金縛りの最中に目は動かせる?手足が動かない夜に残る合図を睡眠実験で読む

金縛りで手足が動かない最中に、目で合図を送った睡眠実験がある。左右の眼球運動で記録された出来事を手がかりに、筋肉の緊張、脳波、本人の感覚がそろわない睡眠の境目を読む。動かせた人の割合と記録区間の割合を分け、目の合図が解除法とは違う理由や、繰り返すときに医師へ伝えたい情報も整理する。

夜中に寝返りを打とうとしても、手足がついてこない。声を出したつもりでも隣へ届かない。ところが、その最中に目を左右へ動かし、実験室の記録に合図を残した例がある。「動けない」の中にも、動きの違いがあるのだ。[1]

答えの芯は、金縛り中でも眼球を意図的に動かせる場合がある、ということだ。睡眠実験では、記録した金縛りのうち2回で、左・右・左・右という眼球の合図を使って時点を特定した。この合図を手がかりにすると、動けなかった瞬間の脳波と筋肉の状態を照らし合わせられる。[1]

既存記事「金縛りはなぜ起きる?体が動かず声も出ない夜の仕組みと、一般の人7.6%・学生28.3%の開き」には、起こる仕組みと頻度の話を譲る。ここで追うのは、目から送られた合図を研究者がどう受け取り、本人の「起きている感じ」と睡眠の記録をどう照らし合わせたかである。

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「体が動かない」は、すべての筋肉が同じ状態という意味か

金縛りは、医学では睡眠麻痺と呼ばれる。眠りに入るときや目覚めるときに、意識や周囲への認識があるのに、一時的に体を動かせず、話せなくなる状態である。レビューでは、レム睡眠中の筋緊張の低下が覚醒への移行時にも残る現象として説明されている。筋緊張とは、筋肉が保っている張りのことだ。[11][12]

「意識は戻ったのに、体はまだ眠りの側にいる」という説明は、経験を言葉にする助けになる。ただし、それだけで脳のすべてが完全な覚醒状態にあると決めてはいけない。金縛りの最中に記録した脳波を調べると、覚醒とも通常のレム睡眠とも同じではない特徴が見つかっている。本人の感覚は体験を、測定値はそのときの生理状態を伝えている。[1]

レム睡眠には、全身の筋緊張が低下する一方で眼球運動などは保たれる、という特徴がある。ナルコレプシーと診断された女性の顔の脱力を扱った症例報告も、この点を説明している。この患者は、強い全身の脱力があっても、自分の意思で目を動かせた。ただし、報告の中心は笑いなどをきっかけに起こる情動脱力発作であり、寝床で起こる金縛りそのものではない。患者の症例を18〜39歳の女性一般にそのまま当てはめることはできない。[3]

この区別は小さく見えて大きい。同じ「動けない」という日常語で語られても、睡眠と覚醒の境目で起こったのか、笑っているときに起こったのかで、医師が検討する現象は変わる。関連する症例は眼球運動が残る生理を理解する補助線にはなるが、金縛り中の合図を確かめるなら、金縛りを直接記録した実験へ戻る必要がある。[1][3]

たとえば翌朝、「全部の筋肉が止まった」と家族に話したくなるかもしれない。その言葉は動けなかった体験として尊重してよい。一方、研究の話をするときは、手足の動かしにくさ、眼球の動き、測定された筋緊張を分ける。この分け方によって、体験を否定せずに、体の状態をより細かく見られるようになる。[1][3]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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左・右・左・右は、実験の時刻を教える合図だった

Mainieriらの実験では、参加者5人から金縛り5回と、目が覚めたと思いながら実際には夢の中にいる偽覚醒2回を捉えた。金縛り5回のうち、2回は眼球の左右の符号、1回は外部の音、残る2回は後からの報告で時点を把握している。目の合図、外からの刺激、本人の報告という異なる手がかりを使った実験である。[1]

使った符号は左・右・左・右だった。これは、夢を見ていると自覚する明晰夢の研究で通常用いられる合図でもある。目がたまたま動いた事実だけを見るのではなく、決まった並びを利用して出来事の時点に印を付ける。本人の経験と、眠りを測る記録とをつなぐ役割を担ったのだ。[1]

朝になって「夜中に金縛りに遭った」と話すだけなら、その体験が測定記録のどこに当たるかを合わせる作業が必要になる。この実験では、眼球の符号によって時点を示せた回がある。後から思い出して語る方法と、その最中に合図を送る方法では、出来事と記録を対応させる手がかりが違う。[1]

ここで「5回中2回だから、成功率はこうだ」と計算したくなる。しかし、この2回は合図で時点が示された出来事の数である。一般の人へ同じ指示を出し、何人が成功するかを調べた割合ではない。参加者の人数と、記録された出来事の回数も同じ単位ではない。小規模な睡眠実験を読むときほど、数字の主語を外さないことが大切だ。[1]

また、眼球を動かすことと、まぶたを開けることは別の問いである。この実験の核心は眼球運動を用いた符号にある。そこから「金縛り中は必ず目を開けられる」「周囲を自由に見渡せる」と話を広げる必要はない。確認できた動きに焦点を合わせたほうが、目の合図という発見の輪郭はかえって明瞭になる。[1]

脳波とあごの筋肉は、同じ速さで覚醒へ戻るのか

この研究は、眠りの状態を複数の記録で調べる睡眠ポリグラフ検査を使い、脳波やあごの筋緊張、眼球運動を比べた。記録を3秒ずつの短い区間に分け、金縛り、通常のレム睡眠、覚醒でどの特徴が現れるかを検討している。体験を丸ごと「睡眠」か「覚醒」へ振り分けるより、細かい観測で境目を見ようとした実験である。[1]

金縛り中の区間の93.8%には、あごの筋緊張の消失が含まれていた。通常のレム睡眠では89.7%、覚醒では33.3%だった。これは金縛りの人の93.8%が同じ症状だった、という数値ではない。測定した短い区間のうち、あごの筋肉にその特徴が認められた割合である。[1]

同じ区間でも、脳波の特徴をみると違う数字になる。シータ波という脳波のリズムは金縛り中の70.8%に含まれ、レム睡眠では89.7%、覚醒では21.2%だった。あごの筋肉の数字だけで「脳も完全に眠っている」と結論したのではなく、脳波そのものにも眠りに近い特徴が多かったのである。[1]

さらに脳波の周波数成分を詳しくみると、金縛り中のアルファ、シータ、デルタの成分は覚醒とレム睡眠の中間にあった。一方、ベータ成分は通常のレム睡眠と違わなかった。筋肉と脳波の各成分を分けて見ることで、境目の状態が浮かび上がる。[1]

著者らは、シータ波が優勢でアルファ波がまれで弱かったことから、金縛り中の脳は覚醒ではなく、夢を見ている状態にあると示唆した。この結論は落とせない。ただし、実験室で捉えた限られた出来事の分析であり、あらゆる金縛りを同一の脳波で説明できるとまで一般化するものではない。[1]

比較の組み方にも注意がいる。金縛りなどと通常のレム睡眠・覚醒との比較は参加者5人中の同じ4人で行い、明晰なレム睡眠との比較には別のナルコレプシー患者4人を使っている。患者群との比較結果を18〜39歳の女性一般へそのまま当てはめることはできない。すべての条件が同じ参加者だけでそろった実験として読むと、研究の姿が変わってしまう。[1]

測定する場所にも目を向けたい。この実験で筋緊張の指標にしているのはあごである。そこに筋緊張の消失が多く見られたことは重要だが、あごの割合を腕や脚それぞれの動きの割合として扱ってはいけない。眼球については眼球の記録、筋肉については測った場所の記録として読むと、「体が動かないのに合図がある」という一見した矛盾を整理できる。[1]

偽覚醒でも、脳波の周波数成分は金縛りと同じような特徴を示した。目覚めたと思う体験と、体を動かせないと感じる体験は言葉では異なるが、研究者は両方を睡眠と覚醒の中間にある現象として比較している。似た測定結果があっても、本人が語る体験の違いも残る。ここでも、本人がどう感じたかと、どの信号が記録されたかを並べる姿勢が役立つ。[1]

この研究を読む面白さは、目だけで大量の情報を送れたことにあるのではない。決められた左右の動きが、金縛りの起こった時点を知る手がかりになったことにある。動けないという経験が、後日の物語としてだけでなく、その最中の生理的な記録と対応づけられた。目の合図は、睡眠の境目を観察するための工夫なのである。[1]

数字で読む目の合図と睡眠の記録

参加者5人、金縛り5回。人数と出来事の回数を区別する実験である。[1]

眼球の符号で時点を示したのは2回。一般の人の成功率を表す数字ではない。[1]

3秒の短い区間で状態を評価。本人の体験と測定の単位は異なる。[1]

あごの筋緊張の消失は金縛り区間の93.8%。手足全体を測った割合ではない。[1]

急速眼球運動は金縛り区間の6.9%。意図的な合図ができた人の割合ではない。[1]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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