犬を飼うと寿命が延びる?384万人の24%減と、双子の登録で再現しなかった研究を読む

犬を飼うと寿命が延びるのか。384万人のメタ分析の24%減は交絡を補正していない数字である。ひとり暮らしで33%低かった343万人の登録研究は、双子の登録では再現しなかった。ペット全体を補正した解析、猫の解析、知らない犬の試験まで順に読む。

賃貸の更新の紙に「ペット不可」とある夜、スマホに「犬を飼うと死亡リスク24%減」という見出しが流れてくる。部屋を変えるべきか、と一瞬考える。その数字は嘘ではない。384万人近くのデータをまとめた2019年のメタ分析(複数の研究を統合する解析)に、本当に書いてある[7]。

ただし答えの芯は見出しと違う。犬を飼うと寿命が延びる、とは言えない。言えるのは、犬を飼っている人に死亡が少ないという観察がある、までである[7]。その解析は交絡(結果をゆがめる別の要因)を補正していないと著者が断っており[7]、補正した別の解析ではペット全体の全死亡に差が無く[10]、犬に限って有意な関連を認めなかった解析もある[3]。逆に343万人を追ったスウェーデンの登録研究では、時間で変わる要因を解析に入れても犬の飼い主の死亡は低かったが、同じ論文の双子の登録では再現しなかった[21]。

観察研究を読むときに誰もが疑うのは、もともと元気な人が犬を飼っているだけではないか、という点である。毎日散歩に出られる体と、時間と、お金がある人が犬を飼い、その人たちがもともと長生きしやすいのだとしたら、数字は犬の手柄ではない。ただ、この疑いを直接確かめた双子の登録では、交絡の兆候は見られなかった[21]。話はそれほど単純ではない。この記事では、大きく見える数字から順に、それが何を示しているのかを確かめていく。途中で、猫のほうに有意差が出た解析や、知らない犬の同席が血圧に影響しなかった試験も出てくる。

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384万人で24%減。数字は本物で、補正はされていない

まず大きいほうの数字を正確に写す。1950年から2019年5月までの論文から、犬を飼っているかどうかと、その後の死亡を調べた観察研究10本を集めた。参加者は3,837,005人、死亡などのイベントは530,515件、追跡は平均10.1年である[7]。犬を飼っている人の全死亡の相対リスク(1なら差なし)は0.76で、95%信頼区間(本当の値がありそうな幅)は0.67〜0.86である。これが見出しの24%減だ。心血管の病気による死亡に絞ると0.69で、31%減になる[7]。10本のうち死亡の有意な低下を示したのは6本である[7]。

ここで読み違えやすいことが2つある。

1つ目は、24%という数字の意味だ。これは追跡中に亡くなった人の割合の比であって、寿命が24%延びるという意味ではない。何年長生きするかは、この数字からは読めない。

2つ目は、著者自身が書いている限界である。考えられる限界は、解析が交絡を補正していないことだという[7]。別の要因を調整しないまま束ねた数字、と読むことになる。384万人という人数は偶然のぶれを小さくするが、偏りを小さくはしてくれない。人数が多いほど、偏った数字が狭い信頼区間に収まるだけのことがある。

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スウェーデンの343万人では、ひとり暮らしの差が大きかった

犬だけを1つの国で追った研究で読み応えがあるのは、2017年のスウェーデンの全国登録である。3,432,153人を最長12年追い、時間とともに変わる要因も解析に入れている。犬を飼っていたのは13.1%である[21]。ひとり暮らしの人では、犬の飼い主の死亡のハザード比(これも1なら差なし)は0.67(0.65〜0.69)、心血管の病気による死亡は0.64(0.59〜0.70)だった。複数人の世帯では0.89と0.85で、差はずっと小さくなる[21]。猟犬の系統の犬を飼う人で、心血管疾患のリスクがいちばん低かった[21]。

著者が出発点に置いた説明は、犬が社会的な支えになり、体を動かす動機になるというものだ[21]。ひとり暮らしで差が大きいのは、この説明と矛盾しない。猟犬の数字も同じように読めるが、猟犬を選ぶ人がもともとよく動く人だという読み方もできる。どちらも論文が確かめた説明ではなく、観察研究なので決められない。

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同じ2019年、ペット全体を補正して見た解析は1.01だった

同じ年に、もう1本のメタ分析が出ている。こちらは12研究・488,986人(女性52.3%、平均56.1歳、追跡8.7年)で、犬に限らずペット全体を見た。補正後の全死亡のオッズ比(これも1なら差なし)は1.01(95%信頼区間0.94〜1.08)。つまり差が無い[10]。心血管の死亡は0.87(0.75〜1.00)で、信頼区間がちょうど1に触れている。心筋梗塞は0.99、脳卒中も0.99だった[10]。

0.76は犬の10本、1.01はペット全体の12本である。対象も研究の束も違うので、この差を補正のせいにはできない。時間で変わる要因を入れた犬の登録研究では、0.67と0.89で低いまま残っている[21]。言えるのは、犬の数字とペット全体の数字を混ぜて語れない、ということである。

可笑しいのは題名である。この論文の題は「ペット所有と心血管疾患のあいだの控えめな保護的関連」なのだが、結論の最初の文は「ペット所有は補正後の全死亡や心血管死亡、心血管疾患、心筋梗塞、脳卒中のリスクと関連しない」である[10]。保護的な関連が出てくるのは、全体の結果が出たあとに下位集団へ分けた解析で、一般の人の心血管死亡が0.93(0.86〜0.99)だった部分だ[10]。全体で差が無いときの下位集団の数字は、事後の解析として割り引いて読むのが作法である。題名だけ読むと、そこを読み飛ばす。

犬では有意な関連が出ず、猫では出た解析がある

2020年のメタ分析(26研究)は、犬と猫を分けて見ている。ペット全体では、心血管死亡のハザード比が補正前0.73、補正後0.81(0.68〜0.97)で、補正しても低いまま残った[3]。全死亡は補正前0.73だが、補正後は0.40(0.04〜3.78)と信頼区間が大きく広がり、確かなことは言えなくなった[3]。

面白いのはその先である。猫の飼い主は、心血管死亡が補正後0.79(0.63〜0.99)で低かった。全死亡は1.04で差が無い[3]。一方、犬の飼い主には、全死亡でも心血管死亡でも有意な関連が見られなかった[3]。384万人の見出しを読んで犬を飼おうとしていた人には、気まずい結果である。スウェーデンの登録とも食い違っている。なぜ食い違うのかは、この2本からは決められない。

もちろん猫のほうが上だと決まったわけでもない。犬と猫は別々に束ねた数字で、猫の信頼区間の上限は0.99と、ぎりぎり1を下回っているだけだ。それでも、この論文の著者は結論で「ペットを迎えることを勧める」と書いている(動物由来の感染症とアレルギーへの対策を条件に)[3]。犬で有意差が無いのに、である。観察研究の結論の欄は、データより少し先へ走ることがある。

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「元気な人が犬を飼う」という読み筋

ここからは数字の読み方の話になる。犬を迎えるには、毎日歩ける体、世話をする時間、ペットの飼える住まい、費用が要る。ペットの世話に費用がかかることは総説も指摘している[18]。体を壊せば、飼い始めることも飼い続けることも難しくなる。すると「犬を飼っている人」という集団には、最初から元気な人が多く入っている可能性がある。これは特定の論文の結論ではなく、観察研究を読むときの一般の注意である。

この読み筋を直接試した数字が、スウェーデンの論文の後半にある。本人の申告で健康と生活習慣が分かる双子の登録34,202人で確かめたところ、心血管疾患と死亡の低下は再現しなかった。同時に、障害、持病、生活習慣による交絡を示す兆候も見られなかった[21]。元気な人が飼っているという証拠は、ここには無い。犬の飼い主の死亡が低いという結果も、ここでは再現しなかった。どちらの説も勝っていない。著者の結論も、ひとり暮らしの心血管疾患リスクと一般の人の死亡の低さに「関連があるようだ」という言い方にとどまる[21]。

研究の足元も揃っていない。猫や犬の所有と心血管疾患、肥満を調べた14本のレビューでは、結果は正、負、混合、効果なしに分かれた[5]。「飼っている」の確かめ方も、確認なしの自己申告から登録の照合までばらばらで、対象の多くは非ヒスパニック系の白人だった[5]。立川の集合住宅にそのまま持ち込める数字ではない。

高齢者に絞った26研究(21の国と地域)のレビューでも、全死亡を調べた6本のうち低かったのは2本で、関連なしが4本である[1]。著者の言葉は「文脈に依存する」だった[1]。ただし因果を完全に否定もできない。総説は、横断研究の相関だけでなく、より統制された実験研究が一部の健康指標で因果の可能性を示唆すると書き、大きなランダム化試験を求めている[17]。とはいえ、くじで犬を割り当てて10年追う試験は、組むのがなかなか難しい。

知らない犬が同席しても、血圧に影響は無かった

小さいが、くじを使った実験はある。72人(平均40歳)に10分ずつ、安静と軽い精神的ストレスの課題を交互に行ってもらい、知らない犬を前半か後半にランダムに同席させた[20]。犬がいない場面で、血圧はストレスにより125/71から133/75へ上がった。そして、人懐こい犬の同席は、血圧と心拍に影響しなかった[20]。ストレスで上がる血圧の前で、知らない犬は何もしなかったことになる。自分の飼い犬で調べた試験ではない。

ところが、心拍のゆらぎから見た自律神経の指標(LF/HF比。この試験では低いほど望ましいと読む)で、妙な結果が出る。犬の飼い主は犬がいるときに2.8、いないときに3.4。犬を飼っていない人は犬がいるときに3.4、いないときに2.8[20]。数字が鏡に映したように入れ替わっている。飼い主では知らない犬がいるときに、飼っていない人では犬がいないときに、この指標が望ましい側に出た[20]。

ただし72人の1本で、測ったのはこの指標である。気分や落ち着きを聞いた結果ではないので、犬が人を癒やすかどうかまでは言えない。犬の同席が誰にでも同じ向きに働くわけではない、と読むのがこの試験の範囲である。

数字で読む犬と寿命

  • 0.76: 犬の飼い主の全死亡の相対リスク。384万人の観察研究の統合で、補正なし[7]
  • 1.01: ペット全体の補正後の全死亡のオッズ比。49万人弱で差なし[10]
  • 0.79: 猫の飼い主の補正後の心血管死亡。犬の飼い主は有意な関連なし[3]
  • 0.67: ひとり暮らしの犬の飼い主の死亡のハザード比。343万人の登録研究。双子の登録では再現せず[21]
  • 125/71→133/75: 軽いストレスで上がった血圧。知らない犬の同席は影響しなかった[20]
  • 2.8と3.4: 自律神経の指標。飼い主とそうでない人で、犬の有無による差の向きが逆だった[20]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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