HIITやランニングの脂肪燃焼は、血中の運び方だけで決まるのか。女性を対象にした運動試験から、脂肪酸を筋肉へ取り込むたんぱく質の量と配置、運動中に使う脂肪量の関係を読む。アルブミンの研究と混同しやすい点、自転車の結果を走る練習へ移す際の注意、数字の読み方も整理する。
同じ自転車運動でも、訓練を重ねると使う脂肪の量は変わるのか。HIITの研究を読むと、息の上がり方だけでなく、筋肉へ脂肪酸を運ぶたんぱく質が登場する。血液の中の運び方と、筋肉の入口での運び方は、どう違うのだろうか。[5][11]
答えの芯は、運ぶ仕組みも関係するが、運ぶ場所を分ける必要がある、ということだ。女性の高強度インターバルトレーニングでは、脂肪酸を筋肉へ取り込むたんぱく質や、筋肉の内側の膜にある輸送たんぱく質の変化が確認されている。これはアルブミンを増やす方法を検証した試験とは違う。[5][11]
運動中の脂肪酸の酸化、つまり燃料として使う反応が増えた結果と、体脂肪が同じ割合で減ることも同義ではない。女性の小規模試験で報告された増加率は、決められた条件の自転車運動中に測った値である。まず、その数字がどの場所の何を表すかを確かめたい。[5]
既存記事「有酸素運動で血液の水分はなぜ保たれる?アルブミンの濃さと総量を読み分ける」には、血液の水分保持とアルブミンの濃度・総量の問いを譲る。ここでは、脂肪酸の燃料利用と筋肉の膜での輸送を扱う。

脂肪の運び方は、血液と筋肉で問いが違う
脂肪酸の輸送を考えるとき、血液中で何と結びついているか、筋肉の表面をどう通るか、筋肉の内側でどう利用されるかを、同じ話にしないことが出発点になる。ヒトの骨格筋を調べた研究では、脂肪酸の酸化には細胞の表面の膜と、ミトコンドリアの膜を越える輸送など、複数の調節点があるとされる。ミトコンドリアは、ここでは筋肉の内部で燃料利用に関わる場所として押さえればよい。[11]
登場するのが、脂肪酸の輸送に関わるたんぱく質である。名前は長いが、脂肪酸トランスロカーゼのFAT/CD36と、細胞膜脂肪酸結合たんぱく質のFABPpmが中心になる。これらの量だけでなく、どの膜に置かれているかが研究の対象になっている。たんぱく質の総量が増えることと、入口に当たる膜の量が増えることは、別々に測る必要がある。[10][11]
たとえば運動後の結果に「CD36が増加」とあっても、それが筋肉全体なのか、表面の膜なのか、ミトコンドリアの膜なのかで意味が違う。同じ名称だから同じ場所で同じ反応が起きた、と短縮すると、研究の肝心な部分が消えてしまう。女性を対象にした訓練研究では、実際に場所によって違う変化が出ている。[11]
隣接する「HIITの飛ばない運動は柔らかい床で変わる?沈む足元と筋活動の関係を読む」が扱う足元と筋活動の問いは、そちらに譲る。ここで追うのは種目の姿勢や床の選び方ではなく、脂肪酸の輸送たんぱく質を、どこで測っているかである。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
女性の試験で増えたのは、決めた運動中の脂肪利用
よく引用されるのが、ある程度活動的な女性8人を対象にした、訓練前後の介入試験だ。平均年齢は約22歳で、2週間に7回の高強度インターバルトレーニングを行った。HIITとは強い運動を休息などと交互に行う方法で、この研究では自転車を使っている。ランニングの試験として読み替えることはできない。[5]
訓練の内容は、最高酸素摂取量の約90%に相当する強度で4分間の運動を10回、間に2分間の休息を挟むというものだった。最高酸素摂取量は、運動で取り込める酸素量の上限を表す指標である。短い動画を見て気軽に取り入れる運動と、同じ「HIIT」の文字でくくるには、かなり具体的な条件が付いている。[5]
成果の測定には、訓練前の最高酸素摂取量の約60%に当たる強度で行う、60分間の自転車運動が使われた。その間の全身の脂肪酸化量は、訓練前の15.0gから訓練後の20.4gへ増え、増加率は36%だった。最高酸素摂取量も13%増えたが、この2つは異なる指標である。脂肪利用の割合と心肺能力の割合を足して、効果を大きく見せるものではない。[5]
大事なのは、強い運動の最中に36%多く脂肪を使ったという読み方ではないことだ。強い運動を繰り返した前後で、条件を定めた別の運動試験を比べた結果である。練習の内容と、成果を測る試験の内容を切り離すと、見出しの数字が落ち着いて見える。全力で動けば、その瞬間の脂肪利用が必ず最大になる、という処方にはならない。[5]
筋肉では、脂肪酸の利用に関わる酵素の最大活性にも変化があった。脂肪酸の酸化に関わる酵素は32%、クエン酸合成酵素は20%増えた。一方、細胞膜脂肪酸結合たんぱく質の筋肉全体での量は25%増えたが、CD36の量は変わらなかった。運動中の脂肪利用が増えたからといって、関係する部品の反応は異なっていた。[5]
この試験では、安静時の筋肉のグリコーゲンと中性脂肪の含有量は変わらず、訓練後の運動試験で使われたグリコーゲンの正味量は減った。グリコーゲンは筋肉に蓄えられた糖の形である。燃料の蓄えが減ったという話と、運動中の使い分けが変わったという話を分ける材料になる。体重計だけを見ていては、この種の変化は同じ尺度で確認できない。[5]

たんぱく質は、量と置き場所を組み合わせて読む
次に、運動習慣のない女性10人、平均年齢約22歳を対象に、6週間のHIITを行った研究を見よう。筋肉の組織を採取し、訓練前と訓練開始後の異なる時点を比べた介入試験である。女性の体で輸送たんぱく質を調べた点は身近だが、参加者の数と年齢を伴う結果として読む必要がある。[11]
訓練後、CD36は筋肉全体で10%、ミトコンドリアの膜では51%増えたが、筋肉の表面の膜では変わらなかった。対してFABPpmは、筋肉全体で48%、表面の膜では23%増え、ミトコンドリアの膜では変わらなかった。同じ運動に対しても、種類と場所の組み合わせで反応が異なる。[11]
「輸送がよくなった」と一言で済ませるより、表面で取り込む側の変化と、内部の膜での変化を区別したほうが正確だ。この研究は、訓練後の脂肪酸化の増加に、輸送たんぱく質の量と配置の変化が部分的に関係することを示唆している。部分的という言葉を外して、脂肪燃焼のすべてを輸送だけで説明することはできない。[11]
先ほどの女性の試験でCD36の全体量が変わらなかったことと、こちらで増えたことは、片方を消す理由にはならない。訓練期間も参加者も同じではなく、測っている場所も確認する必要がある。研究を並べると見えてくるのは、脂肪利用の変化に対して、単独のたんぱく質の数字を万能の答えにしない読み方である。[5][11]
また、この研究では膜の変化が比較的早く起き、訓練開始から2週と6週の間で差が認められなかった。だからといって、誰でも短期間で適応が完成するという意味にはならない。対象者と訓練の条件が決まった試験で、採取した時点の間に差がなかった、という範囲の結果だ。次の採血や次のランニングの予定を、そのまま決める数字ではない。[11]
運動直後の移動と、訓練による変化は同じではない
長い持久運動を行った直後にも、輸送たんぱく質の配置は調べられている。ヒト16人が最高酸素摂取量の約60%の強度で120分間自転車をこぎ、前後の筋肉を比べた研究では、表面の膜にあるCD36が75%、FABPpmが20%増えた。これはヒト16人の急性運動試験であり、18〜39歳の女性が訓練を続けた場合への適用は別に確かめる必要がある。[10]
同じ研究で行ったラットの実験では、走行後の筋肉の膜でCD36とFABPpmが増え、脂肪酸の一種であるパルミチン酸の取り込みも30%増えた。膜のたんぱく質と脂肪酸輸送との関係を考える手掛かりになる。ただし、脂肪酸の取り込みを直接測った部分はラットであり、ヒトの75%という値は膜のたんぱく質量を表す。ラットの取り込み量の変化を18〜39歳の女性へ適用するには、ヒトでの検証が必要だ。[10]
短い全力運動を反復する試験でも、適応はひとまとまりではなかった。活動的な男性8人のスプリントインターバルトレーニングでは、6週間にわたって自転車の全力運動を行い、筋肉の酸化能力を反映するたんぱく質が開始後1週間で約35%増えた。一方、糖、乳酸、脂肪酸の輸送に関わるたんぱく質への影響は一様ではないと結論づけられている。男性8人の結果が18〜39歳の女性にも同じ程度に生じるかは、この試験からは判断できない。[15]
数字で読む脂肪酸の輸送と利用
女性8人、2週間に7回の訓練。小規模な訓練前後の比較である。[5]
脂肪酸化量は15.0gから20.4g。決められた60分の自転車運動中の値だ。[5]
筋肉全体のFABPpmは25%増加。同じ試験のCD36全体量は不変だった。[5]
女性10人の6週間の訓練では、ミトコンドリア膜のCD36が51%増加した。[11]
持久運動直後のヒトの表面膜CD36は75%増加。脂肪燃焼が75%増えた値ではない。[10]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






