ワイドスクワットは椅子を遠くに想像する?たとえの指示と細かな説明の使い分け

ワイドスクワットで「椅子に座るように」と言われると、細かく説明されるより覚えやすいのか。たとえを使う運動指導の試験と系統的レビューから、練習中の成功、後日の再現、力の出し方を分けて考える。椅子を遠くにすることの限界と、自分に合う声かけを確かめる視点も紹介する。

しゃがむ途中で「椅子はもっと後ろ」と言われたら、どこまで動けばよいのだろう。ワイドスクワットをしながら、頭の中に食卓の椅子を置く。ところが隣の人は、ずっと後ろのベンチを想像しているかもしれない。同じ言葉を聞いても、見えている家具まではそろわない。

たとえを使う指導には、動きを覚える助けになる可能性がある。選ぶ基準は、説明の短さより、狙った動作を再現できるかだ。スポーツ動作を扱った系統的レビューでは、自動的に動ける程度を比べた多くの比較で、学び方による差がなかった。[8] 「椅子を遠くに想像すればワイドスクワットが上達する」とまでは言えない。

ここで確かめたいのは、頭の中の椅子の正しい距離ではなく、その言葉で何を変えようとしているかである。練習の配分は既存記事「ワイドスクワットは練習を一日に詰める?回数より後日に残る動作の覚え方を読む」に譲り、この記事では指示をたとえにまとめる場合と、動作を言葉で説明する場合を比べる。

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たとえは、動きを短い場面にまとめる言葉である

運動学習でいうたとえによる指導は、動きを比喩で伝える方法である。対して、明示的な指導は、動作上の規則を言葉で伝える方法だ。たとえばゴルフのパッティングを調べた試験では、たとえを使う群に振り子のようなスイングを伝えている。[1] 振り子という場面を思い浮かべることと、関節の動かし方を順番に思い出すことには、指示の受け取り方の違いがある。

「椅子に座るように」は、この考え方をスクワットの相談に置き換えた例である。引用する試験で確かめられた椅子の置き方ではない。指導者に尋ねるなら、「このたとえで、どの動きを変えたいのか」と聞くと話が具体的になる。後ろへ移る感じなのか、下がる方向なのか。言葉の狙いを共有するところから始めたい。

たとえは、単に説明を省くための飾りでもない。女子大学生を対象にした動的バランスの試験では、たとえで学んだ群は細かな指導で学んだ群より、報告する明示的な知識が少なかった。[5] 言葉で答えられる規則の量と、実際の課題の出来を別々に見る発想が必要になる。説明を暗唱できたことだけで、動作を覚えたとは判定できない。

とはいえ、椅子の形を想像できない人に、家具の説明を重ねても話は進まない。これは実践上の相談の例だが、「何が浮かんだか」を言葉にしてもらう余地があってよい。短い指示であることと、意味が共有されていることは別の条件だ。頭の中に立派な椅子が完成しても、いま練習したい動作の狙いと一致しているかは確認が要る。

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よくできた直後と、後日に残る動作は分けて測る

動作を覚える研究では、練習中の成績に加えて、時間を置いて試す保持、条件を変えて試す転移を調べる。発達性協調運動症のある子どものパッティング試験では、練習直後だけでなく、練習から72時間後の保持と、距離を変えた転移も評価した。[1] 子どものパッティングの結果を18〜39歳の女性のワイドスクワットにそのまま当てはめることはできない。 指導者の言葉を聞きながらできたことと、その場を離れてから再びできることを区別するためである。

この無作為化比較試験には、7〜9歳の子ども60人が参加した。たとえ、身体の外への注意、身体の内側への注意、たとえと外への注意の組み合わせ、指示なしの群を比べている。外への注意とは、ここではパターの軌道や目標へ意識を向ける指示だ。内側への注意の群は、打つ手に意識を向けた。[1] この年齢と発達上の特性を持つ対象での比較であり、18〜39歳の女性での効果は別に確かめる必要がある。

保持、転移、別の課題を同時に行う場面では、たとえ、外への注意、その組み合わせの群が、内側への注意と指示なしの群より良い成績だった。[1] これは有望な結果である。一方、練習中の成績について報告された優位性と、後日のテストについて報告された優位性は同じ比較ではない。たとえを含む群が、すべての時点で、すべての群を上回ったと読むのは行き過ぎだ。

対象も課題も、成人女性のワイドスクワットとは異なる。試験の結果から借りたいのは、椅子を想像すれば同じ効果が出るという約束ではなく、声かけを選ぶ評価の順序である。レッスン中は「いま変わったか」、次の機会には「前の言葉をどう覚えているか」を相談する。練習の帰り道に指示を忘れたとしても、それだけで覚えが悪いとは決めつけたくない。

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バランスの試験は、動作と頭の仕事を別々に見ている

女子大学生40人をたとえによる学習と明示的な学習に無作為に分けた試験では、片脚で立ちながら各方向へ足を伸ばすバランス課題を練習した。両群とも、練習日が進むにつれて最大到達距離が伸びている。[5] たとえの群だけが練習によって変わった、という結果ではない。

この試験で興味深いのは、動作中に別の課題を加えたことだ。たとえで学んだ群は、報告する動作の規則が少なく、逆に数を数える課題の成績が明示的な群より良かった。[5] 動きながらどれだけ別の処理ができるか、という面からも学び方を見ている。脚を動かす試験なのに、数え方も調べる。運動の成績表には、頭の仕事の欄もある。

別の課題を同時に行う状況は二重課題と呼ばれ、自動化、つまり意識的な処理に頼りすぎずに動ける程度を調べる手掛かりになる。[8] ただし、これは研究で用いる評価の方法だ。自宅のスクワット中に計算やスマホ操作を加えて、学習の出来を試す必要はない。研究の測り方を、そのまま家庭の練習メニューに持ち込まないようにしたい。

バランスの試験から読み取れるのは、覚えた規則の量、足の到達距離、同時に行う計算の成績が、それぞれ異なる評価だということだ。[5] ワイドスクワットでも、説明の理解と、実際にどう動けたかは分けて相談できる。「言葉は分かるが動きに置き換えにくい」という返事は、指導の手掛かりになる。もっと詳しい解説が欲しいのか、別のたとえが欲しいのかを伝えるための返事である。

持ち上げる運動では、言葉を足すほど力が増すとは限らない

筋力を発揮する運動に近い研究もある。初心者20人を対象に、たとえ、明示的な指示、対照条件を同じ参加者の中で比較した試験では、動かずに力を出す課題と動きながら持ち上げる課題を行った。筋肉の電気的な活動を記録する筋電図と、発揮した力などを測っている。[2]

両方の指導法で下肢の筋電図に有意な変化が生じた。一方、明示的な指示の条件では、対照条件より力を出し始めてから最初の200ミリ秒の力の立ち上がりが低かった。全体の力の出力も対照条件のほうが高かった。[2] 筋活動のパターンが変わったことを、そのまま出せる力が増えたことと置き換えることはできない。

研究者は、最大の力を出す場面では言葉による指示を避ける利点の可能性を述べ、たとえによる指示は動作成績を保ちながら神経と筋の使い方を変える可能性を示している。[2] ただし、これは持ち上げ課題での比較だ。長期の筋力向上や、特定の椅子の比喩が適切なスクワットを作ることまで確定するものではない。

ここでは、何を成功と呼ぶかが大切になる。大きな力を出すことを評価した試験の結果と、動作を後日再現する試験の結果は、同じ物差しではない。[1][2] レッスンで狙うことを尋ねるときも、「今日は動き方を覚えたいのか、力を出す課題なのか」と整理できる。言葉を聞いた直後に動きが変わったからといって、その指示を万能の合言葉にする必要はない。

ここで、言葉の種類と情報の量を分けた試験も参考になる。新しい走り高跳びの技術を学ぶ参加者を、たとえ、情報量を減らした明示的な指示、従来の情報量が多い明示的な指示に無作為に分けた研究である。たとえの群は平均では少ない技術規則を報告し、技術の効率もやや良かったが、その群間差は統計的に有意ではなかった。[9]

一方、関節の動きのばらつきは、学習中もテスト中もたとえの条件で最も小さかった。[9] 効率、覚えた規則、関節のばらつきは、同じ結果にはならない。椅子の声かけを選ぶ際にも、「分かりやすい」と感じたことと、動作のどこが変わったかを分けて話す視点が使える。自分の感想を退けるのではなく、感想だけで成果のすべてを説明しないための区別だ。

数字で読むたとえと動作学習

25件の対照試験:自動化を比較した系統的レビューに含まれた試験数で、多くの比較では学び方による差がなかった。[8]

60人:発達性協調運動症のある子どもを対象とした、パッティング試験の規模を示す。[1]

72時間後:同試験で、遅延した保持を調べた時点である。[1]

40人:たとえと明示的な指導を比較したバランス試験には、女子大学生が参加した。[5]

200ミリ秒:初心者の持ち上げ課題で、明示的な指示による力の立ち上がりの低下が認められた初期の時間幅である。[2]

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宮川涼 Founder

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