糖質制限をやめてご飯を戻したのに、運動の調子が戻らない。そんな疑問を、短期の高脂肪食と糖質補給を比べた研究から考える。筋肉に糖が蓄えられること、糖を使う酵素の働き、実際の運動成績を分け、慣れるまでの期間を一律に決められない理由と、日常での確認のしかたを読む。
夕食の茶碗にご飯を戻した。翌日の運動で脚が重いと、「まだ糖が足りないのか」と考えてしまう。だが、食べた量だけで筋肉の使い方まで判断できるだろうか。男性自転車選手の短期試験では、糖の蓄えが同程度でも運動中の糖利用に差が残った。18〜39歳の女性の普段の運動で同じ差が出るかは、この試験だけでは判断できない。[3]
答えの芯は、糖を「蓄えること」と「使うこと」を分けることだ。男性自転車選手を対象にした比較試験では、高脂肪食の後に高糖質食をとっても、糖を使う経路に関わる酵素の活動は比較条件より低かった。ただし、それをそのまま日常の運動能力の低下や、18〜39歳の女性に共通する回復日数へ置き換えることはできない。[3]
「糖質制限に慣れるまで我慢すればよい」「糖を戻せば翌日には完全回復する」。どちらも、ここで扱う研究から一律には言えない。燃料の比率が変わることと、走るタイムがよくなることは別の結果だったからである。[5][10][12]

糖質制限から戻すとき、何の回復を見ているのか
運動の回復という言葉には、筋肉の蓄え、燃料を使う反応、実際に続けられる運動が重なっている。筋グリコーゲンは筋肉に蓄えられた糖である。比較試験では、この蓄えを測ることに加え、運動中にどれだけ糖や脂肪を使ったか、課題をどれくらいの時間で終えたかが別々に調べられている。同じ「戻った」でも、測るものによって意味が違う。[3][12]
たとえば、運動前の筋グリコーゲンが同程度なら、スタート時の蓄えはそろっている。しかし、運動を始めてからその糖を取り出して使う速度まで同じとは限らない。男性自転車選手の試験は、まさにこのずれを示した。糖が少ないから使えない、という説明だけでは届かない結果である。[3]
一方、走るタイムや自転車の出力は、燃料の測定値とは別に確かめる必要がある。よく鍛えられた男性ランナーの食事介入では、脂肪を使う能力や最大能力を下回る強度での走りの経済性に改善があっても、走行タイムの有意な改善は認められなかった。代謝の変化と成績表は別だ。18〜39歳の女性の日常運動にも同じ結果が出るかは、この男性ランナーの試験から判断できない。[5]
既存記事「糖質制限を戻すとすぐリバウンドする?増えた体重と糖の貯蔵・水分を読み分ける」は、体重の変化を読む問いを扱っている。ここでは体重計から離れ、食事を戻した後に運動で糖を使えるか、という問いに絞る。体重の数字で運動の準備状態を代用する読み方は、蓄えと利用を別々に測った試験の設計とも合わない。[3]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
蓄えがそろっても、糖を使う酵素には差が残った
中心になるのは、男性自転車選手7人が異なる食事条件を経験した無作為化比較試験である。参加者は監督下の持久的トレーニングをしながら、5日間、高糖質食か、総エネルギーをそろえた高脂肪食をとった。その後はどちらの条件でも高糖質食をとって休み、運動試験に進んだ。18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、性別とトレーニング歴の違いがある。[3]
糖質を戻した後の安静時の筋グリコーゲンは、高脂肪食を経た条件で873±121、高糖質食の条件で868±120だった。単位は乾燥した筋肉の重さ当たりの糖の量を示すμmol/gである。家庭でのご飯の量に換算する数字ではなく、筋肉を調べた測定値だ。研究では、この蓄えは同程度とされた。[3]
ところが、有酸素的な自転車運動中の脂肪の利用は高脂肪食を経た条件で約45%多く、糖の利用は約30%少なかった。糖質を補給して蓄えがそろっても、それまでの食事条件の違いは燃料の使い方に残っていた。蓄えが近いことを、代謝まで同じという意味に広げないことが大切になる。[3]
そこで測られたのが、ピルビン酸脱水素酵素、略してPDHである。これは糖を使う代謝の経路に関わる酵素だ。高脂肪食を経た条件では、安静時、有酸素運動中、短時間の強い運動中に、その活動が高糖質食の条件より低かった。糖の貯蔵量だけでなく、使う経路の働きを調べる理由がここにある。[3]
有酸素運動中のPDH活動は、高脂肪食を経た条件で1.69±0.25、高糖質食の条件で2.39±0.19だった。単位は湿重量の筋肉1kg、1分当たりの反応量を表すmmolである。この値は家庭で測る回復スコアではない。食事条件による筋肉の反応の違いを、体の内側から確かめた指標として読む数字だ。[3]
この試験では、運動開始時と短時間の強い運動中に、筋グリコーゲンの分解も高脂肪食を経た条件で少なかった。蓄えが十分なら必要な場面で同じように取り出せる、という単純な図は成立しなかったのである。ただし、酵素の活動が低いことを、酵素が壊れた、あるいは元に戻らないという意味に変えてはならない。研究が示したのは、試験時点での条件間の差である。[3]
この比較で押さえたいのは、食事から得る総エネルギーをそろえている点である。食べる量が少なかった条件と多かった条件を、そのまま比べた試験ではない。しかも、食事条件の順番は無作為に決められている。研究者は、食事の中身を変えた後に、糖質を戻しても残る違いを見ようとしていた。単に空腹で走った話として読むと、比較の狙いを失う。[3]
高脂肪食の条件では脂肪が総エネルギーの67%、高糖質食の条件では糖質がおよそ70%を占めていた。普段の食事で主食を少し控える場面とは、条件の強さが違う。研究の食事をそのまま献立の手本にせず、「この程度まで構成を変えた短期の比較だった」と対象を限定して読む必要がある。[3]
さらに、この試験はトレーニングと食事を組み合わせたものだ。食事だけを変えた運動習慣のない人に、同じ酵素の変化が起こると決めることはできない。食事の期間に加えて、どんな運動をしていた人なのかまでそろえて初めて、研究と自分との距離が見えてくる。[3]
脂肪を多く使う体は、必ず速く動ける体なのか
筋肉の燃料選択を別の角度から調べた無作為化比較試験もある。トレーニングを積んだ8人が、5日間の高脂肪食の後に1日間の高糖質食をとる条件と、6日間の高糖質食を続ける条件を経験した。運動はピーク酸素摂取量の70%に相当する強度で、1時間の自転車運動だった。18〜39歳の女性の軽い運動に、そのまま適用できる結果ではない。[2]
この試験でも安静時の筋グリコーゲンは同程度だったが、高脂肪食を経た条件では筋肉内の脂肪の蓄えが多く、運動中に使う筋グリコーゲンは少なかった。また、細胞のエネルギー調節に関わる酵素であるAMPKの安静時活動にも違いがあった。糖を戻した後も筋肉の状態がすべて同じにはならない、という点で先ほどの試験とつながる。[2]
ここで「脂肪を使いやすくなったなら、その方がよい」と決める前に、研究の目的を見たい。この研究が確かめた中心は、食事で筋肉の燃料選択や酵素活動が変わることだった。運動中の脂肪利用が多いことだけから、日常の体脂肪がより減る、階段が楽になる、強い運動にも有利になると結論を広げることはできない。[2]
長時間の自転車運動を調べた別の比較試験では、よく鍛えられた自転車選手8人が、5日間の食事条件と、その後の高糖質食・休養を経験した。一定強度の自転車運動中に推定された脂肪利用は、高脂肪食を経た条件で94±6g、高糖質食の条件で61±5g。糖の利用はそれぞれ271±16g、342±14gだった。燃料の内訳は明瞭に違っていた。対象は鍛えられた選手であり、18〜39歳の女性の日常の活動量へ換算することはできない。[12]
それでも、その後のタイムトライアルには高脂肪食を経ることの明確な利益が示されなかった。平均タイムは30.73分と34.17分で前者が短かったが、統計的に有意な差ではなかった。平均の並びだけを見て「速くなった食事」と名付けると、論文の結論を追い越してしまう。[12]
立川駅の階段で脚が重かった日、「脂肪を使えている証拠だから成功」と採点する必要はない。研究でも、使う燃料と成績は別々に確かめている。日常に持ち帰るなら、脂肪をどれだけ使うかという想像より、自分が予定した運動をどの程度続けられたかを記録する方が、問いに合っている。[2][12]
数字で読む糖を戻した後の運動
7人:筋グリコーゲンとPDH活動を調べた男性自転車選手の人数。大人数の一般成人の調査ではない。[3]
5日間と1日間:高脂肪食の後に高糖質食を置いた試験の期間。全員の回復期限を意味しない。[2][3]
約45%増と約30%減:高脂肪食を経た条件での運動中の脂肪利用と糖利用の違い。体脂肪の増減率ではない。[3]
94gと61g:一定強度の自転車運動中に推定された脂肪利用量の比較。運動成績の優劣とは分ける。[12]
5km:男性ランナーの試験でタイムに有意な改善が認められなかった走行課題の距離。[5]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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