ダイエットで食事を減らすと、体重だけでなく炎症の指標も下がるのか。カロリー制限や断続的な断食を比較した研究から、効果の大きさ、指標ごとの違い、運動を加えた場合を読み分ける。食事の減らしすぎを正当化せず、栄養状態の確認や研究の対象を踏まえて日常の判断につなぐ。
夕食のご飯をよそう手が止まる。体重のために減らしているつもりが、「炎症も抑える」と読むと、もう少し減らした方が健康なのかと迷う。弁当を選ぶ場面に、血液検査の話まで入ってくる。
答えの芯は、カロリー制限で炎症の指標が下がる場合はあるが、体重減少だけではその変化を予測できない、ということだ。過体重や肥満の人を対象とした統合分析でも、指標ごとに結果が違い、食事制限だけでは有意な変化が認められなかった分析もある。[20][4] ここから「少なく食べるほどよい」とは導けない。
感染の予防と免疫の評価は、既存記事「呼吸法で免疫力が上がったと言える?炎症の指標と感染の予防を分けて読む」に譲る。こちらでは食事を減らす介入に絞り、何を比べた時に、どの血液の数字が動いたのかを追う。減量の成績表を、そのまま免疫の成績表として読まないための話である。

食事を減らして見るのは、どの炎症なのか
今回の中心となる研究が扱うのは、肥満に伴う慢性的で軽度の炎症である。研究では血液中のC反応性たんぱく、略してCRPや、炎症に関わる情報伝達物質であるIL-6、TNF-αなどを測っている。[20] 「炎症」という見出しの下にも、異なる測定項目がある。
たとえば、CRPが下がった試験と、IL-6が下がった試験は、そのまま同じ結果とは呼べない。カロリー制限と断続的な断食を比較したメタ分析では、前者はCRPとIL-6、後者はTNF-αで低下が認められ、残る組み合わせでは関連を検出できなかった。[20] 血液の指標は、健康全体に丸を付ける判子ではない。
ここでいうメタ分析とは、複数の研究の結果を統計的に統合する方法である。無作為化比較試験では、参加者を偶然に基づいて別の群へ割り付け、介入の違いを比べる。[20] 食事を減らした人の感想だけでなく、比較相手との差を見る。その比較相手が普通の食事なのか、別の制限食なのかも、結論の意味を変える。
読者の生活に引き寄せれば、健診の体重欄だけを見て血液の変化まで想像しない、ということになる。体重の変化を調べる問いと、特定の炎症指標が変わるかという問いは分けておく。実際、食事制限で体重が減った一方、高感度CRPには有意な効果がなかった統合分析がある。[4] 検査結果の解釈は医師に確認する対象である。
日常で「炎症が気になる」と感じるきっかけと、研究が評価する項目も整理しておこう。食事を変えて体が軽く感じた日、その感覚を記録することはできる。ただし、その感覚をCRPの低下として置き換えることはできない。ここで取り上げる試験は、体感の言い換えでなく、採血した指標を比較している。[1][20] 調子のよさと検査値は、それぞれの言葉で扱う方が話を混ぜずに済む。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
統合すると下がる指標はあるが、効果は一様ではない
過体重または肥満の人を対象とした、少なくとも8週間の無作為化比較試験を集めたメタ分析がある。カロリー制限の試験は15件、断続的な断食の試験は6件であり、研究数はそろっていない。[20] 18〜39歳の女性に当てはめる際には、過体重・肥満という対象条件を踏まえる必要がある。
カロリー制限では、CRPの標準化平均差が−0.15、95%信頼区間が−0.30〜−0.00だった。IL-6では−0.31、95%信頼区間は−0.51〜−0.10だった。[20] 標準化平均差は、異なる研究を共通の尺度で比べるための数値である。検査票の濃度がその数字だけ減るという意味や、低下率を表す数字としては読まない。
信頼区間は推定の幅を示す。CRPの結果は低下側にあるものの、区間の端がゼロに近い。一方、IL-6は研究間のばらつきが大きく、不均一性を表す数値は73%だった。CRPの不均一性は0%と報告された。[20] 平均の向きだけでなく、結果がどれほどそろっているかにも違いがある。
この分析では、カロリー制限とTNF-αの低下との関連は検出されなかった。断続的な断食ではTNF-αの標準化平均差が−0.32、95%信頼区間が−0.63〜−0.02であったが、CRPとIL-6では関連を認めなかった。[20] 指標を選び直せば、印象も変わってしまう。宣伝文の「炎症が下がる」は、ここを丸めすぎることがある。
さらに著者らは、含まれた研究の無作為化や割り付け手順に懸念があると述べている。[20] 統合後も研究手順に由来する不確かさは残る。食事量をもっと削る判断よりも先に、対象者、比較条件、測定した指標を確認したい。夕食の量を決めるために、統計の小さな差を競争の目標にする必要はない。
平均値を個人に当てはめる時にも、ひと呼吸置きたい。たとえば、解析全体の平均差が低下側でも、参加者全員が同じ幅だけ下がったという意味にはならない。とくにIL-6で研究間のばらつきが大きかったという結果は、異なる条件の結果を同じ見込みとして受け取らない理由になる。[20] 検査票の横に研究の平均差を書き込み、そこまで届かなかった自分を採点する使い方には向かない。
また、有意差があるという言葉と、生活上どれほどの利益があるかという問いも区別する。この分析が示すのは炎症指標の統合結果であり、CRPの標準化平均差が−0.15だったことから、日常の不調がどの程度変わるかを数値換算することはできない。[20] 数字を読む目的は、食事制限に大きな意味を足すことではなく、確かめられた変化の範囲をつかむことである。
体重の減少とCRPの変化は別に確かめる
別のメタ分析は、通常の食事とカロリー制限だけを行う食事を比較した。対象は心血管リスクの高い成人で、17件の無作為化比較試験、計1,066人を統合している。全研究で開始時の平均BMIは30以上だった。[4] BMIは身長と体重から体格を表す指標であり、この集団の結果を心血管リスクや体格の異なる18〜39歳の女性にそのまま当てはめることはできない。
通常の食事と比べた体重の平均差は−6.29kg、95%信頼区間は−7.51〜−5.06kgだった。体脂肪量は−4.89kg、95%信頼区間は−5.92〜−3.87kgである。[4] これは研究群の差であり、読者が目指す体重や、同じ方法を始めた時の予測値ではない。期間の異なる介入を含む統合値を、期限付きの約束にしない。
その一方で、高感度CRPには統計的に有意な効果がなかった。[4] 体重が減った事実と、炎症指標に確かな差がつかなかった事実は両立する。体重計は下向きなのに検査値が思うように動かない時、そこで直ちに「減らし方が足りない」と考えるのは、この結果と合わない。
同じ分析では除脂肪体重も平均−1.34kg、95%信頼区間は−2.14〜−0.53kgだった。[4] 除脂肪体重は体脂肪を除いた部分の重さであり、減った体重をすべて脂肪と数えることもできない。体重の数字が小さくなるほど健康の利益が増える、という単純な読み方から離れる材料になる。
先ほどのメタ分析ではCRPの低下があり、こちらでは高感度CRPの有意な変化がなかった。[20][4] 対象集団、含めた試験、比較する食事、測定指標が異なるため、結果をそのまま多数決にはかけられない。現時点では「下がる可能性はあるが、体重減少から自動的には予測できない」と置くのが、両方を取り落とさない読み方である。
この統合分析では、体重以外にも評価の層があった。空腹時インスリンや血圧には有意な改善が認められた一方、脂質の指標や血糖値には有意な効果がなかった。[4] 同じ参加者の健康を扱う研究でも、何を測るかによって答えが分かれる。炎症だけが例外的に分かりにくいのではなく、別々の評価項目をまとめて「健康になった」と短縮する時に、情報が落ちるのである。
なお、参加者の平均BMIが高い研究を読むことは、自分の体格をその集団へ近づけて評価することではない。研究は対象を決めて問いを立てている。[4] ふだんの食事量に不安がある人にとっては、まず自分がその対象と同じ条件かを確かめる材料になる。食べる量の相談では、検索で見つけた制限法だけでなく、実際の食事や体調を伝える方が、自分の状況を説明しやすい。
数字で読む食事制限と炎症
8週間以上:カロリー制限と断続的な断食を調べたメタ分析の介入期間の条件であり、翌朝の変化を扱う数字ではない。[20]
15件と6件:同分析に含まれたカロリー制限と断続的な断食の試験数。根拠の量にも差がある。[20]
−0.15:カロリー制限によるCRPの標準化平均差。95%信頼区間は−0.30〜−0.00である。[20]
1,066人:食事制限単独を通常の食事と比べた別の統合分析の人数。高感度CRPに有意な効果はなかった。[4]
−1.34kg:同分析の除脂肪体重の平均差。95%信頼区間は−2.14〜−0.53kgであり、脂肪だけの話ではない。[4]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






