よく笑うと健康によい、という話を消費エネルギーの面から確かめる。友人同士で映像を見た実験では、笑っている間の消費は安静時より増えたが、増加率と実際のkcalは違う読み方が必要だ。心拍数や笑った時間の測定、ストレス軽減のレビューを比べ、運動代わりと言える範囲を考える。
家で動画を見て、声が出るほど笑った。お腹も動いたし、少し息も弾んだ。これで今日の運動を済ませたことにできるのか。笑う間の消費エネルギーを測った実験では、安静時より消費が増えた。ただし、笑うことと運動が同じだと確かめた実験ではない。[1]
その実験の結論は、声を伴う自然な笑いで消費エネルギーと心拍数が安静時より10〜20%増えるというものだ。著者らが示す推定では、毎日10〜15分笑った場合の消費の上乗せは2〜10kcalである。「増える」という答えと「運動代わりにできる」という答えには距離がある。[1]
既存記事「笑うことは健康にいいのか、意図して笑う笑いヨガの試験と10人のホルモンの実験を読む」には、意図して笑う健康介入の論点を譲る。ここで確かめたいのは、動画を見て笑う最中に何を測ると、どれほどの上乗せが見えるのか、という問いである。
「筋肉痛の日は安静時の消費も増える?痛さとは別に測る回復のエネルギーを読む」「代謝は年齢で落ちるのか 筋肉だけでは説明できない消費エネルギーの変わり方」「有酸素運動の自転車は踏む力を画面で見る?力の配分と消費エネルギーを読む」の問いは各記事に譲り、ここでは笑いが起きた区間の測定に絞る。

笑っている間の消費は、どう測ったのか
中心になるのは、友人同士の45組を対象にした実験である。年齢は18〜34歳で、男性同士が7組、女性同士が21組、男女の組が17組だった。参加者の体格指数は平均24.7で、範囲は17.9〜41.1だった。映像を見ている間の身体の反応を測った研究だ。男女を含む18〜34歳の結果であり、18〜39歳の女性全体にそのまま当てはめるには、女性だけの結果や対象年齢の違いを考慮する必要がある。[1]
実験には、部屋全体で消費エネルギーを調べる間接熱量計が使われた。参加者の声を録音する仕組みも備え、心拍数も測った。音声から笑いの頻度、持続時間、種類を分析し、それぞれの時刻を消費エネルギーと心拍数の記録に合わせている。映像が面白かったかという感想だけで、消費量を決めたのではない。[1]
笑いを誘う映像を10分、笑いを誘いにくい映像を5分見る組み合わせを、4回繰り返した。面白い映像を流した長さと、実際に声を出して笑った長さを区別している点が、この問いにとって大切だ。映像の再生時間と、笑い声が出た時間は別に集計されている。[1]
日常なら、動画の途中で次のおすすめを探したり、友人の話を聞いたりする。見ている時間の内訳はさまざまだ。実験が音声も記録したことを踏まえると、「番組を見終えた」という生活の区切りを、「ずっと笑い続けた」という測定条件に置き換えずに済む。[1]
また、この実験で扱ったのは友人と一緒に映像を見て生じる自然な笑いである。ひとりで静かに微笑む場面や、合図に合わせて声を出す場面まで、同じ数値を当てはめるのは避けたい。数字は、誰に何をしてもらった時のものかと組にして読む。年齢や体格に幅があっても、あらゆる人のあらゆる笑い方の平均ではない。[1]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
10〜20%増という数字には、安静時という出発点がある
笑っている間の消費エネルギーは、安静時より平均0.19kcal/分高かった。併記されたばらつきの指標は±0.31kcal/分である。同じ結果は0.79±1.30kJ/分とも表され、平均の差についての95%信頼区間は0.75〜0.88kJ/分だった。平均としての増加と、個々の測定値がそろうことは別である。[1]
ここでいう上乗せとは、安静にしていても使うエネルギーと比べて、どれだけ多かったかという差だ。笑っている間の総消費をすべて「笑いで新しく使った分」と数えるのではない。実験の問いは、身体の消費全体がゼロからいくつになったかではなく、安静時からどれだけ変わったかだった。[1]
そのため、10〜20%という増加率だけを見て「相当な運動量だ」と想像する前に、何に対する割合なのかを戻して読む必要がある。比較の相手は安静時である。激しい運動の消費にさらに同じ割合が加わるという数字でも、日常全体の消費が一律に増えるという数字でもない。[1]
帰宅後のソファで「今日はよく笑った」と感じた夜にも、記事の見出しに出る割合はその夜全体の成績表にはならない。笑いが起きた間の反応を、笑っていない時間へも配ってしまうと、測った対象が変わる。実験の数字を生活で使うなら、まずその時間の境界を保ちたい。[1]
著者らは、毎日10〜15分の笑いが総消費を10〜40kJ、すなわち2〜10kcal増やす可能性を結論に挙げている。これは実験結果から示した推定であって、その時間だけ笑う生活を長く続けた人の体重変化ではない。笑いの予定を立てれば体重がどれほど変わるか、という約束に変える数字ではないのだ。[1]
さらに、平均の差の信頼区間と、人ごとのばらつきも読み分けたい。信頼区間は平均としての差を推定する幅であり、読者ひとりの次の笑いの消費量を囲む幅ではない。平均の増加に統計的な裏付けがあることは、誰でも同じだけ上乗せされることを意味しない。[1]
心拍数が上がっても、消費量をそのまま言い当てられない
笑いが起きた区間の心拍数は、安静時より平均2.1拍/分高かった。ばらつきの指標は±3.8拍/分で、測定された差の範囲は−7.6〜26.8拍/分だった。平均は増えていても、個々の測定値には方向にも幅にも違いがあった。[1]
消費エネルギーの差にも幅があり、−0.60〜2.31kcal/分だった。範囲の端の値を取り出して「誰でもこの量を消費する」とする読み方も、負の値を取り出して「笑うと消費が下がる」とする読み方も適切ではない。研究の全体像は、平均で増え、測定値には散らばりがあるというものだ。[1]
消費エネルギーと心拍数の間には正の相関があり、相関係数は0.250だった。相関とは、両者が一緒に変わる傾向を表す。対応が見られたからといって、心拍数の数字だけから誰の消費量でも正確に置き換えられる、という結果ではない。[1]
日常では、笑った後に胸の動きが気になったり、お腹の疲れを感じたりすると、その実感から使ったエネルギーを想像しやすい。しかし、この研究は身体の感想ではなく、心拍数と消費エネルギーを別々に測っていた。「動いた感じがある」という手応えに、そのままkcalの値札を付ける必要はない。[1]
笑った持続時間や頻度も、消費エネルギーと心拍数の双方に正の相関を示した。消費エネルギーとの相関係数は、持続時間が0.282、頻度が0.256である。笑い方を音声で分けて記録したからこそ、ただ「面白い映像を見た群」とするより、反応と笑いの関係を細かく見られた。[1]
とはいえ、この相関を「長く笑わせるほど、狙いどおりに消費量を増やせる」という処方に変えるのは早い。実験の中で一緒に動いた指標を、日常の訓練メニューに変換するには別の検証が必要だ。友人との雑談に、声を出した秒数のノルマを持ち込む根拠にはならない。[1]
友人同士の組で実験した点にも、生活へ持ち帰る際の意味がある。同じ映像でも、隣に誰がいるかという場面まで含めて実験が成立している。これは、一緒に見ることの効果を単独で取り出した比較ではない。友人と見た条件で測った消費の差として受け取れば、ひとりの時との差まで想像で埋めずに済む。[1]
映像の役割と測定項目を分けると、結果の仕組みも見通しやすい。映像は笑いを起こすために用意され、音声は笑いが起きた時を確かめるために記録され、消費エネルギーは身体の反応として測られた。面白い内容に触れたこと、声が出たこと、熱量の差があったことは、つながりを調べるための別々の記録なのだ。[1]
また、統計的に差が認められたことと、暮らしの中で何かを置き換えるほどの量かどうかも、同じ判定ではない。平均の差を示した後に、著者らが時間とkcalによる推定を示したのは、変化の有無だけでは量の見通しがつかないからだと読める。私の読みでは、この研究の面白さは「笑いも運動だ」という呼び名より、楽しい瞬間の反応を実際に測った点にある。[1]
数字で読む笑いの消費エネルギー
45組:友人同士で映像を見た成人の組数。対象年齢は18〜34歳だった。[1]
0.19kcal/分:笑いの間の消費エネルギーが安静時を上回った平均の差である。[1]
2.1拍/分:笑いが起きた区間の心拍数が安静時を上回った平均の差だ。[1]
10〜20%:著者らが結論に示した、声を伴う自然な笑いによる安静時からの増加率である。[1]
2〜10kcal:毎日10〜15分笑った場合について、著者らが示す消費の上乗せの推定だ。[1]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
1
2







