インナーマッスルはアウターより先に鍛える?練習の順序と全身の協調を読む

インナーマッスルとアウターマッスルは、どちらから鍛えるべきか。体幹の筋活動、歩行、プランク、不安定な台での研究を読み、筋肉を意識する練習と全身で使う練習の違いを整理する。深い筋肉が働くことと動作が上手になることを分け、順番に迷ったときの確かめ方を考える。

マットに寝てお腹をへこませてから、スクワットへ進む。動画では逆の順だった。仕事帰りの限られた時間に、「インナーマッスルが先」という準備をどこまで続ければよいのか、迷うことがある。

どちらを先に鍛えるとよいかは、ここで扱う研究からは決められない。深層を先にする群と表層を先にする群を直接比べた介入試験ではないからだ。持ち上げ動作や歩行での結果を、筋肉がどう協調し、何を別々に評価するかという視点で整理したい。[5][16]

筋肉を意識しやすくする時間を設けることと、それを全身運動への入場条件にすることは別である。何を練習したいのか、何が変わったら次へ進むのかを先に決めるほうが、順番だけを守るより研究の読み方に合う。[2][7]

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深い筋肉は土台、表面の筋肉は後回しなのか

ここでいうインナーとアウターは、体幹の研究で扱われる局所筋系と全体筋系を手掛かりに考える。局所筋系は背骨の部分的な安定に、全体筋系は体幹全体の安定と日常やスポーツの動作に関わるという区分である。深い側が支え、表面側が動かすという説明は入口にはなるが、全体筋系も安定に参加する点を落としてはいけない。[16]

たとえば買い物袋を脇に置き、少し横を向いて持ち上げる場面を思い浮かべたい。健康な成人29人が左右非対称の持ち上げ動作を行った実験では、内腹斜筋や多裂筋などは左右で対称的に活動した。一方、外腹斜筋や広背筋などでは左右差のある活動が観察された。同じ仕事の最中に、筋肉ごとに違う参加の仕方があったのである。健康な成人での観察であり、18〜39歳の女性だけでも同じ活動パターンになるかは、この結果だけでは判断できない。[16]

この結果から、研究者は低負荷の非対称な持ち上げ動作で、局所筋が安定に、全体筋が全体の安定と動作に関わると解釈した。表面側の筋肉を静かにさせればよい、という話ではない。袋を動かす仕事と、それを支える仕事が同じ動作に含まれている。[16]

ただし、これは筋活動を観察した実験であって、長期間のトレーニング順序を比較した試験ではない。動作中に役割が違ったことから、別々に鍛えるべき時期や、先に終えるべき課題まで決めることはできない。筋肉の役割を説明する図と、今日の練習の時間割は、同じものではない。[16]

「土台」という比喩は分かりやすい。しかし住宅の基礎工事のように、インナーの工事が完了するまでほかを使えないと考えると、実際の協調から離れてしまう。この記事では、どの筋肉が上かを決める代わりに、感覚をつかむ課題と動作を行う課題のつながりを見ていく。

既存の「【連載】ピラティスの6原則を科学で検証する 第3回|腹横筋の神話——選択的収縮は本当に起きるのか」には、特定の筋肉を選んで収縮させる問いを譲る。ここで扱うのは、その練習を全身の動きとどう並べ、何をもって進歩とするかである。

持ち上げ実験のもうひとつの手掛かりは、左右非対称の課題でも、筋肉によっては左右対称に働いた点だ。動作の見た目と筋肉の参加の仕方は、一対一で対応しない。横へ向かう動きだから体幹全体も同じ方向へ一様に力を出す、とは捉えられないのである。体の外から見える動作を、内側の筋肉の順番として読み解くときには、この区別が必要だ。[16]

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お腹をへこませられることと、長く支えられることは違う

腹横筋は、お腹の深い側にある筋肉として体幹の話題によく登場する。お腹を引き込む動きはアブドミナル・ホローイングと呼ばれ、腹横筋の働きを調べる研究でも使われる。だが、この課題での変化を、そのままプランクの成績に置き換えることはできない。[7]

男性クリケット選手17人を対象にした相関研究では、超音波で腹横筋などの厚さを測り、お腹を引き込んだときの厚さの変化と、プランクやベンチブリッジの保持時間との関係を調べた。お腹を引き込む課題では腹横筋が優先的に動員されたが、その機能の指標と保持時間の間に有意な相関はなかった。男性競技者での関係を18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、対象の違いを考慮する必要がある。[7]

プランクとの相関係数は利き側で−0.16、95%信頼区間は−0.60〜0.34だった。反対側も−0.13で、区間は−0.57〜0.38である。信頼区間は、関係の推定にどの程度の幅があるかを示す。少人数の結果から「絶対に無関係」と言い切るのでなく、この集団では明確な関係を捉えられなかったと読むのが適切だ。[7]

逆方向の思い込みにも気を付けたい。長くプランクを保持できるから、お腹の深い筋肉の働きも十分だとは、この研究から判定できない。研究者は、体幹の安定を単独のテストに頼って評価せず、局所筋系と全体筋系の寄与を独立して評価する必要を述べている。[7]

日常の練習に引き寄せるなら、指導者と「今日は何を確かめているか」を共有する場面になる。お腹を引き込む感覚の確認なのか、体を支え続ける課題なのか。どちらも同じ「体幹」の札を付けられやすいが、採点する内容は違う。保持時間という分かりやすい数字だけで、すべてに合格印を押さないほうがよい。[7]

競技で体を使い慣れた人でも、保持時間と腹横筋の機能は別々に評価する必要があった。自分の練習を振り返るときも、保持時間の記録には種目名を添え、お腹を引き込む課題で確かめた感覚とは分けて残すと、指導者と話す内容を整理しやすい。[7]

超音波で収縮中の厚さの変化を見る評価と、姿勢を保てた時間を見る評価では、記録する値の性質も異なる。この研究の腹横筋機能は、安静時からお腹を引き込んだときへの厚さの変化として扱われた。何週間か練習した後に筋肉が大きくなったことを示す値ではない。「厚さが変わった」という表現でも、収縮中の変化なのか、継続後の変化なのかを分ける必要がある。[7]

不安定な道具への反応は、筋肉と腰痛の有無で違う

床でできたら、次は揺れる道具へ。練習の段階として見かける並べ方だが、道具が不安定なことと、狙った深層筋の活動が増えることは同義ではない。若い参加者を対象にしたブリッジの実験は、そのずれを示している。[4]

研究には非特異的な慢性腰痛のある17人と、腰痛のない18人が参加した。仰向けで体を持ち上げるブリッジを、床とバランスボールなどの不安定な支持面で比べた研究である。腰痛の有無を分けた若い参加者の結果であり、18〜39歳の女性の練習に当てはめる際にも、まず腰痛の有無と課題を区別して読む必要がある。[4]

バランスボール条件では、両群とも床より脊柱起立筋の活動が有意に増え、とくに腰痛群で増加が大きいという結果だ。一方、内腹斜筋・腹横筋の活動は、腰痛のない群では増えたが、腰痛群では床との有意な変化がなかった。別の不安定な支持面では、どちらの群でも、床と比べた体幹筋活動に有意な変化は認められていない。[4]

つまり、同じ「難しくしたつもり」の変更でも、誰の、どの筋肉が反応するかが違った。腰痛群で背中の全体筋系の活動が増えたことを、深層のお腹がよく鍛えられたと読み替えることはできない。研究者も、この集団へのバランスボールを使ったブリッジの適用には注意を促している。[4]

ここで測ったのは運動中の筋活動であり、その道具を続けた後の筋力や痛みの改善量ではない。不安定な道具がすべて悪いという結論にもならない。大切なのは、道具を足した理由と確認したい反応を対応させることだ。揺れに耐えた達成感はあっても、狙った筋肉の働きを見たことにはならない。[4]

スマートフォンの動画では、床の練習よりボールの練習のほうが上級に見える。だが「上級らしく見える」と「その人の目的に近い」は別々に確認したい。難易度を上げる順番を作るなら、見栄えではなく、課題への反応を手掛かりにする。その問いを指導者と話す材料になる研究である。[4]

また、有意な変化がなかったという結果は、その条件で狙った変化を明確に捉えられなかったという意味で読む。誰にも筋活動が起きなかったという意味ではない。不安定な台で練習できた人を、インナーが働いていないと評価する材料にもならない。床との比較で何が増えたかを見る研究と、本人の運動能力全体を評価することは別である。[4]

数字で読む筋肉の協調

29人:健康な成人の非対称な持ち上げ動作で、筋肉ごとの活動パターンを調べた実験。[16]

17人:腹横筋の機能と保持時間の関係を調べた男性クリケット選手の人数。[7]

−0.16:利き側の腹横筋機能とプランク保持時間の相関係数。有意な相関はなかった。[7]

17人と18人:不安定な支持面でブリッジを比較した慢性腰痛群と対照群の人数。[4]

4週間:深層・表層の体幹運動と歩行の変化を調べた介入期間。実施順を比べた期間ではない。[5]

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