体力をつけるために歩くなら、下り坂も練習になるのか。若い女性の筋力試験、日常的に歩く人の介入研究、上りと下りの代謝比較から、伸びた能力と変わらなかった指標を読み分ける。息の楽さだけで成果を判断せず、坂の傾斜や歩く速さ、対象者の違いも踏まえて、普段の散歩の目的を考える。
坂の頂上で息を整える。帰りの下り道は、体力づくりの時間に数えてよいのだろうか。しかし、下り歩行を続けた若い女性で、膝を伸ばす最大の力が改善した試験がある。本人には軽い運動と感じられていても、脚の筋力を変える練習にはなり得たのである。[1]
ただし、「下れば体力が全部つく」という答えではない。上りと下りを比較した糖尿病予備群の中年男性を対象にした別の小規模試験では、血糖や血中脂質に関する指標の改善は上り側で認められ、下り側では有意な変化が認められなかった。18〜39歳の女性にも同じ代謝の変化が起こるかは、この男性の試験だけでは判断できない。筋力が伸びる話と、代謝が変わる話は分けて読む必要がある。[9]
既存記事「下り坂ウォーキングは楽でも脚に負担?息の軽さと翌日の筋肉痛のずれを読む」には、その日の負担と翌日の感覚の話を譲る。ここで考えるのは、普段の散歩に坂道があるとき、続けた後に何を成果として期待できるかだ。帰り道にも役割はある。期待する成果は、測られた能力ごとに選びたい。[1][9]
「基礎代謝を上げる運動の成果は何で見る?代謝が変わらないときの筋力と体力の読み方」は、安静時のエネルギー消費と運動の成果を扱う記事である。ここではその問いを引き継がず、上りと下りという歩く条件の違いに焦点を絞る。

下り坂の成果は「体力」の中身を決めて読む
体力をつけたいという願いには、脚でしっかり体を支えたい、長く移動したい、健診の数値が気になる、といった別々の目的が入り込む。下り歩行を扱う研究でも、膝を伸ばす力を測ったものと、歩行やバランスを測ったもの、血糖や血中脂質を測ったものがある。同じ運動名でも、確かめている成果はそろっていない。[1][3][9][10]
例えば、膝を伸ばす最大筋力とは、太ももの前側にある大腿四頭筋が、最大限の努力でどれほど力を出せるかという指標だ。若い女性の試験では、この最大の力と、最大の力の60%を保てる時間を別々に測っている。統計的に有意な改善が報告されたのは、下り群の左右の最大筋力だった。最大の力が伸びた結果を、持ちこたえる時間も同じように伸びた結果へ置き換えてはいけない。[1]
日常の言葉なら、力強さと粘り強さは別の成績表に載る。さらに、血液検査で見る変化も別の成績表だ。散歩の後に「今日は楽だった」と思ったとしても、その感想から筋力の伸びや代謝の変化まで一度に判定することはできない。軽いという自覚と筋力の改善が同時に観察された試験は、その切り分けの必要性をよく示している。[1][9]
下り歩行は、研究ではエキセントリック運動、つまり筋肉が伸ばされながら力を出す運動として位置付けられている。上り歩行は、筋肉が短くなりながら力を出す運動の例として扱われる。坂を往復するときには、道の向きだけでなく、筋肉の働き方の区分も変わるのである。[1][9]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
若い女性の試験では、軽いと感じる下りで筋力が伸びた
直接の手掛かりとなるのは、平均年齢26歳の女性32人を対象にした無作為化比較試験である。平地、上り、下り、上りと下りを組み合わせる群に分かれ、週3回、各30分の歩行を6週間続けた。散歩をした直後だけでなく、一定期間を通して取り組んだ前後を比べている。[1]
下り群はトレッドミルの傾斜がマイナス20%、歩く速さが毎秒1.36mという条件だった。上り群はプラス20%で毎秒0.75m、平地群は傾斜なしで毎秒1.0mである。組み合わせ群は、上りと下りを各15分行った。同じ時間の歩行でも、傾斜と速さの両方が群によって異なる設計だった。[1]
この条件で、下り群では左右の大腿四頭筋の最大筋力に有意な改善が認められた。一方、運動のきつさや痛みを評価した尺度では、軽い活動で痛みのないものとして捉えられていた。苦しいと感じる練習だけが脚の力を変える、という見方には収まらない結果だ。[1]
気を付けたいのは、下り群で有意な変化があり、ほかの群で同じ報告がなかったことと、「下りは上りより必ず優れている」という結論は同じではない点である。ここで確認できるのは、この対象者と運動条件で下り群の最大筋力が改善したことだ。上り下りの方向だけを切り出した、あらゆる条件に共通する順位ではない。[1]
また、マイナス20%は研究装置上の設定であり、道で見掛けた急坂をそのまま処方に変えるための数字ではない。研究を生活へ持ち帰るときに役立つのは、急な坂を探すことより、歩く運動でも筋力に関わる刺激を組み込めるという着眼点だ。試験と同じ速さで下れば同じ成果になる、とは読まない。[1]
立川駅北口で用事を済ませた帰り、歩いた時間は同じでも経路が違えば、試験と重なる条件も変わる。散歩を振り返るなら、時間だけでなく、平地だったか坂があったかを一緒に残す。その記録は筋力の測定にはならないが、どのような歩行を続けているかを説明する材料にはなる。[1]

歩数がほぼ同じでも、歩き方を変えた研究がある
すでに歩く習慣がある人には、歩数を増やす以外の工夫を検討した研究が参考になる。対象は54〜88歳の11人で、週5日以上、運動として毎日5,000歩を超えて歩く人たちだった。最初の4週間は通常どおり歩き、その後の8週間はランジに加え、階段や坂の下りを取り入れた。18〜39歳の女性に同じ改善率を当てはめるには、年齢と元の歩行習慣が異なる点を考える必要がある。[3]
ランジとは、足を前後に開いて体を沈める動作である。この研究の変更は下り坂だけではなく、こうした動作を含む歩き方全体だった。エキセントリックな歩行として数えた歩数は、週100歩から週1,000歩へ段階的に増やしている。ふだんの歩行を続けながら、動きの内容を変えた設計だ。[3]
平均の総歩数は、通常歩行の時期が1日10,535歩、変更後が10,118歩で、有意な差はなかった。それでも、後半の期間には膝を伸ばす最大筋力が平均18.6%、椅子から立ち上がる課題の成績が平均24.2%改善した。通常歩行だけの最初の期間には、これらに有意な変化が認められていない。[3]
これは、歩数という量だけで成果を説明し切れない可能性を示す結果である。ただし、同じ人が通常歩行の時期を先に、変更した時期を後に経験した小規模な介入研究だ。下り歩行のみを別群と比べた試験ではないため、改善のすべてを坂道の効果として取り出すことはできない。[3]
さらに、筋力の変化は18.6±15.7%、立ち上がり課題は24.2±17.3%と報告されている。平均値の横に大きなばらつきもある。記事の数字を、読者自身の予定表に書き込める達成率として扱うべきではない。年齢も歩行習慣も違う人に、同じ割合の変化を約束する数字ではないからだ。[3]
一方で、すでに歩数を稼いでいる人にとっては問いの立て方が変わる。もっと遠くまで歩けるか、に加えて、今の道にはどのような動作が含まれているかを考えられる。スマホの歩数表示は足した量を教えるが、その日の動作の内訳までは説明してくれない。この研究で重要なのは、総歩数の増加がなくても成績が変わったという組み合わせである。[3]
血糖や血中脂質では、上りと下りで結果が違った
筋力に関する好ましい結果だけを並べると、下りが万能に見えてしまう。そこで照らし合わせたいのが、糖尿病予備群の中年男性16人を上り群と下り群に分けた予備的試験だ。平均年齢は56.9歳で、それぞれ8人が3週間に9回の歩行を行った。18〜39歳の女性に結果をそのまま当てはめるには、性別・年齢・糖代謝の状態が異なる。[9]
上り群では、糖を摂取した後の血糖の推移から評価する耐糖能、中性脂肪、一般に善玉と呼ばれるHDLコレステロール、総コレステロールとHDLの比に有意な改善が認められた。下り群では、代謝指標に有意な適応は認められなかった。下りを続ければ血液検査も同じように改善する、という読み方を支持する結果ではない。[9]
ただし、比較にはもう少し続きがある。推定したエネルギー消費量で調整すると、ほぼすべての代謝指標で上りと下りの効果は同等になった。また、開始時の耐糖能の問題の大きさと、その後の変化の程度には関連があった。どちら向きの坂かだけでなく、消費するエネルギーや出発点も読み解く必要がある。[9]
この調整後の結果は、「同じ時間下れば同じ効果」という意味ではない。実際に歩いた結果の比較と、推定エネルギー消費量を考慮して見直した比較は、別の問いに答えている。下り側で有意な変化がなかった事実を消して、調整後だけを宣伝文句にすることもできない。[9]
目的が脚の力なら筋力の試験を、代謝なら代謝の試験を読む。若い女性の筋力試験と、中年男性の代謝試験は、対象も期間も測定項目も異なる。「下りで筋力が伸びたのに代謝は変わらないのか」という食い違いは、同じ能力を測っていないことから整理できる。[1][9]
数字で読む坂道の練習
女性32人:平均年齢26歳の試験で、平地・上り・下り・組み合わせを比較した。[1]
6週間:週3回、各30分の介入後、下り群の左右の最大筋力に有意な改善があった。[1]
18.6%:日常的に歩く11人で、ランジや下りを加えた期間の膝伸ばし筋力の平均改善率である。[3]
3週間に9回:糖尿病予備群の男性16人の試験では、下り群の代謝指標に有意な変化はなかった。[9]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2





