筋トレの背中は小指側で強く握る?指ごとの力の分担と引く負荷を読み分ける

背中の筋トレで小指側を意識すると、引く負荷まで変わるのだろうか。指別のセンサーを使ったフェンシングや物を持ち上げる実験から、握力の合計、指の分担、背中への負荷を区別する。小指側が約61%を担った条件と人差し指が主役になった条件を比べ、握り方を試す際の記録の残し方も考える。

持ち手を引くたび、背中より先に手の中が気になる。「小指側で握る」と聞いて試したら、今度は小指に全神経が集まる。引く動きを練習するはずが、背中の日が指の試験になってしまう。

答えの芯は、どの指が多く力を出すかは、持つ物と動作の条件で変わる、ということだ。競技選手の測定でも、小指側を含む指の組が多く担った静止課題と、人差し指が最大の割合を担った突き動作がある。「小指側がいつでも正解」とする読み方はできない。[3][8]

さらに、手の中の分担と背中のトレーニング成果は別の問いである。ここでは指別の接触力を測った研究から、握りの合図をどう受け取るかを考える。動作の再現を音で助ける話は既存記事「筋トレの背中は動く速さを音で聞くと違う?引く動きの再現と回数を読み分ける」に譲り、持ち手に接する指の役割に絞る。

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小指側が約61%でも、小指だけの成績ではない

小指側が力を多く担う例として読めるのは、エリートのフェンシング選手8人を対象にした予備的な実験である。平均年齢は23.9歳、競技経験は10年を超えていた。研究者は各指の下に力を感じるセンサーを埋め込んだエペの持ち手を使い、指ごとの出力を測った。競技の道具を長く扱っている選手の測定であり、18〜39歳の女性が普段の筋トレで握る場合にそのまま当てはめるには、課題の違いを考える必要がある。[8]

課題は、親指と人差し指の組、中指・薬指・小指の組、すべての指、という条件で最大限に握ることだった。それぞれ5秒の収縮を2回行った。手全体で握る条件では、親指と人差し指が平均約39%、中指・薬指・小指が平均約61%を担った。ここで小指側と呼ばれた組には中指も入っている。約61%という数字を小指単独の成績にすると、研究とは別の話になる。[8]

実際、個々の指では親指と中指の力が大きかった。割合の大きな組に小指が含まれることと、小指が最も強いことは同じではない。通勤バッグを複数の持ち手で支える場面を想像すると分かりやすい。ある側の持ち手が多く負担することと、その端だけで全荷物を受け持つことは別だ。指の組の名前より、その組をどう定義したかが大事になる。[8]

この研究が試したのは競技用の持ち手を静止して握る出力である。背中の筋肉がどれだけ働いたか、反復して引けた回数が増えたかという成績には置き換えられない。筋トレの握りを考える際には、「小指側にも役割がある」という手の話として受け取り、背中への効果の証明として扱わない線引きが必要だ。[8]

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突き動作では人差し指の割合が大きかった

別の実験では、フルーレとエペのエリート選手34人が、大小の標的へ突きを行った。自分のタイミングで突く条件と、合図への反応時間を求められる条件を比べ、指の接触力と表面筋電図を測定した。表面筋電図とは、皮膚上の電極で筋肉の電気的な活動を調べる測定である。18〜39歳の女性が背中の筋トレを行う場面への適用は、この競技選手の測定とは分けて考える必要がある。この動作課題では人差し指の割合が最大で、親指と人差し指を合わせると全指の接触力の半分を超えた。[3]

静止課題の約61%とは印象が逆に見える。しかし、これは同じ測定を繰り返して正反対の答えが出た状況ではない。対象、持ち手、動作、力の集計条件が異なる。物を握って最大の力を出すことと、標的へ道具を運ぶことでは、達成したい仕事が違う。研究を読む側も、その仕事を揃えてから指の割合を比べる必要がある。[3][8]

合図に反応して突く条件では、中指の寄与が増え、親指・人差し指の組から分担が移った。筋活動も大きくなった。一方、指ごとの最大力を基準にして値を換算すると、この分担の変化は見られなかった。生の出力の割合が変わったことと、各指が自分の能力のどれだけを使ったかが変わることは別である。同じ表の中でも、分母を確かめないと指の頑張りを読み違える。[3]

標的の大小による正確さの要求は、力の分担にほとんど影響しなかった。ただし、試行ごとの命中精度を測っていない点も踏まえる必要がある。正確さは握りに無関係だ、と一般化する結果ではない。指の分担は安定した面を持ちながら、時間の制約には適応する、という範囲の知見である。[3]

背中を引くときに「小指だけを意識すれば、ほかの条件は気にしなくてよい」と考えるのは、この適応する手の姿から離れる。指は固定席の担当者ではない。どんな仕事を求められた手なのかを見てから、誰が多く受け持ったかを読む。その順なら、競技の数字を自分の筋トレへ急いで移植せずに済む。[3][8]

握力計と持ち手のセンサーは同じ数字にならない

8人の予備研究では、一般的な握力計の最大握力は平均65.3 kgfだったのに対し、指別センサー付き持ち手で捉えた力は平均14.4 kgfだった。kgfは力を表す単位である。同じ人を測っても、道具と測り方が変われば数字は大きく違った。これを「競技用の持ち手では手の能力が落ちた」と即断することはできない。[8]

握力計の全体値と、指の接触する場所で捉えた力は、測定の入口が違う。健康診断の握力の数字を、そのままマシンの重りの数字に置き換える発想には注意したい。手元で握る力、道具を保持するための接触力、外側から引かれる負荷は、質問として分けておく必要がある。この研究の比較は、測定器を越えて数値を一対一で対応させないための具体例になる。[8]

さらに親指・人差し指の組は、その組だけで握ったときの83.0 Nに対し、全指で握る中での寄与は54.7 Nと小さかった。Nは力の単位である。中指・薬指・小指の組については、単独条件と全指条件の違いは有意ではなかった。単独条件の力を足す方法では、手全体で握る中での分担を正確に表せない結果だ。[8]

ここで読むべきなのは、ほかの指が邪魔をするという話ではない。課題が変わると出力の組み合わせも変わる、という点である。ある指を強く使えた感覚だけを採点すると、全体として持ち手を扱う目的が後ろへ下がる。背中の筋トレで知りたいことが「同じ条件で引けるか」なら、指の意識を変えた感覚と、実際の動作の記録を分けて残した方が問いに近い。[8]

平均の周囲にも幅があり、握力計は標準偏差11.7 kgf、持ち手の測定は4.4 kgfだった。標準偏差は、測定値のばらつきを表す指標である。少人数の競技選手の平均を、自分が達成すべき基準として使う理由はない。自分の手を評価するなら、他人の平均への近さよりも、何を使い、どんな条件で測った値なのかを先に確かめたい。[8]

割合を読む際には、全体を何としたかを言葉で補うと整理しやすい。全指の接触力に対する割合なら、その指が手全体の中で受け持った取り分を表す。個々の指の最大力を基準にした値なら、その指自身の最大出力との比較になる。人差し指の取り分が大きくても、人差し指だけが能力の限界に近いとは限らない。突き動作の実験で、換算の仕方によって条件間の差が見えなくなった点は、この区別の実例である。[3]

また、手全体で握る条件の内訳を知りたいときに、指の組を別々に握った記録だけを集めても、同じ質問への答えにはならない。予備研究では親指・人差し指の組に単独条件と全指条件の差があった一方、残りの組には有意な差がなかった。差の現れ方は指の組で異なった。指の組ごとに結果を読むことで、「独立した力の足し算ではない」という説明にも必要な濃淡がつく。[8]

筋トレの種類や組み合わせを調べている人は、持ち手を変えるたびに小指の意識を採点し直す必要はない。まず、自分が比べたいのは握った感じなのか、持ち手の扱いやすさなのか、引く動作の成績なのかを決めたい。指のセンサーの研究が直接答えるのは手の接触力の問いだ。背中を鍛える種目の優劣には、引く動作そのものの比較が必要になる。[3][8]

数字で読む指の分担

8人:指別センサー付き持ち手を試したエリート選手の人数。予備研究である。[8]

約61%:手全体で握る際に、中指・薬指・小指の組が担った平均割合。小指単独ではない。[8]

34人:大小の標的への突き動作で、指の接触力を測定した選手数。[3]

半分超:突き動作で親指・人差し指が合わせて担った接触力の割合。[3]

65.3 kgfと14.4 kgf:同じ予備研究の握力計と指別持ち手の平均値。測定条件を揃えて読む数字だ。[8]

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宮川涼 Founder

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