腸内細菌を移す治療で体重は変わったのか 便移植の試験が示した期待と限界

やせた人の腸内細菌を移せば体重も変わるのか。便移植の成人の比較試験、肥満手術への上乗せ、思春期からの長期追跡をたどる。菌が定着することと減量の違い、好ましい結果が出た研究の条件を整理し、食事や生活改善との関係から、立川で日々の体重管理を考える手がかりを探る。

重度の肥満がある成人の比較試験で、便移植後の体重減少率は移植群4.8%、対照群4.6%だった。やせた人の腸内細菌を移しても、自分の便を使った群を上回る減量は認められなかったのである。[14] 菌を譲り受けることが、食べ方を変える代わりになるのか。数字はその期待に慎重な答えを返している。

一方、菌が移っても意味がなかった、と片づけるのも早い。肥満のある思春期の参加者を追った研究では、長期的に腹囲や体脂肪に好ましい群間差が見られた。ただし、同じ追跡で体格の指標には有意な差がなかった。[3] 腸内の変化と、体の変化と、本人が欲しかった減量。その距離を確かめるのが、便移植の研究を読む出発点である。

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腸内細菌を移すことと、体重を移すことの距離

便移植は、健康な提供者の腸内微生物を受け手の腸に移し、そこにいる微生物の構成を変えようとする方法だ。糞便微生物移植とも呼ばれ、英語の略称はFMTである。肥満への応用を扱ったレビューは、腸内微生物を変える治療の候補として紹介している。[5] 食品や繊維成分を足す方法とは、介入そのものが異なる。食材や繊維成分による介入は「イヌリンとプレバイオティクスの減量試験」の記事に譲る。

背景には、肥満や代謝の病気と腸内微生物の構成の乱れが一緒に見られるという研究がある。しかし、人で食事の変更や減量手術のあとに菌の構成と体重がともに変わっても、菌の変化だけが体重減少を生んだとは決められない。レビューも、動物で得られた知見と、人での限られた代謝研究を分けて扱っている。[5] 腸内細菌に役割があるという話から、他人の菌を入れればやせるという話までは、橋を架けて確かめる必要がある。

その橋の途中にあるのが「定着」だ。移した菌が受け手の腸で確認され、残っていることを指す。肥満のある思春期の87人を対象にした無作為化比較試験では、複数の提供者の菌を含むカプセルを使い、腸内微生物の構成や機能が持続的に変わった。ところが、同じように投与しても、受け手ごとに定着の程度は大きく異なっていた。[13]

この試験では、提供者のうち特定の人に由来する菌が優勢に定着した。研究者は、提供者の違いと受け手側の腸内環境の両方が関わると考えている。[13] 「やせた人の菌」という札だけでは、中身も受け手との組み合わせも表せない。引っ越しの荷物を届けることと、そこで生活が始まることには違いがある。腸の研究でも、届けた量だけで結果は決まらなかったのである。[13]

定着の分析では、菌の種類だけでなく、遺伝子とその働きも調べられている。思春期の試験で優勢に定着した提供者の微生物には、菌の種類と遺伝子が多様だという特徴があり、定着した菌株は受け手の微生物集団の代謝に関わる遺伝子ももたらした。[13] 腸内で何が変わったかを詳しく追う作業と、体重や血糖の変化を測る作業が並行して進められている。

投与には、受け手と性別をそろえた、やせた提供者4人の微生物を含むカプセルを用いた。腸の洗浄後、連続した2日間で計28個を服用し、対照群は生理食塩水のカプセルを受け取った。便は開始時と投与後6週、12週、26週に採取され、菌株を追跡している。[13] 提供者を混ぜて投与条件をそろえ、時間を置いて確認するという手順で、定着の持続と個人差を調べた。

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成人の比較試験で、代謝と脂肪はどこまで動いたか

肥満やメタボリックシンドロームの成人を対象にした2019年の系統的レビューは、無作為化されたプラセボ比較試験を3件、計76人分集めた。複数の研究を探して評価するこの方法でも、当時集まった人数は限られていた。移植群では、6週時点の末梢のインスリン感受性が改善した試験が2件あった。[8] インスリン感受性は、血糖を調節するインスリンに体がどの程度反応するかという指標である。[5][8]

ただし、このレビューに含まれたすべての試験で、空腹時血糖、肝臓のインスリン感受性、体格指数であるBMI、コレステロールの指標には群間差がなかった。[8] 血糖を扱う数字でも、どこで、どの状態を測るかで結果は違った。「代謝がよくなった」という短い表現に収めると、改善しなかった指標まで一緒に持ち上げてしまう。

続く2020年の試験は、肥満と軽度から中等度のインスリン抵抗性がある成人24人を、健康でやせた提供者の便由来カプセルを飲む群と、プラセボを飲む群に分けた。インスリン抵抗性は、インスリンへの反応が鈍くなっている状態である。参加者の71%が女性で、カプセルを毎週、6週間投与し、全体では12週間観察した。[11]

主要な評価であるインスリン感受性の変化は、移植群がプラス5%、対照群がマイナス3%だったが、有意な差はなかった。平均の群間差は9%、95%信頼区間はマイナス5%からプラス28%である。[11] 信頼区間が減少側から増加側にまたがっており、数字の見かけだけで改善と断定できない結果だ。小規模な予備試験として、効果の有無や大きさに不確かさが残る。

体の中身も同様だった。脂肪量の平均群間差はプラス1.2kg、95%信頼区間はマイナス0.6kgからプラス3.0kgで、有意差はなかった。除脂肪量の差もマイナス0.1kg、95%信頼区間はマイナス1.9kgからプラス1.6kgだった。[11] 脂肪が減る効果も、筋肉など脂肪以外の組織を保つ効果も、この試験から確定できない。

提供者由来の菌は、多くの受け手で観察期間中に定着していた。重い移植関連の有害事象はなかったが、研究者は人数の少なさ、抵抗性が比較的軽い対象、食事への介入を併用しなかった点を限界に挙げている。[11] 定着という生物学的な変化は確認できても、減量や代謝の利益まで確認できたわけではなかった。この区別が、次の試験を考える材料になる。

手術前後の減量に、便移植の上乗せはなかった

重度の肥満がある成人41人を対象に、便移植が減量手術の前後の体重減少をさらに大きくするか調べた試験もある。平均年齢は48.7歳、平均BMIは42.5だった。健康でやせた人の便を移す群と、自分の便を使う対照群に無作為に分け、胃の内視鏡を使って十二指腸へ投与した。[14] 生活の途中で受ける医療という意味では、読者に年齢が近くても、重症度や手術の予定はかなり特定された集団である。

移植から6か月後の、手術前の総体重減少率は、移植群4.8%、対照群4.6%だった。それぞれの95%信頼区間は2.7〜7.0%、1.5〜7.6%で、群間差はなかった。[14] 移植群だけの開始前後を見れば、体重は減っている。しかし、移植を受けていない対照群でも同じ程度減っていた。ここで「便移植で体重が減った」と書くと、比較相手の存在が消えてしまう。

手術を経たあとの成績も、同じ方向だった。開始から18か月、つまり手術から12か月後の総体重減少率は、移植群25.3%、対照群25.2%である。95%信頼区間はそれぞれ19.5〜31.1%、20.2〜30.3%だった。ここでも有意な群間差はなかった。[14] 大きな減量が起きたことと、そのうち便移植が上乗せした分があることは、分けて判断する。

確かめた問いは、特定の方法で手術前に便移植を加えると、対照群を上回る減量になるか、という点だ。試験の結論は、手術前後の減量に便移植の影響は認められなかった、である。[14]

移植群は21人、対照群は20人で、実際に受けた手術は胃バイパス術が34人、スリーブ状胃切除術が4人だった。最後の18か月時点の受診に参加したのは34人で、開始時の82.9%に当たる。[14]

数字で読む便移植の減量試験

76人:成人の初期の比較試験を集めた系統的レビューの総人数。BMIに群間差はなかった。[8]

24人:菌の定着を認めても、明確な代謝改善が見られなかった成人の予備試験の人数。[11]

4.8%と4.6%:手術前の体重減少率。移植群と対照群に差はなかった。[14]

25.3%と25.2%:手術後を含む追跡での体重減少率。大きく減っても上乗せは確認されなかった。[14]

55人:思春期の試験から4年後の追跡に参加した人数。元の参加者の63%だった。[3]

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