運動が体にもたらす効果はイリシンで分かる?測定法で変わる血中の数字を読む

運動後にイリシンが増えたというニュースを、運動の成果とそのまま受け取ってよいのか。人を対象にした系統的レビューと肥満のある子どもの試験を比べ、免疫測定と質量分析、血中濃度と体の変化の違いを読む。増加と低下の両方の結果から、研究の数字を日常の運動選びに持ち込む際の確認点を整理する。

運動で増えるはずの物質が、歩いた後に減っていたら、その運動は失敗なのか。「運動で増えるイリシン」という見出しだけでは、この問いに答えられない。血液の数字があれば、運動の選び方にも正解が出そうに見える。だが、人を対象にした系統的レビューでは、運動後に増えた研究がある一方、測定の精度が結論を難しくしていた。[14]

答えの芯は、イリシンの濃度だけで運動の効果を採点しないことだ。肥満のある子どもの運動試験では、条件によってイリシンが低下した。増加しなかったから体を動かした意味がない、と読み替えることはできない。[15]

近い題材の「有酸素運動で脳を育てる物質は増える?血中BDNFの数字と測定条件を読む」には、別の物質をめぐる問いを譲る。ここで確かめたいのは、イリシンという名前の横に並ぶ数字を、測り方と研究対象からどこまで受け取れるかである。

ヨガとからだの記事のイメージ写真 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

イリシンを測ることと、運動の成果を測ること

イリシンは、骨格筋から分泌される物質の総称であるマイオカインの一つとして研究されている。小児・思春期の筋肉と骨の健康を扱ったレビューでも、筋肉と骨のやり取りや代謝経路に関わる物質として取り上げられた。成長期を扱うレビューであり、18〜39歳の女性の骨への効果を直接示すものではない。筋肉を、力を出すだけでなく周囲の組織と情報をやり取りする存在として見る研究である。[13]

この視点には魅力がある。階段を上る脚の動きと、目には見えない体内の反応がつながるからだ。ただし、物質が関わる仕組みを説明することと、その濃度を使って個人の運動の良し悪しを判定することの間には、別の検証が要る。人の運動とイリシンを検討した系統的レビューは、測定の不正確さを踏まえ、身体活動への反応について結論を出せないとした。[14]

たとえば、ある運動後の血中濃度が高かったとする。そこで直接見ているのは血液中の指標である。筋力、骨の状態、体組成、認知機能はそれぞれ異なる結果だ。イリシンがそれらに関係する可能性を扱う研究があっても、濃度が上がったという結果を、そのまま全部の改善に置き換える読み方は飛躍になる。[4][19]

骨をめぐる系統的レビューでは、細胞培養、動物モデル、人の臨床研究を含めてマイオカインの働きを検討している。イリシンについては骨を形成する細胞を促す方向の作用が整理されたが、生体内の働きと臨床的な意義には、さらに研究が必要とされた。細胞や動物を含む結果を18〜39歳の女性に適用するには、人での効果の検証が要る。骨に関係する作用があるという話と、採血の値で骨の成果が分かるという話は、同じ段階にない。[4]

脳との関係でも同様だ。高齢者の低い筋肉量と認知機能の関連を扱うレビューは、炎症、インスリンやたんぱく質の代謝、ミトコンドリア機能などを組み合わせた仮説を提示した。18〜39歳の女性でも同じ経路が同じように働くかは、この高齢者を扱うレビューから確定できない。関係しそうな経路を描く研究と、成果を判定できる検査を確立する研究を分けて読む必要がある。[19]

日常では「効いたかどうか」を早く知りたくなる。見えない反応ほど、名前のある数字に安心を預けたくもなる。しかし、研究が測った対象が血中濃度なら、まずはその結果として受け止める。体の変化まで主張するなら、その変化を実際に測った研究かどうかを次に確認する。この順序なら、仕組みの面白さを残したまま期待の広げすぎを防げる。[4][14]

初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。

体験レッスンを予約体験専用 03-6665-0898LINE

測定法が違う数字を、そのまま並べない

人の身体活動とイリシンの関係を調べた系統的レビューには、51研究、計2474人が含まれ、うち12研究がランダム化比較試験だった。運動の条件を比べた研究だけでなく、身体活動との関連を見た研究も含む集積である。多数の研究がそろったことは重要だが、それだけで濃度の読み方が確定するわけではなかった。[14]

運動への血中イリシンの反応を扱った45研究のうち、免疫測定の一種であるELISAを用いて増加を示したのは22研究だった。免疫測定は抗体の反応を利用する測り方である。レビューには、別の分析法である質量分析によって増加を示した研究も2本含まれていた。ここでは、何が増えたかと一緒に、どの方法でその値を得たかが問題になる。[14]

この結果を「増えた論文がこれだけあるのだから確実だ」と数えるのは早い。レビューの結論は、イリシンを同定する方法の精度に問題があり、既存の証拠では身体活動への反応について結論できない、というものだった。研究を集める手順が整っていても、集めた研究の測定が十分に正確かという問いは残る。[14]

また、22研究という数字から、残りはすべて低下したと引き算してはいけない。ここで示されているのは、増加を報告した研究の数である。「増加を示した研究に入らなかった」という分類と、「低下が示された」という分類は異なる。数を見やすくするために、元の結果より細かい内訳を作らないことも、読み手の仕事だ。[14]

質量分析の研究がある点にも、受け取り方の限度がある。別の測り方で増加が観察されたことは検討材料になる。しかし、そこから他の研究の濃度まで同じ土台に載せてよいとはならない。レビュー全体が測定精度に注意を促している以上、方法の名前を見つけただけで、その研究の数字を万能の基準値にすることも避けたい。[14]

スマホで論文の図が続けて流れてくると、縦軸に同じ物質名が書いてあるだけで比較したくなる。そこで手を止め、同じ研究の中での前後比較なのか、別の集団を別の方法で測った値なのかを区別する。研究間で数字の大きさを競わせる前に、比較の条件がそろっているかを問うのである。測定法の課題が示された指標ほど、この確認を省けない。[14]

「測定に問題がある」という結論を、イリシンに関する話はすべて無意味だ、と読む必要もない。レビューは増加を報告した研究の存在を整理しつつ、全体として結論する際の障害を示した。面白い結果を残すことと、確定した知識として広めることは両立しなくてもよい。研究が先へ進むための問いが見えた、と受け止められる。[14]

血液までの途中にも、別々の観察点がある

同じ系統的レビューは、血中イリシンだけを集めたものではない。筋肉内のPGC-1aとFNDC5、血中イリシン、白色脂肪細胞のUCP1という、異なる観察点のつながりを検討した。筋肉の遺伝子の働きに関する指標と、血中の濃度と、脂肪細胞側の指標を順に見ようとした研究である。[14]

筋肉のPGC-1aとFNDC5の運動への反応を調べた16研究のうち、両方のメッセンジャーRNAが増えたのは4研究だった。メッセンジャーRNAは、遺伝子の情報を使う過程で現れる分子である。さらに1研究でFNDC5のメッセンジャーRNA増加が示された。ここでの観察を、血中濃度そのものの増加と混同しないことが大切だ。[14]

矢印で描かれた仕組みは分かりやすい。筋肉で変化が起き、血液を介して脂肪に作用する、と一本につなげられるからだ。だが、矢印の途中で何を測っているかは変わる。筋肉の指標が動いたという結果だけで、血中の濃度も動き、その先の組織も期待どおりに変わったとまで読まない。レビューは、こうした連鎖全体の検証が乏しいことを示している。[14]

白色脂肪細胞のUCP1のメッセンジャーRNAを調べた1研究では、運動の効果は見られなかった。これをもって運動と脂肪組織の研究全体を否定するのも行きすぎである。一方で、血中イリシンの増加から脂肪細胞の変化までを自動的につなぐ説明には、この結果を添える必要がある。都合のよい矢印だけを太くしない読み方だ。[14]

骨代謝の系統的レビューでは、検索で見つかった644論文から18本の原著研究を分析した。扱ったのはイリシンだけでなく、ミオスタチンなど複数のマイオカインである。筋肉と骨の関係を理解するための幅広い検討であり、特定の血中濃度を合格点にする研究ではない。論文を選んだ数と、何の関係を調べるために選んだかを合わせて見ると、レビューが答えられる問いの輪郭がはっきりする。[4]

数字で読むイリシン研究の比較条件

51研究・2474人:人の身体活動と関連する経路を検討した系統的レビューの規模。[14]

12研究:レビューに含まれたランダム化比較試験の数であり、全研究が同じ設計ではない。[14]

45研究中22研究:血中反応を扱う研究のうち、ELISAで増加を示した数。[14]

16研究中4研究:筋肉のPGC-1aとFNDC5の両方のメッセンジャーRNA増加を示した数。[14]

26人:イリシンの低下も観察された、肥満のある子どもの運動試験の人数。[15]

初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。

体験レッスンを予約体験専用 03-6665-0898LINE

💬 ご質問がある場合はこちらからどうぞ

オンザショアのチャットで質問する(24時間受付)

レッスン内容・料金・体験のご予約など、気になることをお気軽にお尋ねください。

author avatar
宮川涼 Founder

1

2

関連記事

ご体験予約