デスクワークの軽い運動で言葉は出やすくなる?画面への固定と発想の違いを読む

デスクワークで言葉が出ないとき、軽い運動や歩行は何を変えるのか。歩行と創造性のメタ分析、差が出なかった実験、座ったまま動きを制限した研究を読み比べる。発想の数、案の独自性、正解を選ぶ力を分け、画面から離れる場面と机に戻って確かめる作業の組み立てを考える。

返信メールの冒頭が決まらない。画面の点滅するカーソルを見つめているのに、頭に浮かぶのは同じ言い回しばかりだ。立って少し歩けば変わるのか。それとも、机を離れる口実が欲しいだけなのか。

歩行には、案を広げる「発散的思考」を助ける可能性がある。最適な答えを選ぶ「収束的思考」への効果は、まだ不確かである。歩行と創造性をまとめたメタ分析では、この違いがはっきり表れている。[1]

さらに、歩数だけが論点ではない。座っていても体の動きを制限しない条件が、発想に有利だった実験がある。[3] 既存記事「デスクワークの運動不足に歩く休憩は何分おき?食後の血糖と脂質の反応を読む」に休憩間隔と代謝の話は譲り、ここでは画面に向かって言葉や案を探す場面を考える。

既存記事「デスクワークでこっそり運動するしかない?周りの目と休憩の取り方を研究で読む」には職場で動ける条件の話を譲る。ここで問うのは、動ける条件を確保した後、発想課題のどの成績に違いが出るかである。

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「言葉が出る」を、数と選び方に分ける

日常の「頭が働いた」は便利な表現だが、研究の成績を読むときには少し大ざっぱである。案が多く出たのか、違う種類の案が出たのか、珍しい案だったのか。これらは同じ意味ではない。学生を対象とした実験では、流暢性を案の総数、柔軟性を案のカテゴリー数、独創性を回答の珍しさ、精緻性を案に加えられた詳しさとして、それぞれ採点した。[4]

例えば、職場の掲示物の見出しを考える場面を想像するとよい。似た見出しを次々に挙げることと、説明型から問いかけ型へ切り替えることは、作業として違う。これは研究結果そのものではなく、数と種類を分けるための仕事上の例である。候補の多さだけを見れば、同じ方向の言い換えも大きな成果に見えてしまう。

発散的思考は、考えを広げ、新しく役立つ案を生み出す側の能力である。対して収束的思考は、案を分析して最適な解決策を探す側の能力として整理される。[1] 企画の候補を並べる作業と、条件に合う候補を選ぶ作業を、同じ「考える時間」に押し込まないことが出発点になる。

「言葉が出やすい」を、会話が上手になる、誤字が減る、相手を説得できる、と読み替えるのも早い。ここで中心に扱うのは、用途や類推を考える創造性課題の成績である。[3][6] 仕事でどう使うかを考える際には、実験で測った力と、自分が今困っている作業の距離を意識したい。メールの送信ボタンを押す前には、自分で内容を確かめる作業が残る。

用途を考える課題では、普段の使い方から離れた候補を探す。類推を作る課題では、別の物事の間に似た関係を見いだす。[6] どちらも言葉で答える場面があっても、語彙の量だけを確かめる検査と同一視しない方がよい。言葉を使う課題という共通点より、何を答えるよう求められたかを見ると、結果の射程をつかみやすい。

仕事でも、相手への説明をどう組み立てるか迷う時と、既にある原稿から誤記を探す時では、困り方が違う。前者なら表現の候補を出す場面を切り取れるが、後者なら記載と事実の照合が中心になる。自分が困っていることを「言葉が出ない」とだけ書かず、「導入の候補が似てしまう」「選んだ言い方が条件に合うか迷う」と書き直してみる。これは効果測定ではなく、研究の問いと自分の問いを近づける準備である。

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まとめた研究では、歩行は案を広げる側に有利だった

歩行に絞った系統的レビューとメタ分析は、論文を決まった方法で集め、結果を統合した研究である。対象は16論文に含まれる23研究、計1,036人で、多くは高等教育機関の学生だった。研究の内訳は無作為化実験12件、非無作為化実験9件、観察研究2件である。[1] 18〜39歳の女性の仕事場面へそのまま当てはめるには、学生中心の集団と職場の条件の違いを考える必要がある。

発散的思考への効果量は、コーエンのdで0.93、95%信頼区間は0.44〜1.42だった。著者らは大きな効果と評価し、証拠の確実性は中程度としている。無作為化試験だけを取り出した解析でも、dは0.82、95%信頼区間は0.35〜1.28であり、案を広げる側に有利な傾向は残った。[1]

効果量とは、異なる尺度の成績を比べるために差の大きさをそろえた指標である。ここでのdを、案が何個増える、仕事が何割速くなる、と換算して読むことはできない。信頼区間は推定の幅を示す。点の値だけでなく幅も示されているため、「大きな効果」という短い言葉の背後に推定の揺れがあることも分かる。[1]

一方、収束的思考ではdは0.16、95%信頼区間は−0.31〜0.63で、著者らは効果がないという結果についても証拠が非常に不確かだと評価した。[1] 「歩くと正解も見つかる」とは言えないが、「歩くと正解を選ぶ力が落ちる」と決める材料でもない。発散側の結果と同じ確かさで、収束側まで断定しない読み方が必要だ。

この違いを仕事に置き換えるなら、見出し案を広げたい時と、契約条件を照合したい時では、期待の置き方を変えるという提案になる。これは業務で効果を実証した手順ではない。歩行研究で有利な側が、すべての知的作業ではなく発散的思考だったことから考える使い分けである。[1]

研究の型を分けた解析にも意味がある。無作為化実験は、条件への割り当てを偶然に任せて比較する方法であり、観察研究は行動と成績の関係を観察する方法である。両者を混ぜた結果だけでなく、無作為化試験に絞っても発散的思考への大きな効果が残った点は、歩行を試す根拠として読みたい。[1] ただし、この解析から読者個人の最適な歩く長さや、職種ごとの伸び幅まで決めることはしない。

歩いた後に座っても、発想の変化が残った実験がある

よく引用される歩行の研究では、成人を対象に4つの実験が行われた。身近な物の別の用途を考える課題と、複数の手がかりから共通する答えを探す課題を使い、歩行中と座位の成績を比較している。前者は発散的思考、後者は収束的思考を調べる課題である。成人の実験結果を18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、対象と仕事の課題の違いを考える必要がある。[6]

最初の実験では、歩行によって用途を考える課題の創造性が高まった参加者は81%だったが、収束的思考の課題で成績が高まった参加者は23%だった。[6] この数字は「創造性が81%上昇した」という意味ではない。成績が高まった人の割合である。見出しに大きく載せやすい数字ほど、何を分母にした数字なのかを確かめる必要がある。

別の実験では、座った後に歩く、歩いた後に座る、座位を繰り返すという順番を比較した。歩行で用途課題の成績が高くなり、歩いた後に座った状態でも創造性への残存効果が見られた。[6] 「歩きながら入力しなければ意味がない」という読み方は、この結果とは合わない。歩いてから机で案を書き留める構成にも、検討する余地がある。

さらに、屋外歩行へ条件を広げた実験や、室内座位、室内の歩行機上、屋外歩行、車椅子で屋外を移動する条件を比較した実験もある。類推を作る課題では、屋外を歩く条件で最も新規性と質の高い類推が生まれた。歩くことと屋外の刺激による影響は分けて考えられると報告された。[6]

ここには「数さえ増えれば質は関係ない」という話とも違う面がある。特定の類推課題では質にも好ましい結果が出ているからだ。[6] ただし、類推の質が良かったことと、唯一の正解を選ぶ力が高まることは同義ではない。用途、類推、正解探しという課題の違いを残すと、歩行の働きを過大にも過小にも評価せずに済む。

屋外条件の比較で車椅子による移動も組み込まれていた点は、歩行と景色の変化をひとまとまりにしないために重要である。[6] 日常なら、席を離れる時には動作だけでなく目に入る物も変わる。その経験を「全部、脚を動かした効果だ」と語ると、実験が分けようとした条件を再び混ぜることになる。逆に、室内の歩行機でも検討された結果があるため、自然の豊かな場所へ行けないと試せない話として扱う必要もない。[6]

数字で読む歩行と発想

23研究、1,036人:歩行と創造性のメタ分析に含まれた規模で、多くは学生である。[1]

0.93:発散的思考の効果量d。95%信頼区間は0.44〜1.42だった。[1]

0.16:収束的思考の効果量d。95%信頼区間は−0.31〜0.63で、証拠は非常に不確かだった。[1]

81%:用途課題で歩行時に創造性が高まった参加者の割合であり、得点の増加率ではない。[6]

15分:学生の実験で歩行などに割り当てた時間だが、創造性の指標に有意差は出なかった。[4]

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宮川涼 Founder

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