体が硬いと足が速いのは本当?前屈の苦手さと筋肉・腱の硬さを分けて読む

体が硬い人は足が速いという話を、前屈の柔軟性、機器で測る筋肉や腱の硬さ、短距離のタイムに分けて検討する。硬さの増加と低下、それぞれに走力の改善が伴った試験を比べ、柔らかさを得ると速さを失うのか、競技者の直後の変化を日常の運動へどう読み替えるかを考える。

体育の短距離走では先頭だったのに、前屈では手が床に届かなかった。「体が硬いほうが、ばねがあるのでは」と考えると、ストレッチを続けることまで少し惜しくなる。

答えの芯は、前屈が苦手なことと、測定された筋肉や腱の硬さを同じものとして扱わないことである。柔軟性だけが改善して筋肉の硬さや運動機能は変わらなかった試験があり、硬さと短距離タイムの変化も、研究をまたいで同じ方向にはそろわない。[4][1][13]

既存記事「足首が硬いと短距離走は遅い?形で決めつける前に筋力・跳躍とタイムを分ける」には足首の形をめぐる問いを譲る。ここで確かめるのは、柔らかくなると速さを失うという交換条件が、本当に成り立つのかである。

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前屈の届く距離は、筋肉の硬さそのものではない

日常の「硬い」は便利な言葉だ。前屈が浅い、足首が曲がりにくい、太ももの裏が張る。同じ言葉で話せる反面、それぞれ何を測ったかが抜け落ちやすい。研究を読む際には、柔軟性を測った検査と、組織の硬さを測った検査の欄を分けて見る必要がある。[4][10]

活動的な男性32人を無作為に分けた試験では、太もも裏を鍛えるノルディックハムストリング運動の後に、フォームローラーを使う群と、受動的に回復を待つ群を比べた。柔軟性は座って前へ手を伸ばす検査、筋肉の硬さは測定機器、跳躍は床に加わる力を測る装置で評価している。前屈と筋肉の硬さを別々に測った試験である。男性の運動後の反応を調べた結果であり、18〜39歳の女性の日常的な柔軟性にそのまま当てはめることはできない。[4]

ローラーを使った群では、運動直後の柔軟性が12.7%改善した。一方、筋肉の硬さ、圧迫に対する痛みの閾値、跳躍や最大随意等尺性収縮などへの効果は限定的だった。等尺性収縮とは、関節の動きを伴わず力を出す収縮である。この試験は直後と48時間後を調べており、柔軟性の改善を、ほかの測定項目も一緒に改善したこととして扱えない。[4]

ここで重要なのは、前屈が改善したのだから走りのばねが弱った、とも読めない点である。そもそもこの試験の機能評価は跳躍や力の発揮であり、短距離のタイムを測る研究とは目的が違う。柔軟性という結果から、測定していない走力まで一本道で結ばない読み方が必要になる。[4]

足首を外から動かす実験も、この区別を考える材料になる。健康な14人を対象に、機器で足首を曲げる速さと、音楽による覚醒状態を変えた研究では、速く伸ばす条件のほうが最大の可動域は大きかった。それにもかかわらず、伸ばす途中の硬さと筋活動も高かったのである。可動域とは、関節が動く範囲を指す。[10]

つまり、この実験では「よく動く」と「測定中の硬さが高い」が同時に起きていた。動く範囲が広がれば、硬さの値は必ず下がるという単純な対応ではない。研究者が測った伸ばす途中の抵抗と、日常で感じる動かしにくさを、同じ目盛りに載せないほうがよい。[10]

これは勢いをつけた前屈を勧める話ではない。外から機器で動かされた足首の実験を、自分で反動をつける運動の手順へ置き換えることはできない。測定条件によって可動域と硬さの関係が変わった、という事実を持ち帰れば十分である。[10]

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硬さが増して速くなった試験は、何を変えたのか

「硬い筋肉や腱は短距離に有利」という話に近い結果もある。大学の男子短距離選手17人が参加した無作為化クロスオーバー試験では、参加者が異なる条件を経験し、高負荷の筋力運動と、血流制限を伴う低負荷の筋力運動を比べた。評価は運動から5分後であり、長期間の体質の違いを比べた研究ではない。男子競技者の運動直後の結果なので、18〜39歳の女性が日常の運動でも同じ反応を示すかは別に確かめる必要がある。[1]

使われた運動は、腰を持ち上げるヒップスラストと、浅くしゃがむハーフスクワットである。高負荷条件は最大挙上重量の90%、血流制限を伴う低負荷条件は30%だった。これは競技者を対象に設定された実験条件であって、硬い体をつくるために読者がそのまま取り入れる処方ではない。[1]

血流制限を伴う低負荷のヒップスラストは、高負荷条件に比べて0〜20mのタイムを有意に改善した。血流制限を伴う低負荷のハーフスクワットでは、10〜20m区間のタイムが改善した。筋肉や腱の硬さは全体として増加し、条件によって太もも前、ふくらはぎ、アキレス腱で変化が見られた。[1]

ここから言えるのは、特定の準備運動の後に、硬さの増加と走る成績の改善が併存したということである。生まれつき前屈が苦手な人が、柔らかい人より速いと調べた研究ではない。また、筋肉や腱の硬さだけを独立に変えた実験でもない。運動方法と負荷の条件が同時に異なるため、タイムの改善を硬さだけの手柄にすることはできない。[1]

「5分後」という時間にも意味がある。その場での準備に伴う変化と、柔軟性を習慣として育てた結果とは、確かめている問いが違う。この結果を使って、ふだんのストレッチをやめれば短距離が速くなる、と判断する根拠にはならない。[1]

対象が大学の男子短距離選手である点も残しておきたい。走ることを練習している人の反応を、仕事帰りに初めて運動する人の反応として読まないためである。立川駅の階段を駆け上がれた朝と、競技者の計測走は、同じ「速い」でも比較の条件が違う。

硬さを下げてもタイムがよくなった研究がある

反対方向の結果を示したのが、22〜24歳の大学競技者32人を無作為に分けた試験だ。ふくらはぎへのフォームローリングと、組織をバンドで圧迫するフロッシングを比べ、アキレス腱の硬さ、反動を使った垂直跳び、15m走を測定した。介入前と、その後の複数の時点を調べている。大学競技者の短時間の反応であり、18〜39歳の女性全体に同じ変化を期待できる結果ではない。[13]

フロッシング群では、調べたアキレス腱の各部位で硬さが低下した。同時に、15m走のタイムも測定した各時点で短くなった。ローラー群でも、5分後、15分後、30分後のタイムが短くなった。少なくとも、硬さの低下が起きれば短距離の成績は必ず落ちる、という説明には合わない結果である。[13]

ただし、この研究はローラーとフロッシングの比較であり、何もしない群との比較として扱わないほうがよい。介入前後のタイム短縮が、そのまま方法の優劣や、硬さの変化だけによる効果を表すわけではない。前の試験とも、参加者、運動方法、測った距離、組織が異なる。[13][1]

硬さが増して改善した結果と、硬さが下がって改善した結果は、片方を消して整理する必要がない。別の条件で起きた結果として並べると、「硬さの値が高いほど、誰でもいつでも速い」という説明の粗さが見える。自分に必要なのは硬くなることか、柔らかくなることかという二択から、何の運動の後に、何を測ったかへ問いを移せる。[1][13]

しかも、両方とも短時間の変化を調べた試験である。長年の柔軟性と競技成績の関係を、その場の変化だけで決めることはできない。柔軟性を得る代わりに速さを失うという一般的な交換条件が証明された、と読むのは行き過ぎだ。[1][13]

ここまでを自分の運動記録に置き換えるなら、「伸びた感覚」「測った前屈」「走ったタイム」を別々に書くことになる。前屈が深くなった日に走りが重かったとしても、その組み合わせだけで腱のばねを失ったと結論しない。研究でも、柔軟性、硬さ、機能は別の評価として調べられている。[4][13]

測る場所にも目を向けたい。男子短距離選手の試験では、条件により太もも前やふくらはぎ、アキレス腱が変化した。一方、バスケットボール選手の試験で調べたのは太もも外側の筋肉である。「脚の硬さ」と略してしまうと、違う部位の結果を同じ対象のように並べることになる。[1][20]

この違いは、硬さの目標値を自分で設定しない理由にもなる。特定の部位で観察された変化を、全身で達成すべき目標に変える必要はない。ここで扱った試験は、それぞれの運動条件での反応を示している。前屈が苦手という自己評価から、その条件で測定された硬さの高低まで推定する手順にはならない。[1][4][13][20]

数字で読む硬さと短距離の研究

17人:男子短距離選手を対象に、負荷条件の異なる運動後の硬さと走力を比較した。[1]

5分後:同試験の評価時点であり、長期の柔軟性の変化を追った数字ではない。[1]

32人:ローラーとフロッシングを比べ、アキレス腱と15m走を測った大学競技者の人数である。[13]

12.7%:太もも裏の運動後、ローラー群で示された直後の柔軟性の改善であり、走る速さの改善率ではない。[4]

0.71:バスケットボール選手の試験で、両脚のドロップジャンプ後に見られた跳躍高の効果量である。[20]

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宮川涼 Founder

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