ストレス発散に泣ける映画は役立つ?直後と時間を置いた後の気分を読み比べる

ストレス発散のために泣ける映画を見たのに、直後はかえって沈んでしまった。泣いた人と泣かなかった人を追った研究から、直後と時間を置いた後の気分の違いを読む。改善が一貫しなかった実験も併せて、涙の量や目の反応と心の回復を分け、自分に合う過ごし方を考える。

エンドロールが終わっても、涙を拭いたティッシュが手元に残っている。けれど、仕事帰りに持ち帰った重たい気分まで晴れたかと聞かれると、返事に困る。泣ける映画を選んだ夜には、そんな終わり方もある。

ストレス発散に泣くことが役立つかは、泣いた直後だけでは決めにくい。感情を動かす映画を使った研究では、泣いた人の気分はいったん悪化し、その後に回復して、遅い時点では鑑賞前より改善していた。ただし、別の実験では泣いた人と泣かなかった人の間に一貫した気分変化の違いがなく、泣けば必ずすっきりするという約束にはならない。[10][6]

ここで確かめたいのは、名作の選び方より、映画の後のどの時点で自分に尋ねるかである。関連する既存記事「ストレス対策の運動は緊張する予定の前にも役立つ?一回動いた後の反応を読む」には運動と予定前の反応を譲り、この記事では泣いた後の気分の時間経過に絞る。怖い映画を楽しむ際の緊張とも分けて考える。既存記事「運動のストレス発散は画面の仲間でも変わる?つながりの中身と気分を読み分ける」が扱う交流や支えの実感とも問いが異なり、ここでは鑑賞後の気分をいつ確かめるかに焦点を置く。

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泣いた直後の沈み込みだけで失敗と決めない

感情を動かす映画を見せ、泣いたことを客観的に確認した28人と、泣かなかった32人の気分を比較した準実験研究がある。準実験とは、ここでは映画を見る条件を設けつつ、実際に泣いたかどうかで人を分けて比較する研究である。測定は鑑賞前、直後、その20分後と90分後に行われた。映画を見て泣いた参加者と泣かなかった参加者の比較であり、18〜39歳の女性の日常のストレス発散にも同じ経過が当てはまるかは、別に確かめる必要がある。[10]

直後には、泣いた人で否定的な気分が有意に増えた。一方、泣かなかった人には、その時点で気分の変化が見られなかった。映画を見終えて悲しいままであることは、この研究で観察された経過と矛盾しない。涙が出た時点で気分が好転するという、即時の切り替えではなかった。[10]

その後、泣いた人の気分は回復し、20分後には鑑賞前の水準に戻り、90分後の測定では鑑賞前より改善していた。直後の低下だけを切り取るのと、遅い時点まで見るのとでは、同じ鑑賞体験に違う説明がつく。これは、直後の沈み込みを無視する話ではなく、観察する時間を途中で打ち切らないという話である。[10]

中央線に乗る直前に映画を見終えたなら、ホームで感じた重さがその夜全体の感想になるかもしれない。帰宅後に落ち着いて振り返るなら、別の感想になるかもしれない。この場面は生活に当てはめた例であって、通勤中に測った研究結果ではない。研究が支えるのは、測定時点によって評価が変わり得るという部分である。[10]

「直後はつらかった」と「後からは少し楽だった」は、両立し得る。後で楽になったからといって、最初のつらさまで勘違いになることはない。逆に、途中でつらくなっただけで、回復の可能性まで否定する必要もない。この両方を残しておくほうが、研究の時間経過に忠実だ。[10]

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回復したという結果には比較の相手がある

この研究で大切なのは、鑑賞前の気分も測っていたことである。泣いた直後より楽になっただけなら、強い悲しさが弱まったという読み方になる。鑑賞前より改善したかどうかを見ると、映画に触れる前を基準にした変化も考えられる。研究では、その違いを確かめられる測定順序が取られていた。[10]

ただし、泣く人と泣かない人を無作為に割り付けた試験ではない。「泣くことそのもの」を別の条件から完全に切り離した比較とは異なる。泣いた人で後の回復が観察されたという結果を、涙を出せば同じ改善が起きるという因果の保証に置き換えないことが必要だ。[10]

映画を見て泣いたという体験には、物語を受け取ることと、感情が動くことと、涙が出ることが重なっている。この研究の比較から読むべきなのは、その状況で泣いた人の気分の推移である。「悲しい作品を選ぶ」「涙を出す」「仕事のストレスを減らす」を、同じ操作として扱わないほうがよい。[10]

また、この結果は、泣く回数が多いほど改善が大きいというものではない。泣いた頻度は、泣いたかどうかから予測される以上の気分変化を予測しなかった。感動の深さを使い終えたティッシュの量で採点する必要はない。研究で見ていたのは気分の変化であり、涙の消費量の競争ではない。[10]

日常で記録するときも、泣けた作品を高評価にする欄と、見た後に過ごしやすくなったかを記す欄は分けてよい。これは記録の工夫であって、治療法の提案ではない。泣いた事実と気分の回復を別々に扱うという、研究を読む際の区別を手元に残すためである。[10][6]

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別の実験では一貫した改善が見られなかった

泣いた後の回復を扱う研究だけで判断すると、期待が大きくなりすぎる。悲しい映画と痛みの反応を組み合わせた別の研究では、57人を対象にした実験と70人を対象にした実験が行われた。気分に加えて、電気刺激または冷水による急性の痛みへの反応を調べた準実験である。悲しい映画と痛みの刺激を経験する参加者が対象であり、18〜39歳の女性が日常で映画だけを見る場合への適用には、実験条件との違いを考える必要がある。[6]

泣いた人は前者で28人、後者で49人だった。後者では映画直後だけでなく20分後と50分後にも測定したが、泣いた人と泣かなかった人の間に、気分と痛みの変化の一貫した違いは確認されなかった。泣く程度と反応の間にも、系統的な量と効果の関係は見られなかった。[6]

この結果は、先ほどの90分後の改善をそのまま再現したものではない。一方で、測定の最終時点や実験の課題が同じではないため、単純に勝敗をつける比較でもない。遅い時点で改善を観察した研究と、別の条件では一貫した改善を認めなかった研究がある。その幅を含めて読む必要がある。[10][6]

特に、痛みの実験を「泣けば体も楽になる」という説明に使うことはできない。研究は泣くことによる急性痛の軽減を支持せず、有意だった一部の結果は予想に反して痛みの閾値に不利な方向だった。閾値とは、刺激を痛みとして感じ始める境目を指す。気分の回復への期待と、痛みへの効果は分けるべきである。[6]

映画で気持ちを切り替えたい夜でも、体の痛みまで涙で片付けようとはしない。痛みについて判断が必要なら医師に相談する対象である。研究で扱った急性痛の反応を、日々の不調すべてや病気の治療へ広げる根拠にはならない。[6]

直後・途中・後からを同じ言葉でまとめない

「泣いたらすっきりした」という感想を聞いたときには、いつの感想なのかを添えると理解しやすい。映画直後の質問なら、登場人物の悲しさが強く残った時点を捉えているかもしれない。後の質問なら、そこから戻った時点を捉えているかもしれない。時間経過を追った研究は、この違いを説明する手掛かりになる。[10]

ただし、時計を見れば全員が同じ経路で回復するわけではない。90分という値は、ある研究で後の気分を測った時刻であり、待つべき時間の処方ではない。別の研究は50分後まで測っても一貫した群間差を見いだしていない。研究の時刻を、そのまま自宅で守る期限にしないことだ。[10][6]

振り返りには、比較する基準も必要になる。「さっきよりまし」と「映画を見る前より楽」は違う。前者だけなら、映画で動いた感情が戻った可能性も残る。鑑賞前、直後、後の時点という順序を意識すると、どこからどこへの変化を話しているかが明確になる。[10]

たとえば感想欄に「悲しい」「泣けた」「今は落ち着いた」と書きたくなることがある。それぞれは作品の内容、涙の有無、現在の気分に近い情報だ。全部を「発散できた」に畳む前に、何についての感想かを分けてみる。これは研究の測定項目を日常の言葉で区別するための提案である。[10][6]

参加人数の読み方にも注意したい。泣いた人だけの人数を見れば、その人たちに起きた変化に目が向く。泣かなかった人の経過も併せて見れば、映画を見た後に誰にどんな変化があったかを比較できる。ただし、両群には鑑賞前から個人差があり得る。群分けの方法まで含めて読むことが、泣く行動への過大な期待を避ける助けになる。[10]

数字で読む泣いた後の気分

28人と32人:時間経過を追った研究で比較した、泣いた人と泣かなかった人の人数を示す。[10]

20分後:同研究で、泣いた人の気分が鑑賞前の水準に戻った測定時点である。[10]

90分後:同研究で、泣いた人が鑑賞前より気分の改善を報告した最終測定時点に当たる。[10]

57人と70人:急性痛と気分を調べた別研究の、それぞれの実験の参加人数である。[6]

50分後:後者の実験での遅い測定時点であり、90分後の研究と同じ追跡時間ではない。[6][10]

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宮川涼 Founder

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