HIITで急に息が上がると、酸素を使っていないのか、燃料が多く燃えているのかと迷う。吐く二酸化炭素には酸を受け止める反応に由来する分もある。呼気の量、血液の濃度、換気を分け、男女の運動試験と研究の統合結果から、息の荒さだけでは判断できない運動の中身を読む。
きつい動作が終わり、隣の人はもう立っているのに、自分はまだ肩で息をしている。終了の合図は鳴ったのに、呼吸だけが運動を続けているようだ。「HIITは有酸素、無酸素、どっちなのか」。息が大きくなるほど、分類の札を付けたくなる。
答えの芯は、強い運動でも酸素を使う働きは残り、吐く二酸化炭素の増加を、そのまま燃料の消費増加と読めないことにある。高強度運動では、重炭酸という酸を受け止める成分の緩衝反応に伴う二酸化炭素も関わる。男性の反復運動試験では、その寄与の違いが呼気の変化を説明する要因として挙げられている。18〜39歳の女性に同じ変化が生じるかは、この男性の試験だけでは判断できない。[10]
しかも、吐く二酸化炭素が少なくなっても、呼吸量が同じ場合がある。息の荒さは燃料計でも、無酸素運動の認定証でもない。ここでは「どの運動が優れているか」より、きつい区間と休憩で、息の何を見ているのかを分けて読む。[10]

HIITの息に、有酸素と無酸素の境界線は引けない
酸素を使うエネルギー供給と、短時間に大きな力を支える供給は、強い運動の中で併存する。男性のチームスポーツ選手を対象にした運動試験では、全力の自転車運動でも酸化系、解糖系、ATP・クレアチンリン酸系の寄与がそれぞれ推定された。酸化系は酸素を使う働き、解糖系は糖を分解する働き、残る系は筋肉の素早いエネルギー供給を支える働き、と読めばよい。18〜39歳の女性の日常のHIITにも同じ寄与率を当てはめるには、対象と運動条件が異なる。[2]
この試験の対象は男性選手17人で、運動は30秒間だった。通常条件での寄与は酸化系20.4%、解糖系41.4%、ATP・クレアチンリン酸系38.4%である。平均値であり、日常のHIITすべてに貼れる割合ではない。それでも「全力だから酸素を使う割合はゼロ」という見方とは合わない。[2]
ここで気を付けたいのは、運動の長さだけでなく、参加者も動作も決まった条件だったことだ。研究用の自転車をこぐ競技者と、仕事帰りに運動を始めた人を同じ割合で語ることはできない。研究から持ち帰れるのは割合の暗記ではなく、複数の供給系を同時に見る姿勢である。[2]
「hiit は 筋 トレ」という検索も、同じ整理が役立つ。息の変化を測る試験と、筋肉の大きさや筋力の長期的な変化を測る試験は、確かめる対象が違う。呼気からエネルギー供給の寄与を推定した今回の試験を、筋肥大の効果の証明に読み替えないことが大切だ。[2]
だから、運動中に息が上がった場面で、有酸素から無酸素へ完全に切り替わったと考える必要はない。時計の表示が強い区間に変わっても、体の仕組みまで一斉に交代するわけではない。少なくとも、この短い全力運動でも酸化系の寄与は確認されている。[2]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
吐く二酸化炭素には、緩衝反応の分も重なる
緩衝とは、酸性・アルカリ性の偏りを和らげる働きである。運動の文脈では、重炭酸による酸の緩衝に伴って生じる二酸化炭素が、代謝由来の二酸化炭素に加わることがある。呼気を読むときは、この追加分を含めて考える必要がある。[9][10]
この点を示す古い臨床研究では、代謝性の筋疾患を持つ13人の運動負荷試験が調べられた。論文は通常の強い運動で、乳酸に関連する酸の緩衝によって二酸化炭素の産生が増えると説明している。一方、特定の代謝疾患では同じ呼気の変化が起きなかった。これは病気を自分で見つける方法ではなく、呼気の値が代謝経路に左右される例である。患者を対象とした結果を、健康な18〜39歳の女性の息切れの説明へ直接当てはめることはできない。[9]
より身近な比較は、男性10人が自転車で5分間の運動を行い、25分休んで、再び5分間運動した実験だ。後の運動では累積の酸素摂取量が有意に多く、運動直後の乳酸とその増加量は有意に小さかった。研究者は、後の運動のほうが有酸素性のエネルギー寄与が大きかったと解釈している。18〜39歳の女性でも同じ反応になるかは、男性だけの比較からは確定できない。[10]
その一方で、後の運動では二酸化炭素の排出と呼吸交換比が有意に低かった。呼吸交換比とは、吐く二酸化炭素量を酸素摂取量で割った値である。論文は、脂肪代謝の増加の可能性と、重炭酸の緩衝に由来する非代謝性の二酸化炭素が少なかった可能性を挙げた。原因を直接切り分けた確定結果としてではなく、実測を説明する解釈として読む。[10]
ここが、息から燃料を推測するときの難所になる。二酸化炭素が減ったから運動のエネルギー供給が全体に弱まった、と単純には言えない。この実験では、むしろ後の運動で酸素摂取量が増えていた。口から出るガスは、燃料の使われ方に加え、酸塩基の調整も反映する。[10]
休憩前後の呼吸を見比べる場面でも、同じ動作名だけでは条件はそろわない。先に強い運動をしたという履歴が、次の運動の酸塩基状態や代謝反応を変えうるからだ。「今日は前より息が少ない」という感想は残してよい。ただし、それだけで脂肪を使う割合や消費エネルギーの増減まで決めないほうが、測定の意味に合っている。[10]
呼吸量、排出量、血中濃度は違う数字である
息の話には、似た言葉で別の量が登場する。換気量は肺に出入りする空気の量、二酸化炭素の排出量はその空気とともに出ていく二酸化炭素の量である。血液の二酸化炭素分圧は、血液側のガスの状態を表す。これらを同じ「二酸化炭素が多い」として扱うと、運動の結果を読み違える。[8][10]
先ほどの反復運動試験では、後の運動で二酸化炭素の排出は有意に少なかったが、分時換気量、つまり時間当たりの呼吸量には有意差がなかった。肺へ運ばれる二酸化炭素の流れだけでは、運動時の換気反応を説明しきれない、と研究者は指摘した。息を見ればガスの内訳まで分かる、という期待はここで外れる。[10]
女性を対象にした反復運動試験もある。よく訓練された女性14人、平均年齢27歳が、自転車で5分間の運動を3回行い、間に10分の回復を挟んだ。動脈血の電解質や乳酸、重炭酸、酸性・アルカリ性を表すpHと、換気量の関係が調べられた。[7]
換気量との関係が最も強かったのは血漿カリウム濃度で、決定係数は0.91だった。決定係数は関係の強さを示す統計量であり、カリウムだけが呼吸を動かしたという因果の証明ではない。論文も、カリウムが高強度運動と回復中の換気調節に一部関与する可能性を支持する、という位置づけである。[7]
この結果を、息が上がるならカリウムを補えばよい、という食事の指示には変えられない。測ったのは運動中の血液の変動と換気の関係であり、食品や補給によって呼吸が改善するかを比較した試験ではない。関係を見つける研究と、行動を変えて結果を確かめる研究を分けることが、日常に持ち込む際の大事な手順になる。[7]
健康な男性競技者8人の別の試験では、負荷を徐々に上げて疲労困憊に至る運動の終了時と回復中に、乳酸は上がり、重炭酸、二酸化炭素分圧、pHは下がった。強い運動なら血液の二酸化炭素分圧も必ず上がる、とは読めない。運動後に測った値にも、運動中の呼気とは別の意味がある。18〜39歳の女性に変化の大きさまで当てはめるには、男性競技者との対象の違いを考える必要がある。[8]
測定の時刻にも目を向けたい。男性競技者8人の試験は、安静時、準備運動後、負荷を上げた運動の終了後と回復中を区別して採血した。準備運動では変わらなかった血中乳酸や血液ガスが、強い運動後には変化していた。同じ人の値でも、いつ切り取ったかによって運動との関係が違って見える。休憩中に息が残る場面を、運動の最中と同じ条件として読むことは避けたい。[8]
また、反復運動の女性の試験は、よく訓練された参加者の動脈血を繰り返し測った研究である。普段の運動で鏡に映る肩の上下を眺めるのとは、測定の細かさが違う。決定係数の大きさは興味深いが、自分の呼吸から血中カリウム濃度を逆算する道具にはならない。研究の数字を生活に持ち帰る際には、目で見える様子と、採血して初めて得られる値の距離を残す必要がある。[7]
数字で読むHIITと呼気
男性選手17人:30秒間の全力自転車運動で複数のエネルギー供給系を推定した試験である。[2]
酸化系20.4%:同試験の通常条件の平均値で、全力でも酸素を使う寄与があった。[2]
25分の休憩:男性10人の反復運動試験で、前後の代謝反応を比較した条件である。[10]
女性14人:反復する高強度自転車運動で、電解質と換気量の関係を調べた対象数である。[7]
決定係数0.91:同じ女性の試験におけるカリウム濃度と換気量の関係であり、因果の割合ではない。[7]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






