現時点では、そうした研究は見当たりませんでした。
この証拠の限界
第一に、ここで挙げた研究の大半は自己申告に基づく横断調査です。覚えている人だけが答え、答えた人だけが集計されます。救急外来のデータは客観的ですが、逆に受診に至らなかったケガをすべて取りこぼしています。真の頻度は、両方の中間のどこかにあります。
その幅の広さは、数字そのものに現れています。Cramer らの系統的レビューが集めた研究では、生涯の有訴率が21.3%(95%信頼区間 19.7〜22.9%)から61.8%(95%信頼区間 52.8〜70.8%)まで開いていました。3倍近い開きです。これは人が違うからというより、「ケガ」をどう定義し、どう尋ねたかが違うからです。1か月以上続いた痛みだけを数えるのか、翌日の筋肉痛も含めるのか。施設や流派の宣伝に「ケガはほとんどありません」と書かれていても、その数字が何を数えたものかを確かめない限り、比較はできません。
第二に、分母が不確かです。 何人が何時間ヨガをしているかの推計は、全国調査からの外挿に依存しています。1000時間あたりの率も、練習時間の自己申告に基づいています。
第三に、因果を確かめた研究がありません。 倒立系の姿勢と有害事象の関連は横断的な相関であり、無作為化して比べた試験は存在しません。倒立を多く取り入れるクラスに、もともと挑戦的な人が集まっている可能性を排除できていません。
この回から言える判断材料
- クラスで倒立系の姿勢をどう扱っているかを見る。 急性の有害事象と関連した練習として最も多く挙がったのが、逆立ち・肩立ち・頭立ちで29.4%だった。必修か、選択か、代替の姿勢が用意されているかが分かれ目になる。
- 骨に不安があるなら、背骨を深く丸める・反らせる姿勢の扱いを確かめる。 受診に至った89人の解析で、原因として最も多かったのが極端な脊椎屈曲・伸展だった。圧迫骨折は14.6%を占める。
- 45歳を過ぎたら、部位の傾向が変わることを前提にする。 45歳以上では股関節の受傷が、45歳未満では頭部の受傷が相対的に多い。65歳以上の受傷率は10万人あたり57.9件と、18〜44歳の約5倍。
- 持病の申告を受け取る仕組みがあるかを見る。 クラス参加者の53.5%が慢性疾患を持っていた一方、医学的スクリーニングを行う指導者は33.7%にとどまる(第2回)。
- 自宅での独習を主軸にしない。 救急受診の10.0%は自宅発生であり、監督なしの自己流練習は急性・慢性の有害事象リスクの上昇と関連していた。
- 経験を積めば安全になる、とは考えない。 生涯の受傷報告を最も強く予測したのは練習年数の長さと、教えていることだった。ただし曝露量の累積という当然の要素を含むため、これを「上達すると危険になる」と読むのも行き過ぎである。
- 「ケガはほとんど出ていません」という説明は、数え方を尋ねてから受け取る。 生涯有訴率は研究によって21.3%から61.8%まで3倍近く開く。定義が違えば比較はできない。
- 実践者調査の数字は低めに出ていると考える。 ケガで辞めた人は調査に答えないため、自己申告に基づく有訴率には生存者バイアスがかかっている。
次回予告
第5回は「高温環境は選択基準になるか——温度と湿度の生理学」を扱う。高温下のヨガで体内で何が起きているのかを測った研究を読み、同じ動作を常温で行った場合と比べて、効果に差が出るのかどうかを見る。
この連載の全10回
- 第1回|なぜ人は辞めるのか——運動の継続率が示す数字
- 第2回|指導者の資格は何を保証するのか
- 第3回|クラスの人数と監督——集団指導で失われるもの
- 第4回|ケガはどこで起きるか——場面・姿勢・経験年数(この記事)
- 第5回|高温環境は選択基準になるか
- 第6回|価格と契約——支払い方は継続を変えるか
- 第7回|オンラインと対面——効果と継続率の比較
- 第8回|立地と時間帯——通いやすさは継続を決めるか
- 第9回|目的で選び方は変わるか——腰痛・不眠・体力向上
- 第10回|主張の見分け方——「科学的に証明された」をどう読むか
出典
- Cramer H, Quinker D, Schumann D, Wardle J, Dobos G, Lauche R. Adverse effects of yoga: a national cross-sectional survey. BMC Complementary and Alternative Medicine. 2019;19(1):190.
- Watson SL, Cho S, Bajaj PM, Patel RA, Workman CD, Tjong VK. Patients Older Than 45 Years Who Practice Yoga Are at an Increased Risk of Hip Injuries: A 20-Year Epidemiological Study of Emergency Room Visits. The Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons. 2025.
- Swain TA, McGwin G. Yoga-Related Injuries in the United States From 2001 to 2014. Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2016;4(11):2325967116671703.
- Lee M, Huntoon EA, Sinaki M. Soft Tissue and Bony Injuries Attributed to the Practice of Yoga: A Biomechanical Analysis and Implications for Management. Mayo Clinic Proceedings. 2019;94(3):424-431.
- Matsushita T, Oka T. A large-scale survey of adverse events experienced in yoga classes. BioPsychoSocial Medicine. 2015;9:9.
- Wiese C, Keil D, Rasmussen AS, Olesen R. Injury in yoga asana practice: Assessment of the risks. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2019;23(3):479-488.
- Campo M, Shiyko MP, Kean MB, Roberts L, Pappas E. Musculoskeletal pain associated with recreational yoga participation: A prospective cohort study with 1-year follow-up. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2018;22(2):418-423.
- Cramer H, Ostermann T, Dobos G. Injuries and other adverse events associated with yoga practice: A systematic review of epidemiological studies. Journal of Science and Medicine in Sport. 2018;21(2):147-154.
- Mikkonen J, Pedersen P, McCarthy PW. A Survey of Musculoskeletal Injury among Ashtanga Vinyasa Yoga Practitioners. International Journal of Yoga Therapy. 2008.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。骨粗鬆症・骨減少症、緑内障、頸椎や腰椎の疾患、高血圧、心疾患のある方は、姿勢の選び方によって危険が生じることがあります。練習中や練習後に強い痛み、しびれ、めまい、視野の異常が生じた場合は練習を中止し、医療機関にご相談ください。






