腹筋は遅筋が多いから毎日鍛える?筋線維の割合と回復の予定を分けて読む

腹筋は遅筋が多いから毎日鍛えてよい、という説明を筋線維の研究から読み直す。ニホンザルの割合、ラットの部位差、患者の腹直筋を調べた研究を区別し、数字が誰の何を表すかを確かめる。疲れにくさと翌日の回復を同じものにせず、自分の運動予定へ数字を持ち込む前の確認点を整理する。

帰宅してマットを広げ、昨日と同じ腹筋運動を始める。その前に検索すると「腹筋は遅筋が多いから毎日でよい」と出てくる。筋肉の説明と、今夜も続ける予定が、ひと息でつながっている。

だが、遅筋という分類から翌日の練習許可は出せない。筋線維は収縮と代謝の性質で捉えるものであり、その分布や反応には筋肉の間にも内部にも違いがある。分類を示した研究と、運動後に回復を追った研究は、答えている問いが違う。[4][19]

腹筋に決まった割合を当てはめる前に、数字の主語を見たい。たとえば遅筋に相当する型が26〜32%だった報告の対象は、ニホンザルである。18〜39歳の女性にそのまま当てはめられる値ではない。[13] 深い筋肉全般の分類は既存記事「インナーマッスルは全部遅筋なのか?速筋も含む深い筋肉と疲れにくさを読む」に譲り、ここでは腹筋の割合を運動の予定表へ移すときの飛躍を扱う。

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遅筋と速筋は、筋肉を丸ごと分ける名前ではない

筋線維とは筋肉を構成する線維である。骨格筋の性質を整理したレビューでは、タイプIを収縮が遅く酸化的な性質を持つ側、タイプIIを収縮が速く解糖的な性質を持つ側として、その間を連続的に捉えている。酸化的、解糖的という語はエネルギーを得る代謝の性質を表す。遅いか速いかだけで筋肉の働き全部を説明する分類ではない。[4]

このレビューの主題は、細胞内の成分を分解して再利用するオートファジーを筋肉で調べる際の注意点である。筋肉や線維の収縮特性、代謝特性によって反応が異なるため、実験結果の解釈にはそれを考慮する必要があるとしている。一般の腹筋運動の頻度を比べた試験として読む文献ではない。[4]

日常の説明では、遅筋を「持久力担当」、速筋を「瞬発力担当」と呼ぶと覚えやすい。ただ、その呼び名を「毎日使っても回復済み」「翌日まで必ず休ませる」と置き換えると、収縮中の性質から別の時間軸へ話が移る。分類を知ることは入口であり、次に行う運動の強さや間隔まで記入された処方箋を得ることではない。[4]

腹筋という名前にも注意がいる。ニホンザルの組織研究は、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋を分けて調べている。一方、ラットの研究は腹直筋の中をさらに部位で分けている。「腹筋」と書かれた検索結果同士でも、同じ範囲を測っているとは限らない。[13][19]

したがって、数字を見つけたら、まず何という筋肉を調べたのかを残す。腹直筋だけの結果を、お腹にある筋肉全体の共通規則として扱わないためである。さらに組織を採った場所まで分かれば、割合の意味は絞られる。ラットでは腹直筋の内側と外側で線維の分布が異なり、同じ筋肉名だけでは場所の情報が落ちる。[19]

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腹筋の割合として見かける数字は、誰の数字か

ニホンザルを対象とした組織化学研究では、3頭の腹部の筋肉を調べ、酵素の活動を利用してタイプI、IIA、IIBに分類した。各腹筋の平均割合の範囲は、タイプIが26〜32%、IIAが21〜22%、IIBが46〜52%だった。調べた腹筋間の構成に大きな違いはなく、IIBの割合が高かった。動物の組織を調べた結果であり、18〜39歳の女性の腹筋の割合にはそのまま当てはめられない。[13]

この数字から読み取れるのは、調べたニホンザルの腹筋ではタイプIだけが優勢という像ではなかった、ということである。人の腹筋について「遅筋ばかり」と決める根拠にはならず、反対に「人の遅筋も必ずこの範囲だ」と決める根拠にもならない。対象を替えて数字だけを運ぶと、同じ説明の誤りが逆向きに起こる。[13]

割合と線維の大きさも別に測られている。この研究ではタイプIIの線維断面積がタイプIより大きく、腹直筋は側腹部の筋肉より各型の線維が大きかった。したがって、線維の構成を読む際には、割合の表だけでなく大きさを調べた結果が別にあることにも目を向けたい。[13]

比較に役立つのが、シャロレー種の牛の腹直筋を調べた研究である。去勢雄19頭では上腕三頭筋と、雌153頭では胸最長筋と比較した。腹直筋は比較した筋肉よりタイプIの割合が高く、酸化的な遅い線維の断面積が大きいという特徴を示した。牛と人では対象が異なり、18〜39歳の女性の線維構成や大きさへ直接当てはめることはできない。[14]

ニホンザルではタイプIIの線維が大きく、牛の腹直筋では酸化的な遅い線維が大きい。並べると食い違って見えるが、動物種も比較対象も異なる。この違いを消して「腹筋とはこういうもの」と統合するより、別の条件で得た結果として残す方が正確だ。似た筋肉名は、同じ実験条件を保証しない。[13][14]

牛の研究では、収縮の性質と代謝の性質の結びつきも、腹直筋では比較した筋肉より弱かった。また、酵素活動による中間的な線維の分類が難しいという問題も報告された。速い・遅いという名札から、代謝も疲れ方も同じ調子で決まると期待しすぎない読み方が必要である。[14]

同じ腹直筋でも、場所と測り方が結果を変える

ラットの腹直筋を構造、筋線維、神経支配から調べた研究では、胸側、上腹部、下腹部で構造が異なった。上腹部は比較的単純な区画の並びを示した一方、下腹部は筋の束が組み合う複雑な構造を持ち、胸側にも別の特徴があった。腹直筋は均質な帯として扱えない構造を示したのである。ラットの部位差を18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、人での検証が必要になる。[19]

筋線維の分布にも内外の違いがあった。酸化的な遅い線維は内側半分に多く、解糖的な速い線維は逆に外側に多かった。著者らは構造と神経支配の違いも合わせ、行動によって部位ごとの動員が異なる可能性を示している。これはラットの解剖学的な研究であり、人の上腹部だけを毎日鍛える手順へ変換する結果ではない。[19]

ここで区別したいのは、組織にどの型があるかと、その運動中にどの線維を動員したかである。構成を調べる実験は組織の特徴を問う。運動中の測定は動いている場面を問う。ラットの構造研究が部位ごとの動員を示唆したとしても、読者が行う運動そのものを測定したことにはならない。[19]

人の研究でも、対象を確かめる必要がある。腹部の手術後の切開部にヘルニアがある患者18人と、腹壁が保たれている手術患者18人を比較した観察研究では、腹直筋の組織に加え、画像での断面積と体幹を曲げる筋力を測った。ヘルニア群では線維の断面積が大きかったが、腹直筋の断面積当たりの体幹屈曲筋力は低かった。手術患者の比較であり、18〜39歳の健康な女性の筋力や運動後の回復へそのまま当てはめられない。[8]

大きな線維があることと、同じ面積から同じ力を出せることは一致しなかったのである。研究者らは、腹直筋の位置の変化や、中央の白線への付着を失うことに着目している。線維の性質だけで腹部の機能を説明するのではなく、筋肉がどこに付いてどう力を伝えるかも関係するという読み方になる。[8]

この観察研究を、筋肉を大きくしても意味がないという話に広げる必要はない。手術患者を比較した結果を、健康な人の筋力トレーニングの評価へ直結させないことが大切だ。お腹の働きを知りたいとき、組織の割合、画像の面積、実際に出た力は、それぞれ異なる情報を与える。[8]

研究の表にある「割合」は、何を分母にした数字なのかという問いも伴う。ニホンザルの報告は線維型の平均割合と、各型の線維断面積を別に示している。割合が高いという話と、線維が大きいという話を混ぜると、同じ筋肉の説明でも意味が変わる。画面で数字を引用する際も、元の指標の名前まで残したい。[13]

また、腹直筋の画像で見た断面積と、その中を構成する個々の線維の断面積も区別する必要がある。患者の比較研究は、筋肉全体の断面積を画像で測り、組織で線維を調べ、筋力も別に測っていた。いずれも「筋肉の大きさ」に関係するが、測る単位と評価したい対象が違う。ひとつの測定で全部を代用する読み方を避けたい。[8]

観察研究で腹直筋の断面積と体幹屈曲筋力に関連があったことも、面積だけ増やせば同じ割合で力が増えるという約束ではない。研究ではヘルニア群で面積当たりの力が低いことも同時に示されている。関連を示す結果と、群の間にある違いを一緒に読むと、都合のよい結論だけを持ち帰らずに済む。[8]

数字で読む腹筋の筋線維研究

3頭:腹部の筋肉の構成を調べたニホンザルの数。人の集団の値ではない。[13]

26〜32%:同研究における各腹筋のタイプIの平均割合の範囲。健康な女性の基準値ではない。[13]

46〜52%:同研究のタイプIIBの平均割合の範囲。遅筋の割合と取り違えない。[13]

18人ずつ:切開部ヘルニアの有無で腹直筋を比較した患者数。一般の運動教室の参加者を調べた試験ではない。[8]

38%から54%:進行した心不全患者で補助人工心臓の装着後に増えた酸化的な筋線維の割合。運動頻度の効果を示す数字ではない。[16]

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宮川涼 Founder

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