連載「その常識、研究では?」全10回の第7回です。
「可動域は広くとる」「半端な動作では効かない」。トレーニングの基本として最初に教わることのひとつです。実際、動かす範囲が広ければ筋が力を出す時間も距離も長くなり、より大きな刺激になるはずだ——理屈としては自然に聞こえます。
ところがここ数年、この定石に例外があることを示す研究が続けて出ています。筋が最も引き伸ばされる位置だけを使う部分反復が、全可動域と同等か、部位によってはそれ以上の筋肥大をもたらすという所見です。
結論を先に書きます。部分反復が全可動域に劣るのは、筋が縮んだ位置で行った場合である。筋が引き伸ばされた位置で行う部分反復は、全可動域と同等か、部位によっては上回る。一方、筋力の向上は訓練した関節角度に強く依存する——これが現時点での要約です。「フルレンジか部分反復か」という問いの立て方そのものが、答えの解像度を下げていました。

出自——角度特異性という古い所見
Graves JE, Pollock ML, Jones AE, Colvin AB, Leggett SH. Specificity of limited range of motion variable resistance training. Medicine and Science in Sports and Exercise. 1989;21(1):84-89.
可動域の研究は古くからあります。1989年のこの試験では、男性28名・女性31名が4群に分かれ、膝伸展運動を週2〜3回、10週間行いました。A群は膝屈曲120度から60度の範囲、B群は60度から0度の範囲、AB群は全可動域、そして対照群です。訓練の前後に、膝屈曲9度から110度までの8つの角度で等尺性筋力を測りました。
結果は明快でした。全可動域で訓練したAB群は、測定したすべての角度でほぼ一様に筋力が伸びました。一方、範囲を限った2群では、訓練した角度での伸びが、訓練していない角度での伸びより有意に大きくなりました(いずれもP<0.01)。A群は膝屈曲9度と20度で、B群は95度で、対照群に対する有意な向上が見られていません。
ここから「全可動域で行えば全角度で強くなる」という原則が導かれ、教科書に入りました。ただしこの試験が測ったのは筋力であって、筋の大きさではありません。筋力の角度特異性という所見が、いつのまにか「筋肥大にも全可動域が必要だ」という主張へ拡張された——これが、この回で追いかける食い違いの出発点です。
統合すると全可動域が優れて見えた
Pallarés JG, Hernández-Belmonte A, Martínez-Cava A, et al. Effects of range of motion on resistance training adaptations: A systematic review and meta-analysis. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2021;31(10):1866-1881.
16件を統合したこの解析は、全可動域が部分可動域より筋力(効果量0.56、p=0.004)と下肢の筋肥大(0.88、p=0.027)で優れると報告しました。機能的な成績も全可動域で最大化される傾向でしたが有意ではなく(0.44、p=0.186)、筋の厚み・羽状角・筋束長といった構造の指標には差がありませんでした(0.28、p=0.226)。
より小規模な整理も同じ方向でした。Schoenfeld と Grgic は6件・135名(男性127名、女性8名)を系統的に検討し、下肢については全可動域が有利と推論できる一方、上肢については研究が少なく結果も一致しないため強い結論は出せない、体幹の筋については研究が一本もない、と述べています。

抜け落ちていた区別
Kassiano W, Costa B, Nunes JP, et al. Partial range of motion and muscle hypertrophy: not all ROMs lead to Rome. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2022;32(3):632-633.
この編集部宛書簡は、上の統合に重要な但し書きを付けました。統合された4件のうち3件では、部分可動域の条件が「膝屈曲0度から60度未満」——つまり大腿四頭筋が著しく縮んだ位置——で行われていた、という指摘です。残る1件はパラレルスクワット(膝屈曲0度から90度)とフルスクワット(0度から120度)の比較で、こちらでは筋肥大に差が出ていません。
著者らの主張はこうです。全可動域が優れて見えるのは、比較対象の部分可動域が筋の引き伸ばされる局面を含んでいなかったからではないか。同じ「部分可動域」でも、動作の前半(筋が長い位置)を使うか後半(短い位置)を使うかで意味がまったく違う。この区別を立てずに平均すると、答えの解像度が落ちます。
これに対する著者側の応答も公表されています。長い筋長での部分可動域を扱った研究が当時はまだ少なく、メタ解析の対象にできなかった——という説明で、論点そのものは双方が共有しています。つまり争点は「どちらが正しいか」ではなく「まだ検証されていない区別がある」という点にありました。
長い筋長での部分反復
Pedrosa GF, Lima FV, Schoenfeld BJ, et al. Partial range of motion training elicits favorable improvements in muscular adaptations when carried out at long muscle lengths. European Journal of Sport Science. 2022;22(8):1250-1260.
その区別を正面から立てた試験です。未訓練の女性45名が、膝伸展運動を全可動域(膝屈曲100度から30度)、前半の部分可動域(100度から65度)、後半の部分可動域(65度から30度)、日ごとに前半と後半を交替する群、対照群に無作為に割り付けられました。大腿直筋と外側広筋の横断面積を、大腿骨長の40%・50%・60%・70%の4か所で測っています。
結果、前半の部分可動域の群が、大腿骨長70%の部位ではすべての群を上回り、50%と60%の部位では後半群・全可動域群・対照群を上回りました。一方、後半の部分可動域の群は、60%と70%の部位で対照群と同程度——つまりほとんど増えていません。最大挙上重量については、訓練した可動域での伸びが大きいという角度特異性が再現され、交替群と前半群を上回る群はありませんでした。
Kassiano W, Costa B, Kunevaliki G, et al. Greater Gastrocnemius Muscle Hypertrophy After Partial Range of Motion Training Performed at Long Muscle Lengths. Journal of Strength and Conditioning Research. 2023;37(9):1746-1753.
ふくらはぎでも同じ構図が確認されています。若い女性42名が、カーフレイズを週3回、8週間、3セット15〜20回で行いました。
| 条件(足関節角度) | 腓腹筋内側頭の筋厚 | 腓腹筋外側頭の筋厚 |
|---|---|---|
| 前半の部分可動域(-25度から0度) | +15.2% | +14.9% |
| 全可動域(-25度から+25度) | +6.7% | +7.3% |
| 後半の部分可動域(0度から+25度) | +3.4% | +6.2% |
内側頭では前半群が全可動域群と後半群の両方を有意に上回りました(p≦0.009)。外側頭では後半群を上回り(p<0.024)、全可動域群との差は有意に届きませんでした(p=0.060)。筋が引き伸ばされる側だけを使ったほうが、全可動域より大きく増えたということです。
なぜこうなるのか、機序の説明はいくつか提案されています。筋が引き伸ばされた位置では、筋線維が能動的に出す力に加えて、結合組織などが受動的に受け持つ張力が加わります。この受動的な張力が成長の刺激になっている、という説明が有力です。また、筋の長さと発揮できる力の関係は筋ごとに違い、ある筋では引き伸ばされた側で力が落ちにくく、別の筋では落ちやすい。可動域の研究結果が筋ごとにばらつくのは、この関係の違いを反映しているのではないかという整理も出ています。ただしいずれも仮説の段階で、ヒトで直接確かめられたわけではありません。

訓練経験のある人ではどうか
ここまでの試験は未訓練者が対象でした。すでに鍛えている人ではどうでしょうか。
Wolf M, Androulakis Korakakis P, Piñero A, et al. Lengthened partial repetitions elicit similar muscular adaptations as full range of motion repetitions during resistance training in trained individuals. PeerJ. 2025;13:e18904.
トレーニング経験のある30名が、左右の上肢に「引き伸ばされた位置での部分反復」と「全可動域」を割り当て、週2回、8週間、1回4種目4セットずつ行いました。肘の屈筋群と伸筋群の厚み、ラットプルダウンの10回最大挙上重量のいずれも、両条件で同程度でした。ベイズ統計による評価では、ベイズ因子が0.16から0.3——「両者は等しい」という仮説を中程度に支持する値です。
もう一つ、Havers らは訓練経験のある13名(男性11名・女性2名)の左右の腕で、前半の部分可動域(肘0度から70度)と全可動域(0度から140度)を8週間比較しました。上腕の50%の位置での筋厚はほぼ同じで、70%の位置では部分可動域がごくわずかに上回りました(標準化平均差0.10)。逆に肘100度での最大随意収縮(0.24)と最大挙上重量(0.17)は全可動域がわずかに上回っています。いずれも差はごく小さく、13名という規模では方向を確定できません。
筋力の側は依然として角度に縛られる
筋肥大の話ばかりしてきましたが、筋力は別です。1989年の試験が示した角度特異性は、その後も繰り返し確認されています。ある角度で鍛えれば、その角度で最も強くなる。この性質は、部分反復を「効率的な近道」として使うことを難しくします。訓練した範囲の外では、伸びが小さいか、まったく伸びないからです。
ただし例外もあります。Werkhausen らは、トレーニング経験のある15名の左右の脚に、爆発的なレッグプレスを可動域9度の部分条件と全可動域条件で割り当て、週3回、10週間行いました。ピークパワー(+69 ± 47%対+61 ± 64%)、等速性筋力、100ミリ秒および150ミリ秒時点の爆発的トルクのいずれについても、部分可動域は全可動域に劣らないという結果でした。ただし筋束長や筋厚を含むいくつかの指標では判定が不能で、参加者は15名です。爆発的な動作では、可動域そのものより開始時の関節角度が効いている可能性がある、というのが著者らの解釈です。
現在どこまで言えるか
- 部分反復が全可動域に劣るのは、筋が縮んだ位置で行った場合である。統合研究が全可動域有利を示したのは、比較対象がこの条件に偏っていたため。
- 筋が引き伸ばされた位置での部分反復は、全可動域と同等か上回る。ふくらはぎでは全可動域の2倍以上の筋厚増加が報告されている。
- 筋肥大は部位によって現れ方が違う。同じ筋でも測る位置によって結果が変わる。
- 筋力の向上は訓練した関節角度に特異的である。この性質は1989年から一貫して再現されている。
- 訓練経験のある人では、両者の差はごく小さい。統計的には「等しい」という仮説が支持されている。
限界は多く残ります。ここで挙げた試験は参加者が13名から45名と小さく、期間も8週間から10週間です。可動域の測り方も研究ごとに違い、「全可動域」が何度から何度を指すのかは統一されていません。前半・後半という区切り方も便宜的なもので、力と筋長の関係は筋ごとに違います。長期に追跡した研究はなく、1年、2年と続けたときに差が開くのか縮むのかは分かっていません。また、引き伸ばされた位置は関節や腱への負担も大きく、安全性を長期に評価した研究も足りていません。
実務的な読み替えはこうなります。可動域を狭めることが必ず手抜きになるわけではありません。狭めるなら、筋が引き伸ばされる側を残す。逆に、筋が縮みきる側だけを使う短縮位での部分反復には、筋肥大の根拠が乏しい。そして「重いものを持ち上げられるようになりたい」のであれば、使いたい角度を含む範囲で鍛える必要があります。関節の可動域に制限がある方、痛みで全可動域を使えない方にとっては、この知見は実用的です——全可動域が使えなくても筋肥大は狙えます。変形性膝関節症と筋トレや筋力トレーニング全般の研究を扱った記事も参考になります。
逆に、何が変わらないのかも書いておきます。「部分反復のほうが優れているから全可動域はやめるべきだ」という読み方は、証拠を越えています。訓練経験のある人を対象にした試験では、両者の差はごく小さく、統計的には「等しい」という仮説のほうが支持されていました。可動域を狭めれば扱える重量は増えますが、それは同じ仕事量を意味しません。そして日常の動作は全可動域で行われます。現時点で言えるのは「引き伸ばされる局面を含めよ」までであり、「全可動域を捨てよ」ではありません。実務上は、全可動域を基本に置きつつ、伸びにくい部位に対して引き伸ばされた位置での部分反復を足す、という使い方が証拠と整合します。
次回予告
第8回は「マシンとフリーウエイト、どちらが優れているのか」を扱います。「フリーウエイトのほうが体幹が働く」という定番の主張が、筋電図で測るとどうなるのかを含めて見ていきます。
この連載の全10回
- 第1回|「超回復」は本当にあるのか
- 第2回|筋肉痛は効いた証拠か——遅発性筋痛と筋肥大
- 第3回|プロテインは運動後30分以内か
- 第4回|重い重量でなければ筋肥大しないのか
- 第5回|限界まで追い込む必要はあるか
- 第6回|有酸素運動は筋肉を減らすのか——干渉効果
- 第7回|フルレンジでなければ効かないのか——可動域と部分反復(この記事)
- 第8回|マシンとフリーウエイト、どちらが優れているのか
- 第9回|サプリメントは必要か——証拠水準を並べる
- 第10回|「効かせる」とは何か——意識の向け方と総括
出典
- Graves JE, Pollock ML, Jones AE, Colvin AB, Leggett SH. Specificity of limited range of motion variable resistance training. Medicine and Science in Sports and Exercise. 1989;21(1):84-89.
- Schoenfeld BJ, Grgic J. Effects of range of motion on muscle development during resistance training interventions: A systematic review. SAGE Open Medicine. 2020;8:2050312120901559.
- Pallarés JG, Hernández-Belmonte A, Martínez-Cava A, et al. Effects of range of motion on resistance training adaptations: A systematic review and meta-analysis. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2021;31(10):1866-1881.
- Werkhausen A, Solberg CE, Paulsen G, et al. Adaptations to explosive resistance training with partial range of motion are not inferior to full range of motion. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2021;31(5):1026-1035.
- Kassiano W, Costa B, Nunes JP, Ribeiro AS, Schoenfeld BJ, Cyrino ES. Partial range of motion and muscle hypertrophy: not all ROMs lead to Rome. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2022;32(3):632-633.
- Pedrosa GF, Lima FV, Schoenfeld BJ, et al. Partial range of motion training elicits favorable improvements in muscular adaptations when carried out at long muscle lengths. European Journal of Sport Science. 2022;22(8):1250-1260.
- Kassiano W, Costa B, Kunevaliki G, et al. Greater Gastrocnemius Muscle Hypertrophy After Partial Range of Motion Training Performed at Long Muscle Lengths. Journal of Strength and Conditioning Research. 2023;37(9):1746-1753.
- Havers T, Wagner N, Held S, et al. Partial Range, Full Gains? The Effect of 8 Weeks of Partial Range of Motion Training at Long Muscle Lengths on Elbow Flexor Hypertrophy and Strength in Trained Individuals. European Journal of Sport Science. 2025;25(12):e70087.
- Wolf M, Androulakis Korakakis P, Piñero A, et al. Lengthened partial repetitions elicit similar muscular adaptations as full range of motion repetitions during resistance training in trained individuals. PeerJ. 2025;13:e18904.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。関節に痛み・腫れ・引っかかりがある方、可動域の制限を指摘されている方は、動作の範囲を変える前に医療機関にご相談ください。






